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俺と美咲の関係は、小学校に上がっても、中学校に上がっても変わらなかった。
俺達は通う学校もずっと一緒だった。
勉強の出来る美咲に置いていかれないように、必死に勉強して、同じ高校にも合格した。
推薦で合格した美咲に遅れて、一般入試で合格した時には、二人で手を握り合って喜んでいた。
あの日、桜の木の下で交わした約束を忘れた事なんて、一度もない。
もっとも、だからといって毎日のように「結婚しよう」なんて言い合っていた訳じゃない。
そんな事を言ったら、きっと恥ずかしくて死んでしまう。
それでもどこかで、俺達は信じていた。
将来もきっと一緒なんだろうな、と。
そんな曖昧で、確かな未来を。
* * *
「おーいっ! 春樹ー!」
昼休みの廊下に響く声。
振り向けば、美咲が手を振りながらこちらへ駆けてきていた。
「お弁当食べよ!」
「えー。たまには友達と食べたら?」
「いいじゃん! 春樹も友達なんだし?」
「はぁ……。まあいいけど」
そう言うと、美咲は満足そうに笑った。
男の子みたいに、ニッと元気に笑う笑顔は、昔から変わらない。
結局、俺達は高校生になっても変わらなかった。
一緒に登校して。
一緒に昼飯を食べて。
一緒に帰る。
幼馴染みだから。
それが当たり前だから、誰も不思議に思わなかった。
……いや。
俺達以外は違ったらしい。
「なあ神谷」
教室で友人がニヤニヤしながら肘で俺の脇腹を突く。
「なんだよ」
「お前ら付き合ってんの?」
またか。
これで何度目だろう。
「付き合ってない」
「嘘つけ」
「本当だって」
「じゃあ白石さん呼んで聞いてみるか?」
「やめろ」
慌てて止めた瞬間。
「なになに?」
いつの間にか背後にいた美咲が首を傾げていた。
友人がにやりと笑う。
「お前ら付き合ってんの?」
「はぁっ!?」
美咲の顔が一瞬で真っ赤になった。
「つ、付き合ってないよ!?」
「即答だな」
「だって付き合ってないもん!」
「でも仲良いじゃん」
「それは……」
美咲がちらりと俺を見て、少しだけ照れ臭そうに笑った。
「幼馴染みだから」
その答えが、何だか嬉しかった。
だから俺も頷く。
「ああ。幼馴染みだからな」
友人は呆れたように肩を竦めた。
「夫婦みたいなのに」
「だから違うって!」
美咲の抗議を聞きながら、教室中に笑い声が広がる。
そんな平和な日々だった。
* * *
俺達の前に、黒沢悠斗が現れたのは高校入学して間もない頃だった。
最初の彼の印象は――デカい。この一言に尽きていた。
昼休みに購買へ向かっていた俺は、廊下の向こうに見慣れない男子生徒を見つけた。
背が高い。肩幅も広い。
いかにもバスケやバレーができそうな体格。
それに顔は妙に整っていて、女子達がひそひそと騒いでいる。
その彼が困ったような顔で周囲を見回していた。
何かを探しているようにも見える。
「どうしたんだろ?」
美咲が首を傾げる。
「さあ?」
俺達が横を通り過ぎようとした時だった。
「あっ」
美咲が小さな声を上げた。
「どうした?」
「あれ」
指差した先を見る。
廊下の窓際。
掃除用具入れの陰に何かが落ちている。
近付いて拾い上げてみると、バスケットボールの形をしたストラップのついた、何かの鍵。
美咲が顔を寄せ、俺の手の上の鍵を目を細めて観察する。
「これ……自転車の鍵かな? それにしちゃ大きいか」
「家の鍵じゃない? ……もしかして」
振り向いて、例の背の大きな男子生徒へと視線を向けると、バッチリ目があった。
手にしている鍵を見せるように持ち上げると、彼は走って俺達のところへ駆け寄ってきた。
「良かった! それだよそれ!!」
心底ほっとしたような声だった。
「あ、これ君の?」
鍵を渡すと男子生徒はふわっと笑みを見せ、恥ずかしそうに頭を掻いた。
「ああ。これ……俺ん家の鍵なんだ。助かったよ。それに……」
手の中のストラップを見せる。
「妹にもらったやつなんだ。無くしたって言ったらぶん殴られちゃう」
「大事な物だったんだね」
「まぁ……ね」
照れ臭そうに笑うその笑顔は、思っていたよりずっと人懐っこかった。
「ありがとね!」
「いえいえ~!」
「見つかって良かったな」
俺がそう言うと、彼は笑いながら右手を差し出した。
「黒沢悠斗」
「神谷春樹」
パチンっと軽くハイタッチを交わす。悠斗の手は俺よりも大きく、固かった。
「私は白石美咲です! よろしくね!」
「こちらこそ!」
これが、俺達と黒沢悠斗の出会いだった。
こうして。
俺と美咲の世界に、新しい仲間が加わった。
この時の俺は、まだ知らない。
黒沢悠斗が、俺達の人生にとってかけがえのない親友になることを。




