第16話 学者サトー
事務所に戻り、改めて経緯を説明する。
「あの森にはそんな猛獣がいるのか?」「誰もが森を怖れる理由だわ」「よく、怪我しないでいられた」
説明を聞いて、皆、苦しい旅に感銘を受けたようだ。一通り説明した後だ。所長がさりげない配慮をしてくれる。
「エド、どうした?もじもじしているぞ。喉でも乾いたか?長いジャングル生活で、アルコールなしだったから、もう一杯やりたくなってきたのか。」
「ええ、それもありますが、早く先生に会いたいです。ウリューさんに先生を紹介したくて。」
「ああ、学者さんか。確かにお前にとってはすぐにでも顔を見せに行きたいのだろう。この時間なら、学者はもう飲み屋にしけこんでいるはず。もう聞き終わったし、町長への報告は明日でいいだろう。早く顔を見せに、行ってこい」所長が送り出してくれた。
途中で、事情を聞く。
「先生と言うのは、どんな人なんだ」
「一言でいうと、僕の育ての親なんです。子供の時に事故で両親を失った僕を、引き取ってくれました。」
「おお、それではすぐに顔を見せに行かないと、いけないな」
「そうなんです。それに先生はそれだけではないんです。ウリューさんは此処の乗り物を見て笑いましたが、昔、僕が子供だった時は馬車しか走ってなかったんです。それを先生がこの町にガソリンエンジンを教え、広めてくれたんです。」
「ガソリンエンジンなんて博物館でしかない物だろう。そんなものどうしてまだ使っているんだ。」
「だって、ここは見放された星ですよ。ロボットもなくて、核物質は扱えません。ここでは核エネルギーを使えない。そうなれば、乗り物は馬車しかなかった。先生がこの町にガソリンエンジンを教えてくれ、自動車が出来たんです。僕の乗っていた飛行機も先生が作ってくれたものです。飛行機を使って、僕はここの地形が詳しく調べていたんです。」
学者という人物を自慢している。
飲み屋に入ると、込み合った中で、奥の隅のテーブルに一人の老人が盃を上げていた。
髪も髭も伸び放題、少し前のウリューよりもっと酷い状態で、おまけに白髪だらけだった。
「先生、ただいま戻りました。」
「お、お前、エドなのか?」その声には驚きと疑問がある。
「はい、エドです」
それでも、まじまじとエドの顔を見つめる。
「い、生きていたのか。よく無事だった。」まだ信じられない様子だ。そして急に立ち上がり、両手を広げ抱き寄せた。
「よく生きていてくれた。お前が戻ってくれないから、もうあきらめていた。」
感動の場面だった。ウリューも店にいた者も涙がにじむ。
その後、酒場は喜びの場となった。何度も祝杯と乾杯が続く。
そんなひと騒ぎもようやく終わり、エドが二人を引き合わせる。
「先生、こちらがウリューさんです」
サトーは深々と頭を下げた。「ウリューさん、よく儂のエドを救い出してくれた。感謝します。」その顔は涙に濡れている。
「いや、別にそれほど感謝されることでもない」
「ところで、ジャングルからどうやって抜け出せたのか、詳しく教えてくれんか」
「別に大した理由はない。この銃を持っていただけだ」
「その銃を見せてくれんか?」
別に秘密にすることもないので、手渡すと、「これは、帝国軍のものだな。だが、この銃は少量のバッテリーしかないはず、電池切れになるはずだが。」
「ウリューさんは特別な力が持っているんです」エドが自慢げに答えた。
「特別な力?」その言葉にサトーの眼が鋭く光った。
今まで飲んだくれ、濁った瞳は消えている。しばしの沈黙。
そして口を開くと店の奥に向かって「亭主、済まんが奥の部屋を貸してくれ」
突然の要請だった。
それでも「ああ、分かった」厨房から一癖ありそうな面構えの男が答える。
すぐに飲み屋の亭主は従業員に目配せをする。
「こちらです」と従業員がウリューたちを案内するように奥に招くと、「何だよ、俺たちはつまはじきかよ」と客たちがぶつくさ言いだした。
彼らもエドの冒険話を聞きたいのだ。だが、「三下野郎は黙ってろ!」と主人が一喝。それで店は静まって、ウリュー達は奥に引っ込むことができた。
奥の部屋でサトーが口を開く。
「ここなら、誰にも聞かれずに話ができる。まず儂のことから話そうか」そう切り出した。
「儂はな、こう見えても、連合側でもそれなりの科学者の地位にいた。詳しいことは省くが、ちょっとした“へま”をしてしまい、上層部に睨まれ、降格された。まあ、若い頃の悪ふざけの自慢と聞き流しておいてくれ。まだ若かった儂はその処置に我慢できなくて、この星に逃げ込んだ。お前さんも似たようなものだろう?」
「・・・」黙って、目だけで同意する。上官を殺害して、逃亡を図った身としては黙っているしかない。
「何も反論をしないのは、その通りと請け負っておく」
そう言いながらも、さっきまで飲んでいたアルコールは何処にいったのかと思わせるほど、声は冷静だった。




