第十九話 賭け試合
フランドール→クライム視点
クライムさんが腰に佩く剣に手を伸ばす。
「一人になりたがってるから何かと思ったらアンタの知り合いか?」
「父です」
おお、自分の父親を他人に紹介する日が来るとは思わなかった。
「父親?」
「おうよ、シキってんだ。坊主、名前は?」
「……クライムだ」
「そうか、クライム……ここまで来たって事は俺が死人だって事はわかってるな?」
「……ああ」
偽物とはいえ父親と知り合いが話をしている光景……見慣れなさ過ぎて違和感凄いな。
「俺は父親らしいことをコイツに何一つしてやれなかった。まあコイツが拒否ったからってのもあるが」
色々反面教師にはなりましたよ?
「そんな親失格な俺にも、もう一回死ぬ前に父親らしい事をしてやりたいって気持ちが多少あってな? 例えば娘に寄る悪い虫を払ったりとか」
「ッ!」
処刑台にいた父の姿が消え、鈍い音が響く。
処刑を見に来ていた群衆が消えて広々とした広場でクライムさんは父の拳を剣の腹で受け止めていた、
「おお、止めるか坊主」
父の表情が愉悦からか下卑た笑みに変わる。
父は一言で言ってしまえば戦闘狂だ。自分より強い奴を探して喧嘩を売るのは日常茶飯事で自分より弱い奴でも手持ち無沙汰なら喧嘩を売る。
対個人ならまだよくいる力自慢なのだが父は個に拘らず、軍でも国でも構わず挑む変人だった。
でもそれで国を滅ぼすのだから変人に収まらない狂人として当時は名を馳せたらしい。
「よしクライム、その強さと俺には劣るがイカした面構えを評して俺に勝てたら娘をやるよ」
「はぁ?」
「えっ?」
うーむマイナス五点。父親ポイントが一桁台に差し掛かる。勝手に娘を賭けないでほしい。
「後で返せって言うなよ」
「えっ?」
そこは別に父のノリに乗らなくていいのに。
私は二人の戦いに巻き込まれないよう処刑台に腰掛ける。
父が本気でやる気ならさっきの一撃で終わっていた。もちろん父が本気でない事は最初からわかっていたから私も何も邪魔しなかった訳だが。
「ほらカッコいいとこ見せてやれよ」
煽りながら父が右脚を蹴り上げてクライムさんの頭を狙う。
しかし流石は私の師匠、それを縮地で回避して父の背後に回り、右手に握っていた剣を振り下ろす……が、急所を狙わなかったのはやはり仲間の親族というのが関係あるのかもしれない。
父はそんな腑抜けた剣を軽くいなし、クライムさんに拳を打ち込む。
それを左手で握っていた剣で受け、反撃しようとしたのだろうが相手が父であったためそれは悪手となった。
「がはっ!?」
真正面から攻撃を受けたはずが斜め後ろに吹き飛び、クライムさんの露出した上半身の左脇腹に青黒い痣が出来ていた。
そこには父の攻撃は当たっていないというのに。
「あれが乱舞かぁ」
死ぬ前に聞かされた父の武勇伝。そこで幾度となく活躍した父の超技能。
殴打などの点の攻撃がヒットした箇所とは異なる部位にそのダメージを転移または拡散させる力で、受けた人間がまるで踊り狂うように打ちのめされる様から名付けたという父の悪趣味が遺憾なく発揮された技……実質防御不可の攻撃である。
クライムさんも一度受けただけでその絡繰は見抜いたのだろう。父の攻撃を受けずに回避する事に専念している。
クライムさんが戦う様子を見るのはこれで三回目だが本人の見た目と気質に相反するような戦い方は相変わらず優雅で踊るようだ。
同じ双剣使いとしてモニカさんが密かにファンガールになっているのも納得だ。
というかクライムさんの事件を知らない近年冒険者になった女性陣、そしてアランくんを筆頭に若い冒険者からの人気が実はかなり高く、一緒にパーティーを組めないか私に相談が来るケースも増えている。
クライムさんが冒険者に復帰して仕事が楽になるかと思ったら仕事が増えるとはこの私の目をもってしても読めなかったよ。
それにしても父の乱舞は修められたら今後役立つかも知れない。
私は二人の戦いを観戦しつつ、その動きを模倣してみる事にした。
◼︎
シキと名乗った男の強さにクライムは冷静を装いつつも驚きを隠せずにいた。
フランドールには揶揄われてしまった閃刃という異名は伊達ではない。
光の如き速度で振り抜く斬撃に合わせて拳で剣を払い、それがそのままクライムへのダメージに繋がる。
シキの超技能はまさに攻防一体で対一の戦闘、特に近接戦では負けなしだろう。
対人戦においてトニー以外には負ける気がしなかったクライムも現時点ではシキには勝ち目がないと冷静に判断する。
この手の手合いはラーゼンやカースのような遠距離からの攻めが有効だが……それも通じなさそうな気配が漂っているし、何より人を殺めた数がクライムたちとは比較にならない差があるのを感じ取っていた。
(これだけの実力者ならその名が広まっていてもおかしくないんだが……)
冒険者は一般的には無頼漢として見られ、山賊や傭兵まがいの人種と一括りにされているケースは結構多い。
辺境では冒険者ギルド……というよりフランドールが街の祭り事には冒険者を駆り出して住民との距離感を近づけていた甲斐もあって良好は関係が芽生えており、辺境に流れ着いた冒険者が驚く点だ。
とはいえ上の階級になれば強さはもちろん知識や教養、礼儀は必須になってくる。
ガルボーなんかも酒が入るとダメオヤジ丸出しになるが冒険者としては紳士な振る舞いで非常に人気があり、近郊の貴族の御婦人からの指名依頼なども多いらしい。
ちなみにクライムは商会ギルド関係の仕事からは完全に隔離されており、失った信頼回復が如何に大変かを物語っていた。
そんなクライムの汚名を返上する機会が今回のダンジョン攻略、そして第二王子救出という依頼だ。
クライム以外にも適任はいただろうにわざわざ指名してきたあたり、フランドールからの期待を裏切るわけにもいかない。
まあその当の本人らしき人物は処刑台の上で何やら怪しい動きをしている。
恐らく自分から見よう見まねで縮地を学んだように、このシキという男の技術を盗み見ているのだろう。
(しかしマジで何モンだよ)
上に上がるにつれて周辺諸国の有名どころの強者の情報は入れたが、クライムが縮地を使った移動で避けるのを予測し、縮地並の速度で先回りしてきた上で殴打を放つ実力者であるシキの情報が一切思い当たらない。
「アンタ、元々は冒険者か?」
「あ? アホぬかせ。あんな国に飼われたクソの一員になる訳ねぇだろ」
シキが振り上げた脚が地面に向かって打ち込まれると地面が隆起しクライムの身体が宙に浮く。
「ちっ!」
足場のない空中では縮地を使えないという事を見抜かれたクライムに容赦ない蹴りが放たれ、やむなく剣で受け止める。
「ぐっ!?」
受け止めた衝撃がクライムの胸部へと転移し痛々しい痣が浮き上がる。
こんな稼業をしていれば当然怪我をするし痛みにも耐性は付く。
しかし来るとわかっている箇所へのダメージと予想だにしない箇所に不意打ちされるのではその痛みは何倍に差があるように感じる。
どれだけ強い者でも不意打ちによる暗殺などには弱い。
一匹狼でいられるのはその名が知られていないか、隔絶した力量差が必要になる。
そうではない有名な冒険者が信頼できるその道の手練れを仲間にするのは冒険者あるあるだ。
「ところでアンタさっき冒険者が国に飼われたクソとか言ったな? 冒険者ギルドは国からは独……うぼっ!?」
「うわっ、この組み合わせ難しッ!?」
クライムが抱いた疑問を投げかけようとしたタイミングで割り込んできたフランメアの蹴りが顔面に打ち込まれる。
(そういえば、前にもこんな事が……)
顔面ではなく何故か後頭部に衝撃を受けたクライムは縮地を教えていたらフランドールに顔面を蹴られた時の事を思い出しながら意識を持っていかれ、その場に崩れ落ちた。
格ゲーに例えたら上段ガードしたら下段攻撃の判定を喰らうみたいな理不尽、相手は死ぬ。




