第二十話 トップ会談
調和の塔内部に潜入するミッションはいきなりこのロンダリングを回す一角、トリスケル家の当主クロエ様との邂逅という結末に至った。
コッチの狙いが全部筒抜けだったとしたらどうにか脱出をしなければならないとい緊張感に包まれた私だが、そんな私よりも緊張している様子のクロエ様が口を開いた。
「く、クロエ・トリスケルでしゅ……す。おっ、お目にかかれて光栄です! さ、サイン下さい!」
「……はい! いいですよ!」
よくわっかんないけど乗っかってしまおう!
「生フランドール様……素敵……うっ」
「大丈夫ですか? ポーション飲みます?」
クロエ様に促され、辺境支部より豪奢なソファに座らされた私は対面に座って胸を押さえるクロエ様にポーションを差し出す。
「へ、平気です……すみません、本物の美しさに……身体が……喜びすぎて」
しばらく深呼吸をしたクロエ様はゆっくりと頭を上げる。
「改めて自己紹介を。私はクロエ。クロエ・トリスケル……このロンダリング従国を管理するシャングリラ帝国代表を勤めております」
「ご丁寧にありがとうございます。私はフランドール・ファイナンス。冒険者ギルドエルドラド王国辺境支部所属の受付嬢でギルドマスター代理を兼務しております」
「はい、存じております!」
そう言ってクロエ様が取り出したのは見覚えのある新聞……辺境新聞だった。
「私、フランドール様のファンなんです! 今日本物にお会い出来るとローゼン商会の遣いに言われた時は耳を疑いましたが……」
その後判明したけど私の写真……正確にはあの求人紙が一部の界隈で高値で取引されており、クロエ様もツテのあったローゼン商会に私の写真を注文していたらしい。
紙袋の中身全部私の写真だったよ。ラウさん別の意味で私を売ってたな。
しかし参った。巻き込まないよう調和の塔に潜り込む理由まではラウさんに説明してなかったから良かれと思ってクロエ様に引き合わされたんだろうが、これで冒険者ギルドが来た事はロンダリング側に完全に露見してしまったよ。
全部説明して巻き込むべきだったね。
「フランドール様が載ってる記事は全部集めてて! 求人紙の写真も部屋に飾ってます!」
飾らないで? それは求人紙であってポスターではないからね? 受付嬢になる人に行き渡ってもらいたい訳ですよ?
というか辺境の情報がシャングリラに流れてるじゃん! 何してるんだエルドラドは……もうちょっと検閲頑張れ。
とはいえその検閲を頑張らないといけないエルドラド代表もクロエ様とズブズブな関係なら情報流出も当然か。
……これ大丈夫かな、ロンダリングの問題が解決しても辺境を火種に戦争起きない?
「はあ、この身に一族の使命が無ければ家を出てフランドール様のいる辺境の受付嬢になりたかった」
その言葉で頭の中が新人確保という思考に染まる。
「! そうですね、是非一緒に働きたいです」
「あわわ」
私は受付嬢の仕事の楽しさをこんこんと語る。貴族であれば審査さえ通れば受付嬢になるのは問題ない。クロエ様ならきっと制服もよく似合うだろう。
私のプレゼンをうっとりと聞いてくれていたクロエ様が悩ましそうに頬に手を当てる。
「で、でも大事な使命があるんです……それが終わったら、是非」
「ッッ!!? 本当ですか? ならその使命とやらを教えてくれたらお手伝い出来るかもしれませんよ!」
「ホワー!?」
クロエ様の両手を握ると素っ頓狂な声をあげてクロエ様の顔が真っ赤になる。
「でも、ロンダリングを独立させて三国を束ねるなんて話をしたらフランドール様が殺されてしまいますぅ……あ」
「……」
本当にぶっ殺されちゃう話をぶっちゃけられた。ヤバいよ。
というかその調査とルイナス様の偽者の件で来たんだった。新しい受付嬢の可能性に浮かれて完全に忘れてた。
「えーと、つまりクーデター?」
こうなったら聞けるとこまで聞いてしまおう。
「まあ、有り体に言えば……でもこれは回帰です。元々この地はロンダリングが支配していたのですから」
「? シャングリラ帝国の貴族が何故ロンダリングを……あ」
そこで私はクロエ様から感じる僅かな既視感に気づく。彼女、どことなくルイナス様に似ているのだ。
「まさか、ロンダリング王家に縁が……?」
「流石です。私たちはみんなロンダリングの末裔、この従国の身に堕ちた祖国を救わんと集まったのです。まあ集まれたのは偶然ですが」
その後もペラペラ喋ってくれたがどうやら祖先の予言通りにロンダリングの末裔がそれぞれ三国の代表としてこの地に集まった事が計画実行に動き出した要因らしい。
この思い切りの良さはなるほど確かにルイナス様に似ている。
偶然で集まったかどうかはとにかく、彼女達が強い使命感で結ばれているのは間違いなさそうだ。
資料を見た段階なら三国のいずれかの代表を突いて不和を招けないかと思ったが無理そう。
「フランドール様! こうなったら一連托生、我々と共にロンダリングと三国を支配しましょう!」
か、勝手に口を滑らせておいて!? まあ行けるところまで行っちゃえと聞いたのは私だけども!
「フランドール様なら私の仲間もきっと喜んで迎え入れてくれます」
◼︎
上手く潜入できれば御の字と思っていたのによもやよもや、三国相手に反旗を翻す勇猛果敢な三人といきなりトップ会談である。
クロエ様によって招集されたエルドラドとエデン代表のお二人が待つ塔の最上階に連れられた私は前向きに考える。
無謀な蜂起を止めるよう説得するチャンスだしルイナス様の偽者についても探れると考えれば悪くない。
まずは第一印象が大切だ。出来る限りの笑顔を浮かべて図面にはなかった玉座の間とやらに足を踏み入れる。
空座の玉座を前に円卓が置かれ、そこに座っていた一人が悲鳴を上げて飛び上がった。
「うわああああぁ!? ナニ連れて来てんだクロエェー! テメェェ!?」
悲鳴の主は艶やかな金髪を七三に分けた小太りな男性、エルドラド王国代表のオーウェン・ボルテクス様だ。
クロエ様と私は振り返ってみるが後ろには誰もいない。
「お前だお前! フランドール・ファイナンス!」
「私!?」
はて、オーウェン様にこんな反応をされる覚えがまるでない。キョトンとした私の前にクロエ様が庇うように立ってくれた。
「オーウェン! フランドール様に失礼でしょう?」
「うるさい! 黙れ! 厄災女を連れて来るとは気でも狂ったかクロエ!」
「口を慎みなさいよオーウェン! フランドール様のどこに厄災要素があるのよ!」
そーだそーだ!
「おいおい二人とも落ち着け」
揉め始めた二人を仲裁するように割って入って来たのはエデン王国代表のヘンリー・スピラル様だった。
二人に比べて薄い金色の髪を長く垂らした壮年の男性でその所作には気品さが見られる。まさに紳士って感じだ。
「さ、どうぞこちらへレディ」
そう言って美しい所作で四つん這いになって背中を見せてきた。
「そういうのは自分の部屋でやれエロジジイ!」
「フランドール様に醜態晒すな色ボケ!」
「ゴフッ!?」
二人にヒップドロップをくらって潰されるヘンリー様。さっきまでの気品さが消えるの早くない?
というか仲良いね皆さん。
「とにかくコイツはウチの王都近郊じゃ有名な女だ! 行く先々で厄介事を招くってな!」
「何かの間違いじゃない? フランドール様は品行方正で完璧で超カワの受付嬢なのよ!」
「二人とも私の上で言い争うな」
「そうですよ、落ち着いてください。私のために争わないで」
ヘンリー様の上で取っ組み合いを始めた二人の手を取りヘンリー様から引き離す。
するとクロエ様の顔は真っ赤に染まり、オーウェン様の顔は真っ青になる。両極端だな。
「ヘンリー様、大丈夫ですか? 立てますか?」
「いや、このままで大丈夫だ。おお……まさに理想郷……」
「……?」
仰向けに転がったヘンリー様の視線の先は私のスカートの中へと向かっている。
いつ私のスカートの中に国家が建国されたのだろうか?
「死」
「ねぇ!」
「オブッ!?」
クロエ様とオーウェン様が蹴りを入れて床に転がっていたヘンリー様がそのまま壁際へとすっ飛んでいく。
「この女の色香に惑わされるなヘンリー! いや、それを抜きにしても今のはキモい! ロンダリングを導く末裔の姿じゃないぞ!? 恥を知れ!」
「私だって見たことないのに! 吐け! 何色だった!?」
「二人とも落ち着いてください! 絵面がヤバイですって!」
各国の代表が集まったこの場でまさかマスター会議や厄災会議でも起きなかった乱闘騒ぎになるとは思いもしなかっよ。
マスター会議でのクレーム事件は棚に上げつつ、私はヘンリー様を踏みつける二人を止めるべく駆け寄るのだった。
二章もいよいよ終盤に入ります。ロンダリング従国の明日はどうなる?
引き続き楽しみにしていただけると嬉しいです。




