過去話②
父が真っ青な顔をしているけど、横に座っている母はにこにこと笑顔だった。
一体何があったのでしょうか。
「ゆいちゃん。鷹之森の御曹司と仲良くなったんだよね」
「うん。お友達になったよ」
がっくりとうなだれた様子の父。母は変わらずにこにこしている。
「実は社長秘書の柴崎さんから連絡があってね。御曹司がゆいちゃんと会いたいそうなんだ」
確かに。もっと話したいと言われた。連絡するからまた会ってほしいとも言われたっけ。
「連絡早いー」
新年会から二日しか経っていないけど。こんなに早く連絡をしてくるとは思わなかったよ、しーちゃん。
「本当だよっ!うちのゆいちゃんに声かけるなんて百年早いよっ」
父はもう泣きそうだった。母は父の嘆きっぷりにうんざりしたのか、頭にチョップをかます。
「はるちゃん、いい加減にしなさい。百年経ったら皆死んでるでしょ」
ちょっとずれたツッコミだった。
「……とにかく日曜日に御曹司が迎えに来るから会ってほしいと言っていた」
「はーい」
頭をさすりながら言われてもちょっと困る。
しーちゃんを思い出す。細面で女の子と間違えられそうなくらい整った顔。まだまだ華奢な体つきと白い肌。高値の花すぎる。ふんにゃり笑顔は凶器だし、これから友達として付き合っていくとしたら私の命はどれくらい持つのだろう?
……自分の体調に関して不安があった。
日曜日。咲山家の面々はそわそわしていた。私はふりふりのワンピースに可愛いピンクのコートを着せられ、緊張が高まり、変なテンションになっていたのだけれど、父は違っていた。今にもしーちゃんを刺すんじゃないかと思われるほど恐ろしい顔をしていた。母はそんな父を押さえるつもりなのか首根っこを掴んでいる。
ピンポーン。
ガバッと背後に効果音がつくくらいに三人一斉に反応。
三人でうんと頷きあい、玄関へ向かう。
「はーい」
母が余所行きの少々甲高い声で返事をする。この声をからかうと怒られてしまう。
「すみません。咲山さんのお宅でしょうか」
やはり咲山家代表の母が玄関のドアを開けると、そこにいたのはダンディなおじさんだった。
あれ、しーちゃんは?
「そうですけど……?」
庶民感覚で言えば、しーちゃん本人がいると思っていたのだ。三人の訝しげな雰囲気が伝わったのだろう。おじさんが名乗った。
「私は鷹之森家運転手で高橋と申します。唯子様をお迎えにあがりました」
私も様ですか!?
「はあ、ご丁寧にどうも。ゆいちゃん、気をつけてね」
「お預かり致します」
運転手という存在にショックを受け、三人とも一瞬止まったけど、母がいち早く立ち直り私を送り出してくれた。父は未だに一言もしべらない。
「では唯子様、こちらからお乗り下さい」
高橋さんのダンディスマイルとともに車のドアが開けられた。エスコートされるなんて初めてだ。乗り込むとしーちゃんがいた。
「急に誘ってすまない」
「いいえ、嬉しいです」
しーちゃんは『俺様』モードだった。ああ、そっか。高橋さんがいるからか。字幕があれば、多分「会ってくれてありがとう」くらい言っているのかもしれない。ふんにゃり笑顔つきで。
「今日はゆっくり話したいから」
鷹之森家に改めて招待してくれるそうだ。車の中では会話が弾まなかったとだけ言っておく。お互いボロがでそうだから大人しくしていたのだ。
ほっと安心できたのは、しーちゃんの部屋に案内されてお茶を出され、使用人さんがいなくなって二人っきりになったときだった。しーちゃんの顔がふわっとほころんだ。
「また、会ってくれてありがとう。ゆいちゃん」
「ううん。さっきも言ったけど私も嬉しいよ」
「ーーーゆいちゃん」
しーちゃんはほころんだ顔をきりっと引き締めて向かいに座っていた私のそばにやって来た。
……?しーちゃんの手が私の両手を包み込む。
「しーちゃん?」
「ゆいちゃん、僕、友達になってほしいってお願いしたけど」
「うん」
「やっぱり、友達はいい」
「えっ?」
もう絶交、なの?
私はショックは受けて手が震えたけど、しーちゃんは私の手をぎゅっと握り頬を赤くさせた。
「ゆいちゃん、僕のお嫁さんになって」
時が止まった。
会って二回目でプロポーズですか!?
しーちゃんはもじもじしながら私を見つめる。私たちは七歳だ。結婚する年齢まではまだまだ先が長い。何がどうしてこうなったのだろう。出た返事は疑問しかなかった。
「……正気なの?」
「もちろん!いきなりでびっくりさせたかもしれないけど、僕は本気だよ」
「本当に?」
「うんっ。僕、あの後ゆいちゃんと別れてからじっくり考えたんだ。自分で言っちゃうけど鷹之森家も大企業を担っているんだ。そういう企業を将来継ぐことになると結婚相手って割とすぐに決まる。将来的にパートナーとして宜しくしましょうっていう企業や財閥が後を絶たないわけだから」
しーちゃんの顔がかすかに歪んだ。私は握られた両手をほどいてしーちゃんを抱きしめたくなってしまった。
「もう何かお話でもあるの?」
「うん。もう何度が打診があったらしいけど、僕は嫌だったんだ」
「しーちゃん?」
「知らない誰かよりも知り合ったばかりだけど、ゆいちゃんがいいなって思った」
しーちゃんは私を抱きしめた!ちょっと七歳児!
「初めて会ったのに、僕のこと受け入れてくれたゆいちゃんがーーー好きになったんだ」
抱きしめる力が強くなった。
「ーーーだから、僕のお嫁さんになって?」
きゃーーーーー!!心の中で叫ぶ。多分、もう私の顔は真っ赤になっているかも。わたわたしてしまう。
私自身そんなに気に入られた覚えもないのに、しーちゃんは押せ押せでした。
で、しーちゃんの頬染めうるうる攻撃に大ダメージをくらった私はいつの間にかうんと頷いていたらしい。
しーちゃんがそれはそれは輝く笑顔をなさっていたので……。
お友達として付き合うはずが、結婚前提のお付き合いにランクアップしました。
「ゆいちゃんありがとう!これから宜しくね」
しーちゃんは早速次回会う約束を取り付けてきた。まだまだお子さまな二人。遠出は保護者が必要になるから次回もしーちゃんの自室で遊ぼうという話になった。しーちゃんのご両親の前だったら素は出せるけど、馨様から注意があるそうなのでゆっくり出来るのはやはりしーちゃん本人の自室しかないらしい。
しーちゃん曰く、私とは素のままお付き合いしたいとのこと。
どんとこいと言いたかったけど、自分のHPが不安すぎる。
目の前でにこにこと笑っているしーちゃんを見る。
しーちゃんが可愛すぎるのがいけない!やっぱり不安になったのだった。
ーーーあれ、おかしいぞ。
しーちゃんが何故私を好きすぎるのかという疑問を解消すべく過去を振り返ってみたけれど。
会って二回目でプロポーズされた衝撃のせいで、結局分からなかった。
うーん?
とりあえず分かったのはしーちゃん恐るべし、だった。
七歳児にして結婚相手決めちゃうんだから。押せ押せだったし。
私が一人でうんうんうなっていると。
「唯子、ちょっといいか?」
「静流様」
目の前に影が差し、それはしーちゃんだった。
どうやら考えている内に放課後になっていたようだった。
「ちょっとこっちに来い」
「はい」
慌ててしーちゃんの後を追っていく。しーちゃんは階段下に行き、周りに人がいないことも確認して私の方を向いた。
「この前、話したいことがあるって言っただろう?」
「はい」
「実は新居が出来たんだ」
「えっ、ええーーーーー!?」
◆おまけ◆咲山晴人の苦悩その二
社長秘書からの連絡がまたきた。御曹司は次もゆいちゃんと会いたいらしい。
しかも、結婚を前提にって何だそりゃーーー!!
鞠子さんは反対するどころか頬を染めて玉の輿って乙女の夢よねとか言ってた。
夢じゃないよ!?苦労するのはゆいちゃんなんだよ!!
絶対どこかのお嬢様とかに「これだから庶民はダメね」とか言われていびられるに決まっている。
ゆいちゃん、パパはまだ君を嫁に出す気はないよ……。
「いやー聞いたぞ!咲山。御曹司とお前の娘のこと」
佐藤がにやにやしながらやって来た。本社配属になってからずっと佐藤の下で働いていた。佐藤が出世しても変わらずに働いてきた。お互い気安くなっているが。
今は触れないでほしいと思う。
「やっぱ、お前の出世は確実だなあ」
背中をバンバン叩かれる。
ああー、今凄く佐藤を殴りたくなった。
「だがな、咲山。気をつけろよ。お前自身、仕事は出来るって分かっている奴はいい。お前が出世しても納得してくれる」
「はあ」
「問題はお前のことを知らない奴らだ。娘のおかげだと妬む奴が必ず出てくる」
「ええ」
「娘のこと守ってやれよ?」
「はい」
佐藤は部下思いで密かに理想の上司像だよなと思っていた。ゆいちゃんの心配をしてくれるなんて有り難い。
「さて、俺は他の奴らといつお前が出世するか賭けてくるわ」
おい、止めろーーー!!
やっぱ殴る!!
ありがとうございました。次回、しーちゃんは無事にゆいちゃんと暮らせるのか!?という話かくるみちゃん視点(第三者)から見た二人のラブラブっぷりの話か迷い中。まだ一文字も書いておりませんが。あとは集中力を探すだけですね。次回また宜しくお願いします。




