第20話 飛行機
「お前さんに見せたいものがあるんだ」
一通り工場を見せてくれた後、サトーが別棟の倉庫のような所に案内した。
そこにあったのは、飛行機だった。
機首にプロペラがあり、地球の博物館でもないと、まず見られない代物だ。
「これは儂が作った最初の飛行機だ。エドの乗っていた奴は2号機で複座型だったが、これは単座で小さく軽くなるように設計した。」
サトーは少し自慢げな口ぶりだが、ウリューはお世辞を言えない性格。
「動くんですか?」悪気があって言ったのではない。思ったことを口にしただけ。
(こんな原始的な機体で本当に空を飛べるのか?)懐疑心が口に出てしまった。
だがこれに、サトーはいたく気分を害す。少ない機材、まだ幼稚な加工製作技術。それらをやりくりして完成させた自慢の飛行機にケチをつけられた思いだ。
「当たり前だ。何だったら、お前さん乗って確かめろよ。」
折角見せてやったのに、「動くか?」なんて失礼なことを言いやがって、だったら乗って確かめろと言い返したのだ。
ウリューにしたって、何年も飛行艇を操って来た経歴がある。おもちゃのような飛行機なんて簡単に乗れるという自信もある。
意地と意地がぶつかり合った。
倉庫の中は、一気に冷たい火花が飛び散る雰囲気になる。
「ええ、そんなに言うなら乗って見せますよ」売り言葉に買い言葉だった。
これまで、帝国軍宇宙飛行艇のパイロットとして、長時間操縦してきた実績はあるが、このような原始的な物に乗るのは初めてだ。
しかも地上である。
実際に飛行機を外に出して、滑走路に出すとウリューは不安が芽生える。だがいまさら尻込みはできない。
覚悟を決めて操縦席に座った。
「急激な旋回や上昇はやらないでくれ。バランスを崩して失速するかもしれん。」サトーから一通りのレクチャーと注意を受ける。
だが、どのように操縦するかはすべて操縦者任せだ。
操縦席に座ると幼稚な機材が目に付く。パネルのメーターは燃料計と速度計のみ。高度や方位も信用できない。もう自分の眼で確認しながら操縦するしかない。
男が言ったことは取り返せない。(もう後には引けない)と覚悟を決めて、エンジンを始動する。
「ブォーン」というエンジン音とともにプロペラが回りだし、飛行機が滑り出した。
意外にも簡単に機体はふわりと舞い上がる。
「や、これは」武骨で、スマートとは対照的、お世辞にも美しいとは言えない機体。ところが、大空に飛び出してみると、意外に悪くない。
操縦桿を右にすれば右に、上に向けると上昇する。
飛行機が思い通りに動く。
(こんなの初めてだ)確かに、昔乗っていた宇宙艇に比べて機能も性能も、スピードも操縦性もはるかに劣る。電脳が補完してくれるから、操縦ミスは起きないし、最適なコース取りもしてくれる。極端なことを言えば、人間がいなくても今のスペースジェットは動く。
人間は最終的にコース取りの判断だけをすればよいようになっている。
ただウリューは電脳任せの操縦で、思い通りの飛行ができないことに不満もあった。
(思い通りに操縦して見たい)宇宙艇に乗っていた頃の思いだった。
それが今、自由に思い通りに飛行できる。空を飛んで、もう夢中になってしまう。
どれくらい、飛行していたのか時間を忘れていた。
「おい、ウリュー。調子はどうだ」しばらくしてサトーの声が無線で聞こえる。
「うん、調子いい。」
「そうか。だがな、そろそろ燃料が尽きる時間だ。そろそろ降りてくれ」
確かに燃料計は下限に近い。もっと乗って見たいところだが飛行機を下げることにする。
「お、これはいいな。」独り言が思わず出るほど、着陸も難なく行えた。
そして停止した飛行機にサトーやエドが駆け寄る。チョロなんてウリューが顔出す前に、尻尾を振っている。
「凄いですねウリューさん。たった一回で飛行機を乗りこなすなんて」
「いやあ、流石は帝国の軍人だ。やるもんだ」サトーも見直したと言わんばかり。
いつの間にか剣呑な雰囲気はなくなっていた。




