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第九話 謹慎処分

フランドール→メアリー視点


 第二王子捜索隊を秘密裏に動かしてから数日、第二王子たちの足取りを掴んだという報告内容を聞いてみると私の準備と悪い方に噛み合ってしまっていた。


「レベルVのダンジョンに入っちゃったらしいんですよ」

「らしいね」


 月の雫のカウンターに突っ伏した私が空にしたグラスを回収しながらメアリーさんが相槌を打つ。

 本当にタイミングが悪いと言う他ない。

 報告を受けたのは深淵の資産とメンバーを移す仮拠点に目星をつけ引越をした直後の事だったのだ。


このままダンジョンを破壊したら第二王子とその御一行の死は免れない。


「そこに救出しに行くってのも無謀な話だ。レベルVに行ったならもう死亡扱いでいいんじゃない?」

「んーそうなんですけどねぇ」


 そう、普通ならとっくに死んでいるだろう。


 だが引越前の最後の稼ぎとしてダンジョン内部のほとんどのモンスターを狩り尽くし、資源とリソースを可能な限り回収したという報告を拠点に置いてあった私物の一部を持って来てもらった際にテトラさんから聞いている。


 つまり、今だったら死の迷宮はかなり安全なはず。


「助けられる可能性があるなら助けたいじゃないですか」

「……キミにそう言われたら私は何も言えないよ。その甘さで助けられた身だしね」


 かつてメアリーさんは裏社会ではかなり有名な盗人だった。有名になるほど派手に稼ぎすぎた彼女は当然その命と財産を狙われた。


 エルドラド王都から国外に逃れようとしていた彼女が捕まったところを私が辺境まで逃したのが懐かしい。


「はいこれ、頼まれてたアルカディア騎士団の制服……あんまり聞きたくないけどこれ何に使うの?」

「? そりゃもちろん変装です」


 ドサリとカウンターに置かれた装備一式の入った鞄を手に取り、懐から金貨の入った革袋を差し出す。


 予備の装備を盗むくらいメアリーさんからすれば朝飯前だからってこの店の酒より安いのは価格がおかしいと思う。お得意様価格?


「アルカディア騎士団に潜り込む気かい?」

「まさか、流石にバレますよ……今辺境周りで顔を隠すには一番不自然じゃない服装だから借りるだけです」


鞄を肩にかけた私を見てメアリーさんがやれやれといった様子で腕を組む。


「ほどほどにね……でも今は辺境だけじゃ飽き足らず他の支部まで面倒みてるんだろう? そっちは大丈夫なの?」



「あぁ、それなんですけど実は私、謹慎処分を喰らったんですよね」

「えっ、いや……それ大丈夫なの?」

「大丈夫ですよ、メアリさんが私の代わりにギルドマスター代理になってくださるらしいので」

「私っ!? ……ああ、前に聞いた同名の子か」


めちゃくちゃ動揺された。いくらなんでも未経験者にギルマス代理は押し付けないよ……でも動揺されたって事は押し付けられかねないって思ってます?


「ですです、メアリさんならまあ何とかやってくれますよ」

「そう? ……いや、支部はともかくギルマスは大丈夫なのかい?」

「私が? 何でですか?」

「そのままクビにされるんじゃない?」

「あははは、まさか」


 比較的謙虚な私だが、自分が冒険者ギルドには欠かせない人材であるという自負がある。


 伊達に辺境支部をワンオペで回し、他の支部や本部まで兼任していないのだ。



◼︎



「すみません、まだ時間かかりますか?」

「申し訳ございません、少々お待ち下さい」


 依頼人と冒険者でごった返す冒険者ギルド辺境支部仮設事務所で依頼人に平謝りしているのはこの冒険者ギルド辺境支部のギルドマスター、フランドール・ファイナンスの代理としてギルド本部から派遣された元受付嬢、メアリ・レートだった。


「あの、依頼書は」

「申し訳ございません、そちらもすぐに」


 傍で待つ冒険者にも頭を下げ、これ以上ない速度で書類を書き綴るが次から次にやってくる仕事にどんどん業務が嵩んでいく。


 フランドールが謹慎処分を受けたという報を聞いてざまぁという気持ちが湧き、グランドマスター補佐に返り咲く日も近いと意気込んでいたメアリのヤル気は見る影もなく、僅か三日目にしてその激務に押しつぶされていた。


 それでもなんとか業務が進んでいるのはフランドールが用意していた……彼女が何らかの理由で長期不在となった時の引継書の正確さと細かさ、そして何より依頼人や冒険者たちが理性的だったからだ。


 メアリは三ヶ所のギルド支部を異動してきた経験があるが大抵の支部で問題になるのが混雑時の喧嘩だ。


 依頼と報告が重なれば辺境ほどではないにしても忙しくなる。そんな待ち時間の間に依頼人と冒険者が揉め始めたり受付嬢にクレームを飛ばしたりと、切羽詰まった依頼人や気性が荒い冒険者たちにストレスを溜める受付嬢は多い。


 だが辺境支部に訪れる者たちにその手の人間はほぼ皆無だった。もちろん中には声を荒げる依頼人もいるが周りの人達にめちゃくちゃ詰められて大人しくなる。


 冒険者に至っては皆無。今にも暴れそうな強面の男たちが黙って新聞を読みながら順番を待つ姿はなんかシュールだ。


「はいはい、待ち時間に最適な号外新聞はいかがですか〜?」


 フランドールが謹慎処分となった事情を取材しに来たメディアと名乗った少女の声が聞こえて来る。


 中々列が捌けない様子を見た翌日からああやって待機中の依頼人や冒険者に新聞を売り付けたり取材したりと商魂逞しい。

 ギルドの敷地で商売というのはどうかと物申したかったメアリーだが、おかげで大人しく待っている人もいると思うと何も言えなかった。


「申し訳ございません、お待たせいたしました」

「ああ、いいよいいよ。キミも新人なのにギルマスに仕事を押し付けられて大変だね」

「しっ……」


 ようやく順番が回って来た依頼人の台詞にメアリーが言葉を詰まらせながらも笑顔が消えなかったのは彼女もまた受付嬢魂を持つ優秀な職員だからこそだ。


「だな、全部ギルマスが悪い」

「そうだな。戻って来たら言ってやらないと」

「そんときゃギルマス反省会を開くか」


 依頼人や冒険者たちの間でフランドールを責めるような意見が噴出する。メアリーはてっきり彼らは彼女の色香に誑かされており、嫌われないよう大人しくしていると思ったら純粋にメアリーを気遣っての事だったようだ。


 彼らのギルマス反省会なる会合の内容は反省会というより復帰を祝う会にしか聞こえない。いなくなって僅か三日でここまで?

 そんな盛り上がりを聞きながら書類を作成していると依頼人の一人が声を上げる。


「おっ、昼だぜ」

「なら飯にするか」 


 メアリーが付けていた腕時計に目をやる。針は確かに昼の時間を指している。

 列を作っていた人たちが次々とカウンターに置かれた木札の整理券を持って去って行く。


「メアリーさん、それじゃ午後からよろしくな」

「お疲れ様〜」

「あ、はい!」


 メアリーは立ち上がって礼をして彼らを見送る。

 誰一人としてギルド側が昼休憩を取ることに不満を持たずに去って行く姿は三回目だが未だに慣れない。


「メアリーさんお疲れ様です。午後になったらまた来ます」

「あ、ちょっと待ってください」


 新聞が捌けて空になった鞄を下げたメディアが一礼をして去ろうとするのを呼び止める。


「何でしょう?」

「ここ、いつもこうなんでしょうか?」

「私も毎日来ていた訳ではないですから…… でも以前より減ってそうです。ロンダリングに移った商会ギルドもありますから」


 これで減ってるのか。


「ところでギルマスさんの謹慎の原因はなんなのでしょう? 辺境ではその話題でもちきりですよ」

「それは……」


 フランドールの謹慎理由をメアリーはもちろん知っている。


 冒険者ギルド内で広域指名手配されている辺境支部のギルドマスターであった前任者がここしばらくの間にいくつかの国での足取りを確認出来た。


 それもフランドールの権力が増した直後から。


 冒険者ギルドはあの魔人ラキスによるロンダリング事件からその力量を疑われていた。

 それを払拭するためにレベルⅤのダンジョンに挑んだが失敗に終わり、ますます立つ瀬がなくなっている。

 まあ、そもそも魔人ラキスの退治に向かわない時点で及び腰なのがバレバレなのだが。


 そんな状況下でギルドの裏切り者にまで好き放題されていては権威も地に落ちるだろう。


 だからギルドは一度フランドールを謹慎にし、裏切り者の出方を見る事にしたのである。その皺寄せをモロに食らったメアリーはそれが愚策だとひしひしと感じて来ているが。


 流石にそんな話は出来ないと口を噤んだメアリーを見ていたメディアはハッと思いついた事を口にする。


「もしかして……男が出来て寿退社……」

「それはないです」


 メアリーはキッパリと言い放つ。もちろん根拠なんてない。自分より先にギルマス代理に、今や三拠点のギルマスと代理、グランドマスターの補佐にまでなった奴に結婚まで先を越されるなんて容認出来るはずもないのである。




フランドールへのライバル心で辺境支部に立候補したのを後悔してる模様。

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― 新着の感想 ―
メアリー「金の卵かと思ったら火中の栗でした。今は反省しています…」 なおフランは(ギルマス業務以外)全く休む気がない模様…アカンここで更に何かあったらメアリーさんの胃が破れてしまうw
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