第一話 会合のお知らせ
マスター会議の日程が変更になった日の夜。私は来たる会議への参加の為に今日も残業に勤しんでいた。
「寝ないのか貴様は……」
「やだなぁ、寝てる暇あるように見えますか?」
ギルド支部内にある職員の憩いの場として用意した談話室のソファで私とお揃いの寝間着姿でくつろぐツインドリルことルイナス様の前に積まれた書類の山を指して口にする。
普段は今にも回りだしそうなツインドリルも夜はふにゃりとした感じでどこか愛らしさがあるドリルになっている。
最近はドリルの鋭利さでルイナス様の気分をなんとなくわかるようになってきた。今はかなり気が抜けている状態だ。
「もうちょっとしたら冒険者さんたちの昇級審査もありますから」
「モニカ・レバレッジもか?」
おや、と私はルイナス様に視線を向ける。
「? ええ、四級に上がれるかもしれません」
ちなみに一般的な冒険者は大体四級で停滞する。そこから上は才能ありきの世界だ。
「ふーん」
モニカさんが昇級するか気になるのだろうか?
閃光の晩餐会以後、モニカさんがレバレッジ家とは今は縁の無い一介の冒険者であると聞いてから何かにつけて彼女を呼び出して相手にさせているようだし仲良くなれているのかもしれない。
「ご友人の昇級は気になりますか?」
「はぁー? 誰が貴族を辞めて冒険者なんてやってる元令嬢なんかと友人になるか……まあ? モニカ・レバレッジが私に忠誠を尽くしたいって言うなら考えてやらんでもないが?」
「そんな言い方だと友達無くしますよ? みんながみんな私みたいにルイナス様の嫌味や小言をスルー出来ないんですから」
「余計なお世話だ……おいまて、貴様私の友人のつもりか?」
「え? 違うんですか? ちょっとショック。一ヶ月くらい寝食を共にしてるのに……」
「食はともかく寝てはないだろ……どうなってるんだ貴様は。文官だってもうちょっとまともに休んでいたぞ?」
そう言われても私も好きで寝てない訳ではないのだ。
「それは置いといて、私も友人を作るのは苦手ですけど必要以上に強く接しては余計な敵を作りますよ?」
「ふん、普通にしていても敵が増えるんだから取り繕ってもしかたないだろ」
「まあ、確かに普段通りにしてても何故か嫌われる事ってありますけど……あ、噂をすれば」
私はギルド支部に届いた郵送物の中から封筒を取り上げ、封蝋をナイフで切り中身を読んで眉を寄せた。
「んー、これも時期が被って来ましたかぁ……どうせならマスター会議と日程合わせて纏めますか」
「……なんの話だ?」
私の言葉に反応してルイナス様が身体を起こす。なんだかんだ会話には付き合ってくれるんだよね。
「アンフラの会というギルド非公認クランからの会合のお知らせです」
「……非公認ってダメだろ」
うん、まあその通りだ。
冒険者は実力の違いはあるものの、国家には属さない武装勢力だ。
そんな彼らを取りまとめているのが冒険者ギルドな訳だがその中で冒険者同士で結託した集まりをクランと呼ぶ。
クランの目的は様々だが、冒険者ギルドも把握してないクランの立ち上げは本来禁止されている。
何故なら稀に冒険者ギルドの目を盗んで勝手に依頼人とやり取りする闇ギルド紛いの行為をする場合があるからだ。
それに比べたら飲みサークラン、マイスターの方がまだマシである。もう解散させたけど。
「で、そのアンフラとやらは何の集まりだ?」
「ああ、アンチフランドールの会で通称アンフラの会。要は私のアンチが集まって作られたクランです」
「……要は貴様が嫌いな冒険者の集まりだと?」
「ええまあ。ルイナス様は兵隊蟻ってモンスターは知ってますか?」
「……確かデカい蟻だろ? 飢饉の原因によく上がる」
流石王族だけあってそのあたりのモンスターは知識としてあるらしい。
「仰る通りです。彼らは数十から数百の群れを作りますが、その内八割が真面目に働き、残りの二割は必ずサボると言われています」
だから兵隊蟻の巣を一度に壊滅させるのは難しい。表に出てこない残りの二割が発見出来ないからだ。
しばらくすればその二割から再び八対二に分かれていくので根気強く処理するしかない手間のかかるモンスターである。
「これは人間関係にも言えます。どんなに良い人でも全員から好かれるなんてあり得ません。必ず二割は自分を嫌っています。まあそれが逆転している人もいますが」
「私を見るな私を! ……で、その二割がアンフラとやらの連中か」
「そうですね。残念ながら」
私としては仲良くしたい人ばかりなのだがこればっかりは仕方がない。
「で? それがなんで貴様に会合の連絡が来る? ギルド非公認な上に陰でコソコソと貴様を吊し上げて盛り上がる会なのだろう? 本人を招いてどうするんだ」
「ああ、それは私がアンフラの会長だからですよ」
「……は? 何言ってんだお前」
ルイナス様がキョトンとした顔を浮かべる。ちょっと珍しい顔だ。
「いや、私を嫌ってる人が一定数いるなーってわかってたんですけど時にはガス抜きさせないといつ爆発して襲いかかってくるかわからないじゃないですか? だから数の把握と管理を兼ねて皆で集まってストレス発散が出来る場を用意したんですよ」
これで私のアンチな皆さんが何を不満に感じ、何をしようと考えているかが筒抜けだ。
顔がムカつくとかあざとい、胸がデカくて腹立つ、なんてどうしようもないところは置いといて、 直すべきところは直しながらアンチ全体の数を減らしつつ動向をうかがっているのである。
「あ、他所でやった会合の議事録もついて来てますね」
ギルドに関する書類じゃないからルイナス様にパスする。それを読んだルイナス様は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。
「……よくもまあここまで悪態を付けるものだ。私への非難だってもう少し言葉を選んだ物言いをするぞ?」
ルイナス様が議事録をぐしゃりと丸めてゴミ箱にシュートしてしまった。議事録は会長として保管しなければなので後で回収しないと。
「でもこういった熱心なアンチほど味方に付けた時はめちゃくちゃ頼もしいんですよ? ルイナス様はアンチの数が私とは比べものにならないくらい多いですけど、どこかで評価が逆転すれば一気に人気者間違い無しです!」
「アンチが多いは余計だ! ……ふん」
ルイナス様はそのままふて寝するようにソファに転がる。どうやらこのまま寝る気らしい。
「風邪ひきますよ? 毛布入ります?」
「いらん…… 」
とか言って寒がりだからどうせ毛布を要求されるのだ。
私は気分転換に席を立って毛布を取りに行こうとしたところでジクリとした痛みが左手の小指から広がり、流れ落ちた血が床に落ちる。
「……ぇ〜」
冒険者ギルド支部に張った結界、それが何の前触れも無く破壊されたようだ。
「ルイナス様、ちょっと席を外しますね」
返事を聞く前に私は談話室を出ると外から施錠する。気休めにもならないが無いよりはマシだ。
明かりの消えた廊下を歩き、受付カウンターのあるホールへ向かう。
こんな時間にやって来る客人なんて碌でも無いのは分かり切っているが、狙いが私かルイナス様かはわからない……まさかただの押し入り強盗は有り得ないだろうし。
いざとなったら支部を放棄してルイナス様を連れて逃げる必要がありそうだ。
ホールが近づくにつれて鼻につく異臭が強くなる。それは久しく嗅いでいなかった磯の香りだった。
その香りの主に心当たりがあった私は柄にもない警戒心を解いてさっさとホールに向かい、そこに佇む懐かしい姿を見つけると深く礼をしながら話しかける。
「こんばんは、冒険者ギルドへようこそ」
私の呼びかけに反応し、ギョロリと人ならざる瞳が動き、真っ直ぐ私を見つめていた。
アンフラの会費はフランドールがしっかり管理運営して充実したアンチ活動に当てられています。




