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第八話 成長する元ご令嬢


 死の迷宮破壊活動に先立って、深淵のメンバーたちと組織が抱えた資産をどこに移すか候補を絞っている間に事態はさらに悪化していた。


「えっ、第二王子が護衛兵団共々辺境の未開拓地で行方不明!?」

「はい……」


 辺境の受付業務中に駆け込んで来たミランダさんからの知らせに私はあちゃー、と頭を押さえる。


「ゼニス様はご存知だったんですか?」

「まさか、知ってたら止めますよ」


 ですよね。


 どうやらダンジョンに挑む為に辺境にお忍びで来てそのまま行方不明になったと護衛兵団の後備えの兵がゼニス様の元に来たらしい。

 色々一杯一杯のゼニス様にこれ以上問題を持っていかないでほしい。


 私は引き出しを開けて今辺境に残っている冒険者リストに目を通す。

 一応頭には入っているがラインゴールドとロンダリングの冒険者リストまで入れた分、同名や同姓の人を混濁している可能性もあるから念のためだ。


「よかった、ガルボーさんのパーティーは揃ってますね。あとは第二王子の顔を知っているモニカさんもいらっしゃいますから、彼らなら捜索隊として申し分ありません」

「感謝します」


 緊急用の依頼書にガルボーさんたちの名前を記入してミランダさんに手渡す。

 ダンジョンに挑むとなってからガルボーさんは牙を研ぎ直すべく辺境の街にある訓練所に入り浸っている。恐らく今日もそこにいるだろう。


「しかし第二王子も何でまたこんな強行を?」

 

 ガルボーさんがいる訓練所場所を軽く地図に起こしながらミランダさんに聞いてみる。


「わかりません……ここまで思慮の浅い方ではないのですが……ひょっとしたら何者かに唆されたのではないかと」

「あら、興味深いお話ですね」


 ミランダさんに割って入って来たのは何とも怪しい格好をした人物だった。

 黒い軍服に軍帽を被り、赤いサーコートを翻しておりその顔には鳥獣を模したような顔を隠すマスクをしていた。


「初めまして、私はアルカディア騎士団辺境派遣団団長、ウルペス・ノウェルと申します」


 マスクでくぐもってわかりにくいが恐らく女性の声の人物に私は席を立ってお辞儀をし、ウルペスなる人物に挨拶する。


「ああ、これはどうもご丁寧に。冒険者ギルド辺境支部ギルドマスター、フランドール・ファイナンスと申します。以後お見知りおきを……ところでどこかでお会いした事ありますかノウェル様?」


 立ってみてわかったが丁度私くらいの身長をした恐らく彼女に、なんとなく覚えがある気がする。


「さて? お会いするのは初めてですが……お顔を見せられたらいいのですが我々アルカディア騎士団は国という垣根を越えてアルカディア大陸の安寧と平和を維持する為につまらぬ諍いを避ける為見た目を統一しておりますゆえ、このままで失礼します」

「分かりました。どうぞお気になさらず」


 確かに国によっては見た目で偏見を持つ場合もある。

 私も黒髪が珍しいからか、色々言われた事があるから意図は理解出来る。


「本件はレバレッジ領主より要請を受けた我々アルカディア騎士団にて対応させていただきます。冒険者ギルドの出る幕ではございません」


 レバレッジ……第二王子の後ろ盾からか。ひょっとして国王の地位を継がせるための箔付のために王子を焚き付けたとか……?


「失礼ですがあなた方の」

「ミランダ様、ここは私にお任せ下さい」


 アルカディア騎士団とかいうポッと出の寄せ集めが頼りにならないというミランダさんの気持ちはよく分かるが、仮にもアルカディア大陸の国家群が精鋭を出し合って出来た共同武装組織なのだ。

 流石に領主の従者という立場から卑下するような発言させるのはマズイ。


「ノウェル様、第二王子の捜索よろしくお願いいたします」


 ミランダさんの手から依頼書を摘み取り、中央から二つに破りながらニッコリと笑みを浮かべてお願いした。



◼︎



「じゃあコッソリと第二王子の捜索をよろしくお願いしますね」

「りょーかい!」

「いいのか? 依頼もなしに」


 アルカディア騎士団が出立する前夜、私の招集に集まってくれたシュラさんとクライムさんの返事と疑問に答える。


「大丈夫です、ほら」


 私は糊でくっ付けた破れた跡がある依頼書をヒラヒラと見せる。


「冒険者ギルドの決まりで書類は内容判別ができる場合は多少損壊していても問題ありませんから」

「……」


 何か言いたそうなクライムさんだったが飲み込んでくれたようだ。冒険者復帰早々にグレーな仕事を投げられたらそんな反応にもなるか。


「あのー私も行かなきゃダメですかね?」


 二人から少し離れた位置でおずおずと手を挙げたのはモニカさんに私は笑顔を向ける。


「この中で第二王子のご尊顔を知っているのはモニカさんだけですから」

「……わ、分かりました」

「よろしくねゲソちゃん」

「その呼び方禁止にしません?」


 チラチラとモニカさんがクライムさんを見ながら言う。

 そういえば前にクライムさんにお願いしてモニカさんの安否を確認して助けてもらってたんだった。


 以前からモニカさんは当時助けてくれた声の主を探していたようでクライムさんと鉢合わせした時は自分より下の階級だった事に驚いていたっけ。


「でもいいのか? ダンジョン攻略も急かされてるんだろ?」

「王族捜索に人を回すと説明したら流石に納得してくれましたよ」


 チープさんを筆頭にしたダンジョン攻略急進派の動きも忙しないが王族の行方不明なんて大事件をほったらかせなんて言えるはずもない。

 

 そういう意味ではこのタイミングで問題を起こしてくれたのは時間稼ぎが出来て助かる。

 もちろん人の不幸を喜ぶ趣味はないので王子捜索にも全力をあげてもらうつもりだ。

 そのために今回ダンジョン攻略に選出していたメンバーを二班に分けて捜索隊を結成した。


 ゼニス様の私兵と冒険者ギルドからガルボーさん、カースさん、ラーゼンさん合同の人海戦術をメインとしたパーティー。

 そしてシュラさん、クライムさん、モニカさんの機動性を重視したパーティーだ。



「それで王子は見つけたら始末したらいいの?」

「助けに行くのに殺してどうするんだよ」

「荷物の護衛しに行って盗んでどーすんのよ」

「うぐっ!?」


 クライムさんがシュラさんに古傷を抉られている。

 彼女のスキル、血傷(スカーレット)はスキルの効果範囲内の傷を悪化させるという中々エゲツない力だが過去の傷も広げるらしい。


「でも一発くらい殴ってもいいですよね?」

「モニカさん!?」


 真顔でなんて事言うんだ。ちょっとびっくりするんですけど。


 ほらシュラさんまで目を丸くしてる。


 元々はレバレッジのご令嬢だったモニカさんが家を飛び出して冒険者になった理由は不明だったが、今回の事件で第二王子周りの情報を集めたらどうやら第二王子との婚約に反発したのが原因っぽいんだよね。


 貴族の地位を捨てるくらい嫌な婚約相手が友人であるゼニス様の領地に無断で踏み込んだ挙句、行方不明になって心労をかけているとなったら無理もないのかな?


 シュッシュと空に向かってパンチを繰り返すモニカさんを見ているとシュラさんが横にやってくる。


「ギルマスと付き合いだすとみんなタフになるね」

「えっ」


 私のせい? 私があの明らかに一発じゃ済まなさそうな連打を空に打ち込んでるモニカさんを生み出したというのか?


フランドールと長くいると良くも悪くも影響を受けるらしい。

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― 新着の感想 ―
いよいよ役者と怪しい人が揃ってきましたねえ!さあさあここからどんなトンチキな事態が起こるのかな〜 もはやこの所の辺境は危機的状況が日常と化しつつあって赴任する偉い人側の中間管理職にとっては寿命が縮まる…
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