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大学へ進学してからも、俺達の関係はほとんど変わらなかった。
講義を受けて。
学食で昼飯を食べて。
空きコマになればどこかへ遊びに行く。
気付けば三人でいる。
高校の頃と何も変わらない。
変わった事があるとすれば……。
それは、美咲が少しずつ綺麗になっていった事くらいだった。
* * *
「春樹ー!」
講義終わりのキャンパス。
遠くから聞こえた声に振り向く。
……やっぱり美咲だった。
ふわりと風に揺れる長い黒髪。
高校の頃より少し大人っぽくなった服装。
薄く化粧もしているらしい。
……昔から顔立ちは整っていたけど、大学に入ってからそれが急に目立つようになった気がする。
実際。美咲が歩けば、何人かの男子が振り返る。
その視線に気付く度、何だか落ち着かない気持ちになった。
「どうしたの?」
「いや、別に」
「変なの」
美咲が笑う。
それは昔と変わらない笑顔だった。
その笑顔を見ながら、俺は――綺麗になったな、と。
もちろん、本人には絶対に言わなかったけど。
でも、美咲がこの笑顔を別の誰かに向ける事だけは……考えたくなかった。
* * *
「ヘイヘイ神谷」
「ん?」
学食で昼飯を食べていた時だった。
同じ学部の友人がニヤニヤしながら隣へ座る。
「お前まだ告白してないの?」
「何をだよ」
「白石さん!」
……またか。
高校の頃から何も変わらないな。
「だから付き合ってないって」
「いやいや」
友人は呆れたように笑う。
「周りから見たら完全に彼女だぞ」
「違う」
「今しかないぞー?」
「だから違うって」
そう返しながらも、心のどこかが少しだけざわついた。
もし。
もしも本当に告白したら……美咲はどう答えるんだろう。
そんな事を考えた自分に驚いて、慌てて頭を振る。
何考えてんだ俺は。
美咲は幼馴染みだ。
ずっと一緒にいた、大事な幼馴染み。
これからも、ずっと一緒にいる大切な人。
そう……その時の俺は思っていた。
* * *
大学二年生となったある日の夜。
サークルの飲み会が終わり、駅前の居酒屋を出た頃には、日付が変わる少し前になっていた。
美咲は翌日の講義が朝一らしく、酒も飲まずに途中で先に帰っている。
故に、解散後に残ったのは俺と悠斗だけだった。
「んん~……飲んだなぁー」
悠斗が大きく伸びをする。
「お前が飲ませすぎなんだよ」
「だって楽しかったし」
「子供か」
笑いながら歩く。
吹き抜ける夜風が気持ち良くて、すぐに家に帰るのも勿体ないと思った俺達は、コンビニへ寄り、それぞれ缶コーヒーを買う。
店を出たところで――俺の手から缶が滑り落ちた。
ゴトンと音を立てて地面を転がっていく。
「あ」
「何やってんだよー。まだ酔ってんのか?」
「おー。酔ってるねぇ。蓋開けてなくて良かったわ」
缶を拾い上げて、付いた土や汚れをシャツの裾で拭く。
「最近よく物落とすよな、疲れてるのか?」
「かもなぁ~。最近レポート多かったし」
そう答える。
実際、その時は本当にそう思っていた。
少し疲れているだけだと。
それ以上でも、それ以下でもないと。
だから、その違和感を気にも留めなかった。
コンビニの前で缶コーヒーを片手に、俺達はしばらく他愛もない話をしていた。
講義の話。
サークルの話。
バイトの話。
そして、いつの間にか話題は美咲になっていた。
「美咲……さ」
悠斗がぽつりと呟く。
「ん?」
「綺麗になったよな」
思わず返事に詰まった。
「……まあな」
「だよな」
悠斗が苦笑する。
その顔は、少しだけ。
……本当に少しだけ。困ったような笑顔だった。
しばらく沈黙した後、悠斗がぽつりと言った。
「なあ、春樹」
「なんだ?」
「怒るなよ」
「だから何だよ」
悠斗は視線を空へ向けた。
俺も釣られて空を見上げる。
春の夜空は曇りがちで、少し覗く隙間からも街の灯りで星はほとんど見えない。
ふぅー……と、悠斗が大きく息を吐いた。
「俺さ」
その声は今まで聞いた事がないくらい真剣だった。
「昔から美咲が好きなんだ」
頭の中が真っ白になった。
悠斗の言葉の意味は分かる。
分かるのに、理解が追いつかなかった。
悠斗が。
美咲を?
「いつから?」
平静さを装ったはずが、声が震えていた。
「……高校の時から」
「……そう、か」
俺は何も言えなかった。
そんな俺を見て、悠斗は小さく笑った。
「ごめんな」
その声が、妙に耳に残った。




