第9話 発端
【第11セクター襲撃事件に関する第1次報告書】
十二ツ月二十日、午後十一時四十六分、セクションホワイト第11セクター、通称白衣の町と呼ばれる医療関連の研究所が集まる区域で大規模な爆発が起こった。
原因は事故によるものではなく、人為的な攻撃による爆発。
襲撃者は二人。
双方ともに黒いメットで顔を隠し、同じく黒いコートで全身を覆っていた。
性別は不明。
体格も不明。
監視カメラの映像によると、映るたびにその二人の身長は変化していた。
百三十センチ台の子どもかと思われるような体格のときもあれば、三メートルを超す巨人に見えるときもあった。
ゆえにAI解析による人物の特定は不可能。
また見せつけるように素手で外壁を破壊していたことから、サイボーグであると推定される。
襲撃者の一人が腕を振ると、その先で大規模な爆発が起きたことからブラックボックスの所持も疑われる。
二等級サイボーグ、トートラ・トリモルディア以下三等級サイボーグ三名が迎撃に当たるが、数分の後、全員が死亡。
彼らのブラックボックスは持ち去られる。
さらに襲撃者は最先端ウイルス研究所へ侵入し、内部情報を探った様子。
数十分後、同研究所は突如内側から噴き出してきたマグマのごとき炎によって溶解を始める。
炎の勢いは凄まじく、中にいる研究員の生存は絶望的かと思われたが、事件後、近くの山の中から全員が意識を失った状態で発見される。
最先端ウイルス研究所の建屋は全てがどろどろに溶解し、それらが冷え固まった後にはどす黒い岩の塊だけが残された。
研究所内にあったウイルスサンプルは全損。
時間差で別の場所にあったウイルス研究所も同様の襲撃を受けたため、ブラックエネルギー確保のための感染症ローテーションに重大な欠落を生じることになった。
襲撃者は現場を去る際、監視カメラに向かってわざと中指を立て、幼稚なアピールをしてみせた。
その後、第一生体工学研究所の正門に炎でメッセージを刻み込むと、その場を後にした。
その内容は以下の通り。
『我が名はネマネス・スエルス。もっとも優れた一等級サイボーグである! ホワイトクロスさえも私の手にかかればこのように赤子の手をひねるようなものだ。他の六大企業たちよ、待っていろ! 一つ一つ貴様らの手足をもぎ、グリーンクロックが全てを支配してくれる!』
このメッセージとネマネス氏との関連性は不明。
現在グリーン・クロックからの回答を待っている。
事件の際の爆発や炎などは近隣住民からも目撃されており、情報の拡散を防ぐべく、早期の情報封鎖を実行した。
周辺への一般市民の立ち入りを禁止。
小さなボヤが起きたが、被害は軽微なものだったというカバーストーリーを流すことで事なきを得る。
またこの事件後すぐに、ネマネス・スエルスを名乗る人間が首都コーラスクレイス各地で執拗に女性に迫ったり、老人に暴言を吐くという事案が起こり始める。
本件との関連性は不明。
現在調査中。
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包帯発疹が完治すると、クリアは病床の間あたためていたアイデアを実行した。
名付けて『全てをネマネスに押し付ける八つ当たり大作戦』
数日寝込まされた鬱憤を晴らすべく、クリアはカレンを伴って白衣の町の最先端ウイルス研究所を襲撃した。
その際、魔法少女とその襲撃を結び付けさせないため、あらゆる痕跡を隠蔽した。
服装はもちろんいつもの魔法少女衣装ではなく、全身を覆い隠す黒いコートを採用。これには赤外線による温度感知を妨害する機能が備わっている。
その上で視覚の上書きによって常に見た目の身長を変更し続けた。
これによって中身が男か女かも容易には判別できない。
さらに戦い方もサイボーグに寄せたものに変えた。
カレンはそのままでまんまサイボーグだが、クリアは魔法を放ったりすればすぐに正体が割れる。
なので、できるだけ素手を使って戦い、障壁と風球の合わせ技で格闘を行っているように見せた。
二等級と三等級が出てきたときにはどうしようか迷ったが、カレンがほとんど前に出て片づけたので、牽制以外にクリアの出番はなかった。
『カレン』の上書きを有するカレンの戦闘力は非常に高い。
『カレン』の上書きの効果はカレンの体の修復と身体能力向上。
言ってしまえば、自身に対する治癒とバフでしかなく、六大企業のサイボーグと比べれば地味な効果なのだが、逆にそれがカレンのスタイルに合っているようだった。
防御面は体に障壁を張るだけで普通にサイボーグと当たっても負けないし、万が一まともに喰らっても『カレン』の上書きですぐに修復する。
また身体能力向上で通常のサイボーグよりもスピードが早いので、相手からの攻撃もそうそう当たらない。
それに加えて遠距離攻撃手段としての魔法もあり、大きな隙というものがない。
二等級以下にはまず負けないだろうという戦いぶりだった。
その後ウイルス研究所に忍び込んで、内部データを探り、あっけなくホワイトクロスが意図的に感染症を広めているという証拠を発見。
これも脅しの材料に使えると嬉々としてクリアはそのデータを記録し、研究所自体は跡形もなく破壊。
ウイルスが外に漏れだしたりしないよう障壁で覆ってから中を火球で焼き尽くした。
結構魔力を込めたので、建物自体は溶岩のように溶けて流れた。
その後それら全ての罪過をネマネスに押し付けるべくメッセージをでかでかと刻み込み、クリアはその場を後にした。
内部データを探ったところ見つけた他のウイルス研究所も襲撃し、そこにもネマネスがやったというメッセージを残しておいた。
「正義の魔法少女だ何だと言っておいて、やっていることがテロ行為の責任を人に押し付けているだけなんですから、姫様の性格の悪さがうかがえるというものですよね」
全力でネマネスに罪をなすりつけようとするクリアにカレンは呆れ気味の様子だったが、クリアとしては、単なる憂さ晴らしでやっているわけではない。
全てはネマネスの居場所を見つけるためだ。
その後コーラスクレイス各地にアイアンガーデンの弟子を派遣し、ネマネスの振りをさせて迷惑行為を働かせたのもその一環。
至る所で弟子にネマネスを名乗らせ、悪質なナンパを行わせたり、老人への暴言を吐かせたりし、そして、それを偶然通りがかった魔法少女が助けている。
完全なるマッチポンプだが、それは六大企業も同じ。
クリアの場合はやっていることがちょっとした迷惑行為なのだからまだかわいいものだ。
そうすることで、ネマネスの悪評を広めると同時、魔法少女の名声も上がっていく。
また再びネマネスを名乗る不届き者が出た場合にはクリアに連絡するよう周知している。
それによって本当のネマネスによって操られた人間が現れた場合もクリアへと情報が回ってくることになる。
そうやって情報を集めることで、ネマネスの本体の居場所を見つけようという試みだ。
そして、あわよくば悪評が高まることに耐えられなくなったネマネスが自分から動くことも期待している。
「知らないところで、いろんな迷惑行為の責任までかぶせられてるネマネスさんが少しかわいそうではありますね」
「先にミミちゃんとボクを戦わせて、つぶし合いをさせようとしたのは向こうなんだから、むしろ自業自得だよ」
「……それは確かにそうですね」
だからこそ、クリアもネマネスをあぶり出すのに手段を選ぶ気はない。
いくらでも汚い手段を使おう。
そうしてネマネスの悪評を広めると同時に彼に関する情報を集め続けた。
状況に動きがあったのはそれから一か月後。
ただし、その動きというのはネマネスの居場所を見つけただとか、そんな生易しいものではない。
本来のクリアの意図から大きく外れて、クリアの稚拙な嫌がらせは、コーラスクレイスひいてはイーリス全土を巻き込む混乱へとつながっていく。




