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第二十二話 嵐の前の静けさ

シュピール視点


 あっけからんと言い放つフランドールにシュピールは苦笑いしてしまう。


 自分の偽者が現れたと聞いて即座にその偽者に自身のやらかした責任を押し付けようという発想に至る人間がどれだけいるだろうか? 


 シュピールは帰って来て早々に行動を開始したフランドールについて行きながらそんな思考を巡らせる。


 普段フランドールが外に行く時はついていかないシュピールだが、彼もまた辺境では認知されつつある。


 そんなシュピールとセットなら自分が本物であるという事の証明になると言われてしまえば納得するしかない。


 超個人的都合から彼女には負い目もある。手伝ってと言われて断る言葉をシュピールは持ち合わせていなかった。


「最近私がここに来ませんでしたか?」


 ただその質問の仕方は正しいのだろうか?


 行く先々で同じ質問をしては訝しまれ、まあギルマスだからと流される辺りが世間一般のフランドールの評価を物語っていた。


「うーむ、ここにも来てないとなると私の姿を使って悪さをする気はないのでしょうか」


 午前中の内に何件も周り、フランドールの目撃情報を当たってみたが全くなかった。


 フランドールはとにかく目立つ。シュピールがメアリから聞いた話では王都で見かけたフランドールの姿が忘れられなくて王都に拠点を移してきた冒険者や商人がかなりいたらしい。


 それくらい目につく美貌だ。目撃されていたら間違いなく覚えているだろう。


「なあ、まずは冒険者ギルドの本部に行ったほうがいいんじゃないか?」

「シュピールくん、私は今謹慎中なんですよ? ポータルを使って転移したら記録が残るから謹慎中に出歩いた事がバレて下手したらクビです」

「今出歩いてるのはいいの?」

「記録が残らない目撃情報は全部偽者という事にしますから」


 めちゃくちゃ言ってる。


「でも緊急だろ? ギルドだって大目に見てくれるんじゃ」

「でも私が本部に行った後に何も起こらなかったらそのまま私はギルドから排斥。ひょっとしたらそれこそが目的かもしれません」

「まあ、確かに」

「それにですね、事件を未然に防ごうとあれこれ準備して何もなかったら何故か怒られる事が多いんです。何かあってから対応した方が感謝されるから決定的な情報を掴むまでは後出しで対応します。一応備えはしますけど」


 やけに熱がこもっている。過去に何か失敗したのだろうか?


 チラリとフランドールを見上げる。


 謹慎中という理由からほぼ常時着ていた受付嬢の制服から何の変哲もない平服姿のフランドールが新鮮に映る。

 白いブラウスに青空を切り取ったかのような水色のスカートから伸びた脚には白のレース模様の入った膝上まである長い靴下を履いていて何とも清楚な姿だった。


 とても自分の姿を利用した偽者を逆に利用しようと悪巧みしているとは思えない。


「ところで、あの領主の方はいいのか?」


 ついフランドールに見惚れていたのを誤魔化すように咳払いしてから尋ねる。


「いいのか、とは?」

「いや、領主の座を奪われそうなんだろ?」


 シュピールは先日初めて顔を合わせた領主の少女、ゼニスの姿を浮かべる。フランドールを頼りにしてきた姿になんとなく自分を重ねてしまったからつい気になってしまう。


「ああ……まあゼニス様の件は手遅れですから」

「……おい、手遅れって」

「いやぁゼニス様もちょっとツメが甘かったですね」


 辺境の街並みを行き交う人々の雑踏に紛れて話すフランドールの言葉は実に淡々としたものだった。


 ダンジョン発見を機に暗躍を始めたのは彼女の伯母チープと彼女と通じていた第二王子だった。


 妹であるルイナスに先んじて王になられた彼は次期王となるに相応しい武勇や功績を欲した。

 そこで目をつけたのが新ダンジョンを発見したという功績、そして辺境の街そのものだ。


 国はいよいよ辺境の街の生産性を公にする時が来たのではという話に移り、サーティン家を大貴族の一角として認めるか否かという協議が執り行われた。


 しかしゼニスが伯母であるチープに本来なら秘匿すべきであった内容を話してしまっており、それをネタにサーティン家を辺境の領主としての地位を剥奪し、第二王子直轄領にした暁には国外追放となったゼニスの父と兄を王子直下の貴族に召し上げるという密約を結んでいたらしい。


 他にも歴史ある屋敷を吹き飛ばしたり当時国が総出で探していたルイナスを領地に軟禁していたなどという話まで持ち出されてしまい、今からどう手を回しても辺境がゼニスの手から離れるのは避けようがないらしい。


「そこを何とかしてあげるものじゃないのか?」


 シュピールからしてみれば自分をこうして面倒をみている辺りフランドールは超が付くお人好しだ。

 少なくともゼニスという少女の方がシュピールより付き合いは長いし彼女もフランドールを信頼している。普通なら助けてあげるのでは?


「私もなんでも出来るわけではないですし……そっちはゼニス様の頑張り次第ですね。そこからが私の出番です」


 フランドールの手助けするかしないかの線引きが独特過ぎる。


「というかですね、今ゼニス様は失脚しちゃった方が間違いなくいいんですよ」

「おいおい」

「いやだって周りを見てくださいよ」


 フランドールがその腕を広げる。

 辺りは賑わう辺境の人々。それも並の賑わいではない。


 何度も買い出しに辺境の街を歩いたシュピールもこれまで見た事ないレベルだ。


 よく見ればあちこちに飾られた旗や横断幕にはダンジョン発見を祝う祝言か綴られていた。


 辺境初のダンジョンに人々は浮かれ、街全体がお祭りムードだ。


「私の想像以上にダンジョンの発見でみなさん盛り上がってます。恐らく祭りの浮かれた雰囲気のドサクサに紛れてゼニス様から領主が変わる事を伝えてお祭りムードで済ませようという魂胆でチープさんたちが情報を流したんでしょう」


 フランドールが周りをキョロキョロと見渡すと屈んでシュピールの耳元で囁く。


「でも先日ぶっ壊してきたからダンジョンなんてもうありません……どうなると思います?」

「……ブチ切れるだろ」


 少なくともシュピールにはこの雰囲気の中でダンジョンはなくなりましたなんて言う勇気はない。


「第二王子たちも秘密裏にダンジョンの利権を餌に他国とも交渉に入ってます……もう無いのに」

「お前……本当に破壊したのか」

「ええ、ばっちりです」


 一体どうやったらダンジョンが壊れるのだろうか?


「だからゼニス様は四方八方から糾弾される立場から上手く逃げられる状況なんですよ。この問題が露見して炎上して、ほとぼりが覚めてから復権できるように力を注いだほうが効率的です」

「まあ、確かに?」


 呆れつつもシュピールは内心ホッとしていた。

 決して見捨てと訳ではなく、かなり独特ではあるがフランドールなりの助け船を用意すると知って。


 彼女の過去をカラミティから聞き出してシュピールが抱いた感想は何故? という疑問だった。


 生きていれば魔人も人も大小あれど何かしら辛い経験はあるがフランドールはシュピールからみても悲惨な人生を歩んでいる。

 だというのに全くそれを感じさせない。聞いた境遇が本当であれば魔人にも人間にも恨みがあって然るべきだ。


 それを彼女は過去は過去、今が良ければ全て良しのスタンスを貫いている……まあ、過去のやらかしをチラつかせてこちらの誠意を問うてくる茶目っ気を見せる時はあるが。


「おっと」


 人混みに押されてバランスを崩す。本当にやわな身体だ。


「シュピールくん」

「っ」


 そんなシュピールの腕をフランドールが掴み、支える。


「ほら、これだけ人が多いと迷子になっちゃいますから」


 そう言って右手を差し出された。初対面でいきなり砕かれた事を忘れて無いくせに平気でこういう事をしてくる。


 何か言ってやろうかとフランドールを見るが、何の邪念もない笑みを見せられては嫌味も出てこない。


「……」


 差し出された手をシュピールは握る。絶対断られるだろうと思っていたフランドールがちょっと目を丸くした後、嬉しそうな顔をしてシュピールの手を握り返す。


「せっかく外に出たんですからどこかでお昼にしましょうか。シュピールくんは何が食べたいですか?」

「別に何でも」

「一番困るやつ〜……なら天空亭の空海パスタにしましょう」


 空と海の幸で作られたツルツル食べられる料理で確かに今食べたいとなってるものだ。


 だがコッチを見透かされている不快さよりも自分を理解されているという幸福感を覚えながらシュピールは大人しく頷くのだった。



火薬庫に油を撒く黒幕たち

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