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誓いのキスは手の甲に  作者: 濃厚圧縮珈琲


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3

 俺と美咲の関係は、小学校に上がっても、中学校に上がっても変わらなかった。

 

 俺達は通う学校もずっと一緒だった。

 勉強の出来る美咲に置いていかれないように、必死に勉強して、同じ高校にも合格した。


 推薦で合格した美咲に遅れて、一般入試で合格した時には、二人で手を握り合って喜んでいた。

 



 あの日、桜の木の下で交わした約束を忘れた事なんて、一度もない。


 もっとも、だからといって毎日のように「結婚しよう」なんて言い合っていた訳じゃない。

 そんな事を言ったら、きっと恥ずかしくて死んでしまう。


 それでもどこかで、俺達は信じていた。

 将来もきっと一緒なんだろうな、と。

 そんな曖昧で、確かな未来を。



*   *   *



「おーいっ! 春樹ー!」


 昼休みの廊下に響く声。

 振り向けば、美咲が手を振りながらこちらへ駆けてきていた。


「お弁当食べよ!」


「えー。たまには友達と食べたら?」


「いいじゃん! 春樹も友達なんだし?」


「はぁ……。まあいいけど」


 そう言うと、美咲は満足そうに笑った。


 男の子みたいに、ニッと元気に笑う笑顔は、昔から変わらない。




 結局、俺達は高校生になっても変わらなかった。


 一緒に登校して。

 一緒に昼飯を食べて。

 一緒に帰る。


 幼馴染みだから。

 それが当たり前だから、誰も不思議に思わなかった。


 ……いや。

 俺達以外は違ったらしい。


「なあ神谷」


 教室で友人がニヤニヤしながら肘で俺の脇腹を突く。


「なんだよ」


「お前ら付き合ってんの?」


 またか。


 これで何度目だろう。


「付き合ってない」


「嘘つけ」


「本当だって」


「じゃあ白石さん呼んで聞いてみるか?」


「やめろ」


 慌てて止めた瞬間。


「なになに?」


 いつの間にか背後にいた美咲が首を傾げていた。


 友人がにやりと笑う。


「お前ら付き合ってんの?」


「はぁっ!?」


 美咲の顔が一瞬で真っ赤になった。


「つ、付き合ってないよ!?」


「即答だな」


「だって付き合ってないもん!」


「でも仲良いじゃん」


「それは……」


 美咲がちらりと俺を見て、少しだけ照れ臭そうに笑った。


「幼馴染みだから」


 その答えが、何だか嬉しかった。

 だから俺も頷く。


「ああ。幼馴染みだからな」


 友人は呆れたように肩を竦めた。


「夫婦みたいなのに」


「だから違うって!」


 美咲の抗議を聞きながら、教室中に笑い声が広がる。


 そんな平和な日々だった。



*   *   *



 俺達の前に、黒沢悠斗が現れたのは高校入学して間もない頃だった。

 最初の彼の印象は――デカい。この一言に尽きていた。



 昼休みに購買へ向かっていた俺は、廊下の向こうに見慣れない男子生徒を見つけた。

 背が高い。肩幅も広い。


 いかにもバスケやバレーができそうな体格。

 それに顔は妙に整っていて、女子達がひそひそと騒いでいる。


 その彼が困ったような顔で周囲を見回していた。


 何かを探しているようにも見える。


「どうしたんだろ?」


 美咲が首を傾げる。


「さあ?」


 俺達が横を通り過ぎようとした時だった。


「あっ」


 美咲が小さな声を上げた。


「どうした?」


「あれ」


 指差した先を見る。


 廊下の窓際。

 掃除用具入れの陰に何かが落ちている。

 近付いて拾い上げてみると、バスケットボールの形をしたストラップのついた、何かの鍵。

 

 美咲が顔を寄せ、俺の手の上の鍵を目を細めて観察する。 


「これ……自転車の鍵かな? それにしちゃ大きいか」

 

「家の鍵じゃない? ……もしかして」


 振り向いて、例の背の大きな男子生徒へと視線を向けると、バッチリ目があった。

 手にしている鍵を見せるように持ち上げると、彼は走って俺達のところへ駆け寄ってきた。


「良かった! それだよそれ!!」


 心底ほっとしたような声だった。


「あ、これ君の?」


 鍵を渡すと男子生徒はふわっと笑みを見せ、恥ずかしそうに頭を掻いた。


「ああ。これ……俺ん家の鍵なんだ。助かったよ。それに……」


 手の中のストラップを見せる。


「妹にもらったやつなんだ。無くしたって言ったらぶん殴られちゃう」


「大事な物だったんだね」


「まぁ……ね」


 照れ臭そうに笑うその笑顔は、思っていたよりずっと人懐っこかった。


「ありがとね!」


「いえいえ~!」


「見つかって良かったな」


 俺がそう言うと、彼は笑いながら右手を差し出した。


「黒沢悠斗」


「神谷春樹」


 パチンっと軽くハイタッチを交わす。悠斗の手は俺よりも大きく、固かった。


「私は白石美咲です! よろしくね!」


「こちらこそ!」


 これが、俺達と黒沢悠斗の出会いだった。



 こうして。

 俺と美咲の世界に、新しい仲間が加わった。


 この時の俺は、まだ知らない。

 黒沢悠斗が、俺達の人生にとってかけがえのない親友になることを。


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