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エピローグ 来訪者

ウルペス→???視点


後書きにて今後の更新ペースについて記載しています。


 辺境と呼ばれたその街はエルドラド王国第二王子ルイン・ユール・エルドラドの直轄領となり、オーラムゲートという名を賜った。


 新たなるレベルⅤダンジョンという大陸中の注目が集まるこの街の領主にして第二王子が住まう屋敷はとんでもないお通夜状態になっていた。


「どーしよっかぁ……ねぇ?」


 王位継承権を持つ王族のみが座れる玉座のレプリカ。そこに座る黄金の髪を垂らした顔立ちの整った男の顔色は蒼白だった。

 いや、第二王子だけではない。

 玉座の前で頭を垂れる臣下たちもまた、顔面蒼白であった。


 ダンジョンVを交渉材料にした外交を行なっていた彼らは今、窮地に追いやられている。


 それもそのはず、その肝心要のダンジョンが無くなっているのである。


「それは……」

「そもそも、ダンジョンが無くなるなんて聞いたことも……」

「大体ダンジョン発見を報告した者が」


 ざわざわと臣下たちが騒ぎ出す。

 責任の押し付け合いに言い訳、生産的な意見は皆無。妹であるルイナスが辺境に向かってから消息を絶った時も彼らは何一つとして有益な意見も、ルインが求める言葉を発しなかった。


「殿下、ダンジョンが無いなら無いなりの対策をすればよろしいのですよ」

「対策……?」


 そんなルインの耳に入って来るのはアルカディア騎士団辺境派遣団団長、ウルペス・ノウェルの言葉だった。


 一度だけそのマスクの下の顔を見たが美しい女性であった。それこそルインが見てきた中でニ番目だと確信するほどに。

 まあ、辺境で見かけた求人募集に写っていた受付嬢を見た瞬間三番になってしまったが手が届かない高嶺の花より手が届く花だ。


「レベルⅤは踏破出来ないのがむしろ当然。歴代のレベルⅤダンジョンも何十、何百回という挑戦の果てにようやく第一、第二階層……そして積み上げた屍の山の先にようやく踏破に至れるかどうか……たとえ出来たとしても……百年は先でしょう」


 ウルペスの言葉は正しい。だが肝心のダンジョンが無いのは……。


「お前……」


 ルインは顔の見えないウルペスが邪悪な笑みを浮かべているのがわかる。

 ぞわりとした感覚がルインの背中を走る。


 コイツは、ダンジョンに挑みにきた連中を……挑んだ体にして始末してしまえと言っている。


「その為の手段は用意いたしましょう。殿下はご存じないかもしれませんがレベルⅤに挑む方々は意外にも搦手や人を殺める技術に弱いんですよ」


 ねっとりと蛇のように絡まる言葉。騒いでいた臣下たちも皆ウルペスの言葉に引き込まれていく。


 彼女がルインに提案している内容はエルドラド王国を陥れる。しかし、先延ばしにすれば最悪自分たちの代は助かるかもしれない。そんな自分本位の危険で最低な思想。


 だというのに気づけば皆が彼女の意見を検討している。


「殿下。殿下は妹君にまんまとだし抜かれた無能……あなた様は何も考えず、ただ私たちの言葉を鵜呑みにしていれば良いのです」

「ああ、そう、だな」


 ルインは甘い夢に浸るような心地よさを感じながらゆっくりと瞼を閉じた。



◼︎



「はい邪魔」


 ウルペスはガクンと肩を落としたルインを蹴り落として空いた玉座に座る。


「……あ、私。大丈夫、こっちはちゃんとやってるよ。そっちは? 逃した? 親兄弟元婚約者まで揃ってサーティン家って逃げ足早すぎない? はぁ、あのオバさん誤情報掴ませやがって……殺しても足んないよ。絶対捕まえなよ? んで逃した原因は? ……効きが悪い? フランドールがいた街だからこればっかりはねぇ」


 ウルペスは堂々と玉座を奪っていながら全くこちらを気にもしない殿下の臣下たちを眺める。


「貴方達静かにしなさいよ」

「はい、ウルペス様」


 ピタリと人形のように止まる彼らを鼻で笑う。


 ウルペスたちはボスから力を賜った事で自らに見惚れ、言葉を聞き入れた人間を魅了する事ができる。


 マスクの下に隠れた美貌によって様々な組織や国などの要人をその傘下に納めている。


 だがそんなウルペスたちの力も万能ではない。対象が他に愛する者……妻子や恋人を持つ人間には効きが弱い。だが時間を掛ければそれも解決する。


 そうして辺境を密かに支配していたウルペスたちの誤算は招き入れた厄災……フランドールだった。


 あのムカつくほどに外見だけは完璧な受付嬢を見た瞬間、ウルペスたちが時間をかけて魅了してきた人間への支配が霧散した挙句、もう一度かけようとしても中々かからない。なんならかかってもフランドールを見たらまた消える。


 積み上げてきた計画はフランドールが辺境を練り歩いた結果、三日経たず水泡に帰したのである。


 即座にフランドールを始末する話も上がったが、それは一度取り止めになった。


 彼女を上手く使えば、人々を魅了する手間が省けそうだったからだ。


 だがその考えは誤りだった。


 フランドールという人間はとても制御できない。


 ウルペスは長い人生の中であれほど見た目と中身が乖離した人間を見た事がない。


 品行方正に見えて結構際どい手段を平気で取るし。


 ただやはり残念だという想いがない訳ではない。


 辺境に名前がついた事で契約が切れ冒険者ギルドが撤退した後、何故か半壊していた冒険者ギルド辺境支部内を探ってみた時に目にしたやたら金をかけた更衣室。

 そこの棚に自分の名を見つけた時、ウルペスという偽名を名乗った彼女は出会い方さえ違えば友人になれたかもしれない同僚を思い出す。


 いや、思い出したら出したでボスが先に雲隠れした後に残された自分たちがギルドマスター代理となったフランドール主導の地獄のような残業地獄の苦しみを思い出して顔を顰めるのだが。


「とにかく、あのチープってオバさんは捕まえてよ? コッチももう少ししたら早速ダンジョンに挑みに来た命知らずの処理に入るから」


 ウルペスは念話を切って糸が切れた人形のように転がる第二王子に声をかける。


「で、早速来る予定の国はどこだっけ?」

「ユートピア大陸の五大国の一つ、エメス公国です。ゴーレムクラフト発祥の国だと伺っています」

「なら楽勝か。ゴーレムを適当な理由で預からせて使用者はサクッと片付けて」

「で、殿下ッ!」


 慌ただしく駆け込んで来た兵士にウルペスはマスクの下で眉を顰める。


「なんだ、騒々しい」


 転がったまま威厳を見せようとしてるのはちょっと面白い。


「ど、ドラゴンです! 巨大なドラゴンがこちらに向かって来ています!」

「……はぁ?」


 ウルペスはついそんな声を漏らした。


◼︎



 馬よりも速く移動する飛行物体。その姿を見てまず全員がそれをドラゴンだと騒ぐだろう。

 しかしよくよく目を凝らせて見ればそのドラゴンの翼には本来なら有り得ないもの……エメス公国の国旗がつけられ、ドラゴンの他にも小さな飛行物体がまるでドラゴンを守るように追従していると気づいただろう。


「間もなくエルドラド王国の空域に入ります」

「了解。各騎速度は維持しろ」


 ドラゴンを取り囲む物体もまた、小さなドラゴンであった。それでも十メートル程はある巨体だ。


 それらのドラゴンにはエメス公国の紋章の入ったマントをはためかせた騎士たちが乗る。これらは全て王から賜った騎馬に代わるゴーレムである。


「こちらアルファよりバハムートへ。間もなくエルドラド王国空域に侵入。陛下をお呼びしろ」

「こちらバハムート了解」


 巨大な飛行物体バハムート内部にいた男が護衛からの報告を受けてこのバハムートを管理するブリッジを離れ通路を歩く。


 何度歩いても男はゴーレム内部とは思えない通路を歩きながら襟を正し、部屋の前に立つ。


「陛下、まもなくエルドラド王国空域ですが」

「もう? 計算より早くない? ……やっぱり長距離移動させると速度にバラつきがあるな……また改良しないと……」

「陛下、恐れながらまた国家予算を使い尽くすおつもりですか?」

「いやいやいや、流石に懲りたよ。資金繰りって大変だよね」

 

 扉の向こうから聞こえる声は男よりも一回り以上は若い少女の声。しかしながら彼……いや、エメス公国からしてみれば神にも等しい御人の言葉である。


 この移動用ゴーレムはもちろん、これから挑むレベルVダンジョンに並ぶユートピア大陸有数のレベルⅤダンジョンを踏破した最強のゴーレムを生み出した功績から国王直々に任命されて次代の王になった人物だ。


「というか扉越しの会話っなんか引きこもりと話してるみたいに見えるし中に入りなよ」

「……はい」


 男は目を伏せる。引きこもりといえば引きこもり気味なのは事実だし、王と一緒にいるのは名誉であると同時に過労死というゴーレムクラフト発祥の地では無縁の言葉が頭をチラつかせるのだ。


「失礼します」


 中に入ると目の前には散乱したゴーレムの材料や設計図にポーションの空き瓶。王の居室とは思えない荒れ果てた部屋に埋もれるように座り込んでゴーレムをいじる少女の姿があった。


「陛下……なんで二日でこんな有り様に?」

「え、普通じゃない?」


 普通じゃない。とはいえそれを言ったところできっと理解してくれないのだろう。


「それよりエルドラド王国空域に入ります。準備をした方がいいのでは?」

「ん、ここだけ組み立てたらやる」


 そう言って工具箱に手を伸ばしていたので工具箱をひったくる。


「ダメです。そう言ってユートピア国際会議に遅刻しましたから」

「わ、わかったって……」


 立ち上がった少女は男から見て一回りは小さい。だがその内に秘めたゴーレムクラフトへの情熱と技術で国民を魅了したエメス公国国王セレナ・ファンテックは徹夜を感じさせない笑顔を浮かべる。


「先輩、これを見たら驚くかな?」

「多分、陛下を見て驚かれると思いますが?」


 だって職場の後輩が一国の王になっているなんて天地が逆さまになっても思わないだろうから。



色々と環境が変わりそうなところで三章は完結です。

ついに彼女が偉くなって戻って来ました。偉くなりすぎ?


まさかのエピローグで主人公不在という内容ですが新天地が大変ということで。


さて今日までなんとか毎日更新をしていた本作ですが作者のリアル事情の問題で少し間隔を空けることにしました。

毎日読みに来てくれていた読者の皆様には大変申し訳ございません。


第四章を書き溜めつつ、週一ペースで本編に入らなさそうな短いオマケ話などを間章、幕間的な扱いで投稿予定です。


毎週水曜更新、時間は今と同じくらい。

四章開始は一月後を予定してますが進捗によって早まれば……その時はオマケ話の後書きに記載しますね。


読者様が離れる不安もありますが何卒続きを楽しみにしていただけると嬉しいです。


これからもフランドールの応援をよろしくお願いします。


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― 新着の感想 ―
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