第十話 トリプルブッキングに向けて
マスター会議、厄災会議、そしてアンフラの会合を一日に集約という脅威のトリプルブッキングを成し遂げた私のスケジュールはハードモードからヘルモードへと突入していた。
通常業務に加えて会議の開催地であるロンダリングの情勢を調べるために、そっちにパイプがある組織を表も裏も問わずに利用させてもらいつつ、現地で宿泊する宿を複数箇所確保する。
当然それらは囮なのでそこからさらに安全な場所を確保する必要がある。まあ翌日までには帰るから結局泊まりはしないのだけど。
さらに並行してマスター会議の表向きの趣旨である議題に対する資料の作成、真の目的であるルイナス様の偽者についての調査に加えて厄災会議の会場を予約する。
前回の反省を活かして人間の国の、人間が利用する施設である事は事前に巻物に記しておいた。
無駄な争いを避けるために魔人の皆さんも各々工夫を凝らして人間にはバレないように集まってくれる事を信じよう。
厄介なマスター会議と厄災会議の件で苦労する中、自分のアンチが集まるアンフラの会合の準備が一番楽しいのはやはり何かおかしい気がする。
積み重なる資料の中から一冊の冊子を手にする。
それはロンダリング従国で女の子たちに人気のお店を網羅した情報誌だ。
ロンダリングではエルドラド他二国の緩衝地帯ゆえに各国の文化等が大きく影響している。
結果、各国の有名店などの支店が一同に集まる歓楽街の側面もある。
そんな有名店から私はあの手この手を使って予約で埋まっていた高級店を確保する事に成功した。
正直ここの準備に一番苦労した。
予約した時間帯は仕事が全てが終わって、後は飲んで楽しむためのレイトタイムだ。
マスター会議は朝から始まるから問題なし、厄災会議は夜の十二時の設定になっていたが昼の十二時の間違いでしょ? 私はそう認識して予定を組んだ、とイチャモンをつけて真っ昼間に変更してもらった。
これで夕方からルイナス様の偽者とロンダリングの陰謀への対応に入れば、夜には晴れて自由の身だ。
「いやぁ、ローゼン会長がロンダリングに顔が利いて助かりました」
「以前からかの国とウチの商会は取引があったからな……しかし調和の塔の見取り図など何に使う?」
応接室で向かい合っているのは相変わらず白いスーツに白いコートが様になっているローゼン商会会長ラウ・ローゼン氏だ。今日は胸には白い薔薇を刺しているが色を選ぶ基準はなんだろう?
「えーと、一から説明しますと……」
「……いや、聞かない方が幸せそうだ」
「そう言わずに、秘密の共有をしましょうよ」
「断る」
「ノータイムで断らなくても……」
今日ローゼン会長を呼んだのは彼の商会が二十年ほど前に建設する際に出資と工事の人員を手配した現在のロンダリング従国の象徴でもある調和の塔、その見取り図を借りるためだ。
元々あった城を取り壊して建てられたこの塔はロンダリングを囲う三国……エルドラド、シャングリラ、エデンそれぞれの建築様式を複合した建物で白と黒と金の塔を捻って組み合わせ螺旋状になった奇怪な造りで、遠目に見ればドリルにも見える三国の調和を示すシンボルだ……ロンダリングの要素はどこいった?
とまあ一見、三国が絡み合って一つとなったように見えるが見取り図を見る限り内部は各塔が相互に繋がっておらず、仲が良いように見えて実際は全然仲良くない……そんな関係を物語るような代物だ。
「これって図面に書いてある他に出入り口とかあります?」
「うん、その質問は怖いな。侵入経路を知りたいって事だろう?」
まあ、はい。
ロンダリングでのツテを出来る限り当たってみたがルイナス様の偽者という目立たないとおかしい人物を見たという情報はなかった。
となると私のツテがないこの調和の塔内部にいる可能性が高い。
そこで調和の塔に繋がりそうな人を探していたら実に頼りになる人が見つかったという訳だ。
「一応言っておくがあそこは三国の王城にも等しい場所だ。警備は厳重だし魔法による結界も三層は組まれている。侵入しようと思って入れる場所じゃない」
「なるほど」
その十倍はある結界をぶっ壊してくれる人も世の中にはいるのだから困ったものだ。
「でも、ローゼン会長ならぁ?」
「……まあ、確かに調和の塔への販路はある」
「言ってみるもんですね!」
「……ただ正規ではない……表沙汰には出来ん内容だぞ?」
「というと?」
首を傾げる私に対し、ローゼン会長はバツが悪そうにそっぽを向く。
「……女だ」
「ああなるほど」
確かにそれは表沙汰には出来ない内容だ。仮にも三国のお偉方が勤める場所だし。
とはいえ各国の重鎮が従国のそういった店に行くのは体裁も悪い。こっそり楽しむためには自分たちの領域内という訳だ。
「ローゼン会長、どうです?」
私はそれっぽくポーズをとって見ると会長は真顔で言ってのけた。
「絶対買わない」
失礼すぎる。いや買われても困るけど。
「よし、これで侵入ルートは確保……と」
「待て待てせめてもうちょっとマシなルートにしろ。絶対向いてない」
「他にもルートがあるならそっちから教えてくれればよかったじゃないですか」
「キミがノータイムで乗り気になるとは思わないだろ。明日まで待て、当たってやる」
「……協力していただけるんですか?」
「ま、面白いものを見せてもらったからな」
そう言ってローゼン会長がさっきの私の真似をする。厳つい益荒男のセクシーポーズは絵面が凄い。
私はケラケラとひとしきり笑ってから首を傾げる。
……面白いものって言ったかこの人!
◼︎
お昼休憩もあと少し。ローゼン会長をお見送りしてから受付で午後からの業務の準備をしていると普段よりも大荷物で現れたイザベルさんが訝しむような目で私を見ていた。
「守備範囲が広すぎる……」
「?」
私に聞かせる気のない独り言のようだが受付嬢たるもの耳が良くないとお話にならない。とはいえ聞こえたところで意味がわからなかったので首を傾げるしかないのだけど。
「こんにちはイザベルさん。今日は大荷物ですね」
「ロンダリングに行くならそろそろ出立しないといけないだろう。道中トラブルがないとは限らないからな」
万が一の遅延を考慮して早めに行動を起こす。流石デキる冒険者だ。
「で、ギルマスの護衛は本当にロンダリングに着いてからでいいんだな?」
「はい。しっかりと契約書も交わしてますので仮に私がロンダリングへの道中でのたれ死んでもイザベルさんの評価には一切影響はありませんので安心してください」
「のたれ死なれたら私はロンダリングで何をするんだよ全く……」
そう言って呆れたような表情を浮かべるイザベルさんに、仰る通りでと笑みをこぼす。
護衛依頼を出してから隙間時間を活用してイザベルさんとロンダリングでの護衛依頼の内容を打ち合わせした時間があった分、多少わだかまりのようなものが解けた気がする。
とはいえまだまだ私へのヘイトの根は深いようで一瞬浮かべた笑みは瞬時に消える。
だが焦る必要はない。メインミッションとなるトリプルブッキングに並行してサブミッション……いや、メイン並みに大切なイザベルさんとの仲良し大作戦はまだ始まったばかりだ。
「私はギリギリまで仕事をしてからロンダリングへの超特急便に乗せてもらうので合流は会議当日の早朝、こちらの関所あたりで待ち合わせしましょう」
私はカウンターに広げた地図を指差す。ちなみに以前セレナちゃんに見せた地図とは似ても似つかない曖昧で大雑把なものだ。
とはいえ待ち合わせ場所を決める分にはまるで問題ない。
「それは構わないがその特急便とやらに私は乗れないのか?」
「……残念ながら一人乗りなんですよねぇ」
いや、本当は二人くらいなら乗れるがヘイカーさんが乗せてくれるか次第になる。
「いや……頼めば乗せてくれるかも……イザベルさん!」
私はイザベルさんに親指を立ててウインクする。
「一緒に土下座しましょう!」
「絶対嫌だ」
断られてしまった。
「ギルマスはもう少しプライドというものを持ったほうがい」
「あ、当日はよろしくお願いしますね。お気をつけて〜」
そう言い残して出立するイザベルさんに手を振る。
プライドかぁ、いや私にもちゃんとプライドはあるよ? 必要に応じて投げ捨てて、その後ちゃんと拾い上げて磨き直しているだけで。
めちゃくちゃ頑丈なプライドの持ち主フランドール。




