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第二十七話 死を覗く

フランドール?視点


 慌ただしい本部内部。カビの生えた緊急時のマニュアルは全く役に立っていないようで、我先にとポータルで逃げようとする職員たちとは反対方向にフランドールが歩く。


 空中要塞バシレウス。そんな太古の遺物が未だなお現存していたというのは驚きだが、どれだけ強力な力も使う者がこれでは宝の持ち腐れだろう。


 幾重にも結界が張られ、強固な外殻に覆われたバシレウスが揺れる。この空中要塞に攻撃を通す事自体が難関だが、襲撃者たちはまるでそれを苦としていないようだ。


「えーっと、右右左右下下上左上」


 手にしたメモを片手にフランドールは本部内部を歩く。


 本来なら厳重な防壁が張られた要塞内部だが、戦闘状態に移行したバシレウスの欠点として攻撃に転じた分、内部の防壁が疎かになる。


 その情報は正しかったようで用意していた結界破りのアイテムたちは出番が無いまま目的地へと辿り着いてしまう。


 本部へのアクセスはポータル頼りだから外部の人間が入るのは難しい。そのため内部を警備する冒険者などの姿はない。


 警戒すべき人物はギルドをまとめるグランドマスターたちで彼らは何かしらの武芸に秀でている。


 今回は珍しくグランドマスターが一人だったため彼が迎撃に出た以上、妨害がないのも当然だった。


「あら?」


 目的地についたフランドールはその首を傾げる。

 禁忌のアイテムや重要な情報等を保管しているという冒険者ギルド本部の禁書庫。そこに先客がいたのである。


「あ、え? ファイナンス様? な、なぜここに?」


 両手に書物やアイテムを抱いたギルド職員の男がその長い前髪から不愉快な色を浮かべた視線でフランドールを見る。


「それはこっちのセリフです。何をしてるんですかこんな場所で」

「いや、なんっでも、ない……で」


 職員の男がゴトリと音を立ててアイテムを落とす。

 その拍子に起動したのか、その黒球から全く場違いな映像が禁書庫内に投射される。


「うーわっ」


 それを見たフランドールが眉を顰める。

 映し出されたのは一糸纏わぬフランドールが入浴している映像。

 それも多角的な角度から撮られていた。


「いやいや禁書庫にこんなの保管してたの? 他の禁忌の品やアイテムたちが泣くんじゃない?」

「う、おおおおぉ!」


 男が何を血迷ったか抱いていたアイテムを放し、両手を突き出して突貫してくる。


 それを表情一つ変えずに尾てい骨辺りから無数に生えた蛞蝓や蛭のようなぶよぶよとした毒々しい黒と黄色い斑点が浮かぶ紫色の尻尾の内一本が男の腹を貫く。


「……ッ!?」


 驚きのあまり声も出なかったのか、男は目を見開いてフランドールを見る。

 そんな男をゴミでも見るような冷たい視線で見下したフランドール……その姿を真似たマリスが尻尾を振るって男を禁書庫から放り捨てる。


「あーキモキモ。冒険者ギルドの職員ってエリートだって聞いてたけど……変態の巣窟なんじゃない?」


 床に散らばったアイテムにその中身や性能を可視化する鑑定魔法を使用すると中身はどれもこれもフランドールの盗撮映像らしい。


 数回しか起動されていないものから際立って起動回数が多いもの。その差はどうやら中身の映像が如何に煽情的かどうかという事らしい。


 そんなギルドの汚点のようなアイテムを蹴飛ばし、マリスは禁書庫から目的の品を見つけ出す。


 当初の予定では冒険者ギルドを襲撃し、ギルドの弱体化を目論んでいたが全く関係のない第三者が冒険者ギルドを襲撃した事で状況が変わってしまった。


 これで平和ボケしていた冒険者ギルドは警戒を高めてしまう。易々と侵入出来るのはこれが最後だろう。

 どうせなら襲撃者に便乗して空中要塞内部を破壊してしまえばとも思ったがマリスが辺境から観測した襲撃者の特徴を


 伝えたら彼らが深淵の魔人であるという回答が来た。

 下手に関われば巻き添えで計画が破綻するという事でサブプランに切り替えるらしい。


 とはいえマリスからすれば本部の禁書庫に保管されているアイテムの中に欲していたものがあるのだからこの機は逃せない。


 だから戦闘状態に入り、ポータルによる転移が完全に封じられる前にマリスの力で複製していたポータルを使用して本部に侵入したのである。


 他にも色々と便利なアイテムに目移りするが後で目をつけられても堪らない。


 マリスは手にした長方形のケースを懐にしまうと禁書庫を後にしようと外に出るとそこで凍りついたように動きを止める。


「ほらしっかりしてくださいレックさん! 傷は浅いですよ!」

「け、結構、深い……」


 マリスが放り捨てた人間の傍にしゃがみ込んで両手の指の股に挟むようにして何本ものポーションを傷口に流し込むその人物はマリスもよく知る人間だった。


「大丈夫ですよ、お腹貫かれたくらいで人間死にゃしませんよ。ほら腹に力込める!」

「アダダダダ!」


 レックと呼ばれた人間が激痛から手足をバタつかせる。少なくとも死に体からは回復しているらしい。


「よし、塞がったかな? ほら起きてください。避難しますよ」


 倒れた人間を引っ張り起こしたその人間と目が合う。


「フランドール……」

「……うわ、すっごい美少女」


 どこから手に入れたのか、黒眼鏡をかけたフランドールがマリスを見てそんな言葉を漏らす。

 自分と全く同じ顔を見て真っ先に出る感想かこれが?


「初めてましてね? 私は」

「すみませんちょっとこの人を安全なところに避難させてからでいいですか?」


 良くないが?


 偶然とはいえ自分の偽者が目の前に現れ、名乗りをあげようとしているのを普通遮るだろうか?


 それもフランドールのいかがわしい資料をどさくさに紛れて禁書庫から盗み出すような人間を助けるために。


「貴女その男が持ち出した物が何か知ってる? そんな人間助ける価値ないわよ?」


 床に転がっていた黒球の一つをつま先で小突いてフランドールに向けて転がすとフランドールはそれを片足で受け止め、器用に足の甲に乗せるとひょいと蹴り上げて手でキャッチする。


「そんな事ありませんよ。レックさんにも優れた点は沢山あります。私たちにはまだ見出せていないだけで」


 それはフォローのつもりか? 画面越しに見たフランドールとこうして対面したフランドールとでは受ける印象がまるで違う。


 どおりでフランドールと近い人間と接したら秒でバレるのか、理由がわかった気がする。


「とにかく、私の要件を優先させてもらえないかなぁ?」


 マリスはズルリと伸ばした粘つく尻尾を一本生やし、フランドールに先端を突きつける。


「でないとソイツ殺しちゃおっかな」

「? 助ける価値はないと仰るのに殺す価値はあると? 私からしてみればそれこそレックさんにそんな価値はありませんよ。ねぇ?」

「は、はぁ」


 同意を求められても困るだろ。


 どこまで本気かわからないフランドールの対応にマリスがどう返すか迷ったところでフランドールが男の手を離す。


「レックさん、悪いんですけど先に避難してください。彼女がどうやら私に用事があるようなので」

「は、はい」


 マリスとフランドール、二人を見比べながら男はよろけながらも通路を進んで姿を消す。


 ようやく相手をする気になったらしいフランドールにマリスはニタリと笑みを浮かべる。


「私はマリス。実は貴女にお願いがあるの」

「はぁ、まあ私に出来ることなら可能な限り頑張りますが」

「簡単よ。貴女という存在を私に譲って欲しいの」

「……全然簡単とは思えないんですが? 要は私に成り変わるって事ですよね? 恵まれた人生だとは思いますがわざわざ私じゃなくてもよくないですか?」

「いいえ、私も山奥に引き篭もるまでいろんな魔人や人間を見てきたけど貴女ほど美しい存在はいなかった。この姿で平和に暮らせたらなんて久しぶりに真っ当な夢を持てたの」


 マリスからしてみれば自分を勝手に産んで捨てた両親や半魔という理由で迫害してきた魔人も人間も一人残らず殺したい。

  

 そんな現実的ではない願望を捨て置いても後悔しないくらいにはフランドールとして暮らす事に憧れている。


「そんな歴史上比類なき超絶美少女だなんて」

「別にそこまでは言ってないけど?」


 事実には違いないがふざけた奴だ。マリスは早速出番となったアイテムを懐から取り出す。


 ケースを開くと現れたのは水面のように綺麗な面とヒビが入った二枚組の鏡だった。

 それは逆鏡と呼ばれる遺物であり、ヒビの入った鏡に映った者の過去を綺麗な映った者に追体験させるという力を秘めている。別名、覗き見の鏡……レベルⅤダンジョン、時眩ましの塔で出土したというアイテムだ。


「フランドール、貴女の過去をもらうわ。そしてこれからは私が貴女になってあげる」




自ら自爆しにいくスタイル。

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オイオイオイ死んだわコイツ この言葉しか浮かんでこなかったw数多の王剣の女王であっても、世界の特異点と友誼を結んでいても、絶世の美女であっても彼女にだけはなりたくなーい!
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