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誓いのキスは手の甲に  作者: 濃厚圧縮珈琲


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4

 悠斗の名前が連絡先に加わってから、俺達は驚くほどにあっという間に仲良くなった。


 最初は昼飯を一緒に食べる程度だった。

 それが放課後もつるむようになって、家が意外と近かった事も相まって休日にも遊びに行くようになりった。


 そして、気が付けば三人でいるのが当たり前になっていた。



 不思議な奴だった。

 俺と美咲は幼稚園からの付き合いだ。


 そこへ途中から入ってくるなんて、普通なら難しいはずなのに。

 悠斗はまるで最初からそこにいたみたいに、自然に俺達の輪の中へ入ってきたんだ。



*   *   *



「おーい春樹! 美咲ぃー! お待たせ!」


 放課後、美咲と寄り道していたハンバーガーショップで悠斗と合流する。

 彼はハンバーガーの包みを3つと、大盛りポテトを乗せたトレーを乗せてやってきた。


 肩にはスポーツバッグ。

 今日も全力でバスケをしてきたのだろう。


「あぁ~腹減った!」


「悠斗お疲れー!」


「お疲れ……って、それ全部食うの? 夕飯は?」


「え、余裕でしょ! これでもセーブしたんだよ?」


「燃費悪すぎない?」


 美咲が呆れたように言う。

 すると悠斗は真顔で頷いた。


「悪い」


「認めるんだ……」


 思わず三人で笑い合う。

 その後、先に食べ終えていた俺と美咲で悠斗のポテトを掠め取っては、彼に怒られていた。



*   *   *



 文化祭の準備期間。


 俺達のクラスは喫茶店をやることになった。


「春樹ー! テープ取ってー!」


 脚立の上から美咲が叫ぶ。


「はいよ」


「ありがとー!」


 ひょい、と身を乗り出した瞬間だった。


「きゃっ!」


 脚立がぐらりと揺れる。


「危なっ!」


 慌てて支え、美咲は何とか体勢を立て直した。


「大丈夫か!?」


「う、うん……」


「落ちたらどうするんだよ」


「春樹が受け止めてくれるかなって」


「無理だよ。……重いし」


「即答!? って誰が重いって??」


 そこで背後から笑い声が聞こえた。


「俺なら受け止められるぞー?」


 振り返ると、悠斗が材料の搬入から戻ってきた所だった。


「お、悠斗頼もしいじゃん~!! じゃあお願い!」


「よっしゃ、任せとけ!」


「任せるな」



 結局。

 文化祭の準備も。

 本番も。

 三人で馬鹿みたいに笑っていた。



*   *   *



 「じゃーんっ! 浴衣、どう? 似合ってる?」



 夏祭りの日、浴衣姿の美咲は、普段より少し大人びて見えた。

 俺がそう思っていた事は、もちろん本人には言わなかったけど。


 

 「うーん。馬子にも衣裳ってやつ?」


 「ぶふぉっ!……っくく、似合ってるよ美咲」


 「うんうんっ! ……って、こらぁッ!! 春樹! それどういう意味!? 悠斗も笑うなっ!!」


 

 軽口を叩いて、ふざけ合って。

 それから一緒に屋台を巡っていると――いつしか美咲が迷子になっていた。


「……またか」


「まただな」


 俺と悠斗は揃ってため息を吐く。

 美咲の方向音痴と自由奔放さにはもう慣れっこだったからだ。

 

 少し待つと――


「いたー! ねぇ見て見て!」


 と両手いっぱいに金魚すくいの袋を抱えて美咲が戻ってきた。


「金魚可愛かったの!」


「だからって勝手に消えるな!」


「あは、ごめんごめん!」


 全然反省していない笑顔だった。



*   *   *



 修学旅行の深夜。


 本来なら寝ていなければならない時間。

 俺達は部屋で雑魚寝をしながら、眠くなるまでずっと語り合っていた。


「なぁ、悠斗って将来どうすんの?」


「んー。俺はスポーツ関係かな。大学でもバスケやるつもりだし、そのままプロになれたらいいなぁなんて」


「悠斗らしいな」


「春樹は?」


「俺?」


「うん」


 少し考える。


 まだ、その頃の俺には具体的な夢がなかった。


「どうだろうな」


「なんだそれ」


「決まってないんだから仕方ないだろ」


「春樹らしいなぁ」


「どういう意味だよ」


 悠斗が笑い、俺も笑う。



 あの頃は、未来なんていくらでもあると思っていた。

 行き当たりばったりでも、何とかなるって。

 こうやって楽しく、悠斗と美咲と、ずっと馬鹿をやっていられるって、そう思っていた。



*   *   *


 高校三年の冬。


 受験勉強の真っ最中。


 三人で図書館に集まって勉強会をしていた……はずだった。


「すー……」


「寝てるな」


「寝てるね」


 机に突っ伏した悠斗を見ながら、美咲と顔を見合わせる。


「起こす?」


「起こそう」


「悠斗ー」


 反応なし。


「悠斗ー」


 反応なし。


「悠斗」


 反応なし。


「黒沢悠斗くん!」


 反応なし。


「ポテト山盛り」


 ガバッ。


「起きた」


「起きたね」


 図書館中に響きそうな笑いを必死に堪えた。


*   *   *


 

 こうして、俺達は高校生活を駆け抜けていった。


 ……楽しかった。

 本当に。

 人生で一番楽しかったと言っても過言ではなかった。


 もし一生に一度の願いが叶うなら、この三年間を、もう一度過ごしたい。

 そう願うくらいに。

 




 卒業式の日に三人で撮った写真は、今でもスマホの中に残っている。


 桜の前で並んで笑う俺達。

 未来を疑わない顔をしている。

 今見返しても、少し眩しいくらいだ。




 俺と美咲と悠斗は、同じ大学へ進学した。

 これから先も、ずっと三人一緒なんだろう。


 大学生になっても、社会人になっても。


 そして、もっとその先の人生でも。

 俺達はきっと一緒なんだろう。


 信じなくても、当たり前にそうなると……思っていた。

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