第十三話 ロンダリングの末裔
これからやらかす陣営視点になります。
ロンダリングは三つの大国に囲まれたまさに最悪の立地に位置する国である。
そんな国が生き延びるには彼らに膝をつき、絶対服従するしか道はなかった。
しかし、ロンダリングの歴史上最期の女王であったマキナ・マルカ・ロンダリングは数百年先を見据えて計画を実行に移した。
彼女はその美貌を武器に三国の王たちを誘惑し、全員と子を成して各国に蒔いた。
当代の王も当然そんな子らの存在は公には出来ないながらも命までは奪えず、マキナへの恋慕もあって将来火種になりかねないとわかっていながらも密かに生きることを許した。
そんなロンダリングの血族は各国で密かに生き長えながら力を伸ばしつつ、雌伏の時を過ごした。
いずれ三国に散ったロンダリング王家の血が再びこの地に集結する日が来るという先祖、マキナの予言を信じて。
そしてその時が遂に訪れた。
ロンダリング王家の末裔が、ロンダリング従国を管理するという役割を持って集まる時が。
長年遠く離れ生きて来たロンダリング王家末裔……シャングリラ帝国のトリスケル家、エデン王国のスピラル家、そしてエルドラド王国のボルテクス家の当主たちはいよいよロンダリングがこの三国を束ねる時が来たことに歓喜した。
しかし、そんな彼らには非常に厄介な存在がいた。
ロンダリング従国の首都ロンダリングの中央に建造された調和の塔、その最上階は図面にも記されていない部屋……玉座の間があった。
未だ空席の玉座の前に置かれた白い円卓にロンダリングを管理する三人の姿があった。
「それで、彼女の行方はまだわかっていないのオーウェン?」
「ああ……」
円卓に座る青年オーウェン・ボルテクスが目の前の少女、クロエ・トリスケルの質問に目を伏せて答える。
「辺境に向かってから消息は絶ったままだ。諜報員は送っているが発見の報告はまだない」
「何者かに消された……という線は本当にないのか?」
次にオーウェンに問うたのは二人に比べて歳が離れた壮年の男で、対等な立場ではある彼らの一応の纏め役であるヘンリー・スピラルだった。
「ありえねぇよ……あのトニー・フォーマルハウトが護衛に付いてたんだ……」
「って言われても私たちはそいつの噂くらいしか知らないしな」
「強いとはいっても所詮はエルドラドの外に出た事がない冒険者だろう?」
「いやアイツはおかしーから! 一回マジで見てみろ、しばらく光を見るのが怖くなるから!」
オーウェンはバンバンと円卓を叩き主張する。そんな彼の姿に対面に座っていたクロエ呆れたように頬杖をつく。
「わかったから落ち着きなよ……じゃあどっかで生きてるって事でしょ? なら早いとこ見つけないと面倒よ?」
「わかってるよ」
三人の間に沈黙が流れる。
そう、厄介な存在というのはエルドラドの第一王女ルイナス・セント・エルドラドだった。
ロンダリング王家の血を受け継いでいるとはいえ、長い時間の中でその血が薄れた三家と異なり、ルイナスはお飾りでしかなかったとはいえロンダリングの民たちも知る王族、ルミナス・ロンダリングとエルドラド王との間に生まれた一人娘である事は周知の事実である。
マキナ・マルカ・ロンダリングもまさか従国の姫君を正妻として迎える王が現れるなど思いもよらなかったのだろう。
彼女の存在によって三人が長年の計画通りロンダリング王家の末裔である事を公表し、従国という支配される立場から一転して三国を統治する側に回った後、ロンダリングの民から正統後継者として彼女を推す声が上がるのは容易に想像出来る。
そんな声を祖国を救うために立ち上がったという名目で行動を起こした末裔が何の正統性もなく否定すれば間違いなく国は割れるだろう。
そうなれば再び三国に付け入る隙を与えてしまう。
とはいえ三人ともルイナスが上に立つ事自体に不満は無かった。曲がりなりにも血縁である彼女には少なからず情が湧いているし、血の濃さでは間違いなく王になるべき存在だからである。
だが、権力を持たせるには彼女はあまりにも危険だった。
故に決起する前にルイナスの身柄を確保するか始末するかで意見が分かれ、確保という話で落ち着いた矢先にルイナスが消息不明になった。
もし決起した後になってノコノコ現れたら面倒な事になる。
とはいえこのままいつまでも捜索は続けられない。調和の塔を仕切る代表同士が癒着しないよう、任期が定められている。任期が過ぎればこのメンバーが再び集まる事はもうないだろう。
「我らロンダリングの末裔がこうして集まれた事自体が奇跡なのだ……この機を逃す手はあるまい」
「それもわかってる……ま、いざとなったらクロエがルイナスに変装すれば時間は稼げるさ」
「お前それ本気だったのか? 私アイツより背が半分程度しかないぞ?」
「大丈夫、ドリルさえ付けときゃ騙せるさ」
「左様」
「お前らマジか? 私たち一族の悲願がかかってるんだからな?」
もしルイナスが見つからないまま決起し、後になって彼女が見つかった時は味方に引き入れる。
もし暴君の名を欲しいままにした彼女の手綱が握れそうになかったら幽閉するなりして、しばらくはクロエがルイナスのフリをして統治を進める計画が立案されていたがクロエは今更ながらこの計画本気だったのかと呆れる。
表向きは各国に忠実な貴族として働き、隙間時間を作って今回の独立計画を立てた三人だが大体深夜に考えたからか粗は多い。
だがそんな不安を帳消しにするだけの力を三人は手にしていた。
「何、アレさえあればどの国も俺たちには勝てない。多少力づくでも問題はないさ」
オーウェンの言葉に他二人も頷く。
ロンダリングの末裔に用意されていた切り札。それはかつて世界を滅ぼさんとした魔人を返り討ちにしたという最強の使い魔……その封印を解く鍵とその強大な力を操る呪文、そして再封印のための箱だ。
剣術や魔法をかじった程度の知識しかない三人でもこれらから感じ取れる異質な力の凄みが理解できる。
少なくとも過去に自分たちが手配した護衛の冒険者……それも一級相当では束になっても敵わないだろう。
オーウェンの懸念としてはあのトニー・フォーマルハウトに勝てるかどうかという点だが、今回の計画はあくまで国家間の問題だ。過度な侵略や虐殺といった運用方法を誤らない限り冒険者ギルドが関与してくる事はない。
ロンダリングの血はかなり薄まっているはずだというのにルイナス同様、強大な力を得るとゴリ押しに出るあたり血は争えない。変なところだけしっかり色濃く受け継いでいた。
「ところで流石に実行に移す前に試運転はしたほうがいいんじゃない? せめてドラゴンくらいは軽く屠れるだけの力がないとお話にならないし」
クロエのあまりにも常識的な提案にオーウェンが答える。
「そうだな、丁度この国の国境付近にドラゴンが住み着いたという報告が上がっていた。それを片付けるのに一度使ってみよう」
「ちなみにどの国に面した場所だ?」
「エルドラドに決まっているだろう。トニー・フォーマルハウトが赤帝竜を討伐したのが最近知れ渡ったのかドラゴン共のナワバリが大きく崩れたようでな。ここ最近は蝿のようにエルドラドに集って来てる」
「……大丈夫? 支配する前にドラゴンの巣になるんじゃない?」
「エルドラドの冒険者の層は厚い。並のドラゴンなら対処出来るさ」
「ところでオーウェン、今朝方エルドラド方面で竜巻を観測したという話はどうなった?」
ヘンリーの問いにオーウェンはわざとらしく手のひらを上に向けて首を振る。
「寝ぼけた見張り台の連中の誤報だと思うけどね。一応調査には向かわせたよ。街道に被害が出ていたら流通に支障がでるからな」
しかしこの後、調査隊から観測地付近でドラゴンの死体、そして街道の一部が吹き飛んでいるという報告からナニかがこの国にやって来ているのではないかという疑念に三人は顔を青くするのだった。
一般通過グリフォン「邪魔すんなや」
一般お邪魔ドラゴン「グエー」
一般受付嬢「きゃーかっこいー!」
ドラゴンと街道は犠牲になったのだ。




