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過去話①


 婚約者である鷹之森静流(たかのもりしずる)がいかに可愛い男性ひとなのか。

 日々語り通したいという野望を持つ咲山唯子(さきやまゆいこ)です。

 私の語りを真面目に聞いてくれる人を募集したいところだけど、しーちゃんの素をバラさねばいけないのと、熱く語りすぎて周囲をドン引きさせるだろうという予想も簡単に出来てしまうから、涙を飲むしかないのだけれど。

 しーちゃんは普段は『俺様』だけど、家族や私の前だけではハムスターのような可愛さになる。このギャップ萌えを語りたいだけ……。こほん。

 さて、先週の日曜日にしーちゃんから話があると言われていたのだが、もう水曜日になっているというのにまだ聞けていない状態が続いていた。しーちゃんは生徒会の仕事に追われて忙しいらしい。未だに話されないということは緊急性の低い内容なのだろうか。

 私は生徒会の役員ではないし、生徒会長専用室に行くのはあくまでも昼休みだけ。それに、しーちゃんの休息を優先させているのでじっくり話す時間がなかったりする。

 電話とかメールとかあるじゃないかと思われるだろうが、しーちゃんは通信手段に頼るのではなく直接会って話したいという考えだ。ゆいちゃんの顔を見れないのが嫌だと言っていたような。

 私もしーちゃんを好きすぎているけど、しーちゃんも何でこんなに私を好きなんだろうか?

 たまに感じる不安のせいもあるけれど。七歳の頃に初めて会ってから、まさか婚約までするとは思わなかったというのが正直なところだ。

 そう、あれは初めての出会いの後ーーー。

 




 鷹之森で行われた新年会で初めて彼を知った。

 その新年会の途中、飽きた私は庭へ出て陰で隠れて泣いていた彼と出会って、空き部屋に連れ込まれた。

 ちょっと話した後、改めて自己紹介をした。





「えーっと、僕のこと知ってもらっているけど、改めて言うね。僕は鷹之森静流。君の名前を教えて下さい」

 はっ、彼の可愛さにやられてしまって自分の名前を名乗っていなかったとは!怪しい人と思われても仕方がない。

 慌てて、彼を抱きしめていた腕を放して、向かいのソファーに座り直した。

「ーーー失礼しました。私は咲山唯子です」

「咲山……えっと、本社第二事業部の咲山晴人(さきやまはると)さんのお子さん?」

 お子さんにお子さんと言われました。

「知っているんですか?」

「ううん。今日の招待客の一人っていう程度だよ。第二事業部長が目をかけているって聞いてすごいなって思った」

 御曹司に名前を知られていたとは!うちの父、将来出世出来るかも。

「そのう、君はどうして庭へ?誰もいないと思っていたんだけど……」

「大きい庭で見てみたくなったので」

 彼がいなくなって飽きたからとは言えなかったのであたりさわりなく答えた。

「そう」

 彼は主催者側なので新年会が終わるまでは勝手に自分の部屋に戻ることが出来ずにいた。でも、ストレスの限界もきていたので人目を避けて庭で泣いていたらしい。

 今この部屋にいるのはいいのだろうか?

「落ち着いたらすぐに戻るつもりだったんだ。ちょっと疲れたから休んでいたって言い訳するつもり」

「長時間は辛いですよね」

「あの、えっと、さっきも言ったけど……僕が泣いていたこと誰にも言わないで?僕の素は父と母しか知らないんだ。お手伝いさん達にも内緒なの。母が男がナヨナヨするのは情けないって。どこでバレるか分からないから家の中でも気を抜くなって言われてて」

 馨様、七歳の子に何という我慢をさせているのでしょうか。

「だからお願い」

 彼は大きな目をうるうるさせ、もじもじしながら言った。

 そんな顔でお願いされたら。

 →静流のうるうる攻撃!

 →効果は抜群だ!

 →唯子は気絶しそうになった!

「………………………………………………分かりました」

 どうしよう、HPがごっそりなくなったようだ。

 果たして私は耐えきれることができるのか。

 彼は身悶えしている私に気がつかないようで話を続けていた。

「それでね?咲山さんにはバレちゃったから、口止めって言うと悪いけどこれから仲良くしていきたいって思って……友達になってほしい」

「……いいですよ」

「本当っ!?すっごく嬉しい!!」

「……いえ…」

 そっけない対応に見えるかもしれませんが、言い訳させてください。

 先ほど私は会心の一撃を喰らったのでもう体力がつきかけ、気力しか残っていないのですよ。

 しかし、目の前の可愛い生き物は私に止めを刺すと言わんばかりに己の魅力を振りまいているのです。

 それを必死に耐えている訳で。

 彼の笑顔にさらに体力が削られていく。

 誰か、誰か私に回復魔法をお願いします!

「もう友達になったから…………ゆいちゃんって呼んでいい?」

 彼の肌は白い。

 ほっぺたがほんのり赤くなったのが良く分かった。

 さらにもじもじして。

 恥ずかしそうにはにかんで。

 こちらをちらちら見ながら、ゆいちゃんと言った。

 ーーーあ、もうダメ。

 止めを刺されました。

 →唯子は気絶した!

「……ゆいちゃんっ!?しっかりしてゆいちゃん!!」





 ……はっ。

 どうやら気を失っていたようです。

 彼の攻撃力は高すぎる。恐ろしい人だ。

「ゆいちゃん大丈夫?」

「ーーー……はい。大丈夫です」

 私は気を失って、そのままソファーに倒れ込んだようだった。

 ふかふかのソファーで良かった。

 というか、彼の顔が近い。

 いつの間にやら、彼は私が寝ていたソファーのそばでどこからか持ってきた一人掛けの椅子に座ってこちらを窺っていた。

「いきなり倒れるんだもん。びっくりしちゃった」

「どれくらい寝てました?」

「数十分じゃないかな?一時間は経ってないよ」

「鷹之森様、すみません。……初めてのことだらけで緊張していたようです」

 可愛い男の子の魅力にやられて悶えて気を失ったとは言えないので、新年会で緊張していたという風に誤魔化す。

「ゆいちゃん?」

「はい?」

 彼の顔がさらに近づく。

「友達になったんだから、僕のことは名前で呼んで?」

 ふんにゃり笑顔で言われました。

 そんな笑顔は凶器ですっ!

「……はい。静流様」

「もうっ。様なんて言ってほしくないし、丁寧な言葉使いもしないで」

 頬をぷぅと膨らませる。ひまわりの種を口一杯に頬張るハムスターのようだ。

 また体が震えてくるのを必死に押さえ、問い返す。

「じゃあ、何て呼べばいいの?」

「そうだねぇ。しずとか普通だからなぁ。うーん、しーちゃんって呼んで?ゆいちゃんだけ特別」

「分かった。しーちゃん」

「うんっ!」

 彼ーーーしーちゃんは輝く笑顔を見せてくれました。

 また気絶しそうです。

 そのまま二人でにこにこしていると。

「ーーー静流様、いらっしゃいますか?」

 ドアがノックされました。

「ーーーああ。どうした?」

 !?顔の表情と口調が変わった!『俺様』になったみたい。

 ひとつ言えるとしたら、この態度はとても七歳児に見えないよ。馨様、スパルタすぎる。

「失礼いたします。お姿が見えませんでしたので、お探ししておりました。ーーーこちらのお嬢様は?」

「それはすまない。彼女の具合が悪くなって。介抱していたところだ」

 しーちゃんの了解を得て部屋に入ってきたお手伝いさんーーー多分執事さんみたいな人がソファーに寝ている私に気づいた。

「それは大変でございましたね。ーーーお嬢様、お名前を伺っても?」

「咲山唯子です」

「咲山様ですか。すぐにご両親をお連れいたします。静流さまは会場にお戻りください。笠井様がお待ちかねです」

「笠井が?分かった。戻ろう」

「お願いいたします。ーーーでは、咲山様はそのままでお待ちください」

 執事さん(仮)を見送ったしーちゃんは私に向き直った。

「ゆいちゃん。僕呼ばれちゃったから戻るね」

「うん」

「本当はこのまま帰したくない。もっとお話ししたいよ」

 しーちゃんは私の両手をきゅっと握りしめ、残念そうな顔をした。

 しーちゃん、その発言は誤解を招くよ。

「うん」

「残念だけど今日は諦める。ーーー連絡するから次も会ってくれる?」

「友達なんだから当たり前だよ」

「ありがとう、ゆいちゃん。またね」

 お礼を言ったしーちゃんは今度は満面の笑顔をくれました。

 また、気を失いそうになったけどこらえました。

 それから。

 執事さん(仮)が父と母を連れてきて無事合流した。

 私は具合が悪いことになっていたので、すごく心配されそのまま鷹之森家を辞去した。




 すぐにまた会うとは思っていなかった私はしーちゃんとの出会いを思い出し、にやにやしていた。

 しーちゃんの使いと名乗る秘書さんから連絡がきたと聞いたのは新年会からわずか二日しか経っていなかった。









◆おまけ◆咲山春人(ゆいちゃんパパ)の苦悩


 うちの可愛い可愛いゆいちゃんが御曹司と仲良くなったらしい。

 社長秘書から連絡があり、御曹司がゆいちゃんと会いたいらしくこちらの都合を聞いてきた。

 具合が悪くなったゆいちゃんを介抱してくれたことには感謝したが、正直どうしてくれようか。

 うちのお姫様に悪い虫がついたんだよ!?と鞠子(ゆいちゃんママ)さんに訴えたのに、鞠子さんはあらあらーって嬉しそうに笑っていただけで同意してくれなかった。

 未来の代表取締役社長だかなんだか知らないが、ゆいちゃんに手を出したら遠慮なく殴ろう!

「はっはー。咲山、お前出世できそうで良かったな」

 とりあえず、目の前で面白がって笑っている、第二事業部長の佐藤の顔も殴りたい。

 この人が俺を推薦しなければ鷹之森家の新年会なんて出席しなかったものを!!

 ひいてはゆいちゃんが御曹司と出会わなかったはずだ!!

「そうだ咲山。秘書から連絡があっただろう?」

「はあ」

「新年会の時、先に帰っただろ?その後秘書にお前の連絡先を聞かれてな。私用携帯の電話番号を教えたんだよ」

「はあっ!?」

 全ての元凶はニヤリと笑って。

「いやー、将来安泰かあ。羨ましいぞ」

 と、のたまった。

 やっぱ殴る!!

本当に遅筆で申し訳ないです。集中力ってどこかに売ってないでしょうか。もしくはやる気スイッチ(笑)ちびゆいちゃんの語り口調が大人っぽいですが、咲山家の教育が良かったということでスルーして下さい。宜しくお願いします。



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