第12話 空からの訪問者
ジャングル生活を始めて、3年が経過していた。
彼自身まさかこんなに長くジャングル生活をするとは思わなかった。
「リサ、待っててくれ」密林に取り残された焦燥はずっと持っているが、その日を生き抜くことで精一杯だった。
ウリューの外見は大きく変わり、森を歩き回って体力も付き胸幅は大きくなり、髪と髭は伸び放題となる。
着たきり状態の軍服はもう完全にボロボロだ。もうどこから見ても元軍人の面影を見つけられない。
今のウリューの姿は、ほぼ原始人一歩手前だった。
外見の変貌も大きいが、内面ではエネルギー変換の技の開発が大きく伸びている。
まず赤外線を感じられるようになる。
「お、あそこにネズミが隠れているな。」夜の森でも動物の発する熱を感じて見分け出来るまでになっている。
更には、赤外線をパルスで発し、その反射を受け取ることまでできる。
伸ばした腕から赤外線パルスを発し、戻って来る光線を感知する。その時、弾を発射すればほぼ外すことはない。
「うん、百発百中だ。このやり方なら弾を外すことはない。」
最初は、思い付きで始めたことだった。
失敗続きだったが、時間はいくらでもある。瞬間的に赤外線を出せるようになれば、後は簡単だった。
今取り掛かっていることは、銃弾を作ることだ。保存している弾はほんの小さな鉄の塊で、まだ100発以上残っていて余裕はある。
ただいつかは尽きることになる。そのため、ウリューは不時着した運搬船の残骸の中からパーツを引っ張り出した。
それを石炭で溶かして、鋳型に落とし込む。しかし、レールガンに使うには精度が不十分だ。
弾にバリや欠落があって、装着できないか、できてもどこに飛んでいくか分からない。
今は1個ずつヤスリ掛けしている。
「よし、成功!」とにかく今は試射して、問題ないことを確認した。
いずれは石炭を使わないで、体内からの熱エネルギーで鉄を溶かして作りたいものだ。
そして無くてはならないチョロは一層逞しくなり、ジャングル生活になくてはならない存在になっていた。
そんな生活をしていた時だ、「ブーン」エンジン音が空から聞こえてきた。
「なんだ、これは」空を見上げながらあきれ声を出す。
飛んでいるのは飛行機だった。それもプロペラが廻っている。この時代、プロペラ機なんて、博物館でもお目に掛かれない代物だ。ウリューも教練時代、ビデオと教科書で知っているくらいだ。
教官の「昔、人類はこんな原始的な乗り物に乗っていた」と話してくれたのを覚えている。
今の時代、核エネルギーを使った物しかありえない。
「かつての時代では、化石燃料のエネルギーを使ってプロペラを回していた。」教官のそんな説明を「ふーん」と、興味なく聞いていただけだ。
「そんな物で空を飛ぶなんて大変だったな」と思う位だった。
地球と言う、はるか昔の母星の博物館なら飾ってあるかもしれないが、この宇宙時代にプロペラが廻っているなんて想像したこともなかった。
呆れながら飛行機が飛んでくるのをしばらく見上げる。
それが、光の存在のいた穴付近の上空を通った時、急にエンジン音が止まり、プロペラが回らなくなる。
飛行機は推進力を失い一気に下降していく。
そして、座席が機体から飛び出し、パラシュートが開く。落ちた方向をしっかりと確認した。
「チョロ、追いかけるぞ」
「ワン」チョロも分かっており、落ちたパラシュートを目指して走り出す。
落ちたと思える場所まで行くと、チョロが樹上に向って吠える。
見上げると、パラシュートのロープが木に引っかかり宙づりの状態になっている男がいた。
どうやら失神しているらしくほとんど身動きをしていない。急いで木に登り、ロープを切ると、男はゆっくりと落ちていく。
「おい、大丈夫か」横にして男に聞いた。
だが返事はない。でも命に別状はないようだった。
助けたのは若い男だった。
「う、う」水にぬらした布で顔を拭いてやると、ようやく男が正気に戻る。
しばらくして男は立ち上がるが、どこかまだぎこちない。
「助けてもらって、有難う。礼を言う。あのう、あなたは?」態度こそ礼儀正しいが、ウリューの身なりが文明とかけ離れていて戸惑っているようだ。
何しろウリューの恰好なんて、髭も髪も伸び放題で、服なんかはボロボロに破け、素肌も出ていた。これで怪しまないのがおかしい。
「俺は、ウリューだ。たまたま飛行機が落ちていくのを見たからな。そうしたらお前が木にぶら下がっていて、おろしたわけだ。お前は何をしに、こんな所に来たんだ?」
「あ、私は技師のエド=シモンです。この地域は不明なことが多く、地形などを調べるためにこの上空を飛んでいました。」
「地形調査に?たった一人でか?」
「いえ、パイロットが居ました。彼はパラシュートで落ちて来なかったのでしょうか?」
「パラシュートはお前のものだけだった。だとしたら飛行機から出られなかったのか?」
「それしか考えられません。」
「チョロ、飛行機を探せ。」
「ワン。」チョロはまっすぐ走りだし、墜落現場に案内してくれた。
「これは酷い」エドが思わず口に出す。
機体はほとんど元の姿を留めていなかった。
翼は捥げ、胴体は半分も残ってない。かろうじて、操縦席があったあたりだけが残っている。
そこには黒焦げになった人物が座っていた。
何らかの故障で座席が機体から外れず、機体もろとも地面に叩きつけられたようだ。
二人は遺体を丁重に埋めるしか、してやることがなかった。




