第15話 エリュシーの町で
開けた地に入ると、獣の姿はめっきり消える。その代わりに、人の跡と道があった。
そして遂に、町が見える。
「ここが僕のいた町、エリュシーです。近郊に住む者を含めても5万を超えませんが、この無法の星では大都会なんですよ」苦笑交じりに、説明する。
エドにとって、ジャングルでの生活は苦難の一言で終われない、一生の経験以上のことをしてきたように感じる。
一行が町に来ると大騒ぎとなる。野人のようないで立ちの二人と大型の獣、それを見ただけで住人は警戒感MAXだ。
「止まれ!お前たちは何者だ。」町の門番は二人に銃口を向けたまま怒鳴る。
「いや、僕らは怪しい者ではありません。僕はエドです。」
「エド?」そう言ってしげしげと顔を見る。門番はエドを知っていた。
「ほら、身分証もありますよ。」慌てて片手に高く掲げる。
「ふーむ。確かにエドだな。でも変われば変わるもんだな。」門番はエドの顔と身分証を交互に見比べながらうなってしまう。
それでも、どうにか通してくれ、ウリューもチョロもエドの知り合いということで無事すんだ。
これは運が良かった。エドと顔見知りでもない、意地の悪い者だったらもっと大騒ぎになったはずだ。
改めて二人は互いの姿を見直す。
確かに門番の言うように、二人の姿は異様と言ってよかった。
エドはジャングルの藪を抜ける間に、木の枝や棘、バラによって服はズタズタに裂かれ、靴はサンダルに近い。
ウリューに至っては軍服の面影すらなく、顔じゅう髭もじゃだらけで、ボロ切れが体に付着しているようなものだ。
「どうします?」エドは町に入るのを少しためらう。
「服を調達するにも町に行くしかないだろう」ウリューは外見のことなど気にしない。
「そうですね」促されるようにして、エドは通りへと歩を進めた。
通りでも、不信感で埋め尽くされる。二人を囲むように人垣ができ、5m以上の距離を取られている。
チョロに対しては石を投げつけられそうな雰囲気すらあった。
そんな視線にウリューはいたって無関心。逆に町の様子をしげしげと見る。
「エド、随分、古風な乗り物が走っているな」
「ウリューさん。そんなこと言わないで下さいよ。」少しむっとする。
「いやあ、ごめん。別に馬鹿にして言ったんじゃないんだ。こんな古い乗り物が走っているのを見て驚いただけだ」
「そりゃー、帝国軍の最先端の基地にいたウリューさんから見たら、ここは古臭いでしょうよ」
ウリューの見る所、ここの交通の出力機関は明らかに内燃エンジンか蒸気機関だけ。車ばかりではない、建物もコンクリート造りのビルはほぼ皆無、ほとんどが木造か、よくて石造りや煉瓦建てだ。こんな景色、もう地球の伝統歴史保存の町でしかお目に掛かれないものだらけだ。物珍し気にエドの後をついて行く。
エドの勤めていた事務所に入ると、事務員たちも最初は二人を大いに怪しんだものだ。
数分間の沈黙の後、一人がアッと叫ぶ。「エド、エドじゃないか!」「えー?」たちまち大騒ぎにになった。
ドタドタと重い靴音と共に、太った男もやって来る。
「エドが帰ってきただと!」
「所長、エドです。今、帰ってきました。」
所長と言われた男は丸っこい図体を揺さぶるようにしてエドに近づき、ガシっと肩を掴んだ。
「本当にエドなんだな。」もう泣きださん有様だ。
これまでの経緯を簡単に報告する。
「所長、まず、ウリューさんを紹介します。この人がいなければ私は森で死んでいたでしょう。」
そんな所長は一通りの挨拶を交わしたあと、こう言った。
「まず、お二人さんは、風呂に入ってゆっくりと旅の疲れをいやすがいい。髭も髪もさっぱりして、服も着替えたほうがいい。それからだな、詳しいことはそれからにしよう」そう言って、風呂屋に送り出される。
確かに言われる通りの状態だった。身なりもそうだったが、二人からは強く匂いがして、あまり長く会話しようとは思わなかったのだろう。
二人で背中を洗い合うと、垢がごしごしとこすり取れる。
「川で何度か体を洗ったが、まだ取り切れてなかったんだな」文化生活からいかに遠去かっていたかが分かった。
その後、服を買い、床屋でさっぱりするのだが、そこでエドが驚きの声を上げた。
「え、ウリューさんて、意外と若いんですね。」
「なんだよ、俺を年寄りだと思っていたのか。」
「いや、だって、髭もじゃではどう見ても50以上の老人にしか見られませんよ。」
「なんだ、俺を爺扱いにして、俺はエドとそんなに離れてないぞ。」
「そうは言ってもすっかりすっかり年上だと思っていました。だったら、敬語を使わなくても良かったですね」
「いや、敬語は今まで通り使って貰って良いぞ。」
そんなことを言いながら、3時間もかけ、二人ともさっぱりとした身なりになっていた。




