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第二十五話 本部強襲


「オズワルドさんだけですか? せっかくお土産も買って来たのに」

「よく言うよ、わかっているから一つしか買って来てないくせに……」


 お金が足りなくて一つしか買えなかっただけですが?


 オズワルドさんは妙に私を過大評価してくるんだよな。

 まあ、優秀な受付嬢だという自負はあるんだけどそういうレベルの評価じゃないんだよね。


 早速お土産の辺境饅頭を口にしたオズワルドさんが黒眼鏡越しに私を見る。いつも思うんだけどそれコッチ見えてます?


「さて、早速本題に入ろうか。時間は有限だ」

「全くですね。早く仕事がしたくてソワソワしてますから」


 大丈夫だとは思うけどメアリさんが仕事を滞留してるかもしれないと思うとソワソワするんだ。安心するためにも早く現場復帰させて欲しい。


「いいね。受付嬢がみんなファイナンスくらい仕事熱心なら上としては助かるんだがね」

「やだなぁ、褒めても何も出ませんよ? あ、肩こっていたらお揉みしましょうか?」


 最近仕事で褒められることがなかったからついつい気分が良くなってしまう。我ながらチョロい。


「嬉しい提案だが言ったろう? 時間は有限だ」


 オズワルドさんが両手を組んでその口元を隠す。


「実はね、ファイナンスをグランドマスターに昇進させようとする一派とクビにしようとする一派で本部が二分していてね」


 何て天地の差がある処遇だ。というか何がどう転がったらそんな話になるのだろうか?


「オズワルドさんはどっちの一派なんですか?」

「もちろん前者だとも。ファイナンスを野に解き放つなんて正気とは思えんね。キミのようなタイプは役職と責任という首輪をしっかり掛けておかないと」

「そんなに立派な首輪がなくてもいいんですけどね?」


 グランドマスターとか冒険者ギルドの重役だ。私みたいな仕事が出来るだけの美少女受付嬢がなろうと思ってなれるものではない。


「それで、何故私をグランドマスターに?」

「ふむ、これは伏せておくよう言われたが見ての通り私の口は軽くてね……ファイナンスを冒険者ギルドの広告塔にしたいというのが私たちの一派の考えでね」

「広告塔?」


 要は客寄せドラゴンか。


「ファイナンスも察しているかもしれないが冒険者というのは掃いて捨てるほどいる夢見がちな若者やまともな職に就けない無頼漢や傭兵崩れどもが最後に流れ着く表向きの職業だ」


 そんな掃き溜めみたいな場所だなんて卑下しなくてもいいと思うよ!


「だから冒険者が足りないなんて事はなかったんだが現在アルカディア大陸の冒険者が大きく減少している」

「へぇ……なんでまた?」

「ファイナンスはエルドラド王国にいるから知っているだろう? 女王ルイナスを」

「まあ、はい」


 ルイナス様のことなら一、二を争うくらいには知ってる自信があるよ。


「元々属国であったロンダリングを独立させた彼女はあの魔王ラキスを退けたとして注目が集まっている。そんな彼女の強さとカリスマに惹かれてロンダリングの軍隊に入隊しようとする若者が後を絶たないそうだ」

「へぇ」


 そういえばロンダリング支部には新人冒険者が少なかった気がする。まだ立ち上げたばかりだからと思っていたがそっちに流れたのか。


「近年魔人が引き起こした事件の中では最大規模でユートピア大陸にも噂は流れてきている。一部ではルイナススタイルなんて呼ばれるヘアスタイルが流行る始末だ」


 海を超えてツインドリルが広まっているのか。


「……え? つまりルイナス様に対抗して私を冒険者ギルドの顔にすると?」

「効果はあると思うよ? 全支部の中で新人冒険者の増加推移がキミのところだけ桁が違うからね」


 そんなに?


「とはいえキミがどこかの支部のギルドマスターのままで広告塔にしてしまえばその支部に冒険者が一極集中するだろうからグランドマスターとしてギルドの顔にするのが良いと結論が出た」


 なんか面白そうな会議してる。


「いいアイデアだとは思うんですが、実は問題がありまして」

「問題?」

「ええ、実は私の偽者が暗躍しているようで……今私を広告塔として全面に押し出すと偽者の被害を受けた勢力から糾弾されたり悪用される恐れがあります」

「……なるほど」


 オズワルドさんが少し考え込む。

 それらしい事を言ったが実際のところ私をグランドマスターにして広告塔として公表したら裏でコソコソ作った人脈が破綻しかねない。

 私を単なる受付嬢として冒険者ギルドへのスパイとして利用出来てると思ってる組織もあるし。


 あと私が看板になったりしたらラキスさんがいよいよ冒険者ギルドを滅ぼしかねない。

 何故か凄く私を目の敵にしてるらしいし。


「で、その偽者はこの本部への襲撃を計画しているとの情報がありました」

「……そんな情報どこから……だがこのギルド本部に襲撃など不可能だ」


 クハハ、とオズワルドさんが笑った瞬間建物全体が振動する。


「なんだ?」

「地震ですかね?」

「地震などありえん……おい、何事だ?」


 オズワルドさんが首から下げていた白い貝殻のような見た目のアクセサリーを握って声をかける。するとその貝殻から慌てた様子の女性の声が返ってくる。


『ゲイン様、何者かによる外層結界への攻撃です!』

「なに!?」

『十二階層の内六層の結界の破壊を確認。襲撃者からの攻撃は依然続いて』


 会議室にまで届く轟音。貝殻の向こうからは応対していた女性の他複数人の悲鳴が届く。


『け、結界に穴が』

『バカな! たった二発だぞ!?』

『ゲイン様、応戦許可を!』

「くそっ、現在の空域は?」

『アルカディア大陸エルドラド王国……辺境支部へ差し掛かります』

「なんて偶然だ、おいファイナンス……ファイナンス? 何をしている」


 机の下に隠れていた私をオズワルドさんが覗き込んでくる。何をしてるも何も危ないから身を隠してるのだ。


「オズワルドさんがフラグを立てるから」

「私か? この襲撃は私のせいか? ってアホな事を言っている場合か! ファイナンス、キミは今グランドマスター補佐だろう?」


 オズワルドさんに引き摺り出されて机の下から出た私の前にオズワルドさんが貝殻のアクセサリーを手にしてこちらに目配せをしてくる。


「グランドマスター、オズワルド・ゲイン並びに」

「……グランドマスター補佐、フランドール・ファイナンス」

「以上二名の名において迎撃を許可する」

「え、なんですかそれ」


 何だかわからないが内容がよく分かっていない書類にハンコを押印させられたような気がする。


『声紋及び固有魔力の照合確認』

『空中要塞バシレウス、クリスタルカーテン解除。天雷の杖への魔力供給開始』

『攻撃目標からの魔力振動波を感知……厄災級の反応がニ体!』

「バカな!? 厄災級の反応を見落としていたのか?」


 なんだか盛り上がっている中、三度建物が揺れて会議室の外からも職員たちの慌ただしい動きや声が響いてくる。


「オズワルドさん、よくわかんないんですがみんなで避難した方がいいのでは?」

「そう簡単に本部が落とされるものか。全くなんで私が残ってる時に限って……フランドール、キミ腕に自信はあるか?」

「あると思います? 本職は受付嬢ですよ?」


 私の返答にツッコミを入れるかのようなタイミングで空気を引き裂くような雷鳴が轟き始め、空が壊れたかのようにその音は絶え間なく続く。


「そうだろうな……バシレウスが戦闘状態になった今はポータルも使えん。キミはしばらく机の下で待っているといい」


 オズワルドさんがその懐から奇怪な形の武器を手に取る。確かユートピア大陸のごく一部の地域に伝わる魔銃と呼ばれるものだっけ。


「え、まさか戦う気ですか?」

「? 当たり前だろう。万が一にも私がいる間に本部を落とされでもしたら連中に煽られるからな」


 それはリーマン翁や他のグランドマスターの事だろうか? 流石にそんな事しないと思うけど。


「やれやれ、オズの小倅は留守番一つ出来んのか」

「やめろ、あのジジイが言いそうな嫌味を言いおってからに」


 口角を下げて嫌そうな顔をしたオズワルドさんがかけていた黒眼鏡を外して投げ渡してくる。


 紅蓮に燃えるような紅い目を見せたオズワルドさんが私を……というか受け取った黒眼鏡を指差す。


「それ預かってろ。メチャクチャ高かったから壊すなよ」

「わかりました」


 そう言って黒眼鏡をかけた私に何か言いたげな表情を浮かべたオズワルドさんがよく見える。

 うん、意外としっかり視界が確保出来ているんだな。


「これいくらしたんですか? ちょっと欲しいかもです」

「そうか、なら次のボーナスは全て頭金に回せ」

「……中古品って事でコレ半額で売ってくれませんか?」


 

一体何者なんだぁ?

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