第25話 射撃訓練
その夜、訓練について教官3人は話し込んでいた。
「アリ、今日の訓練は随分張り切っていたな。」と少し皮肉を込めて言う。
「訓練がきつくて命を落とすことはない。戦場では命のやり取りの時、わずかなミスも許されない。命を失う位なら、苦しい訓練なんて楽なもんだ。いや、俺は若い奴らに死んでしまうなら、苦しい訓練なんて極楽だと身体に覚え込ませる。」
「まあ、若い兵たちが明日も残ってくれるかね。ついて来れなかったら、やりすぎだよ」冷静にサメロが釘を刺す。
「それは大丈夫だ。あいつらはきっとついてくる。」アリは強気に言った。ただ、その自信に根拠はない。
彼自身、強気のポーズでいたが、内心は少しやりすぎたかなと思っている。
だが、次の日も新人たちは全員そろっている。強気の姿勢でいたアリも陰でほっとしていた。
「団の行動時間は戦いや休憩よりも、実際には歩行する時間が一番多いものだ。だがただ歩くだけでは統一した行動は出来なくなる。今日は銃を携帯して行進を主に行う。」朔日、少し訓練がきつすぎた反省でもある。
そして、この行進は団体での統一行動と連帯感を高める目的がある。
「一人だけ、勝手に動いてはダメだ。前に行く者は後ろが付いてくるか、後ろの者は遅れてないか常に意識しろ!」
2列、3列、4列と変えながら行進させると、意外に隊列を組むのが難しいと分かってくる。
「左右前後の間隔をよく見ろ!おまえ、列から外れているぞ!」ウリューの厳しく指摘する。
隊員達は肉体的には楽だが、仲間との間隔をとることに苦労する。
特に4列行進で曲がる時、内側と外側では速度が変わる。内側の者が同じ速度で歩くと、外側の者は走らないと行けなくなる。
「行進で走るな!」
「内の者はスピードを落とせ、外の者は早歩きしろ!」
すかさず、教官たちから叱責が飛ぶ。
最初の頃、ただ歩くだけだと思っていた隊員たちも、仲間との間隔を取ろうとするのに気を使い、精神的に疲れを感じる。
(あれ、どうして前と離れるんだ)そう思って、速足になると今度は後ろがついて来れなくなる。
どうやったら、ちぐはぐにならないか、行進しながらの頭を悩ますのだ。
午前中は行進の訓練だけだったが、終わった時、全員がへとへとになっていた。
午後は銃を使っての格闘訓練を行う。
「盗賊と戦う時、最後は肉弾戦になる。銃も弾を撃つだけではなく、銃が敵を叩く武器になる。銃を使っての格闘戦を教える。」アリは格闘戦に重点を置く。午前、行進ばかりやらされていた兵士にとって、これが良かった。行進訓練ではやる気がなさそうに見えた兵士の眼が真剣さを増している。進んで訓練に取り組むように見えた。
その経験から、次の日は射撃訓練をやることにした。
「同じことばかりしていては隊員のやる気がなくなるからな。」
全員に100m離れた的に撃たせてみた。だが、ほとんど当たらない。
「え、当たらないの?」どの兵士も弾が当たらないことに困惑している。一人二人の話ではない。新人たちのほとんどが的から大きく外している。
ウリューの見立てでは、まず兵士たちが銃の扱いに慣れてなかった。銃弾がどのような軌道で飛ぶか分かってないのだ。
次に、銃器の性能不足。学者が懸命に技術指導しているが、まだ機械加工の技術が足りてない。だから銃器の性能は高くなかった。
ただ、誰も的に当たらないままでは困る。
「俺のやり方をよく見ろ!」ウリューが手本を見せることにする。
一人の兵士から銃を受け取り、地面に伏せ、銃口を少し上向きにして発砲した。銃弾は見事に的中する。
「すげぇ」兵士たちは声を出した。たった1発で的に当てたことに驚いている。
「いいか、立って撃てば銃口がぶれやすい。地面に肘を着けて、銃をしっかりと持つ。そして少し銃口を上向きにしろ」
ウリューは簡単に説明した。手取り足取り詳しく教えない。
発砲する瞬間、わずかに銃口がぶれるだけで的を大きく外すものだ。だから地面に腕を着け、銃を固定した方が的に当てやすくなる。
さらに火薬では推進力が足りず、思っている以上に弾は低く落ちる。その点を補正して的を狙わなければならない。
ウリューはそのことを兵士自ら掴んで欲しかった。
その結果、兵士たちは100発中、半分近くまで的に当てられるようになる。
ウリューたちも軍隊経験はあるが、他人を教えてきたことはない。
どうしたら、兵士の気構え、練度を上げていくことが出来るのか、考えさせられた。
こうして、教師側も新兵たちも少しずつ訓練のやり方について考え、良くしていった。




