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第十話 ダンジョンダイブ

ダンジョン攻略組視点


「アルカディア騎士団の一人が同行?」

「らしいね〜、ギルマスがそう言ってたよ」


 第二王子救援部隊としてレベルVのダンジョンに挑むのは辺境支部ギルドマスターの選りすぐりのメンバーたち。

 ダンジョンに向かう道すがら、パーティー全員の荷物を背負ったクライムが前方を歩くシュラに問いかける。

 


「俺聞いてないんだけど」

「お前が寝坊してきたんだろうが」

「遅刻した罰ゲームで荷物持ちさせられてんの忘れた?」


 クライムの言葉にガルボーとカースが返す。


「しっかりしてくれ、この偉業を成して俺はようやくギルマスに許しを得ようと思うんだ。だから今回人間性は度外視して実力だけを見てキミがパーティーに加わるのを了承したんだ」


 そこに後方からついて来ていたラーゼンが言葉を加える。


「へいへい、でもアイツとっくに許してるだろ」

「これは気持ちの問題だ。頼むからしっかりやってくれよ」

「はいはいそこまで。ほら、見えて来たよ」


 先頭を行くシュラの言う通り、山頂に辿り着いた先に広がる湖、その湖中島に開いた大穴が目についた。


「開拓班の連中、よくこんなところ見つけたよな」

「なあ、荷物持ちはわかるけどボート漕ぐのまで俺がやるのおかしくね?」


 湖の淵に用意されてあった木製ボートに乗った一行にクライムが問いかける。


「そりゃお前……ラーゼンは弓使いなんだから周辺警戒、カースとシュラに力仕事は向かないし、俺は船酔いが酷い……な?」

「な? じゃねーよオッさん! 船酔いが酷いなら立ってんじゃねぇよ、もうちょっとマシな嘘付け……くそ、帰りは誰か代われよ」

「おんや、みんな無事に帰れるとは限らないよ? でも死んだら骨は拾うし有効活用するから安心してほしい」

「縁起でもない事言うのやめろ。そんなだから死霊楽団なんて不気味な二つ名を付けられるんだよ」


 カースは死霊を宿した触媒を使い、異なる魔法をいくつも同時使用が出来る。

 骸骨たちが奏でるこの世ならざる歌のような詠唱は側から聞いていると下手くそな合唱のように聞こえるから付いた名だった。


「カースちゃんの二つ名にケチ付けんなよ。音痴っち〜ズよりマシだろぉ?」

「……相変わらず酷いネーミングだなアイツ」


 クライムの呟きにボートに乗る全員の頭に一人の受付嬢の姿が浮かび上がる。

 あの不気味な声を音痴の一言で済ませられる性格はどうしたら育まれるのかひたすらに謎だ。


「ラーゼン、アイツに二つ名付けられる前に一回移籍したらどうだ?」

「俺は、それでもギルマスに名付けてもらいたい……」

「本気か? 今ならお前に誤射丸とか付けかねないぞ」

「うっ!?」

「おい見張りに精神的ダメージを与えてどうする」

「あ、でももう岸に着くよ」

「そうか、なんとか吐かずに辿り着けたな!」

「ピンピンしやがって……帰りはオッさんが漕げよ」


 岸につけて近くの岩にロープでボートを固定した一行はなだらかな斜面を歩き、大穴の淵に辿り着く。


「到着しましたか」


 そんな一行に声をかけて来る人影が一人現れる。

 アルカディア騎士団の制服を着込んでいるせいで顔はわからない。

 しかし何度か辺境で見かけた騎士たちと異なり、そのマスクの造形はグリフォンに似ており被った帽子には羽飾りが揺れていた。


「アンタがギルマスの言ってた同行者?」

「ギルマス……ああ、あの美人で気立が良くて清楚でシゴデキな方ですね。仰る通りです。我々と冒険者ギルドで少々取引を行いまして、今回の捜索任務に参加させていただきます」


 くぐもった声は恐らく女性のもの。そんな彼女? にガルボーは手を差し出す。


「俺が今回パーティーリーダーを務めるガルボーだ。後ろに控えてるのがチビから順にシュラ、カース、ラーゼン、クライム。まあどいつも問題児だが腕は確かだ」

「おい自分だけ問題児から外れんな」

「酒場で酔って暴れてギルマスに土下座させたクセに」


 問題児一行が騒ぐ中、アルカディア騎士団の騎士がその手を伸ばしてガルボーの手を握る。


「ええ、伺っております。信頼を置く頼れる冒険者たちだと」

「信頼を」

「置く」

「おい、そこで俺を見るなよ!」


 全員の視線がクライムに向けられる。驚くほど息の合った動きであった。

 気まずそうにしながらクライムは話を変えるべく騎士に問いかける。


「で、アンタの名前は?」

「私の名前はフラ……ンメア、フランメア・ナンセンスです」


 顔も見えないアルカディア騎士団の騎士はサーコートを翻し、そんな名を口にした。



◼︎



「ねぇ、あの子どう思う?」


 カースの言葉にクライムが顔を顰める。


「まあ、騎士じゃねぇよな?」

「やっぱり? 何というか……めちゃ普通なんだよね」


 ダンジョンに潜る前に最後の荷物確認を手分けして行う中、カースとクライムはチラリとフランメアの様子を伺う。

 茶色い敷布を敷いて店を広げたフランメアが並べている品々はクライムはもちろん魔法使いに属するカースが見ても意味不明な物が多い。

 そんな中、わかりやすく目を引くのは彼女の頭上に揺れる羽飾りだろう。

 グリフォンの羽根と思われるが非常に強い魔力が篭っており、矢避けや魔法抵抗といった護りの呪いらしき力が満ち満ちている。

 強い魔獣やモンスターの体毛や皮にはそれだけで強力な装備品になるケースがあるが市販されるものとは比較にもならないレベルだ。


「あと剣を使うにしては……実戦的じゃないというか」

「……可愛い感じ」

「そう、それ」


 剣を佩くなら左右どちらかの腰に下げるのが一般的だが、彼女はわざわざ腰の後ろに回しているのが何というか見た目のシルエットを気にしている感じがする。


「よく見たら結構胸あるし」

「そう、それ」

「……カースちゃんドン引きだわ」

「なら振るなよ……」


 うえー、と舌を出すカースにまんまと乗せられたクライムはチラリとフランメアを見る。

 どことなく見覚えがある大きさに記憶を掘り返していると湖中島をぐるりと回って来たシュラがその視界を遮る。


「何ジロジロ見てんの」

「見てない。そんな事よりちゃんと見回りして来たのか?」

「ちゃんと見て来たって。ちなみにボートは一隻しかなかった」

「……じゃあアイツどうやってここに来たんだ?」

「別働班とここで分かれたとか?」

「もしくは泳いできた」

「飛んできた」


 怪しすぎる。フランドールから事前に聞いていなければ間違いなく取り押さえていただろう。


 三人揃ってフランメアを観察していると早々に確認を済ませたガルボーとラーゼンががやってくる。


「お前らちゃんと準備出来たのか? ダンジョンに入ってからポーションがなかったとかやめてくれよ?」

「ポーションなら飽きるほど持ってるよ」

「ギルマスがめちゃくちゃ売り込んでくるからねぇ」

「最近は十本まとめて買ったら一本にギルマスの幸運パワーを注入してくれるサービスやってたよね」

「あれで四人パーティーに四十本ポーション売ったって噂があったな」


 金の掛からない付加価値をポーションに付けるなんて言っていたがとんでもない売り方である。


 そこからフランドールの話題が膨らむ。

 今回集まったパーティー……というか辺境の冒険者たちの共通の話題として真っ先に取り上げられるのがあのギルドマスターだ。

 初対面同士の冒険者でもこの話題を切り出せば大抵は盛り上がる。


 動く三面記事の名は伊達ではない。大抵の冒険者は自分たちしか知らないギルドマスターのエピソードを一つ二つは抱えているからだ。



「そういえばみんなはあの新人の子とは話とかした?」


 シュラの質問に一行が首を傾げる。


「新人?」

「あれ、知らない? たまーにギルマスの荷物持ちとか支部や仮設支部の周りを掃除したりしてる……」

「ああ、あの白黒頭の」


 ガルボーがようやく合点がいったように手を叩く。


「アイツ新人だったのか? ギルマスの子って噂を聞いたが」

「ぶっ!?」

「いや有り得ないから。ギルマス何歳だよ」

「そもそもギルマスって男の影なさ過ぎたし」

「あの可愛さなら何人も侍らせてても不思議じゃないよね」

「だよね」


 カースとシュラが意気投合する中、ガルボーがクライムを見る。


「ギルマスに手を出したりしてねぇよな? お前のやらかしをあそこまで身を呈して庇ったから一時期デキてんじゃないかって噂が凄かったが」

「あ、それはないよ。だってさ」

「その話は勘弁してくれねぇか? マジで」


 クライムがわりかし真面目な顔でシュラに頭を下げる。

 そう、それは彼の人生においてまさに頂点に位置する恥ずかしい記憶。

 あそこまで庇ってくれたフランドールがひょっとしたら自分に気があるのではないかと本気で思って自爆するという幾分か彼がグレた理由になっている事件なのである。


「ま、アイツは距離が近すぎるんだよ。新人も何人か勘違いしてるぞ」

「あれほとんど素だからねぇギルマスは……たまに狙ってやってる気もするけど」

「話戻すけどあの新人の子さ、ちょっとだけ雰囲気が人とちが」

「皆さん、お待たせしました。こちらも準備万端です」


 シュラの言葉に割り込んでフランメアが入ってくる。これで全員準備が出来たとあってはいつまでも入り口に留まる理由もない。


「それじゃあ行くか! 先陣は俺とシュラ、次にクライムとフランメア、最後にカースとラーゼンだ」


 大穴の淵に立つガルボーに続き、一行が列を作る。


「ねぇこれ底まで行くのにどれぐらいかかんの?」

「ダンジョンの入り口ってのは転移魔法がかかってる……飛び込んじまえばダンジョンの中って訳だ」


 シュラの問いかけに答えてからガルボーが振り返り、皆を見渡す。


「中に入ったら速攻で襲われるケースもある。全員気を引き締めろよ! あと、絶対死ぬな」


 ガルボーが檄を飛ばし、全員が威勢よく応える。


 第二王子捜索がメインではあるが……辺境初のダンジョン攻略に高い士気を抱いた冒険者たちは順番に大穴へとその身を投じ、奈落へと消えていった。




フランメア……一体何者なんだ……?

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― 新着の感想 ―
胸のサイズで思い出しかけてるクライム君、かなり本気だったんだろうな…しかしそれだけご立派なものをお持ちのようですね謎の助っ人Fさんw
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