第7話 パトロール
2日前、帝国宇宙軍パイロット、ウリュー=ロウキ少尉は単独でEEN3区域をパトロールしていた。
このエリアは連合軍も滅多に進出してくることもなく、いたって安全と思われている。実際にここまで何事もなく飛行していた。
この地域は碌に住人もおらず、貴重な資源もない、見捨てられたエリアだ。
連合軍もここに食指を伸ばしてくるとは思えないのだ。
帝国だって、ここに重点をおかず、出張所もおいてない。
「全く、何だってこんな所を偵察しなければならないんだ」
リサの柔らかい肌を思うと、ぼやきも言いたくなる。
だが、上官からの命令は絶対だ、念入りに偵察を行うしかない。そして偵察行動の予定はまだ2日以上もある。
「第3ⅱ域、異常なし」呟くように言う。そんなことでも言わなければ、この退屈な仕事に向き合えない。
そんなあくびの出そうな偵察を行っていると、スクリーンに気になる物を見つけた。
特別な発光や黒点を見つけたのではない。スクリーンはいたって平常。なんら異常性は見られない。ロボット脳からの警報もない。
ただ、前方を映すスクリーンの一箇所にピントの外れたぼんやり映る点を見たのだ。それは水や空気の中で温度や密度などの違いによって生ずる、光の屈折率の違いのような“揺らぎ”だった。
AIでも見逃すほどの現象だった。それが目に留まったのは偶然のようなもの。
だが、それは宇宙船がワープして現れる時の現象でもある。
逡巡もなくジャマ―発射SWを押した。戦闘機から無数の針状体が放出され、10秒後にはウリューの乗る機体から5mほど先に疑似体が生じさせた。
そのほぼ同時に、鋭い光が発っせられた。明らかにこっちを狙って撃たれたものだ。
(相手は警告なしに撃ってきた)それは明らかな戦闘行為だ。
高速弾か不明だが、もう避けるのは非常に難しい。
7秒後、デコイが高速物体に貫かれ、大きな穴ができる。そして更に、見えない物体、すなわち“物騒な槍”はこっちに突っ込んできた。
当たったら、機体は破壊され、ウリューは真空地帯に放り出される。
ただ、見えない槍はウリューの機体からわずかに逸れてくれた。
それと同時に反射的に、レールガンを発射する。さっきの光で敵の位置は捕らえている。1ミリも外すことはない。
敵もすでに、回避行動を始めていたが、その動きもお見通しだ。
「逃すかよ」不敵な声が出る。
やがて大きな閃光が見えた。
「やったぞ」声には出さないが、操縦桿を握る手に力がこもっていた。
スクリーンには敵が有人機であったことを示す赤の点が灯った。それを裏付けるように残った敵のいくつかの機の動きがぎこちなくなっている。
「あれはドローンだな」残存する敵の機体は動きが明らかにおかしい。人からの命令がなく、混乱しているようだ。
ロボット艇だけなら、今の交戦を通話連絡だけで済ませられるが、有人機撃墜となれば別だ。
有人機が現れたと言うことは、敵側は本格的にこの宙域に進出しようと目論んでいる。もしくは何らかの作戦を考えている兆候でもある。直ちに報告する必要がある。しかも最低でも、5機以上のロボット艇がまだいるはずだ。これらと交戦するなど無謀そのものと言える。
「帰還する」自らに告げた。
基地に帰り、その足で隊長室に行ったが、不在だ。基地幹部に会うには隊長を介さなければならない。
どうしようかと思っていると、「基地司令官がお呼びです。」とロボット伝達員が告げに来る。
「司令官が?」思わず聞き返す。
「はい、至急、会議室に来るようにとの命令です。」
帰還する前に、簡単な報告だが、有人機を撃墜したことは連絡済みだ。
おそらく事の重大性を考えて、司令官のお出ましなのだろう。
(司令官とはまた大物だな)そう思ってしまう。
帝国において基地司令官に就けるのは、貴族階級出身者に限られる。そしてこの基地は両勢力が争う真っただ中にある。それだけこの基地は重要視され、ここの基地は他の区域とは別扱いなのだ。この基地司令官は他の基地の人事と金にも口出ししていると言われるほどの大物と言われる。そんな大物が直接お出ましとは面食らう。
司令官とは配属した時しか直接会ったことがない。建国記念の特別な日に、冒頭挨拶でディスプレイ上でしかお目に掛かれない相手だ。
そんな人物が出て来るなんて、今度の件を上層部は深刻に考えている証でもある。
今の所両勢力はにらみ合いの小康状態であった。それが今回の事態で本格的な戦闘に繋がると上層部は考えたのかもしれない。
少なくとも連合側が本格的に進出してきたと否定はできないだろう。
(これは大変なことになるな)改めて気を引き締めた。
会議室には司令官以下、最高幹部が勢ぞろいしていた。隊長のジェフもいるかと思ったが、彼はいない。
(ありゃ、俺一人で説明するのかよ)ジェフとはそんなに気が合う中ではないが、上官がいるといないとでは安心感が違う。
こんなお偉方ばかりの席でぺーぺーのパイロットが一人放り出されたようなものだ。
ウリューの持ってきた偵察記録の内容が会議スクリーンに映し出されている。
「ふーむ。この動きを見ると、連合軍は本格的に我が星系に乗り出してきたと見て良いな。」
「はい、連合軍は他の領域でも活発化していると報告があります。わが領域においても、いよいよ進出してきたと見て良いかと思います。」
「ウリュー少尉。他に何か気付いたことはないか?」基地司令よりの直の問い合わせだ。
「は、それ以上に変わったことはありませんでした!」しゃちほこ張って答える。
その後、いくつかの問答し、「ウリュー少尉。戻って良し。」秘書官が退出を促してくれた。
「ふー」思わず一息を吐く。
気付くと脇の下は汗びっしょりだ。
会議に同席した時間は30分もない。
「やべーな。」それでも口はからからだった。




