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第二十四話 黒幕たちは惑う

偽フラン→フランドール視点


「……あらま」


 居間に降りてきたフランドールの目が細まる。


 お茶を淹れてくると言って降りて行ったゼニス・サーティンが戻って来ないので見に来てみれば一階は無人だった。


 玄関扉にかけたトラップにも反応は無かったので恐らく窓から逃げたのだろう。妙に小慣れた逃げ方だ。


「なーんで偽物ってわかったのかなぁ?」


 家主のように遠慮なく居間にあるソファに腰掛ける。


 ゼニスが察した通り、このフランドールは本物ではない。

冒険者ギルド支部でシュピールを襲った半魔の偽フランドールである。


「ん〜」


 目の前のテーブルに置いてあった手鏡を取り、自らの姿を映す。

 憎たらしいほどの美少女がそこに映っており、ついつい顔が綻ぶ。


「よく出来てると思うんだけど……やっぱり本物から学ばないとダメかな?」


 その手が頬をなぞる。


 元々はアルカディア大陸の北方で活動していた半魔だが、魔王ラキスがロンダリングと呼ばれる国で暴れたことで各国と冒険者ギルドによる魔人討伐への動きが活発になっていた。

 半魔からしてみれば魔人と人間が争い同士撃ちして死に絶えてくれたら万々歳だが彼らの矛先はラキスには遠く及ばない木端魔人に向けられていた。


 そもそも魔王と呼ばれる位にいる魔人はほとんど人前には出てこないからその存在を認知されていないから当然と言えば当然だが。


 その出自故に人間の街にも魔人たちのナワバリにも居場所がなかった半魔は山奥で細々と暮らしていたのだが、そんな流れで始まった魔人排斥運動に巻き込まれた。


 個人単位であれば人間や魔人と多少取引などをしていたが故に山奥で暮らしていた半魔の情報を人間が冒険者に流したのである。


 それをキッカケに不遇な生活に耐えていた半魔の堪忍袋の尾が切れた訳だが襲って来る冒険者たち全員を倒すのは難しい。

 追い詰められた半魔を救ったのは皮肉な事に人間だった。


 幻魔と呼称される魔人の血と人間の血を引く半魔が姿形を真似る事に秀でているという情報をどこかから得て来たその人間は自らの計画への協力を申し出てきた。


 そんな提案を一蹴してやろうかと半魔は考えたが、その人間が提示してきた計画は半魔に取って悪くない内容であったし、何より化けて欲しいと言われた人間の姿があまりにも美しかった。


 化けるために必要な血と一緒に提供されたその人間のプロフィール、一挙手一投足まで詳細に記録された映像を見て半魔はフランドールという人間を学ぶ。


 映像から読み取れるフランドールは眉目秀麗、温厚で真面目な冒険者ギルドの受付嬢で、笑顔の絶えないその姿は半魔が憧れる豊かで幸福そうな毎日だった……入浴やその他諸々記録として残していいのか疑問な映像も多々あった事は不思議だったが。


 とにかくフランドールの動きや性格を模倣し、試しに街中を歩いてみたら驚くくらい人間たちは好意的だった。


 多少の齟齬があっても流されるあたりフランドールという人間がこの街ではどういう位置にいるかはなんとなく掴めた。


 しかし、先も失敗したがやはり距離が近い人間は何かを察するのか半魔を訝しんでいた。

 逆に言えばフランドールと距離が近い人間を全員消せば彼女に成り代われるという確信を得た半魔は頼まれていた仕事を終えたらフランドールとしてこの街で過ごすと決めた。


 そのために本物のフランドールしか知り得ない知識や記憶を吸い上げる。

 計画を持ち掛けてきた人間にはフランドール本人には接触するなと言われているが知った事ではない。


 生まれながら迫害され、生きるだけで精一杯だった半魔と比べ生まれ持ったこの美貌で何不自由なく幸せに生きてきたフランドールとしての人生を歩む未来に半魔はニタリと笑みを浮かべる……受付嬢は大変そうだから辞めて再就職は確定路線ではあるのだが。


「ま、その冒険者ギルドの本部も潰すんだけど」


 冒険者ギルドは先のロンダリング事件から信頼が下落している。


 その本部を襲撃し、直接的な打撃を与える事で組織の弱体化、縮小を図り、計画に組み込まれた都市や国から冒険者ギルドを排斥する。


 そんな事をして何の得があるかは半魔にはわからないが、自分の命を狙う冒険者ギルドの勢力範囲からこの辺境も外れるのであれば半魔からしたら都合がいい。

 

 あとは冒険者ギルド本部の襲撃をどこの勢力に擦りつけるかは情勢に応じて指示された半魔がその勢力の長に化ける予定だった。


 そんな事を考えながら勝手にお茶を淹れていると半魔の頭に思念が伝わってくる。


『マリス、いまどこにいる?』

「家で寛いでるけど? どうしたの急に」


 遠方に思念を飛ばす魔法、念話(テレパス)……非常に便利だが盗み聞きされたり居場所を逆探知されやすいからあまり使いたがらない半魔……マリスに計画を持ち掛けた人間から連絡が入る。


 その内容を聞き、マリスの顔……といってもフランドールの顔から感情が抜け落ち無表情になる。


「えっ、本部が襲撃された?」



◼︎



 冒険者ギルド本部。

 その所在地は本部のギルド職員にすら知らされず、全員住み込みで働いている。

 

 アクセス方法はポータル頼りになっており、秘匿性が高い。私も以前興味本位で本部の場所を調べてみた時は片手間だったのでサッパリ分からなかった。


 目が死んだメアリさんから本部へ出頭するように言われた私は辺境土産を片手にポータルによる転移を終え、本部に到着する。


「お待ちしておりました。ファイナンス様」

「お疲れ様ですレックさん……え、ずっと待ってたんですか?」


 ポータルが置いてある転移室で出待ちしていたのは目が見えないくらい前髪を伸ばした本部職員のレック・キャメラーさんだった。


「いえ、ファイナンス様はいつも時間通りですから丁度こちらに伺った次第です」

「そうですか……いつも出迎えありがとうございます……でも前にも言いましたけど毎回いらっしゃらなくて大丈夫ですからね?」

「本部内は複雑ですから案内役として当然です」

「お気遣いありがとうございます」


 私は軽く会釈をし、レックさんの後について廊下を進む。

中肉中背のレックさんの背中を観察すると僅かではあるが制服に汚れがついている。


 うーんこれはまたやってたかな? 私はつい頭に浮かんだ疑念を振り払う。


 冒険者ギルドで使用しているポータルはまず転移先に転送元で読み取った物質を仮想体として転写する。

 つまりどういう事かと言うと、転移完了するまで無防備な私の仮想体がそこにある訳だ。


 その際仮想体に転移阻害になり得る物が干渉していると転移されない。例えば机や椅子、人間などだ。


 ポータルの転移はおおよそ十秒弱かかるが今回は約二十秒かかった。

 無論多少の誤差はあるだろうが、十秒弱の間仮想体に干渉されていたとしても私には知る由もない。


 もちろん確証はない。この仕様についてもポータルを量産できないか調べていてようやくわかった事だし。


 まあ邪推しても仕方がない。あくまで可能性だ。


「こちらです」

「ありがとうございます」


 目的地に着き、向き合ったタイミングで視線が胸に刺さるが気づかないフリだ。


 以前ダンタリオンさんから男は胸に視線を向ける生き物と聞いた事があるし、私を嫌ってたシュピールくんだってつい見てしまっているようなので本当にそういうものなのだろう。


 案内された部屋の前でレックさんと分かれる。

 その部屋は本部にある一番広い会議室だ。以前私が前任ギルマスとの関与を疑われた際にもここで色々取り調べを受けたっけ。


 今回は恐らく謹慎処分についてだろう。

 まあ何にも悪いことはしてない私をいつまでも遊ばせておくのは非効率的だ。


 それにメアリさんも色々と限界が近そうだったし早く手助けしてあげなければ。


 そしてあわよくばそのまま受付嬢として一緒に働いてくれたら嬉しい。


 そんな楽しい未来を思い描きながら扉をノックすると短く入れとの声が掛かる。


「失礼します」


 私は愛想良く笑顔を浮かべて会議室に足を踏み入れる。


「来たか、ファイナンス」


 真っ黒な眼鏡をかけ、緋色の髪を伸ばした漆黒のスーツ姿をしたその人物の見てくれは完全に裏稼業の人間だった。


 私は深々とお辞儀をする。


「お疲れ様ですオズワルドさん」

「ホントにな、ホントにお疲れ様だよファイナンス」


 オズワルド・ゲイン、アルカディア大陸とは対をなす大陸ユートピア一帯を取りまとめるグランドマスターが疲れを微塵も感じさせない身振りで顔の端まで裂けた口元に笑みを浮かべていた。



時系列は若干前後してる模様。

一体何者が本部を襲撃したのか……?

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― 新着の感想 ―
 フランに化けていた半魔のマリス、主な能力はシェイプチェンジャーでしたか、しかしマリスにフランの情報を渡したのはギルド本部の人間?与えられていた情報内容からは、その線が濃厚ですがなんでギルド本部職員が…
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