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第十一話 死の迷宮

フランメア、フランドールだった。


 普段街中では見せない冒険者らしいみんなの姿に受付嬢として誇らしく思い、つい後方から腕を組んでしまう。


 アルカディア騎士団の制服を自分なりにアレンジした私は謹慎を利用してガルボーさん達第二王子捜索隊に加わったのだが私の変装はあまりにも完璧であった。


 おかげで誰にも正体がバレずに加われたのは良かったのだが気付かれなかったら気付かれなかったでちょっと寂しい。


 ガルボーさんの男らしい檄に応えて久しぶりの我が家へとダイブする。

 一瞬の浮遊感と眩暈……視界が暗転し、空を切る足が床につく。


「……レベルⅤともなると出迎えからして悪辣だな」

「……だねぇ」


 周囲にモンスターがいない事を確認したクライムさんとシュラさん、そして他一行と共に目の前に広がる光景を目にして心の中で謝罪する。


 第一層へ通じる黒い扉の前にはガルボーさん達の凄惨な遺体が転がっていた。


 死の迷宮の玄関口ではまず初めに侵入して来た者が想像する最も凄惨な遺体を生成される。

 流石にまだ気づいていないだろうけど、アレらはダンジョンのリソースを消費して作られたモノホンの遺体なのである。


「うわぁ、私の死に顔ちょっと不細工じゃない?」

「並べんな並べんな」


 バラバラになった身体の中から自分の頭を掴んで横に並べるシュラさんからクライムさんは頭を引ったくって丁寧に床に置く。


「数は俺たちと…いや、フランメアの死体がねぇな」

「みたいですね」

「何か出現する条件があるとか?」

「さあ?」


 もちろん私の遺体が無い理由はある。いろんな魔人やモンスターを見て来た私からしたら死体が残る死に方はまだ幸福だと思っているからに過ぎない。


 今回の私がどういう死に方をしたのかわからないが、まあ身体ごと消し炭にでもなったんだろう。


 死の迷宮はこうやってまず初めに侵入者に己自身の死を強く意識させて来る。

 死への恐怖が強まるほど、このダンジョン攻略は不可能になっていくのだ。ちなみに深淵のメンバーは自分たちの死が全く想像出来ないらしく、死体が出る事は一回もなかったらしい。


「第二王子一行は見えないな」

「先に進んだって事か?」

「いきなり自分の死体見せられて先に進むのは肝が座ってるな」


 ガルボーさんやラーゼンさんの会話を聞きながら私は首を傾げる。

 第二王子のプロフィールからして陣頭指揮はしてもダンジョン攻略に自ら参加するというのがそもそもおかしい。

 

 自分の死体なんて見せられたら間違いなく逃げ出す手合いだ。

 だから玄関辺りでのびていてくれたらよかったんだがまだ先には進まないとダメそうだ。


「あの扉開けたらいきなり毒ガスとか吹かないよな?」

「ん〜そんな感じはしないかなぁ」


 ヘイカーさんでも軽く潜れるくらいには大きい黒い扉を調べ終えたシュラさんが一行に目配せをして扉を開ける。


 中に広がるのは恐らくみんなが想像していたものよりも普通というか当たり障りもない石造りの通路。古びた神殿や遺跡といった、どこにでもありそうな通路だった。


「何というかレベルⅤともなったらもっと異質なイメージだったんだけど……普通だな」


 シュラさんを先頭に隊列を組んだ私たちはそのまま奥へと進む。

 幅も高さも四、五人は並べるスペースがあるからガルボーさんの大剣も容易に振り抜けるだろう。


 まあテンタクルさんの触手が通るには狭いんだけどダンジョンは階層にいる人々に応じてその構造を変異させる。

 深淵メンバーが勢揃いしていた先日のダンジョン攻略時には相当拡張されていたに違いない。


「ストップ、なんか来るよ」


 シュラさんの警告に皆が足を止める。


 聞こえて来るのは石畳の床に僅かに響く足音。その発生源となる人物が姿を見せた時、私の後方で構えていたカースさんが息を飲み、呟く。

 

 その人物はカースさんがあと数年くらい歳を重ねたら同じくらいの容姿になるんじゃないかというほど彼女に似ていた。


「……お姉ぇ……」


その言葉にみんなの意識が割かれる。


「お前の姉貴?」

「第二王子一行にいたのか?」

「いや、違う……なるほど、ああクソ……マジでタチ悪いなここ」


 カースさんがその前髪をくしゃりと握り締めると悲哀と怒りに満ちた目で彼女の言うお姉さんを睨む。


「お姉ぇは死んだよ……三年前、カースちゃんが殺した」

「……死者の姿を取りやがるのか」

「みんな下がってなよ、ここはカースちゃんが」


 そう言ってカースさんが前に出ると私たちに目をやったお姉さんがやんわりと微笑み。


「カースにも仲間が出来たの? 随分と人付き合いが出来るようになったのね……ギルドマスターさんのおかげかしら」

「は……?」


 カースさんの息が止まる。そんな彼女の様子など気にも留めず、お姉さんは話続ける。


「よかったわ。私を殺してから後を追って来るんじゃないかって心配だったの」


「なあ、これ」

「ああ」


 クライムさんやガルボーさんも気付いたようだ。

 彼女が単純に死者の姿を取っただけでなく、こちらの記憶を読み取り会話をしてくる限りなく生前に近い存在だという事に。


 死の迷宮はまず最初に入って来た者の遺体を見せつけて死を彷彿させる。

 生物は死を感じると人生の記憶が蘇り、それを拾い上げて得た記憶を元に第一階層ではその人が死に別れた愛する者の姿を模したモンスターが生み出されるのだ。


 カースさんの過去を私たちは知らない。しかし自ら手をかけた愛する姉が生前のように振る舞う姿を見て彼女からは完全に戦意が抜け落ちていた。


「お姉ぇ……」


 今にも泣きそうな声色でカースさんが一歩踏み出す。これはダメかな?

 私が剣に手を伸ばそうとしたらカースさんのお姉さんがさらに口を開く。


「それにしてもあなたも女の子らしくなったのね。好きな人とパーティーを組むなん」

「おっぷぁっげぶぶっほぉ!?」


 どっから出したのか不明な奇声を上げながらカースさんが手にしていた骨をお姉さんに投げつける。


 カースさんの魔力が込められたソレを触媒にして現れた赤い体毛に覆われた大型の四足獣がお姉さんを一撃で踏み潰した。


「はぁー! はぁー!」


 骨を投擲しただけで大きく肩で息をするカースさんからは先ほど見せた弱さは皆無。

 どうやらお姉さんは情より殺意が勝る地雷を踏み抜いてしまったらしい……もちろん彼女が本物ではないと頭ではわかっていたからだろうが。


「おいカース、大丈夫か?」

「ダイジョブ、ダイジョブ! ちょっと相手を油断させるために弱く見せただけだし?」

「お、おう」


 標的を倒して元に戻った骨を拾い上げたカースさんがブンブンと腕を振る。うっかり投げられそうで怖い。

 カースさんは骨からその生物を形造り使役する事が出来る魔法を使用したのだろう。

 元となる魔獣やモンスターの強さに応じて難易度が上がるらしく、大枚はたいて買った赤帝竜の骨からかのドラゴンは使役出来ずに不貞腐れていたっけ。


「で、誰が意中の相手なんだ?」

「…………」


 ガルボーさんの問い対し、カースさんはフードを深く被ってさっさと後方に戻ってしまった。

 だが元の位置より半歩くらいラーゼンさんと距離が空いていた……うん、ここは何も気付かないフリをするのが一番だろう。多分からかったら骨にされるヤツだ。


 みんなの視線がカースさんに集まる中、ガルボーさんがふと口にする。


「あのよ、ここって死の迷宮じゃねぇか?」


 お気付きに、なりましたか。


シリアスに見える展開は前振りなダンジョン攻略の始まり。

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