第三十一話 玉座
フランドール→マリス視点
表情がコロコロ変わるマリスさん。見た目は同じなのに中身が違うとこうも受ける印象が変わるのかと感心してしまう。
「貴女、私の過去を」
「え、見ましたよ。マリスさんも私の過去を見たワケですしこれでおあいこじゃないですか」
私の信条として、やられた事はやり返してヨシというものがあるのだ。
「まあ見せていただいた上で忠告させていただきますが前任の口車に乗らない方がいいですよ?」
「……あの人間のこと?」
「いやー私も昔は騙されましたよ。見ました? 純粋無垢で品行方正な美少女を騙す詐欺師っぷり」
「……純粋無垢? 品行方正?」
なぜそこに引っ掛かるのか?
「……前任っていうのは……?」
「あれ? 私の過去を見たんですよね?」
「いや、途中からよく覚えてなくて……うっ」
マリスさんが頭を抑える。ひょっとしてこのアイテムは使ったら何か後遺症があるのだろうか?
他者の過去を追体験できるというのは今にして思えばかなり危険というかデリカシーの無いアイテムだ。
色々便利に使えそうだと思ったけどこれはさっさと処分しておいたほうがいいかな?
とはいえ勝手に処分したら本部の禁書庫から無くなったアイテムが足りなくなる。今後懲罰会議も控えていると考えたら盗まれたとされるアイテムが全品戻らないのは私とオズワルドさんの地位が危ぶまれるかもしれない。
いや、私は受付嬢への降格くらいなら何という事もないし、むしろウェルカムなのだが。
そんなことを考えていると部屋の扉がノックされる。
「はーい、開いてますよ」
「……鍵くらい、かける」
「ッ!」
入ってきたのは無表情ながらどこかちょっとお怒りなテトラさんだった。
私はあまり鍵をかけるタイプではないからちょっと防犯意識の低さを咎められているのかもしれない。
いや、ちゃんと職場ではキッチリしてるよ? プライベートはゆるゆるかもだけど。
そんなテトラさんを見てマリスさんの身体が強張っているのがわかる。私には全くわからないがシュラさんのいう殺気めいた圧を向けられているのかもしれない。
「テトラさん」
「……代行、甘すぎ。そもそも、拘束、されてない」
「だって必要ありませんし」
そう言ってマリスさんの両肩に手を置く……細っ。え、なにこの肩華奢で可愛い。どおりで王都にいた時にみんなから肩を叩かれる訳だ。
叩きたい肩だわこれは。
と、自分の身体に自分で感動してたらテトラさんがコンコンと扉を叩く。
「代行」
「あ、はい……テトラさんが来たってことは皆さん集まりました?」
「……全員ではない、ちょっと不貞腐れて、来てない」
「……今度何か埋め合わせしますか」
マリスさんの手を取り……手も小さくて綺麗……ではなく、軽く引いてついてくるよう促す。
「マリスさんに紹介したい人たちがいるので一緒にいらしてください」
「……」
ちょっと怯えた様子でコクコクと頷かれる。別に怖くないからね?
◼︎
淡く光る白い床が奥まで続く通路をマリスはフランドールについて歩く。
「……」
マリスはつい、前を歩くフランドールの袖を掴む。その空間があまりにも異様だったからだ。
壁も天井も黒く染まり、そこに存在してるのか本当に怪しい。こんな異界において、フランドールの部屋がいかに浮いていたかが逆に明らかになっていた。
「……?」
そんなマリスの様子を見て首を傾げたフランドールは一体何を考えているのか、マリスの手を握ってにこやかに笑う。
手を握られたのは一体いつ以来だろうか?
「あ、着きましたよ」
「!」
フランドールが指差す先にある扉らしき形状をしたモノ。それが転移門であるという事を知らないマリスからしてみれば異質なモノであった。
「さあ入りましょう」
「あ、ちょ」
手を引かれたマリスは転移門へと足を踏み入れる。
ポータルによる転移よりはいささかマシな酔いに耐え、マリスは別の場所に降り立つ。
「ぁ……」
そこにいたのは異形の姿をした怪物たち。マリスは見覚えのあるやけに派手な色をしたスライムと狭そうに身を屈めた玉虫色の甲殻類。そしてフランドールの過去を垣間見た時に自分たちを襲っていた蠢く触手を丸めて玉のように転がる怪物。
フランドールを部屋まで呼びに来たのテトラと呼ばれていた魔人が一番普通で適任だったのだと一発で理解させられる。
そしてようやくわかった。
フランドールが彼ら……深淵と呼ばれる魔人たちの組織を率いていると……いや、あの時は襲われた立場だったのでは?
そんな魔人たちが一斉にこちらを向き、マリスはフランドールの背に隠れる。
「あ、そっちが偽者か」
「え、わからなかったんですか? 付き合い長いのに」
触手玉の言葉にフランドールがまるでショックを受けたように振る舞う。
「いやいやわかってるよ? 一応ね、一応」
触手の側面から無数の歯を覗かせる。アレは魔人の分類で本当にいいんだろうか? どう見てもただのモンスターだ。というかあの口に近づいてよく平気で話せる。マリスから見たらドラゴンの口に頭を入れるより危険な行為だ。
「代行、それくらいに、時間、もったいない」
「おお、そうですね」
フランドールはマリスに諭され触手玉から離れると彼らがいる広間にある階段を登った先の黄金の玉座に向かう。
煌びやかで豪奢なソレはマリスがこれまで見てきたあらゆる調度品や宝物が見劣りしてしまうほどに繊細な造りをしている。
無理矢理価値をつけたら国すら買えてしまえそうだ。
そんな玉座になんの躊躇いもなく近づいていったフランドールが座るのかと思ったら玉座の裏に回り込んでいき、何やら見窄らしい木製の椅子を引っ張り出してきて玉座の横に並べる。
農夫辺りが手作りしてそうななんとも素朴な品で並べられるとその差が際立つ。
若干軋む椅子に座るとフランドールが眼下にいるマリスたちに話しかけてくる。
「 」
遠い。
「代行、聞こえない」
「実は口パク」
「代行は私たちを試されていれる」
「やっぱり場所が悪いですよ場所がぁー!」
フランドールが魔人たちからの野次に対して叫んで返してくる。彼らのボスなのにイジられてる。関係性が独特過ぎる。
「えー、皆さん! 今日はお集まりいただきありがとうございます! お引越し直後にも関わらずこんなに集まっていただき感激です!」
「嫌味?」
「半分以上欠席だけど」
「代行がいきなり引越しなんていうから」
「準備が大変であった」
「だって拠点区画ごと運び出すなんて思わないじゃないですかー! おかげで私の部屋はそのままで助かりましたけどー!」
異質な玉座の間の雰囲気にそぐわないふざけた雰囲気のままフランドールは話を続ける。
「えーと、まずは彼女の紹介を! マリスさんです!」
「っ」
いきなり自分の話題になり、全員の姿勢が向けられる……中には目がなくてよくわからない奴もいるが。
「彼奴は代行の部屋を襲い」
「シュピールも狙った」
「生かすつもりか代行?」
「もちろんです! 罪を憎んで人を憎まず! いや、罪の中にはやむを得ない事情もある時もありますから罪を憎まずでもいきましょう」
「つまり無罪?」
「端的に言えば!」
「なっ……」
マリスは驚く。フランドールは寛容というかやはりどこかおかしいのでは?
「彼女は騙されていたんです。しかも私の元上司に! あの人の元部下として彼女に同情しています」
「騙されたとは?」
「えっ、と」
わからない。マリスは今、自分が何故こんな事をしているのか、思い出せない。
「彼女はもう覚えてません。あの人のスキルはそういうものですし……まあ詰めは甘かったですね。コレで私がマリスさんの過去は見せてもらったからコッチには残ってます!」
逆鏡を手にフランドールは自分の頭を指先で突く。
「冒険者ギルドやアルカディア大陸各国の衰退で人間の勢力を削いで好機とばかりに動く魔人の皆さんと相打ちさせるだなんだと宣っていましたが優先対象の冒険者ギルド支部を並べたら目的は一目瞭然です!」
フランドールの背後に巨大な絵が浮かび上がる。
それはマリスも見たことがない精巧な世界地図。そこに赤い点がいくつも付けられている。
「ね?」
ね? じゃない。
マリスは周りを見るが……わかる。表情なんて無い魔人からもわからないという雰囲気を纏っていることを。
そろそろ三章も終わり。
黒幕の思惑を一人だけ理解したフランドールは……?




