第十二話 黒幕と色物
フランドール→シュピール視点
「死の迷宮?」
「ああ、どーにも今の状況が噂に聞いた死の迷宮ってダンジョンに似てるんだよ」
ダンジョンを進みながらガルボーさんの話にみんなが周囲を警戒しながら耳を傾ける。
そんな余裕があるのはカースさんのお姉さん以降、他の死者の姿が全く姿を現さないからだ。
深淵のみんなで根こそぎ資源やモンスターを狩り尽くし、リソースとなる魔力まで吸い出したせいでダンジョンが十全に機能していないのかもしれない。
「ダンジョンは大抵複数の階層に分かれてるが死の迷宮は発見から数百年経って未だに第一層を突破した記録がねぇ。その理由は第一階層ではダンジョンに挑んだ冒険者が愛する人間の亡霊が牙を剥いて来るからだと言われてる」
「さっきみたいにか……牙を剥かれた感じはしなかったが」
「まあ本性見せる前にぶっ飛ばされたからな」
「でもそれだけで誰も踏破出来ないとかある? 私なら誰が出て来てもやっちゃうけど」
「レベルⅤに挑む冒険者は人格者が多いからな……まともな分堪えるんだろ」
「もしもーし、私が人格破綻してるってことぉ?」
「とにかくだ、もしここが死の迷宮ないしそれに似た性質のダンジョンならこの先も似たような事が起こるかもしれん」
「おーい」
シュラさんをガン無視してガルボーさんが話を進める。
「この中で死に別れた家族や友人、恋人が出てきそうな奴はいるか?」
「私は、いないなぁ」
「俺も」
「私もいませんね」
「……妹が……」
びっくりするくらい愛する人との死に別れた経験に欠けたパーティーの中でクライムさんが渋い顔をする……妹?
「クライム、お前妹の治療費のためにやらかしたんだろ? 助からなかったのか?」
「ちょっと待て、何で知ってるんだよ!?」
クライムさんがガルボーさんに問いただす。そりゃ私がバラしたからだ。
彼のやらかしは辺境の冒険者全員の信頼を貶め、当然みんな怒った。
そんなクライムさんを最後まで無実だと庇っていた私も巻き添えで信頼を落とし、彼が本当に犯人だったと判明した時はそりゃ凄かった。
でもやってしまった事情を鑑みると私個人としては情状酌量の余地はあると考えた。
だから彼が冒険者に戻ると決めてやって来た時にまずは辺境支部に所属する冒険者全員に事情をバラしたのだ。
当然それで許すなんて甘い人はいないだろう。でも誰一人として冒険者へ復帰する事を止めなかった。
「誰に聞いたか知らないけどな、治った後で死んじまったよ」
「えっ?」
「……なんだ?」
「あ、いえ……すみません事情がよく飲み込めなくて」
クライムさんの妹さんってルティさんだよね?
はて? いつ死んだ事になったんだ?
この間すっかり商人が板についた姿を見たばかりなんだけど……クライムさん何か勘違いしてるか騙されてない?
治療費のためにクライムさんがくすねた金額を倍返しにするまであと僅かだとロンダリングに顔を出した時に話していたんだけどな。
でもそれをフランメアである私が言うわけにもいかないし……無事帰ったら教えてあげればいいか。
結局そのまま何ごともなく第一階層は突破目前となった。
万全の状態であれば最初に倒したカースさんのお姉さんが再び現れたり、私たちの中で最愛とはいかずとも愛する人間を何人も生み出し行く手を阻んだろうけど……テトラさんたちどれだけリソースを奪ったんだ?
◼︎
フランドールから数日留守にする言われ、シュピールは謹慎処分を受けても全く大人しくせずに出かけて行った彼女に呆れながらもチャンスとばかりに深夜になると辺境支部内を物色していた。
しかし巧妙に隠しているのかそもそも持っていないのか、王剣らしきアイテムは影も形もなかった。
見つかるのはくだらないものばかりで執務室の机からはシュピールとのゲーム勝負の勝敗を記入したスコア表が出て来た時は目を疑った……厄災会議での詐欺や騙し討ちに近い勝負まで勝ちに丸をつけているのはいい性格をしている。
「はぁ……」
そんな得るものが何もない徒労を終え、今やすっかり日課になってしまった行為を済ませて自己嫌悪から漏れたため息に反応する声があった。
「え、まじ? きもっ」
「ッ!?」
ベッドから飛び上がり、シュピールは声のする方に目を向ける。
「しまった、あまりにキモすぎて声に出てた?」
扉の前に立っていたのは見間違えるはずもない、この部屋の主であるフランドールだった。
だが、シュピールが真っ先に問いかけたのは視覚から得た情報を全て無視した内容だった。
「……誰だ?」
その問いに、フランドールの瞳に宿る侮蔑嫌悪嘲りの他あらゆる負の感情が一瞬消える。
「なんだ、カラダ目的のカスかと思ったら一応見る目はあるんだ」
この短期間でフランドールの笑顔だけは飽きるほど見て来たが、そんな彼女が決して浮かべないであろうタイプの笑みでソレはクスクスと笑う。
それは大切な何かを土足で踏み汚されるような異様なまでの不快感を与え、彼女からごちゃりと濁るような魔力を感じ取ったシュピールは溢れるように口にする。
「……お前、半魔か?」
「……デリカシーないなぁ。初対面の女の子にお前処女か? って聞くくらい品のない質問だよ」
フランドールの声で、苛立つような声色で話すソレはわざとらしいため息を吐く。
半魔……その名の通り魔人の血が半分混じった人間を指す言葉で、人からも魔人からも忌み嫌われている存在だ。
「というかキミみたいな人間に発情するキモい魔人がいるから私みたいなのが生まれるんだよ」
「ぐぁっ!?」
シュピールは何か柔らかく弾力のあるものによって上から押さえつけられ、床にひれ伏してしまう。
「あれ、思った以上に弱っちいなぁ。ポータルが使える時間になるまでの暇つぶしにもならないじゃん」
ポータルという単語を聞き、シュピールは身体に力を込める。
「アイツの姿を利用して、何するつもりだ……?」
「うん? ああ、ちょっとギルド本部を潰しに行くの。後回しで良かったんだけど、最近しつこく付け狙われてて鬱陶しいからね」
「うっ」
シュピールは首根っこに吸い付いた何かによってその身体を持ち上げられる。
視界に入ったのは見た目だけならフランドールの魔性とも言うべき姿を真似たソレの背から無数に生えた蛞蝓や蛭のようなぶよぶよとした毒々しい黒と黄色い斑点が浮かぶ紫色の尻尾。
それらがシュピールに纏わりつき、その身体が尻尾に同化するように飲み込まれそうになった瞬間、その尻尾が建物ごと両断された。
「ぶへっ!?」
切断された尻尾と共に床に落ちたシュピールが情け無い声をあげて転がる。
それを捕まえようとしたフランドールの姿をした半魔を割り込んで来た何者かが吹き飛ばす。
「やべぇ代行の部屋ごとやっちゃった!」
「部屋どころか建物ごとじゃない? やっちまったぜ」
反省のカケラも無さそうな軽快な声色が二つ、シュピールの前にドチャリと降り立つ。
建物が両断された事で差し込んだ月明かりに照らされたのは目に刺さるような派手なピンクとグリーンの粘体が混ざり合ったスライムだった。
人の形をしたスライムは頭部を模した部位を二つ生やし、それぞれの頭から違う声色で会話を続ける。
「でも少年を守って守護って、ってのが代行からの頼みだし?」
「守ってるからセーフってコト!? よかったセーフ!」
「アウトかも」
「やばいよ! 私達これで何アウト!?」
「スリー?」
「ツー」
「ワン」
「ゼロ!」
「ヨシ! セーフ!」
「……なんか変なのが来たわね」
困った事に自分を襲った半魔の言葉に同意するしかないシュピールは代行という単語から声の主が深淵の魔人であると推察する。
深淵は魔人からも恐れられ、忌避される組織らしいが……単純に変人過ぎて避けられているだけでは? という思考がシュピールの頭をよぎるのだった。
黒幕らしき人物に色物がぶつけられていく。




