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プロローグ 未踏のダンジョン


 冒険者ギルド辺境支部仮設事務所。

 辺境支部修繕工事中の仮受付所で、支部に比べたらめちゃくちゃ手狭な場所だが、おかげでより洗練された配置が完成した。

 支部が元通りになったら早速配置を変えてみようと意気込む中、今日も依頼人や冒険者たちの波が押し寄せていた。


「すみません、僕たち冒険者になりたいんですけど」

「はい、少々お待ちください」


 見覚えの無い少年少女たちが合わせて四人。恐らく周囲の村から街にやって来たんだろう。

 昨年の新人冒険者の一年未満の死亡率は一割を切った。

 命のやり取りをする危険な仕事である以上、ゼロでないというのは仕方ないと割り切っても心は痛む。

 冒険者になる事を夢見てやってきた彼らは今日この時より冒険者になる。

 その一助になれた事は嬉しいが、ここから大成できるかどうかは彼ら、そして私の采配次第だ。

 あまりにも無謀な依頼を受けさせないよう気をつけないと。


 しかし……新人冒険者はたくさん来るのに新人受付嬢が一人も来ないのは何かの呪いだろうか?


「お疲れ様ですギルマス」


 新人たちと入れ替わりで入って来たのはしばらく依頼で辺境を離れていたモニカさんだった。


「お疲れ様ですゲッソーモニカさん」

「う、ギルマスまで」

「ごめんなさい、響きが面白くてつい」


 すっかり中堅冒険者として板についてきたモニカさんの不満顔に苦笑する。

 ゲッソーモニカ……以前辺境支部に現れた烏賊鮫(ゲッソーシャーク)を討伐した功績で冒険者たちの間で広まりつつあるモニカさんの渾名である。


「珍しいモンスターを退治したらそれにちなんだ渾名が付くのは冒険者ギルドあるあるですよ」

「うう、どうせならもっとカッコいい渾名がよかった」


 カッコいい渾名……モニシャークとか……?


「おっと楽しくおしゃべりしたいところですがお仕事しないとです。依頼達成の報告ですよね?」

「はい、報告書はこちらに」

「確認いたします」


 モニカさんの綺麗な筆跡で書かれた報告書に目を通し、内容を把握する。

 いやぁ丁寧な報告書は助かるなぁ。一から聞くより時短にもなるし。


「はい、ありがとうございます。問題ありません」


 引き出しから用意しておいた金券をモニカさんに渡す。


「あとはこちらを金融ギルドへお持ちいただけると貨幣に換金出来ますので」

「わかりました。聞いてはいましたが当面は金券でのお支払いという事なんですよね?」

「ええ、ご覧の通り金貨の置き場もない有り様ですので」


 それに支部も修繕工事で多数の職人が出入りするから保管していた金銭はほとんど金融ギルドに預けている。


 金融ギルドを利用するにはギルドマスターの権限が必要だったので昇格するタイミングとしては丁度良かった。

 最悪自宅に多額の金を保管するしかなくなるところだったからね。


 決して工事で出入りする職人を信頼していない訳ではないが大量の金銭を目の前にしたら魔がさす人もいるかもしれないからね! みんながみんな私のように大量の金銀財宝を目の前に自制出来るわけではないのだ。


 それに金券で支払いができれば金貨を事前に仕分けおく手間も省けるし万が一の計算ミスもない。


 稀に金貨が足りないなんてイチャモンをつけてくる冒険者もいるし、目の前で一枚ずつ数え始めて時間を取られる事もある。

 金のやり取りは重要だから仕方ないが、その間後ろの人を待たせちゃうんだよね。


 まあ依頼金は変わらず現金だし、それを集金してもらう手間賃等余分に掛かるがせっかくギルドマスターの権限を十全に使えるようになったんだから試してみていいだろう。


「ところでギルマス、遂に辺境支部ギルドマスター代理から正式なギルドマスターになった矢先に他所のギルドマスター代理になったって本当ですか?」

「……はい」

「今目が死にましたよ? 大丈夫ですか?」

「はい、私は今日も元気です」


 今度はモニカさんが苦笑いする。


 彼女が言った通り、私フランドール・ファイナンスは現在冒険者ギルド辺境支部のギルドマスターにして、交易都市ラインゴールド支部のギルドマスター代理にして、ロンダリング王都支部ギルドマスター代理にして、ギルド本部アルカディア大陸南方エリアグランドマスター補佐という、人間がどうやれば過労で倒れるかの実験台にされているのではないかと疑いたくなるほどの兼務を重ねられている。


 まあこれには事情があり、機密事項なのだが冒険者ギルドを退職する者が増えているというのだ。


 発端は魔人ラキスに冒険者ギルドが目をつけられているという噂とマスター会議へのクレームに来たという事実が重なり、ギルドマスターの命がラキスさんに狙われているという話に飛躍したらしい。


 それを裏付けるようにフラウロスさんは休職し、ダンタリオンさんが女遊びを控えて夜出歩かなくなり、デカラビアさんは執務室にラキスさんを崇め奉る祭壇を作り毎日のように祈りを捧げて命がある事を感謝しているとか……これデカラビアさんのせいでは?


 とまあそんな訳でギルドマスターや、ギルドマスターを任せられるような人材が一気に減ってあちこちで兼務や代理を立てて対応しているらしく、私にもその余波が来た訳だ。


 決して私を虐めている訳ではなかったらしい。


 それにしたって本部のグランドマスター補佐まで兼務させるのはやり過ぎでは?


 まあ任された以上しっかりとやっているのだが……他の支部の職員たちの意識の低さが私との間で深い溝を作っている。


 新人受付嬢用に用意したマニュアルを読破した人はいないし、報告書の内容には誤字脱字は多いし、書類管理が雑で私が資料閲覧のために場所を質問しても即答出来ない有り様だ。


 まあそのあたりは複数人で管理している分、情報共有が疎かになってしまうのは理解できる。

 問題は残業をしてでも仕事をその日のうちに完遂しようとする気概が本当に薄い。

 そのせいで報酬の支払いや報告書の提出が遅れて各所との軋轢が見受けられる。


 そこも是正が必要だがいきなり就任した若くて美少女なギルドマスター代理が口うるさく言ってもそう簡単に受け入れないらしく早くも受付嬢の八割には嫌われ、男性職員の九割から食事に誘われ、それが原因で根も葉もない噂が広まって残り一割の受付嬢からは殺意を向けられ、早くもラインゴールド支部での支持が低い。


 一部では口先ばかりの無能扱いで、本部に取り行りコネで昇格したコネマスなんて渾名が付いているとか。


 武勲と愛称も込めて付けられたゲッソーモニカは愛された渾名だがコネマスは完全に蔑称だ。


 アンフラの会で鍛えた私にはダメージにもならないがフラウロスさんも一部職員からは陰で色々言われていたらしくラインゴールド支部をうまく回すには少し時間がかかりそうだ。


 一方でロンダリング王都支部は職員みんな素直なのだが単純に練度と案件数が問題だ。


 ベテラン受付嬢が少ない割には新人が多く、今まさに発展途上のロンダリングは仕事が山のようにあり辺境支部に匹敵するレベルだ。


 こちらはとにかく経験を重ねるしかない。意識改革以前の状態だ。

 回せるはずのベテランが減った事が原因だから時間が解決するが余りベテランに負担が掛かると辞めてしまうかもしれない。

 七日徹夜で残業しただけで退職をチラつかされたもんな。


 セレナちゃんなら十日完徹でも元気なんだけどな……ひょっとして辺境基準で接したのはダメだった?

 ちょっと支部への改善運動の前に自分の意識改革が先かもしれない。


「おいギルマスいるか!?」

「あ、ゼニス様こんにちは」

「悪いが緊急だ。ちょっと時間を貰うぞ」

「えっ、はい」


 モニカさんに私の直すべき点を聞こうとした矢先にゼニス様とミランダさんとアルムさんが唐突にやってきた。その表情はちょっと引き攣っている。


「あ、私席を外した方が」

「モニカか……いや、その必要はない。お前も聞いてくれ」

「……はい」


 モニカさん厄介事を察して逃げようとしたな。

 最近厄介事に巻き込まれてばかりで大変だ……厄年かな?


 外にいた依頼人たちをアルムさんと憲兵の皆さんが入り口から遠ざけていくのを確認するとゼニス様が口を開いた。


「開拓班から伝令があってな……辺境初の、ダンジョンが発見された」

「……おぉ」


 ついに見つかったのか。まあ辺境の規模なら無い方がありえないよね。


「ちなみにレベルは……?」


 ダンジョンはその入り口で計測出来る魔力濃度でその難易度をレベルIからⅣに大別されており、Ⅳともなれば一級冒険者でパーティーを組む必要がある。


 私の質問に対し、ゼニス様が重々しく口にする。


「Ⅴ……人類未踏クラスだ」


 初めて発見されたダンジョンがいきなり最高難易度超えの規格外ダンジョンか。


 これは辺境がまた騒がしくなりそうだ。



新発見のダンジョンを皮切りに様々な問題がフランドールを襲い、巻き込まれる者たちがまた苦労させられる三章開幕。

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ギルド職員の大量退職の原因については、例の一級冒険者ソニア嬢のやらかしから端を発した一連の件を、ギルド自ら公表しないから、根も葉もないうわさばかりが流れて自ら首絞めてるんじゃないですかね?自業ではあり…
三章開幕ありがとうございます! あの、フランさん?あなたは属性・回遊魚だから良いけれども他の人を残業前提のシフトを考慮に入れるのは…やめようね!(トラウマ) 金と栄誉と危険の匂い、冒険者や偉い人たちが…
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