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第7話 定める

 アイアンガーデンの爆心地みたいになっている更地で、ミミと二人でクリアは立っている。

 周囲には撮影用のドローンを飛ばし、準備は万全だ。


「じゃ、始めるよ」

「……どうぞ」


 散々言い争ったからか、ミミは随分うんざりした様子だった。

 それでも、仕事をぶっち切って逃げる気がないのが、彼女がわがままなだけの人間ではないことを示していた。


「はーい。こんにちは魔法少女カレンでーす。今回の配信はとあるサイボーグととある魔法少女が壮絶な戦いを繰り広げた爆心地からお送りしておりまーす。見て、この更地!」


 映像を上空のドローンからのものに切り替えると、遠くに見える森林と一帯が完全に更地になった地面が映る。

 非現実的な光景に驚いた様子のコメントが殺到するが、それと同じくらいクリアの隣に立っているミミへの言及も多い。


「みんな気になってるみたいだから、さっさと紹介するね。サイボーグアイドルのミミちゃんでーす」

「あなたのお耳にミミっとミミミ、サイボーグアイドル、ミミ・ストミミスだよ~!」


 直前までの様子とは別人のようなテンションでミミが自己紹介し、その自己紹介の内容にクリアは心の中で少しだけ引いた。

 ミミっとミミミって……。


「いやー、駄目元で誘ってみたんだけど、まさかミミちゃんが受けてくれるとは思わなかったよ」

「ミミ、そんなふうに思われてたんだ? でも、クレ……カレンちゃんが誘ってくれてミミもとってもうれしかったよ」

「ところでさ、この爆心地どう思う?」

「……どう思うって?」


 おもむろに尋ねると、ミミの笑顔に若干のかげりが差した。


「魔法少女とサイボーグの戦いでできた場所なんだけど、同じサイボーグとしてミミちゃんはどう思うのかなって?」

「サイボーグって言っても、ミミはほとんど戦ったこととかないし、よく分かんないかな~」

「そうだよねー、ミミちゃん、いい性格してるから、争いとは無縁だもんねー」

「……うん。そうだよ?」


 というふうにちょっとした雑談から入り、それから、クリアが魔法を放ってそれをミミが避けるというお遊びのようなパフォーマンスを行ったりして、つつがなく配信は終了した。

 猫をかぶっているミミを煽るのはとても面白かった。

 性根を知っているだけに、ぼろを出さないよう必死に取り繕うミミの姿を見て、心地よい満足感を覚えた。

 また節々にクリアとサイボーグが実際に戦ったことを匂わせているので、企業側へのちょっとした牽制でもある。

 いつでもこっちは秘密をばらしてやれるんだぞという。


「……お前、まじで配信がしたかったの?」


 配信が終わると、ミミが呆れた顔でそう言ってきた。


「最初からそう言ってるけどね。あとミミちゃんと話したかったのは本当だよ?」

「……そうかよ」

「寝返んないかなって思って」

「え?」


 さらっと口にすると、ミミが珍しく呆けた顔でクリアを見つめた。


「だから、企業側からボク側に寝返んないかなって思ってさ」

「それ、本気で言ってんの?」

「ボクは常に本気だよ? 嘘なんか吐いたことないからね」

「どう考えてもそれが嘘つきのセリフだろ」


 取り合ってられないとミミがボートの留めてある方に歩き出す。


「あれ? もう帰っちゃうの?」

「当たり前でしょ。お前みたいな頭のイかれたガキといつまでも一緒にいられるかよ」

「ちょっと待って。じゃあ、いいもの見せてあげるから」

「……なに?」


 それでも、クリアを無視して帰らないのは、ミミの性根が意外と優しいところもあるからではないかとクリアは思っている。

 足を止めたミミに見せつけるように、クリアは視覚の上書きを発動させた。


「……は?」


 現れたのはミミと全く同じ見た目になったクリアの姿。

 ミミのブラックボックスのように、『見た目』を何が何でも固定して空間を上書きするかのような使い方は魔力量的にできないが、単なる視覚情報として見せるだけならクリアにも簡単にできる。


「それ、どういうこと?」

「ミミちゃんのブラックボックスと同じようなことはボクにもできるってこと。もちろん、これは完全に見た目だけだけど。攻撃性能は何もない」

「……それで?」

「ボクにもブラックボックスみたいなものは作れるからさ。それをミミちゃんが使えるようにもなるってこと。だから、寝返んないかなって」

「……」


 ミミは押し黙った。

 何を考えているかは分からないが、何かを考えているのは確かだ。

 だから、クリアの提案も多少は彼女の心に影響を与えるものがあったということだ。


「できるわけないだろ」

「なんで?」

「七大……六大企業を裏切ったらどうなるかなんて一等級サイボーグはよく知ってんだよ。裏切り者には死しかない。二十四時間三百六十五日、追手から付け狙われ、追い詰められ、体も心もぼろぼろにされ、最終的には殺される。最悪な末路しか残ってないんだよ」

「そうなんだー。大変だねー」

「……っ!」


 他人事のように相槌を打つクリアにミミは神経を逆撫でされたようだった。

 一瞬、指を黒い棘に変化させ、しかし、クリアを攻撃するでもなく、すぐにそれをまた普通の指に戻した。


「お前は知らないかもしれないけど、ミミの体は普通じゃないんだよ」

「へえ、何が違うの?」

「脳みそ以外全部ブラックボックス由来の仮想細胞に置き換わってる。だから、今更六大企業と縁を切ろうなんて無理なんだよ」

「……ふーん」


 確かにそんなようなことをヨークも言っていた気がしたが、完全にどうにもならないかというと、意外と何とかなる気もする。

 肉体を仮想細胞に置き換えるというそのカルマ・リライトにどれだけの魔力を必要としたかによるが、同じだけの魔力を用意することができれば、カルマ・ディバイドで元の体に戻すこと自体はできるだろう。

 だからといって、確証があるわけではないので、下手なことを口にすることはできない。


「でも、多少は裏切りたい気持ちもある?」

「……ねえよ。この『見た目』のおかげで大勢の人間からちやほやされる立場になったのに、今更手放せるわけ……ないでしょ」

「……」


 ミミも自分で言っていて、どこか虚無感を感じていそうな言葉ではあったが、クリアに追及する気はない。

 今ここですぐにミミが裏切るとは思っていない。

 ただ何となく言ってみただけなのだ。


「そっか。なら、仕方ないね。でも、裏切りたくなったらいつでも言ってね。ボクはいつでも力になるよ」

「……なんであんたは一回、殺されかけた相手にそんなことを言えるわけ?」

「さあ? 神経壊れてるからじゃない?」

「……あっそ」


 クリアは自分をまともだと思っていない。

 まともだと思っていないし、まともになるつもりもないし、まともになりたいとも思っていない。

 世の普通とは逸脱し、大切な何かが壊れているとしても、自分らしくありたいと思っているだけだ。

 そうするために他者の評価が必要とは思っていないだけだ。


「港まで送るね」


 そう言って笑いかけたクリアをミミは拒絶しなかった。

 黙ってボートの方に歩き出し、クリアもその隣に並んだ。

 少なくとも多少は仲良くなったかなとクリアは思った。

 あるいは、多少は互いを知った程度。

 一度、殺されかけ、そして、一度、勝利したからかは分からないが、不思議とクリアはミミに悪い感情を抱いていない。

 仲良くなれるなら仲良くしたいと思えるほどには。

 それが普通かどうかはどうだっていいことだ。

 それがクリアの心に忠実なことならば、それ以外はどうだっていい。


「……やっぱあんた意味わかんないわ」

「ボクは分かるよ、ミミちゃんの気持ち」


 ボートに乗り込むと、元来た港へと向かう。

 行きとは反対に帰りの道程に会話はない。

 逆にそれが居心地いいように感じるのが不思議だった。


「……ん?」


 その道程で、異物を感じた。

 少し前にも感じたい異物の魔力。

 ネマネスに初めて会ったときに感じたあの感覚を感じた。

 それも複数。

 クリアとミミが乗っているボートを囲むように近づいてくる。

 数は二十ほど。


「なに、どうした?」


 急に臨戦態勢になって立ち上がったクリアを不審な顔でミミが見上げてくる。


「あれ」


 クリアが淡白に周りのボートを指し示すと、こちらに気付かれたことを向こうも察したのか、堂々とサーチライトでこちらを照らしてくる。

 そして、進路を塞ぐようにボートを展開され、クリアはボートを停止させた。

 取り囲むように次々とボートが接近し、連中は銃口をこちらに向けてくる。

 さらには暗闇でよく見えないが、空にも大量の無人機が展開しているようだ。


「ミミ様! 今がチャンスです。海上で奴も動きが取れないはず! 空を飛ぶあのステッキも持ち合わせていません! 今のうちに攻撃を!」

「そうです! 今こそ好機!」

「作戦を遂行してください!」

「……は?」


 周りのボートに乗っている連中が口々に叫び出すが、ミミは何が起こっているかよく分かっていない様子だった。

 別にクリアを攻撃することもなく、先ほどのように指を黒い棘に変形させることもなく、完全に困惑している。


「ミミちゃん、どういうこと?」

「……それはミミが聞きたいよ。こんなの何も聞いてない」

「周りにいる連中は知ってる?」

「見たことない。少なくともミミの部下じゃない」

「……そうだよね」


 彼らからは先日ネマネスに何らかのカルマ・リライトを施された女性と同じ魔力を感じる。

 サイボーグでもない、かといって普通の人間でもない異質で歪な感覚。


「喰らえ! 反逆者!」


 あからさまに声を上げ、彼らのうちの一人が銃撃を加えてくる。

 当然、障壁で防御した。


「……あからさま過ぎない?」


 彼らの意図は明確なようにクリアには思えた。

 軍隊ではあり得ない一人の突出した攻撃。

 まるでここで襲撃することがミミとパープルマスクの思惑であるかのような言動。

 そして、ネマネスのものと思しきカルマ・リライト。

 彼はクリアと他の一等級サイボーグにつぶし合いをさせようとしていた。

 これらから考えると、この襲撃の目的は一つ。


「ボクとミミちゃんを戦わせること」


 クリアにミミからだまし討ちをされたと勘違いさせ、ミミを攻撃するように誘導しようとしている。

 そうなれば、ミミもなし崩し的に反撃せざるを得ず、ウォードとの戦いの繰り返しだ。

 特にクリアは一度ミミに勝利しているから、クリアの側からも反撃するハードルは低いといえば低い。

 生配信を見て思いついた場当たり的な作戦だろうが、有効に働けば、ネマネスにとっては利益が大きいということだろう。


「はあ……」


 クリアは雷球を変形させ、放射状の槍にして放った。

 周囲のボートに乗っていた人間と空に浮いていた無人機を根こそぎ刈り取る。


「こういうふうに露骨にされるとさ、逆をやりたくなるのが人間ってものだよね」

「なに? 何の話?」


 状況のよく分かってないミミが困惑を露に聞いてくるが、今のは独り言だ。


「そんなに一等級サイボーグをつぶしてほしいならやってやるよ。ネマネス・スエルス、君からね」


 クリアの怒りを買うということがどういうことなのか教えてあげよう。

 利とか、都合だとか、義理だとか、取引だとか、そんなつまらないものは関係なしにクリアはクリアの心のままに動く。

 ネマネス・スエルスという卑劣漢をつぶす。

 クリアはそう心に決めた。

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