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第三話 あなたの安全を守ります

 

 地上で溺れかけるという中々レアな体験をした夜を乗り超えて、何事もなく始業時間となると依頼人や冒険者たちが受付カウンターに列を成す。

 そんな彼らは受付に掲げられた看板を目にして口を揃えて問いかけてきた。


「ギルマス、辞めるのか!?」

「いや辞めませんって、絶対前の人との会話聞こえてましたよね?」


 そう、十三日……いやもう十二日後にマスター会議と厄災会議という仮病を使って休みたい会議がブッキングした私は当日の受付業務をお休みし、前日に夜間受付を設定したのである!

 一日受付業務を休止するという知らせに、みんな信じられないといった様子で私を問い詰め、あっという間に噂に尾ひれがついていった結果、何故か私が冒険者ギルドを辞めるという話に飛躍していた。


「おいおい、辞めるなんて冗談じゃないぞギルマス」

「そうだ! せめて俺たちの昇級を済ませてからにしてくれ!」

「我々はギルマスの不当な解雇に反対するぞ!」

「あのー! ちょっと静かにしてくれませんかぁ!?」


 受付を済ませた人と噂を聞いてギルドにやって来た人と未だ列に並ぶ依頼人たちでホールはもはや混沌と化していた。


「ギルマスさん! 寿退社するってマジですか! 仕事とは別れたんですか!?」


 そんな状況下にさらに一石を投じたのは記者のメディアちゃんだった。誰が結婚するんだ? 私か?

 セレナちゃんのゴーレムみたいな巨岩を投じられた結果、騒ぎはますます激しくなる。


「どういう事だ!? ギルマスは生涯独身だって言ってたじゃないか!」


 誰ですかそんな事言ったの!?


「だれだ!? ギルマスと結婚する無謀な奴は?」


 無謀って何!? 私と付き合う事って別に難しくないと思うんだけど。

 悪ノリが広がって存在しない結婚相手を発表しろとコールがかかる。

 妨害か? 営業妨害か? クラーケさんに結界ぶっ壊されてなかったら結界による制圧も視野に入る案件だよ?


「お前らちったぁ静かにしろ!」


 いよいよ場が収まらなくなって来たところで一人の男が一喝する。辺境ギルドの古参、ガルボーさんだ。流石! デキる男は違う!


 私が心の中で拍手喝采しているとガルボーさんは依頼票が張られていないコルクボードを叩いて叫ぶ。


「ここはギルマスの相手が誰か賭けだろうが!」

「おお!」


 ダメだあのオジさん酔ってる。ギルドの端でなんか賭博開帳してしまった。

 これで全員外したら胴元は私って事にして総取りでよろしいか?


 依頼や報告を終えた依頼人や冒険者たちがそっちに集まって盛り上がっている中、めちゃくちゃ不機嫌な顔をしたイザベルさんが先頭にやって来た。


「ふん、あんな連中にチヤホヤされて何が楽しいんだか」


 吐き捨てるような言い方をしてコッチを睨んでいる……えっ? もしかして今私が非難されてる?

 まあイザベルさんもアンフラのメンバーだから仕方ない。私が話題の中心になってるだけでも不快なんだろう。


 まあ相手がコッチを嫌っていても私が嫌う理由にはならない。というかイザベルさんはどちらかというと好意に感じる人柄だ。

 仕事はそつなくこなすしいくつも死線も超え、いよいよ二級への昇格も見えてきた熟練の冒険者だ。

 だというのにイマイチ評価が伴っていないのは同期がトニーさんだったからだろう。


「ギルドマスター、昇級審査も近いんだ。くだらない馴れ合いで私の時間を無駄にしないでくれ」

「はい、申し訳ございません」


 私はぺこりと頭を下げて謝罪する。実際私の言葉の足りなさが今回の誤解を招いた発端ではある……ほんとにそう?

 メディアちゃんの余計な一言のせいじゃない?


「で、何か昇級に有利になりそうな依頼はないか?」

「そうですね……」


 昇級に有利となると有名どころのモンスターを倒したりデカい犯罪組織を潰したり、ダンジョンを攻略するのが手っ取り早い。

 とはいえ辺境の開拓範囲に生息していた有名どころはトニーさんがあらかた倒しているし、先日の事件で犯罪組織は大半が潰れて構成員は散り散りになっているし、辺境では未だダンジョンが発見されていない。

 チャンスがあるとしたら開拓班に合流して未踏の地に挑む事だがあまりそちらに人員を割きすぎたくはない。


「あ!」


 パン、と両手を合わせて閃いた名案を口にする。


「イザベルさん、私の護衛任務なんていかがですか?」


 今回を期に仲良くなれないか挑戦するのも悪くない。マスター会議に参加するギルマスの護衛というギルドからも一目置かれる仕事を前にして、イザベルさんは私と過ごす苦行と昇級を天秤にかけて渋々請け負ってくれた。

 嫌な仕事でも請けてくれる。こういうところが私の中で彼女の評価を高くするのだ。


◼︎



「お前……自分のアンチに護衛を頼むとか正気か?」


 物凄く残念なものを見るような目で私を訝しむルイナス様とテーブルを挟んで遅めの夕食を取っていると彼女がそんな事を口にした。


「護衛対象が嫌いだからって選り好みしたり、手を上げてたら冒険者は勤まりませんよ。たまにいるんですよ? 女性の冒険者が護衛についたらセクハラかましてくる貴族とか貴族とか……あと貴族とか」

「貴族ばっかりではないか!」


 だって冒険者からのクレームに貴族しか報告に上がって来ないんだから仕方ない。まあ主に王都での話だけど。


「ルイナス様が王になったらこの辺の教育をしっかりとお願いしますね」

「……私が王になれると思っているのか?」

「なれますなれます。ギルド支部に来た初日から我が物で暮らしてたルイナス様の図太さは王の、いや……覇王の器ですよ!」

「お前馬鹿にしてるだろ……」


 馬鹿になんてしていない。初日から浴室で秘蔵の洗髪剤を使ってそのツインドリルを洗っていたのを見た時はすげぇ、としか感想が出てこなかった。この我が道を行く生き方は間違いなく覇王だ。


「でも実際ルイナス様が王になった方が面白いと思いますよ。毎日が謀反って感じで」

「流石に毎日謀反はないだろ……ないよな?」


 そこは言い淀むんだ。まあ実際毎日のように辺境の外からルイナス様の行方を調べている怪しい連中が来てるからなぁ。この人敵が多すぎる。


「ところでルイナス様は絶対出席しなきゃならない会議がブッキングしたらどう対応しますか?」

「そもそも絶対出席しなきゃならない会議をブッキングさせるな」


 正論はよくない。よくないよ。


 それが出来ていればこんな苦労はしなくて済んだのだ。まあマスター会議を延ばしたのは私なんだけどその後同じ日に会議を入れられる何て思わないじゃない?


「まあ、代理人でも立てるくらいじゃないか?」

「……いると思いますか?」


 私は広々とした空間で両腕を広げる。

 長方形の艶のある白いテーブルと木製の椅子が並ぶ朝食、昼食、夕食や夜食を楽しめる場として作った食堂には私たち二人だけだ。

 現在信じられない事に職員が私だけなので料理人は雇っておらず、今食べているのも私が片手間に作った賄いの庶民料理だ。


「まあ、おらんわな」


 そんな料理を綺麗に食べ切ったルイナス様が口元を専用の布で拭う。この人過去に毒盛られた割にはバクバク食べるんだよね。怖いもの知らずだ。


「というか一人で業務を全て回しているのがそもそもおかしいだろう。ギルド側は何の手も打たんのか?」

「いい機会なんでそれも今度のマスター会議の議題にあげようと思ってます。題して辺境ギルド人手不足問題」

「……いっそパンクして辺境ギルドを一度畳んだらどうだ? 食事の場にまで書類の山を積むのはどうかと思う」


 そう言ってチラリと私の横に視線を向ける。王族にギルド内の資料閲覧はさせられないというのを律儀に守り続けてくれている。

 いっそ盗み見てくれたら一も十も同じという事で受付嬢に抜擢するのに。


「会議の日はほとんどギルドを空けますからね、ここらで書類関係は片付けておかないと……」

「そんな姿を見せられ続けたら寝付きが悪くなるわ」


 そう言って空いた食器を流し台に持って行く。

 私がガチで一人でギルド支部を回しているのを知ってからこういった雑事は自分でしてくれるようになったんだよね。良い子過ぎる。

 片付けを済ませたルイナス様が私の食器まで片付けてくれるのか、こっちにやって来たタイミングで言いそびれていた事を伝える。


「あ、そうだ。今晩からはしばらく私の部屋で寝てください」

「……はっ!?」

「?」


 ルイナス様が素っ頓狂な声を上げる。


「な、何で貴様の部屋で寝なければならんのだ!?」

「なんでって……」


 そりゃ昨晩クラーケさんのせいでギルド支部に張り巡らせていた防犯結界が悉くぶっ壊れて機能停止しているからである。

 物理的な防御についても未だ撤去が済んでいないセレナちゃんの置き土産(ゴーレム)によって脆弱になっており今やギルド支部はほとんど無防備。

私の部屋には別で結界を用意していたのでまだ機能しているがその性能は壊された結界の三分の一程度……ただ何もないよりはマシだろう。


「ルイナス様をお守りするためです。いいですね?」


 そう言って私はルイナス様に部屋の鍵を握らせた。



どう捉えられているかちゃんと考えずに思った事をすぐ口にする。相手は誤解する。


初のレビューをいただけたおかげで沢山の方が本作を覗きに来てくださってます。本当にありがとうございます。

引き続き二章も楽しんでいただきつつ、応援していただけると嬉しいです!

よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
 辺境地で隠蔽しているとは言え、生産性のある土地に、その国の王族血縁者を擁した冒険者という武装勢力(領主既に巻き込み済み)の代表が、「王になれます」発言って、中央からみれば辺境勢力の軍閥化待ったなしじ…
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