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第二十三話 人外魔境

ラキス視点からの戦闘シーン。

流血描写があります。


 ラキス・ブラッドの王剣(レガリア)鮮血の薔薇(ブラッディローズ)は大多数の魔人からしてみればガッカリな性能をした王剣だ。


 鮮血の薔薇から放たれる波紋に触れた人間はその身体を問答無用で血に変える。

 しかしある一定……冒険者に例えるなら一級以上の強さの人間や魔人にはなんの効果も無く、言ってしまえば雑魚狩り専用の王剣だ。


 強い人間や魔人との戦いにはなんの役にも立たない鮮血の薔薇はその力が露見して以来、ハズレ王剣として放置されていた。


 しかし血を操り、吸収する事で自らの力を増す事が出来る魔人ラキスにとって鮮血の薔薇はまさに唯一無二、最強の王剣であった。


 血を操るとはいっても外傷がない場合はその力が適用されないし、人間一人から取れる血液は案外少ない。


 だが鮮血の薔薇は人間の身体そのものを血液に変え、その人間が含有する魔力量によってはその量を増す。


 結果、人間の支配圏においてラキスはまさしく現代最強の魔王となった。

 彼女を滅ぼすには人間がいない極限環境に誘い出すか、人間を滅ぼすしか方法がないのだから。



 そんなラキスの放った赤雷が三つ首の頭をひとつ焼き切る。


 楽しい時間を邪魔された怒りのこもった一撃。

 三つ首はいきなり現れたラキスの襲撃によって後手に回っていた。


「まったく、首を三本もプラプラぶら下げてちゃ邪魔でしょ? 待ってなさい、あと二本減らしてあげるから!」

「全部」

「無クナルダロウガ!」


 ラキスは残った二本の首から放たれる黒炎を軽やかに避けて宙を舞う。


(あら、会話をする程度の知能はあるのね)


 ラキスは同志であるイザベルに迷惑をかけた自責の念から見た目こそ他の同志に心配をかけないよう取り繕っているが、イザベルに付けられた傷を残しているため宝石のように煌めく紫の瞳、その片方から光を失ったままになっている。


 その狭まった視界から眼下を一望し、ホッと一息吐く。


 目の前の三つ首……今は二つ首が街中に垂れ流した黒水はラキスの持つ王剣に近しい力を有しているのは見抜いていた。


 すなわち人間を別の形に変質または吸収するという力。


 強力な力だがこの手の力は対象が人間である事が条件となっている。

 先んじて人ならざる形にしてしまえば大抵その力は不発に終わる……はず。


 その読みが的中していた事からの安堵だ。黒水は宙を舞う血液には反応を見せず、ただ街全体を浸しているだけで何の効果も作用していない。


 鮮血の薔薇によって血に変わった人間はラキスの力があればその姿を再び人間に仕立てる事が出来るがあまり戦いを長引かせるとまずい。


 現状、街のどこかにいるであろう同志たち全員を守るために有象無象の人間を含めて全員血に変えて空に逃がしている。


 普段なら血に変えた端から使い尽くすから何の問題もないのだが、数万単位の人間の血液を混ざり合わないよう精密な操作し続けるという行為はラキスの意識と魔力のリソースを大幅に割いている。


 たがそうするのも当然で、一度混ざってしまったりラキスの力を使うために利用した血液はもう人間には戻せなくなる。


 万が一にも同志の血を使ってしまい、彼女たちを失ったら立ち直れない。


「さっさと消えなさい、王剣もどき」


 ラキスの余剰魔力から生成された赤雷が再びその手から放たれ、首が再び一つ焼き切れる。


「ナントイウデタラメナチカラダ……キサマヲ核ニスレバヨカッタ」

「魔人を核に? アンタそういう仕組みなんだ……てゆーか核にされちゃう間抜けな魔人がいるなんて恥ずかしい……アタシが介錯してあげる」

「ガッ!?」


 けたたましい雷鳴と共に残された首が焼き切れ、その丸い身体が調和の塔に目掛けて落ちる。


 人間の城一つくらいなら一発で焼き切れる赤雷を三発受けて形を保っているのはなかなかの頑丈さだがラキスの敵ではない。


 あの黒水でこの街の人間全員を取り込んで吸収していればまた違ったのかもしれないが、たらればの話だ。


「はい終了、いつもならもっといたぶってから殺すんだけどこの後予定があるから。運が良かったわね」


 空に浮かぶ赤い月に手をかざし、片っ端から人間に戻そうと力を操作する。

 血液から丸々人間に戻すのは久しぶりだが今朝粗忽者をバラしてくっ付けて治したので多少感覚は戻っている。まあ問題なく治せるだろう。


 だが、この後の会合の事で多少気分が浮かれ数万単位の血液操作によって目には見えずともそれなりに疲弊していたラキスは光を失った右目の死角から迫るソレに気付くのが遅れた。


「ッ!?」


 激痛がラキスの身体を駆け巡る。右目を穿たれた事で久しく感じていなかった痛みを思い出せていなかったらここで意識を持って行かれてもおかしくなかっただろう。


 下半身をもがれ、脚部に付与していた飛行魔法が消えた事で落下するラキスが見たのは再び三本の首が生えた姿だった。


「再生? めんどくさいことしてくれちゃって」


 枝葉のように断面から伸びた肉塊が少女の形を取り、ラキスは再び三つ首を纏めて飲み込む赤雷を放つ。

 調和の塔を巻き込んでの一撃は塔の外装を炭化させ、崩壊させる。


 しかし先ほどは出力を落としていた一撃でも焼き切れていたソレは形を保ったまま赤雷を受け流し、その身体から伸びた昆虫の様な脚がラキスの肢体を穿つ。


「……」


 ラキスは激痛の中、声すら上げずにその目で敵を観察する。


(赤雷でのダメージがない? さっきまでは受けていたフリを……? そんな意味のない……いややるわ。ダメージを受けたフリして相手に勝てるかもって思わせてから蹂躙するのって楽しいし! でもやられたらクソムカつく)


 その華奢な腕には似つかわしく無い怪力で自らを貫く脚をへし折り、引き抜く。


 攻撃が通らない訳ではない。この結果にラキスはこの三つ首が先ほど喰らった身体からラキスの固有魔力を帯びた魔法への耐性を得たのではないかと考察する。

 魔人を核にして動く変態だ。それくらいやってのけるだろう。


「めんどくさっ」


 つまり今からラキスは魔法無しであの巨体を再生しなくなるまですり潰す必要がある。

 元の姿に戻ってしまえばそれも容易いがアンフラの同志たちに可愛いと愛されているこの身体を棄てるのは些か……いや、かなり嫌だ。


 チラリと赤い月を形成する血液に目を向ける。アレを利用すればラキスの固有魔力を使わずにいくらでも魔法が使える。


 しかし同志の血を使いかねないため当然却下だ。


「いいわ、こうなったら拳でギタギタにしてあげる」



◼︎



 三つ首にとって突如現れた白い魔人はまさしく強大な怪物であった。


 容易く首を吹き飛ばす魔法の威力に頭蓋を砕く膂力。


 そして半身を失っても再生するという不死生。



 封印される前、数多の魔人を喰らい滅ぼしてきた中でも間違いなく上位に位置する。


 不可解なのは空にある強い魔力を幾重にも帯びた赤い月だ。


 アレを使われたらこの怪物には勝てないと、魔人を狩る事が存在意義の三つ首が悟るくらいには力の差がある。


 だというのに全くそれを使う素振りを見せないのはただただ不気味。何かしら条件があるのか、力を持つ魔人特有の驕りかまではわからないが三つ首にとってはチャンスであった。


 三つ首封印される直前、その首の数は百をゆうに超えていた。


 だが今はあの金眼の人間のいう通り、たったの三本というのは本来の性能から大きく劣る。

 しかしこの白い魔人を取り込み、核とすれば全盛期を越えることもできるだろう。


 幾度かの攻防の中で三つ首は白い魔人があの血に触れさせないと妨害してくる動きは観測していた。


 だから白い魔人(ラキス)を無視してあの血を燃やし尽くそうとした時に見せた大きな隙を突いてその身体を虫のように踏み潰し、捕食せんと三つ首の口が大きく開いた。

本来なら戦いにもならないんですがラキス側にめちゃくちゃデバフと縛りプレイがセルフで入ってるおかげで戦いの体になってます。

このピンチに駆けつけるのは……

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