第二十七話 ルイナスの英雄
フランドール→ルイナス視点
ロンダリング従国にルイナス様が王位に就くという知らせは事情を知っていた一部の人間以外にはまさに青天の霹靂。
しかも三国の従国としてではなく、三国を庇護下に置くというのだからルイナス様の価値と見方は一変した。
各国の王族や貴族たちが戴冠式前に一度晩餐会に招きたいとルイナス様に呼びかける中、当の本人はロンダリングに向かう前日に私の家で送別会を開かせていた……晩餐会には程遠いホームパーティーレベルだけどルイナス様は文句も言わず上座に着座している。
丁度いいから支部の冷凍室に余ってる烏賊鮫のフルコースと月の雫から取り寄せた酒でテーブルがえらい事になっている中、グラスを片手に今日もドリルがキマったルイナス様が声を上げる。
「ここだけの話だがな、これをキッカケに私が三国を束ねてやろうと思っておるのよ」
「ここだけの戯言にしましょうね〜」
「また敵を作りたいんですか?」
「その時はクワトロドリル帝国に改名あだっ!?」
上機嫌なルイナス様にお酌していたゼニス様とモニカさんからチョップを喰らう。
「やめんかギルマス! この人マジでやりかねねーから!」
「そうですよ! ルイナス様ってちょっとアホなんですから!」
「よしお主らそこになおれ、新生ロンダリング流の不敬罪を適応してやる」
ゼニス様とモニカさんの襟首を掴んで引っ張るその有り様は何というか完全に友達の距離感だ。ちょっとほっこりする。
「そういえばゼニス様は乗馬は出来るようになりましたか?」
「うっ、それは……」
「ゼニス様はモニカ乗馬教室初の落第生です」
「初も何も私しかいないだろ!」
「馬にも乗れんのでは立派な領主になれんぞ……馬といえばフランドール、貴様今度ヘイカーを連れて参れ。新生ロンダリングにはグリフォン騎兵団を導入したいと考えておるのだ」
「え、何? ギルマスグリフォンの調教師にツテがあるのか?」
「え、ええまあ」
調教師というかグリフォンご本人だけど……というか軍拡への動きが早過ぎる! 速攻瓦解しそうで怖い。
新生ロンダリングは独立した国家となるのだから直属の軍隊を編成するのは当然だがもうちょっとゆっくりやってほしい。
クロエ様たち三国の元代表もルイナス様のお目付け役などと言って一族と領民の半数を連れてロンダリングに移り住むらしく、領主不在となった領土の権利の奪い合いで三国内も騒がしいのだ。
あと冒険者ギルドからも脱退者が出てギルド内もちょっと慌しい。
ソニアさんを筆頭にラキスさんのクレーム被害にあった一級冒険者がロンダリング所属の傭兵団に加わりいきなりロンダリング内の戦力が爆上がりしている。
まあラキスさんへのトラウマから彼女を退けた事になってるルイナス様のお膝元にいたいという気持ちはわかるけど。
しかしルイナス様の評価をちょいと高めようと使い魔の記録をクラーケさんにいじってもらっただけでここまで事態が動くとは思わなかった。
それとロンダリングの建物をほぼ半壊させたのがラキスさんという風潮になってくれて助かった。
国ごと無くなるよりは遥かにマシとはいえ三つ首の呪物を吹き飛ばした影響があそこまで広範囲に広がってしまうとは予想外だった。
みんな張り切り過ぎである。今度は威力も縛らないと。
「彼の紹介は情勢が安定してからにしましょうね。ルイナス様だってこれから大変なんですし」
「む、仕方あるまい……しかし寄り道はしたが当初の目的通り国を手に入れた事だし、せっかくだからこの場で君主としての称号を決めるか!」
「こ、こんな場所でですか?」
「こんな場所とは失礼な! まだローンも払い終わってないマイホームなのに!」
「そうだぞゼニス! お主らが揃ったこの場こそ私の称号を決めるに相応しい、ほれ何かないのかモニカ!」
「え、では僭越ながら一度は王位から転落してからの復活を称して不屈王というのは」
「不敬!」
「はいはい! ここはやっぱりツイン帝ドリル」
「処刑!」
「では以前簀巻きにされても冷静沈着だった威風を讃えゲソ王と」
「極刑!」
「ダメだコイツら……私がなんとかしないと」
ゼニス様が悲壮な決意を見せたがなんともならなかった。
酒と深夜のテンションによって決まったルイナス様の称号は戴冠式にて参列者の度肝を抜き、第一回緊急議会によって改名される羽目になるのだがそれはまた別の話である。
◼︎
「ルイナス様、お水いります?」
「……いらん」
自宅のベッドに転がるルイナス様はそう言って蓑虫みたいに毛布に包まってしまう。
相当酔いが回ってしまったらしく、ロイヤルリバースをかました後始末をしたのは果たして名誉な事なのか不名誉な事なのか……ちょっと聞いてみようと口を開きかけたタイミングでルイナス様がボソリと呟く。
「……ロンダリングに来ぬか?」
毛布からはみ出た主張の激しいツインドリルに目をやる。普通にマジトーンだったな。
私はベッドに座るとそのツインドリルを手に取る。最初の頃はツインドリルに触ると怒っていたが今やされがまま、すっかり慣れてしまったようだ。
「冒険者ギルドの新しい支部の立ち上げにグランドマスターが出向く以上私の入る余地ありませんからねぇ」
リーマン翁ったらここぞとばかりにそれらしい理由をつけて孫のいる国に居ついたものだ。
「……お主本業は受付嬢だろうが」
「……確かに」
ルイナス様のおっしゃる通り私の本業は受付嬢だ。最近ギルマス代理として動きすぎて忘れかけていた。
これがギルドの洗脳教育か?
「でも代わりが見つかるまでは辺境を離れる訳には……うえっ!?」
蓑虫から伸びた腕が私を掴んで引っ張る。
ベッドに引き倒された私を毛布のお化けが襲い掛かり、覆い被される。ちょ、暗くて何にも見えないよ。
外は肌寒いとはいえここまで密着していたら暑くない? ルイナス様を引き離そうとして汗よりも熱い何かが私の肌を伝ったのを感じ、思い留まる。
「……困ったらいつでも呼んでください。文字通りひとっ飛びで向かいますから」
「……本当だな? 約束……だからな。もし破ったら……」
「あだっ」
耳を噛まれた……まだ破ってなくない?
「次はこの程度では済まさんからな」
次は動脈か!?
首元に迫る気配を察して私はさっさと机に避難するのだった。
◼︎
相変わらず机に向かって残業を始めたフランドールの背中を見ながらルイナスは胸に秘めた疑問と想いを口にするか迷う。
母の故郷であるロンダリングに現れた魔人を追い払った自分の偽者……それはフランドールなんじゃないか? というか絶対にコイツだという確信がルイナスにはあった。
どれだけ不鮮明だろうが自分が手塩にかけて彼女に似合うようにセットしたドリルを見間違えたりはしない。
不本意ながら辺境で隠匿生活を余儀なくされたこの時間でルイナスがこれまでの人生で誰よりも親しくなった仕事中毒な受付嬢。
支部の台所に現れた害虫退治を第一王女に任せて逃げるような娘が魔人などという比較にもならない怪物をどうこう出来るはずもない。
しかしあの騒動があった後も涼しい顔をして戻って来ていたフランドールを思い返すと……やらかしてそうな気がする。
問い詰めれば白状するかもしれないが、間違いなく英雄として讃えられる功績を自分からひけらかさない所を見ると秘密にしておきたい理由があるのかもしれない。
(でもコイツ変なところは小物なのよね)
謙虚に見えて自慢する時は自慢してくるし無自覚に煽るしちょいちょい失言する。
そりゃアンチも出来るというものだが、一方で惹きつけられる魅力もあるという事をルイナスは身をもって理解していた。
居場所を無くしたルイナスに余りにも大き過ぎる居場所を与えてくれた英雄の背中をルイナスは自然と瞼が閉じるまで見つめ続けた。
フランドールの沼にまた一人




