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誓いのキスは手の甲に  作者: 濃厚圧縮珈琲


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5/9

5

 大学へ進学してからも、俺達の関係はほとんど変わらなかった。


 講義を受けて。

 学食で昼飯を食べて。

 空きコマになればどこかへ遊びに行く。


 気付けば三人でいる。

 高校の頃と何も変わらない。


 変わった事があるとすれば……。

 それは、美咲が少しずつ綺麗になっていった事くらいだった。



*   *   *



「春樹ー!」


 講義終わりのキャンパス。


 遠くから聞こえた声に振り向く。

 ……やっぱり美咲だった。


 ふわりと風に揺れる長い黒髪。

 高校の頃より少し大人っぽくなった服装。


 薄く化粧もしているらしい。

 ……昔から顔立ちは整っていたけど、大学に入ってからそれが急に目立つようになった気がする。



 実際。美咲が歩けば、何人かの男子が振り返る。

 その視線に気付く度、何だか落ち着かない気持ちになった。


「どうしたの?」


「いや、別に」


「変なの」


 美咲が笑う。

 それは昔と変わらない笑顔だった。


 その笑顔を見ながら、俺は――綺麗になったな、と。

 もちろん、本人には絶対に言わなかったけど。


 でも、美咲がこの笑顔を別の誰かに向ける事だけは……考えたくなかった。



*   *   *



「ヘイヘイ神谷」


「ん?」


 学食で昼飯を食べていた時だった。

 同じ学部の友人がニヤニヤしながら隣へ座る。


「お前まだ告白してないの?」


「何をだよ」


「白石さん!」


 ……またか。

 高校の頃から何も変わらないな。


「だから付き合ってないって」


「いやいや」


 友人は呆れたように笑う。


「周りから見たら完全に彼女だぞ」


「違う」


「今しかないぞー?」


「だから違うって」


 そう返しながらも、心のどこかが少しだけざわついた。


 もし。

 もしも本当に告白したら……美咲はどう答えるんだろう。


 そんな事を考えた自分に驚いて、慌てて頭を振る。

 

 何考えてんだ俺は。

 

 美咲は幼馴染みだ。


 ずっと一緒にいた、大事な幼馴染み。

 これからも、ずっと一緒にいる大切な人。


 そう……その時の俺は思っていた。



*   *   *



 大学二年生となったある日の夜。

 サークルの飲み会が終わり、駅前の居酒屋を出た頃には、日付が変わる少し前になっていた。


 美咲は翌日の講義が朝一らしく、酒も飲まずに途中で先に帰っている。

 故に、解散後に残ったのは俺と悠斗だけだった。


「んん~……飲んだなぁー」


 悠斗が大きく伸びをする。


「お前が飲ませすぎなんだよ」


「だって楽しかったし」


「子供か」


 笑いながら歩く。


 吹き抜ける夜風が気持ち良くて、すぐに家に帰るのも勿体ないと思った俺達は、コンビニへ寄り、それぞれ缶コーヒーを買う。


 店を出たところで――俺の手から缶が滑り落ちた。


 ゴトンと音を立てて地面を転がっていく。



「あ」


「何やってんだよー。まだ酔ってんのか?」


「おー。酔ってるねぇ。蓋開けてなくて良かったわ」


 缶を拾い上げて、付いた土や汚れをシャツの裾で拭く。


「最近よく物落とすよな、疲れてるのか?」


「かもなぁ~。最近レポート多かったし」


 そう答える。





 実際、その時は本当にそう思っていた。

 少し疲れているだけだと。

 それ以上でも、それ以下でもないと。


 だから、その違和感を気にも留めなかった。





 コンビニの前で缶コーヒーを片手に、俺達はしばらく他愛もない話をしていた。


 講義の話。

 サークルの話。

 バイトの話。


 そして、いつの間にか話題は美咲になっていた。


「美咲……さ」


 悠斗がぽつりと呟く。


「ん?」


「綺麗になったよな」


 思わず返事に詰まった。


「……まあな」


「だよな」


 悠斗が苦笑する。


 その顔は、少しだけ。

 ……本当に少しだけ。困ったような笑顔だった。



 しばらく沈黙した後、悠斗がぽつりと言った。


「なあ、春樹」


「なんだ?」


「怒るなよ」


「だから何だよ」


 悠斗は視線を空へ向けた。

 俺も釣られて空を見上げる。

 

 春の夜空は曇りがちで、少し覗く隙間からも街の灯りで星はほとんど見えない。


 ふぅー……と、悠斗が大きく息を吐いた。


「俺さ」


 その声は今まで聞いた事がないくらい真剣だった。


「昔から美咲が好きなんだ」


 頭の中が真っ白になった。

 悠斗の言葉の意味は分かる。

 

 分かるのに、理解が追いつかなかった。


 悠斗が。

 美咲を?


「いつから?」


 平静さを装ったはずが、声が震えていた。


「……高校の時から」


「……そう、か」


 俺は何も言えなかった。

 そんな俺を見て、悠斗は小さく笑った。


「ごめんな」


 その声が、妙に耳に残った。


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― 新着の感想 ―
う~ん、説妙なトライアングルな関係。 でもいつまでも同じじゃいられない。 やっぱ男と女だからね!
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