第二十一話 黒幕の関係者
ヘンリー様をボコって気を沈めた二人とボコられて頭を冷やしたヘンリー様が円卓に座り、先ほどの醜態はなかったかのように真面目な顔になって向き合っている。
「つまり……俺たちの事は全部話したのか」
「あれだけ情報が漏れないよう気をつけろと言っていたのはクロエだっただろう」
「フランドール様の可愛さについ……」
なんか私の可愛さのせいにされてるがどのみち冒険者ギルドには情報が漏れてた訳だし他にも内通者はいるだろう。
それにしても蜂起前とは思えないユルさだ。
これもロンダリングの血特有のものだろうか?
というか……
「あのー、なんで私がここに?」
眼下に円卓に座っている三人に問いかける。何故なら私がいま座っているのは空座だった玉座だからだ。
「レディを立たせたままでは紳士の風上にもおけないだろう?」
「紳士はスカートの中を覗かねぇよ」
「この数分で自分を晒し過ぎだろヘンリー」
「私下積み時代が長いし、なんなら地べたでも問題ないんですが」
ここに座ってたらまるで私が三人を焚き付けて蜂起させた黒幕みたいじゃないか。
「フランドール様には玉座がよくお似合いだもの」
「まったくだ。こういった美しい王がいれば国民も喜ぶ」
「……俺は反対だが多数決で決めるという取り決めだからな……玉座に座らせるより牢にでも繋ぐべきだ」
私の事を敵視するオーウェン様がすんなり従うとは……三人の間で多数決という取り決めはそれだけ重要なのだろう。
あれ? という事はクロエ様とヘンリー様を上手く説得出来たら蜂起も起こさせずに丸く収まるのでは?
幸いクロエ様は私のファンでヘンリー様は今も下からスカートの方に視線を向けるくらいには私に夢中になってくれている。
成功する可能性は高い。
「ところで皆様本気で三国を相手に蜂起する気ですか? 差し出がましい事を申し上げますがかなり無謀な計画といいますか……止めた方がよろしいかと思うんですが」
ロンダリング従国にはろくな戦力はない。街の見回りや警護の兵士も各国から派遣されている駐屯兵で彼ら三人に指揮権があるとはいえ流石に全員を寝返らせる事は不可能だし。
どれだけ武器や金があっても三国と戦う術はない。結末は火を見るより明らかだ。
遠く離れた場所で生まれ育った血縁が祖先の故郷でせっかく出会ったのに無謀な計画を実行に移して散るというのはこの三人を見ていると居た堪れない。
そんな個人的感情もあっての説得だったのだが、三人の様子がガラリと変わる。
「フランドール様のお言葉でもそれは出来ませんね」
「この国を解放し、三国を支配するのは我々一族の悲願」
「邪魔をするつもりなら容赦はしないぞ」
いや、一名はあんまり変わってないな……ただ三人がなぜここまで無謀な計画を始めたか……いや、始まったのか見当が付いた。
◼︎
至上命題、それは王から臣下または親から子、あるいは上司から部下といったある種の上下関係が成立している場合のみ使用可能な魔法で課せられた命題を達成するように無意識に操り行動させる事ができる。
これによって謀反を未然に防いだり、名家の伝統を絶えないよう受け継がせたり、仕事第一の部下を生み出すというあまりにも非人道的な魔法として歴史の表舞台から姿を消した禁忌の魔法である。
玉座に座らせるくらい私を優遇してくれたクロエ様やヘンリー様が蜂起を邪魔するような発言をした途端、人が変わったかのように私を冷たい地下牢にぶち込むあたりロンダリングを開放するという目的を達成させるようになっているのだろう。
問答無用で殺されなかったのは私が目的達成に利用出来る点があるのか、元々の人格の影響か。まあ今回のケースなら後者だろう。
「よっ、と」
縛られていた縄を解いて冷たい石畳から立ち上がる。
この私を縛っただけで放置とは甘い甘い。小さい頃から縄抜けは大の得意である。
制服に仕込んでいた針を抜き取り、牢屋の錠前をピッキングで開ける。
図面から地下牢の存在は知っていた。備えあれば憂いなしである。
やはり事前の下調べは大切だね。ラウさんには感謝しかない……こうなったのもラウさんの太すぎるパイプのせいな気もするけど……いや、アレは迂闊に踏み込んだ私が悪いね。
さてさて、巡り巡って当初の予定であった調和の塔の探索を始めようか。
◼︎
冒険者ギルドの決まりとして、重要な書類や物品は金庫に入れて保管する事になっている。
確かに理に適っているが、私はそれは危険じゃないかと考えている。
だって大切なものはココに入っていると公言しているようなものじゃないか。
「耐えろ! 私の良心よ! 理性よ!」
宝物庫、そんなモン図面に書いてちゃ悪い人が寄ってきて危ないって後でクロエ様たちには進言してあげよう。
でないと第二第三の私みたいな人が宝物庫に侵入しちゃうからね!
調和の塔なんて名前がついていながらその中心部にある宝物庫には人の欲望を凝縮させたような金銀財宝が集まり、積み上げられた金貨には三国それぞれの紋章が刻まれている。
それは各国の貴族や商人が本来国に納めるべき税金や表に出せない隠し財産であった。
発端は果たしていつからなのか、流石にそこまで追う時間はなかったのでわからないが……ロンダリングを三国で管理し始めてからどこかのタイミングで思いついたんだろう。
王族や身内にも隠しておけるお宝の隠し場所や出所を追われるとまずい薄汚い金を他国の貨幣に両替して自国で悠々と使えるようにするための資金洗浄の場所として利用出来ると。
自分たちの祖国がそんな薄汚い連中にいいように利用されてるとなったらまあ腹を立てても仕方ない。
じっくり調べたら各国の貴族や商人のクビが物理的に飛びそうなスキャンダラスな情報が手に入りそうで私の知的好奇心が疼くがここに来た目的はそれじゃない。
だから伸びるな私の腕よ! 掴んだ金貨を放しなさい。
チャラチャラと心地良い金貨の音が響く中、私はここに来た目的を果たすために宝物庫の中を徘徊する。
目的は調和の塔にあるという王剣の回収だ。
クロエ様たち三人が三国を相手取るには絶対的な武力は必須になる。王剣ならタイプによるが、国とだって渡り合えるだろう。
最初は三国の代表の誰かが保管していると考えたがあの三人の様子を見れば誰か一人に王剣を預けるという措置は取らないはず。
なら公平な場所に保管すると考えた訳だ。
クロエ様の話では三国に散ったロンダリングの血を引く者がいずれこの地に集まる事を予言されていたという。
恐らくロンダリング解放という至上命題によっていずれ子孫が揃う事を期待していたのだろう。
何世代も離れていても効果が持続しているとは凄い執念だ。当時は相当三国に対して恨みがあったに違いない。
とはいえ三人の末裔は今やそれなりの地位を築いている。 子孫の事を思うなら決起などさせるべきではない。
だから至上命題を解呪してあげる必要がある。
至上命題は効果が強力な分、前提条件が崩れると解呪されやすい。
今回のケースならロンダリング従国が物理的に滅びるか、末裔の内どこかの血が絶えれば解呪されると思うけどそんな血を見るような道は回れ右だ。
私の狙いはロンダリングに用意されていたという切り札だ。
恐らくそれがなくなれば三国と戦う手段を失い至上命題は解呪されるはず。
「おーい、王剣さーん」
返事はない。
私には王剣の気配はわからないが、もし近くにあれば反応はあるはず。
しかしどれもこれもただのお宝ばかりだ……いや、ただのお宝にも凄い惹かれてしまうんだけども!
「おかしいな……近くにいたら聞こえるはずだけど」
私はそのまま宝物庫の中を歩いていると、やけに見慣れた金庫が目に入り冷や汗が流れる。
「…………えぇなんでここに?」
それは前任ギルドマスターによって辺境支部から持ち去られた金庫だった。
その中身は今しがた持ち出されたのか入っておらず、金庫の扉は開いたままになっている。
あれ? ロンダリングの切り札ってもしかして……
「うわっ!?」
建物が揺れ、積み上げられられた金貨が崩れる。
恐らくその揺れが最上階……玉座の間だと直感が働いた私は今回の騒動、その始まりの最後のひと押しが前任のやらかしかもしれないという考えをすみっこに押し込んで潰して丸めて燃やしながら玉座の間に向けて駆け出した。
遠い国の無謀な事件に巻き込まれて可哀想なヒロインの立場から一転、元身内のやらかしが判明した主人公の後始末が始まる。




