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第二十話 親子

フランドール→パーティー視点


 クライムさんの顔面に蹴りを入れてしまった私は慌てて彼の容態を見るが、息はしているし外傷は父が与えた痣と後頭部に出来たたんこぶくらい。クライムさんが頑丈でよかった。


「中々エグい蹴りをいれたな。どうやら中身はだいぶ俺に似たらしい」

「ちょっと間違えただけですよ。乱舞と縮地を組み合わせてみたらあらぬ方向にすっ飛んじゃって」


 見よう見まねで何とか真似は出来たけど精度は実にイマイチで危ない。当面は使用しないよう気をつけよう。


「お前見ただけで真似たのか」


 父がちょっと引いている。そこは娘の才能に喜んでいただきたい……まあ受付嬢にはほぼ不用な才能ではあるんだけれど。


「で、コイツは結局なんだ? ヒモ?」

「今は私のパーティーの仲間ですよ」

「へえ……まあなかなか見所のある奴だったぜ? 男を見る目は母親譲りかね」


 母は散々周りから男を見る目がないと言われたけど言わぬが花かな?


 気を失ったクライムさんを抱き起こし、持ってきた鞄からポーションを取り出しクライムさんの傷にかける……切り傷にはすぐ効くんだけど打撲だと効き始めが遅いんだよね。


「……ところでお前名前は決まったのか?」


 ドカリと私の隣に座った父がそんな事を聞いてくる。一応ダンジョン側から差し向けられた存在だから根底には侵入者を襲うよう刷り込まれているはずだが……頑固な性格だから無視しているのかな?


「名前が気になるんでしたら自分で決めたらよかったのに」

「俺に名付けのセンスは無ぇからな」

「そうですか?」


 そういえばそんな事を言っていたっけ……私の名付けセンスは母譲りか、私にだけ芽生えた才能かな?


「お父さんには悪いんですがお父さんは私の名前を知る事なく亡くなりました。だから教える気はありません」

「ばっさりだな」


 ケラケラと父が笑う。端から私の答えがわかっていたようだ。

 父が私のマスクを外し、顔を覗いてくる。


「じゃあ火ィくれねぇか? 吸い終わったらいくわ」

「はいどうぞ」


 私が指を鳴らすと指先に小さな魔法の火が灯る。

 それを父が咥えた煙草の先に当てがうと父が空気を送って火がつき、今はない銘柄の煙草の匂いが辺りに広がる。


「そんな魔法(もん)まで覚えたのか」

「どっかのだれかが火を探しに行ってる間に処刑を進めようとしましたからね。同じ轍は踏みませんよ」

「結局間に合わせたくせに」


 ぐりぐりと帽子の上から私を撫でる父を見てみると古い煙草だからか残りはもう僅かしか残っていない。


「わかってるとは思うが第四階層には進むなよ?」

「そうしたいのは山々なんですがダンジョンを破壊するのが目的なので」

「……はっ」


 父が笑う。初めて父と会った時に娘である事を伝えた時と同じ笑み。つまり嘘か冗談かだと思ってそうだ。


「いや、お前はつまらん嘘は……つくが、本気だろうなぁ」

「信じてくれるんですか? ……成長しましたね」


 死んでるけれど。


「そりゃこっちのセリフだ」

「あだっ」


 父にデコを指で弾かれ、マスクを投げ渡される。


「ほら時間だ。とっとと行きな」

「わかってますよ。うわ、クライムさん重ッ」


 マスクを付けて気を失ったクライムさんを背負う。見た目以上にガッシリとした彼は装備も相まってめちゃくちゃ重たい。


「それじゃ行ってきます」

「おう、気ィつけてな」


 父を背にして私は広場を後にする。

 背後から岩を踏み砕くような音がして、何かが倒れる音がするとボヤけていた街並みが霧のように霧散していくと共にダンジョン内の何かが軋む音が一瞬聞こえる。

 本来あり得ない処置……ダンジョン内で生まれた存在が法則を無視して自決をしたからだろう。



「あ、フランメアみっけ」


 街並みが消えると石造りの広間に景色が変わっていた。


 そこにいたのは分かれて行動していたシュラさんたち。そして寝かされた四名の甲冑を着た人たちだった。恐らく第二王子の護衛だろう。


「すまねぇな。コイツらを正気に戻すのに手間取ってよ」

「カースちゃんたちを死人だと思ってめちゃくちゃ暴れてきてねー」

「それはそれは」


 確かにそれも死の迷宮の怖い点だ。

 生者同士でも証明する手立てがないから後から入ってきたパーティーとの同士撃ちなんて事も深淵が占拠するまではあったのかもしれない。


「ってクライムはどうしたの?」

「まさかやられたのか?」

「はい、それはもう強い人が現れて……あ、気を失っているだけですからすぐ目を覚ますかと」


 甲冑姿の人たちの横に並べてクライムさんを寝かせる……甲冑姿の横に並べたら半裸姿が際立ってすごく見窄らしい感じになってしまった。カースさんめちゃくちゃウケて笑ってる。


「ところで第二王子は?」

「ああ、それなんだが」

「ゼニスちゃん騙されたっぽいねぇ」

「騙された?」

「王子はここに潜ってない……コイツらは大枚叩いて雇われ、ここに送り込まれたんだってさ」

「なんでもアルカディア騎士団と第二王子が結託した自作自演らしいな?」


 ガルボーさんの大剣の切先が私に向けられる。


「詳しく聞かせてもらうぞフランメア」

「うーむ」


 ここで私の正体を明かしてネタバラシすればこの場は収まるだろうけど後々が面倒になるな。適当な事言ってお茶を濁すか。


「バレてしまっては致し方ありませんね。第二王子の目論見は辺境の地を手に入れる事、その為にこの地を治める領主を失脚させる必要がある訳です」

「それと俺たちをダンジョンに向かわせる事が関係してんのか?」

「どうでしょうか」


 私も数ある陰謀の中から一番可能性が高そうな内容を適当に話しているだけだし。


「あなたたち冒険者からすればあまり関係はないでしょう? サーティン家当主の身に何かがあって、領主が変わっても対して影響はありませんし」


 遠回しにゼニス様の身に何かあるかもしれないと仄めかす。あとはみんなの自主性に任せよう。


「それでは私はやる事がありますのでこれにて失礼しますね。あ、出口はあっちですよ」


 私は広間の端にある魔法陣を指差す。

 ダンジョンの法則として階層毎に次の階層への道と帰りの道が用意され、あの魔法陣は外に出るためのものだ……でも辺境にあった入り口に転移させるかは微妙だな。


「はいそうですか、で通ると思う?」


 シュラさんの言葉に私はそっと呑沼(レルネ)さんに触れる。


「そこは是非通してください。私もですね、みなさんと戦う意志はないんですよ?」


 私が死んじゃうからね!



◼︎



「よかったの? フランメアを見逃してさ」

「元々の依頼は第二王子の救出、それがそもそも誤りなんだとしたらこれ以上首を突っ込むのはやめとこう」


 第四階層に迷わず向かったフランメアの後ろ姿を見送ったガルボーたちはクライムたちを抱えながら出口へと向かう。


 このまま進めば死の迷宮と思われるダンジョンを突破出来るかもしれないという欲はあるがフランメアが第四階層に入った際に漏れた僅かな気配にガルボーの長年の勘が警鐘を鳴らした。


 第四階層に入るという事は死と同義であると。


 それは他のメンバーも同様に感じ取ったのだろう。ガルボーの撤収の決断に誰も文句を言わなかったのだから。


「そういえばさぁ、もしここが死の迷宮だとしたら入り口が二つあるって事だよね?」

「そうなるな」

「権利で揉めそうだよねぇ」


 死の迷宮はどの国も領有権を得ていない……というか放棄しているアルカディア大陸でも災厄の地とされている危険地帯にその入り口がある。


 だから死の迷宮はどの国にも属さないダンジョンだったのだが遥かに離れたエルドラド王国の比較的安全な場所に別の入り口があると知れたら騒ぐ国は現れるだろう。


 臭いものに蓋をするようにダンジョンを見なかった事にしてしまうのが一番穏便に済むし、以前までのエルドラド王国ならそうしただろう。


 だが今やエルドラド王国はロンダリングを中心とした四ヶ国の連合国といっても差し支えない。

 シャングリラやエデン、ロンダリングにダンジョンの恩恵をチラつかせ結託すれば他所からの訴えなど跳ね返せると考えてもおかしくはない。


「まあここが本当に死の迷宮かはわからんしその辺りの利権は国の問題だ。俺たちの報告を聞いたギルマスがどう動くかで情勢は大きく変わるだろうな」

「ギルマスは火消し得意だし大丈夫じゃない?」

「でも燃やす時はとことん燃やすぞ?」

「燃え尽くしたら後腐れないとか言うしね」

 

 とんでもない爆弾発動を笑顔で言い放つフランドールの姿が浮かび、嫌な予感が一行の間に流れるのだった。



最初で最期にしっかりと別れは済ませてるから二度目はめちゃくちゃ呆気なく。

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― 新着の感想 ―
相変わらず冒険者たちのフラン評が変な方向に振り切れた信頼に満ちていてフフッてなりますね。これは期待に応えてあげないとネ!! おのれ腰抜け王子め、辺境の者たちを謀りおって…でもヤバすぎる所なのは確かだ…
 第二王子の自演、つまりダンジョンで消息を絶った第二王子を、辺境ギルドの冒険者が救助に向かったが発見できず失敗(できれば壊滅)その後アルカディア騎士団にダンジョンから救助されて、辺境ギルドと辺境領主の…
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