第十三話 死の迷宮②
シュピール→フランドール視点
自分を襲った半魔と全く同意見と言わざるを得ない変なスライムたち? にシュピールは問いかける。
「お前……ら? 深淵の魔人か?」
「は?」
「は?」
「私達を」
「ご存知ない!?」
「これだから最近の若い子は」
「私達がかの有名なカラミティさんだと」
「覚えて帰って!」
「うぇっ!?」
ただでさえ蛍光色で目立つというのに粘体内部が光り輝き益々派手になり、クネクネと踊るような姿は実に不気味だ。
「というのは冗談で」
「敵を生かして帰した事がほとんどないから」
「実は私達」
「超マイナー」
消灯した。
しかしカラミティなんて魔人の名はシュピールも聞いた事がない。
「深淵ってあの? なんでそんな連中がこんなゴミを助けるのかしら」
「……?」
シュピールは半魔を訝しむように見る。
フランドールが深淵の盟主代行なのだから、それを知っていれば不本意ながら彼女に保護された自分を深淵の魔人が助けに来る可能性は考えられただろう。
つまりフランドールが深淵の盟主代行という事を知らずに彼女の姿を利用しているのだろうか?
「はぁ、それにしてめ流石にちょっと目立ち過ぎたわね」
半魔がやれやれといった様子で辺りを見回す。
せっかく修繕が進んでいたのにまた半壊した支部を見たらフランドールがどんな反応をするか……なんてシュピールが考えているとカラミティが戦意を引っ込めた彼女に向かってウネウネと挑発するかのように揺れる。
「おっ、逃げるかいお嬢さん」
「大人しく退くというのなら見逃してあげよう」
「死ね」
どっちだと言う前にカラミティの粘体の一部が伸び、鞭のように振るわれる。
仮にも自分たちの盟主代行が勤める仕事場、中でも彼女の居住スペースを迷わず破壊する辺り深淵での彼女の立ち位置は本当に代行なんて高い地位にいるのか怪しくなる。
そんな建物を犠牲にした一撃は悲しくも外れたようで半魔の姿は無くなっていた。
「逃がしちゃった」
「まあいいよ」
「いいんだ?」
「多分」
「どっちだと思う?」
「ボクに聞くなよ」
身体中が痛む中立ち上がり、シュピールはカラミティに向き直る。
「ところでボクを守れってフランドールが?」
「そうその通り!」
「お目が高い」
「使い方間違ってるぞ……その割には助けに入るのおそくなかった? 助けられておいて文句を言える立場じゃないけどさ」
シュピールの言葉にカラミティの粘体がプルプルと揺れて折れ曲がる。それはシュピールも何度か見たフランドールお得意の土下座によく似たポーズだ。
「それは本当にすまなんだ」
「いやぁああいうのはジロジロ見るのはダメらしく」
「終わるまで目を離していた所存」
「もう終わったかと思って戻ってみれば」
「命まで終わるところであった」
「…………アイツには黙っていてくんない?」
羞恥から顔を真っ赤にしたシュピールにカラミティの粘体が腕のように伸びる。
「良かろう良かろう」
「魔人のよしみで黙っててあげよう」
「だから私達が建物をぶっ壊したことは」
「内密秘密に秘匿すべし」
「全部あの代行もどきの」
「責任やらかし真犯人」
「お、おう」
シュピールはカラミティの粘体と握手し、ひとまず難を逃れた事にため息を吐く。
「では私達はこれにて失礼」
「とは言っても少年を傍で見守らなければならぬ故」
「失礼できぬ」
「ありがたいけどちょっと隠れてくんない?」
流石に建物が両断されたりと派手な音が響いたので辺境の住民が集まって来ているようで外からまたかよ、なんて声が聞こえてくる。
またかよってなんだよ、こんなに派手に建物が壊れるのが繰り返されているのか?
この惨状を集まった人々にどう説明するか、そして半魔の目的であるギルド本部襲撃をどうやってフランドールや冒険者ギルドの人間に伝えるかシュピールは頭を悩ませるのだった。
◼︎
死の迷宮第一階層はカースさんへの精神的ダメージと秘密が一部暴露されるという比較的軽症で突破する事が出来た。
本来ならもっと手こずるはずだが深淵メンバーの爪痕は大きかったらしい。
そのまま第二階層へと進んだ訳だが流石に多少のリソースが回復したのか悪質なダンジョンの手先が私達に襲いかかってきた。
「カース、右から来たぞ! どんどん打ち込め!」
ガルボーさんの指示を聞き、カースさんの周囲が賑やかになる。
音程の外れた不気味で怖気が走る歌を歌う骸骨たちが無数の魔法を行使し、向かって来る敵を薙ぎ払っていく。
「お前ら殺しすぎだろ!?」
「仕方ねーだろ、山賊もモンスターも無駄に湧くんだからよ!」
カースさんの叫びにガルボーさんがそう叫ぶ。
第二階層では第一階層とは異なり、侵入者が殺してきた生物が再現されて差し向けられる。
リソースを制限しているのか、自我もなく見た目だけ再現された山賊のような輩やゴブリンにオークなどが凶暴さだけを増して次々と襲ってくるのだ。
「おいワイバーンまで出てきたぞ!? 誰だよあんなに狩ったヤツ!」
「悪かったな、俺だよ!」
屋内ダンジョンで空飛ぶモンスターというのは実に窮屈そうで、邪魔になるモンスターや山賊たちを食い散らかしながら押し寄せてくる。
そういえば前に大量に狩ってくれたんだった。
そんなワイバーンたちをラーゼンさんの放った矢が次々と彼らの眉間を穿ち、地に落としていく。
「うおおおお!? ワイバーンの雨が!」
先陣で遠距離攻撃をしてくる魔法使いや弓を持つ山賊やゴブリンたちを切り伏せていたクライムさんが縮地を駆使して気持ち悪い軌道で避けながらコッチに戻って来る。
「みんな怪我してないよね? やっちゃうよ?」
シュラさん身体から赤い光が放たれる。
彼女のスキル血傷が発動している証であり、傷を負っていたモンスターたちは出血が増し、見る見るうちに失血死していく。相変わらずエゲツない光景だ。
ちなみに身体が光っているのはスキルに起因している訳ではなく、ローブに仕込んだ光布というファッションアイテムの効果でただ光るだけの安価な品だ。
シュラさんのスキルは発動してるかどうかは見た目で判別出来ない。
なので知らずに怪我したままうっかり近づくと酷い目に合うからわかりやすくして、と私からお願いした結果である。
騒がしかった第二階層が静かになり、聞こえてくるのは戦いで披露した冒険者たちの荒い息遣いだけだ。
「皆さんお強いですね!」
「お前……」
「その剣は飾りかよ」
う、みんなの視線が痛い。
でも仕方ない。四方から襲い来る敵に対して私はみんなの邪魔にならないよう立ち回っていただけだったからね。
「皆さんの連携が凄くて下手に介入すると邪魔になりますから……特にカースさんとラーゼンさんの多段攻撃は相性バッチリでしたね!」
「えぇ、そぉ、かなぁ?」
カースさんがチラチラとラーゼンさんを見る。一人くらいは私側に付けておかないとね。
「まあ、いい……問題はこれをどうするかだよ」
「あー」
みんなが周りを見る。
そこには死体死体死体。死体の山で道が完全に埋まっている。
そう、この第二階層で出て来る殺した相手というのは比較に弱い。ただ弱い分数が多く、こうして道を埋めて来るのだ。
ちなみに深淵メンバーが第二階層に入った時は人もモンスターも魔人も多過ぎて通路がパンパンになり、圧死していた。
あの死の壁とも言うべき光景は今でもよく覚えている。
「これ、何とかしないと普通に餓死しない?」
「……マジでタチが悪いなこのダンジョン」
「性格ひん曲がってるよな」
積み上がる死体を見上げ、みんなが口々にダンジョンを貶す。まあ胸踊る冒険を期待してダンジョンに来たらとにかく陰湿に侵入者を殺しにかかるダンジョンなんてそんな風に言われても仕方がない。
第二階層を正攻法で行くには過去に殺しを一切していないパーティーを組むのが一番楽だがレベルⅤに挑む冒険者は多かれ少なかれ殺しの経験を積んでいる。
そういう面では第二王子一行は第二階層を比較的容易に突破している可能性が高い。
基本王都内にいる護衛の騎士たちがそう多くの殺しを経験してないだろうし。
「……ところでこれって全部本物の死体だよね?」
「そのようですね」
死体イコール触媒となるカースさんがウズウズした様子でモンスターたちの死体をつつく。
倒した端から死体をバラしていくからパーティーを組んだ冒険者や護衛を依頼した商人などからメチャクチャクレームがギルドに寄せられるのだがラーゼンさんの目の前だからか我慢しているのかも。
「つまりここなら外では希少なモンスターの素材取り放題?」
「……そうですね」
「……んひ」
あ、悪そうな笑みになった。
「あとムカつくクソを何回も殺せてお得だねぇ」
「発想がこえーよシュラ」
「人間みたいな一品物が複数手に入るのはここぐらいじゃないかな?」
「……まあ、同じ人間は外じゃ二人といないからな」
「あっ、うん、いや、あの」
ラーゼンさんドン引きである。カースさんも失言したのを自覚してちょっと涙目だから話を逸らしてあげるか。
「ところで死体の山で道が塞がった訳ですが皆さん何か突破手段あります?」
「……」
「……」
詰んでた。
まあ無理もない。ガルボーさんを除いて辺境の冒険者たちはダンジョン慣れしていない。いや、ガルボーさんだってここまでタチが悪いダンジョンは初めてだろう。
倒した敵で道が塞がるなんて想定しろというのが無理難題なのだ。
「ではここは私が、先ほどラクさせていただいた分働かせていただきますね」
働くのは私じゃないけど。
腰に佩いた剣の柄を引き抜き、みんなには聞こえないように声をかける。
「すみません、死体は全部飲み込んじゃってください呑沼さん」
私の声に応えるように、ごぽりと鞘から毒々しい緑色の液体が溢れ出した。
ゾンビ映画並みに襲い掛かられてる。




