第十五話 友達
王剣【呑沼】視点
王剣という存在は、魔人が魔王を名乗るために必要不可欠な力の象徴。
魔人の誰もが求める物でありながらその見た目や力は千差万別。
一振りで山を割り、海を干上がらせるモノもあれば昼を夜に変えたり異なる空間を生み出すといった直接的な破壊力を持たないモノもある。
だからこそ手に入れた王剣が求めた力と異なる力だった場合、その魔人が別の王剣を求めるのも必然だっただろう。
だが、魔人たちは知りもしなかった。
王剣には意思があるという事、そして別の王剣に乗り換えようとする所有者を殺してでも独占しようとする嫉妬深さを持ち合わせている事を。
ある時、そんな王剣の力だけを欲した魔人が現れた。
あらゆる力を簒奪する、この世ならざる能力を持って生まれた魔人は自らを所有者と認めた王剣からその力を全て奪い、ガラクタになったそれらを次々と破棄していった。
意思だけが残された王剣からすればそれがどれほどに残酷であったか言うまでもない。
あれだけ沢山の魔人から求められた自分たちは今や瓦礫の山に積まれた有象無象のゴミと共に、ただの剣や装飾のように朽ちていく。
幸運にも同じ箇所に集まって捨てられた王剣たちは初めて互いを呼びかけ合い、今にも消えそうな意思を少しでも引き伸ばそうと必死になって、誰かが拾ってくれると願って声を上げ続ける。
そんな声など、誰にも届かないとわかってなお……しかしあり得ない奇跡がひょっこりと顔を出した。
「あのー、すみません。だれかいるんですか?」
ガラガラとゴミの詰まった袋を引っ張る音をさせながら、子供の声が問いかけてくる。
王剣たちは張り裂けんばかりに叫ぶ。
声帯など無いにも関わらず、自らが魔王となる魔人に相応しい力の象徴であるプライドをかなぐり捨てて助けを求めて。
「うる、うるさっ!? あの、ちょっとしずかにしてください。わたしひとりなんですけど?」
少女の言葉に王剣たちは黙り込む。
「もしかしてゴミといっしょにすてられたんですか? いやぁ、はいきじょ送りとはキビシイですね」
ガラガラと自分たちの頭上でゴミを崩す音がする。
間違いなく少女には自分たちの声が聞こえている。どれだけ強力な魔人ですら聞き取れなかった王剣の声を。
彼らは如何なる魔人が現れたのかその意識を頭上に向ける。
ゴミに埋もれ、久しく感じなかった光が差し込む。
そこにいたのは、何の力も感じない……薄汚れた金眼の少女だった。
「よいしょっ」
だが少女は的確に、紛れたゴミから王剣たちを拾い出して地面に並べていく。
王剣らは人の形を成さない自分たちが喋ることに何の疑問も持たない少女にちょっと慄く。
「こんなにたくさん……あ、しかもちょっとやぶれて……あなたはわれちゃってる……ああだいじょうぶ。そんなことでわたしはすてたりしないよ」
少女の手が王剣に触れる。その手はあまりにも小さく頼りないが、王剣に触れたどの魔人たちよりも温かかった。
「ねえ、おはなしできるならちょっとつきあってください。これからみまわりにいくんです。しゃべりながらだとたいくつしないし」
そう言って土埃や食べカスや小動物の糞尿などに塗れた王剣たちをなんの躊躇もなく身につける。
力が無いとはいえ、たった一夜にして十三の王剣を手にした少女を王剣らは共に過ごす内に自らの所有者として認めた。
そしたらそんな堅苦しくて大変そうな関係ではなく、友だちになろうと言われた日を彼らは決して忘れないだろう。
◼︎
「え、私と会った日の事? 懐かしいですね」
パーティーの見張りを買って出て一人起きているフランドールに呑沼は語りかける。
長い付き合いだが歳を重ね、やれる事が増えるたびにその破天荒さは増している。
幼い頃から可愛らしかったが今や比類なき美貌を持っている。そろそろ番でも見つけて慎ましく暮らせばいいのに。
「いやいや、流石に早いですし。私働くの好きですし……適量であれば」
レベルⅤのダンジョンに挑むのは適量か?
昔からフランドールの基準は人間とも魔人とも王剣とも異なるから呑沼の持つ常識では判断つかないが……彼の知る限りギルドの受付嬢がやる仕事では無い気がする。
せめて自分だけでなく友人たちを集めたらもう少し容易に済むと思うのだが。
「いやいやいや、あまりみんなを集めると競って力を抑えなくなるじゃないですか。ロンダリングでは街一つ壊しちゃったんですから」
それはまあ仕方ない。呑沼たちは他の王剣とは異なりフランドールの友人である。
だがやはり一番になりたいという欲求がある。いいところを見せられるなら見せたくなってしまうのだ。
今回ダンジョンに挑むにあたって王剣の中から選ばれたのは周囲に被害を出さずにダンジョン内に残った死体を静かに片せる力を持つ呑沼だった。
その時の愉悦感は凄まじかったがちょっと前に友人らがやらかしていたので緊張感も凄かった。
「……誰かいるのか?」
「……起きちゃいました?」
一人の男が起き上がってフランドールに話しかけて来る。時折拠点に戻って来た時に職場の話を楽しそうにするフランドールが話題に上げる人間の一人でクライムという男だった。
「……今一人で喋ってたか?」
「私独り言が多くて」
フランドールは賢いほうだ。天才とは誰も思ってはいないがとにかく思考はやめない子だ。
だけど時折本気かふざけているのかわからない答えを出す。
今の答えだって呑沼からしてもバレバレな言い訳である。まあ話しかけたのは呑沼なのだけど。
「ふーん」
「何か?」
「……お前、フランドールか?」
バレてしまった。呑沼は息を呑む。
フランドールは今回の第二王子とやらの救出に自らも参加するというリスクを取った。
そんな危険を犯さずとも深淵なるフランドールの盟友たちに頼めばよかったのに人間社会の問題であるからとその手は取らなかった。
本当なら呑沼たち王剣の手を借りるのもどうかと思ったらしいのだが流石にそれは無謀だと悟り、こうして自分を連れて来ている彼女が今回最も危惧しているのは身バレだと言っていた。
何でも彼女が勤める冒険者ギルドは副業禁止。バレたらクビになるらしい。
一瞬クライムを呑み込むか考える、が……呑沼たちはフランドールと過ごし、邪魔者や厄介者を即排除という考えはあまり良くないと学んだのだ。
まずは行末を眺め、必要になったら力を貸せばいい。
「フランドール? いいお名前ですね、響きからしてとても美しい……ギルマスと同名の方ですか?」
「お前の事だが?」
フランドールは誤魔化す方向に進む気らしいが呑沼は中々難しいんじゃないかと考える。
身バレを避けようとする割にはパーティーの人間とペラペラ会話をするし正体隠す気あるのかちょっと怪しいところがあった。
フランドールは以前冒険者に憧れた時期があった。こうして慣れ親しんだ死の迷宮とはいえ冒険者と行動して浮かれているのかもしれない。
当時はまだまだ世間知らずだったので王剣勢揃いでフランドールについて行って冒険者ギルドに乗り込んだのが懐かしい。
フランドールにちょっかいをかけてくる冒険者を片っ端から叩き潰し、いざ初陣となるダンジョン攻略ではダンジョンを破壊するという結果を引き起こし、フランドールの冒険者生活はあっという間に終了するハメになった。
おかげで王剣の力が一般常識からかけ離れたと知ったフランドールはその日以降持ち出すにしても精々一つ、先日は久しぶりに三つ持ち出したが一緒にいる時間は減ってしまった。
冒険者ギルドに就職し、残業なる就業時間外の労働に従事したフランドールはますます帰る時間を失い、王剣の間では冒険者ギルドを潰そうなんて意見も出る有り様だ。
いっそここでバレたほうが呑沼たちや深淵のメンバーにとって良いのでは? とも思うが採用が決まり、受付嬢の制服を嬉しそうに着ていた姿を思い出せばフランドールの望みままにしてやりたいという気も強まる。
「私がですか? 何を根拠に」
「そのマスクを外してくれたら一発なんだけどな」
「……何? イチャつくならもうちょっと目に付かないとこでやりなよ」
仮眠を取っていたシュラという娘がそんな言葉を口にする。
フランドールが誰を番に選ぶかはもちろん自由だが、もし選ばれたのなら王剣勢揃いで審査をする必要があるだろう。
クライムという男の名を今度友人らに共有しなければと決める中、フランドールがシュラの言葉に返事を返す。
「いえ、脱いでくれと頼まれているだけなので」
「ッ!?」
マスクというデカい主語が抜けている上に外してを脱いでに変えられてる。ワザとだろうか? 長い付き合いでも彼女のこういうところはまだまだ理解が及ばない。
「うーわっ」
「待てよ誤解だぞ?」
「フランメアも次休みなよ、私が周囲とこの変態見張っておくから」
「本当ですか? ありがとうございます」
「ちょ」
完全に誤解させたままフランドールは横になってしまう。
「……これで有耶無耶になりますかね?」
ならないと思う。呑沼は率直にそう答えた。
ちょっとフランドールの過去が垣間見えるお話




