第五話 魔人の面汚し
フランドール→シュピール視点
新生ロンダリングの支部はかつて調和の塔と呼ばれた建物を改装して出来た塔に設置されている。
元々三国が所有していた建物を冒険者ギルドに明け渡したのはもちろん理由があり、不正に貯めていた各国の王族や貴族の隠し財産や脱税した金をまとめて掻っ攫うためだった。
三国が所有したままなら彼らはなんとか回収しようと手を打てただろうが冒険者ギルドの敷地となってしまえば手の出しようがない。
隠し金の情報はこっそり私がルイナス様に流していたのだがここまでするとは予想外だ。流石である。
ちなみにそれらの金はロンダリングの復興と住民たちの生活の補填に余すところなく使われ、ルイナス様の人気は益々上がった。
「いつ見てもすごいなぁ」
その結果がロンダリング支部の執務室からよく見える。
昇り始めた太陽に照らされたソレは住民たちが資金を出し合って建造した巨大ルイナス像である。ツインドリルの出来が見事で完成したソレを初めて見た時は盛大に吹き出したものだ。
あのルイナス様も流石に言葉を失っていたもんな。
三国に囲まれたロンダリングには財源らしい財源もほとんどなかったのだが世界に知れ渡ったルイナス様の美貌と活躍によってキャラグッズの売れ行きが凄まじいらしく、私の部屋にも二頭身ルイナス様のぬいぐるみが飾られている。
街中でも若い子たちの間ではツインドリルが流行っており、新人受付嬢たちにも何人かいる。
まさかツインドリルがここまで流行る時代が来るなんて、ロンダリングの祖先も予想だにしていなかったに違いない。
巨大ルイナス像を拝みつつ、手直しした書類と今週中にこなして欲しい指示書を各受付嬢と職員用の棚に入れ、ポータルが起動するまでの時間にヘイカーさんからもらったアイデアをまとめてみる。
その内の一つがダンジョンの入り口になる山頂一帯を辺境とは異なるモノのナワバリにしてしまえばいいというもの……要は辺境の未開拓地に独立した国を建てればいい訳だ。
流石グリフォンの王。発想が辺境を独立国にしようとしたルイナス様に似ている。
このアイデアは問題が多く見えるがエルドラドにも利点がある。
これまで辺境には手付かずの広大は土地があったと公表するのと別の国が存在したとでは後者のインパクトの方が強い。
辺境とエルドラドが隠していたのではなく未知の国がその存在を隠匿していたとなればエルドラドへの波風は弱まるだろう。
とはいえいきなり国が生えるはずもない。誰か国とか欲しそうな人いないかな?
◼︎
「シュピールくんは国とか欲しくありません?」
「は? なんだよ朝っぱらから」
ロンダリングからポータルで辺境に帰って来た私は寝起きで半目になってるシュピールくんが廊下を歩いていたのでちょっと聞いてみる。
「ほら、裏切られる前は仲間と一緒に領地を支配してたって話だったじゃないですか。支配欲とか強いかなって」
「……別に支配欲があるからって国まで興さないだろ」
そうだろうか? ルイナス様みたいな例を見たからか発想が偏っているのかな?
「フラン、お前今夜も出払うのか?」
「? ええ、その予定です……すみません、最近ゲームのお相手も出来ず」
シュピールくんが来たばかりの頃はまだ余裕があったので夜は一緒に色々なゲームに興じていたのだがここしばらくは全く遊べていない。
「別にお前と遊べない事に不満がある訳じゃない」
申し訳なく頭を下げるとちょっと不満そうな声で否定された。
「そうですか? ならいいんですが……あ、でも私がいないからって夜更かししたり外に出て行ったりしたら駄目ですよ? 危ないですし」
「お前はボクの母親か?」
ちょっとご立腹して立ち去ってしまった……そこはお姉さんじゃないだろうか?
流石に母親というには若すぎると思うのだ。
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「いってきます! 戸締りはしっかりとしてくださいね」
「はいはいはい」
夜、部屋で横になっていたシュピールに扉越しに挨拶をして行ったフランドールの足音に耳を澄ませる。
朝からずっと働き詰めなのにあの足取りの軽やかさはなんなんだろうか?
時折不味そうに飲んでいるポーションの作用だろうか? 進められるがままシュピールも飲んでみたが期限切れと聞いて盛大に吐いたのは記憶に新しい。
ガタガタと窓が風に揺れる。恐らく彼女が飼っているあのやけに強そうなグリフォンと共に飛び立った音だろうと判断し、シュピールはゆっくりと立ち上がり部屋を出る。
明かりを消した館内を、手にした蝋燭の灯りを頼りに歩を進める。
この程度の暗闇、今まで問題なく見通せていたというのに今や灯りなしでは歩く事もままならない。
この貧弱な身体はフランドールが大量に用意する食事を食べ切る事も出来ず、何なら人間が罹る病を患って何日か寝たきりになってフランドールに看病されるという魔人としてこの上ない醜態を晒していた。
一度は王剣を手にし、魔王を名乗ろうとした魔人がここまで落ちぶれるなんて歴史を紐解いてもシュピールくらいである。
まさに魔人の面汚しだ。
一向に回復しない力に痺れを切らしたシュピールはある行動に出る。
それはフランドールの王剣を探す事だった。
本来なら魔人しか所有者として認めない王剣。だがフランドールがその王剣を所持し、あまつさえ使ったという会話をラキスが辺境支部に魔槍の説明をしに来ていた時に盗み聞いたシュピールはそれを手にすれば力が戻るまでの間、魔人としての体裁を保てるのではないかと考えたのである。
本来なら王剣なんて肌身離さず持ち歩くものだがフランドールがそうしている様子は全くない。
だからあるとすればこの建物の何処かに保管しているのだろう。
シュピールはフランドールがいなくなる深夜を狙ってここ何日か探し回り、今日はいよいよフランドールの部屋の捜索だ。
「……いや鍵くらい掛けろよ」
入室に手間取るかと思いきやまさかの無施錠。いきなり期待薄だ。
だが敢えて厳重にしていない可能性もある。
シュピールは音も立てずに忍び込んで部屋の中を見て回る。
中は何というか簡素だ。
事務机と書棚、ベッドとタンスくらいのもので王剣を保管しそうな場所がない。
生活感皆無な部屋で唯一目立つのはツインドリルのぬいぐるみくらいだ。
机の引き出し、書棚、ベッドの下と見て行くがやはりそれらしいものは見当たらない。
ベッドに至ってはシワひとつなく、本当に寝ているかも怪しくなってきた。
シュピールは最後にタンスを開け、開けた事を後悔した。
収まっているのは王剣には遠く及ばない色とりどりの布切ればかり。そんなモノに価値を見出す者なんているはずもない。
「ッ!?」
ガタガタと窓が風に揺れ、シュピールは咄嗟にタンスを閉めようとして指を挟み、薄皮が一枚破れると雫のような血が一滴白い布切れにかかってしまう。
それを取り出して生まれた隙間を全体を動かして誤魔化す。
すぐに洗って乾かして、戻してしまえばわかるまい。
シュピールは他に痕跡を残さなかったか見て回ると部屋を出る。
しかしその日を境に数日間雨が続き、タンスから無くなったソレが戻る事はなかった。
どんどん道を外れていくシュピールはどこへ向かうのか。




