エピローグ 同居人
領主様の屋敷が半壊し第一王女が行方不明という情報が出回り、辺境の街は一時的に封鎖されたため商会の物流が停滞し依頼人たちが足止めを食う中、私は倒壊しかけたギルド支部の外にテーブルと椅子を並べてニコニコと席に座っていた。
そう、今日は遂に待ち侘びた受付嬢の面接日である。
来たる新しい仲間を心待ちにしてソワソワしている私の前に現れたのはガルボーさん、そしてシュラさんだった。
「派手にやったなぁギルマス」
「ちょっと街を離れたらなんでこうなるの?」
二人はギルド支部に刺さったままのゴーレムを見上げてそんな事を口にする。
「冒険者ギルドにはよくある事ですよ。シュラさんの時も地下が崩れましたし」
「あ、あれは私のせいじゃなくない?」
「よくあるにしたってギルマスが来てから毎年だろ? 流石に多いと思うが」
「まあ……おかげで皆さん慣れたものですよ」
建物にゴーレムが刺さっていたら普通野次馬で溢れ返るだろう。だがこの街に住む住民はもう慣れたのか私がピンピンしているのを見たらああ、またか……みたいな反応をして去っていく。
いや、差し入れを置いていってくれるので大変ありがたいのだがもうちょっと心配してくれてもいいと思う。
「で、今日はこんなところで何やってんだ?」
「受付嬢の面接ですよ。いよいよ新しい子が仲間に入る日が来たんです」
「……そうか、邪魔したな」
「ギルマス、気をしっかり持ってね」
「?」
そう言って二人は立ち去っていく。何故そんな哀れんだ目をしていたのだろうか?
青空の下でそんな疑問を浮かべながら私は制服に乱れがないかもう一度チェックしているとまた一人、面接目的では無さそうな人がやって来た。
「あ、クライムさん」
「すげーな、この有様でいつも通り過ぎねぇ?」
クライムさんの視線も突き刺さったゴーレムに向けられる。やっぱり目立つかな? 時計塔よりデカいもんなぁ。
「冒険者ギルドは年中無休、たとえ支部が無くなっても受付嬢がいる限りしっかり運営してますよ」
「ぜってーここだけだぞそれ……」
「ところでアランさん達は大丈夫でしたか?」
「……何の事かわかんねぇや」
視線が泳いでる。嘘つくの下手だなこの人。
まあそこを突いても認めないから追及はしないでおく。
「ところで何の用ですか?」
「……あー、いや、言いにくいんだけどよ……」
バツが悪そうに後頭部を掻いている。なんかあまり見た事がない仕草だ。
「ひょっとして……受付嬢の面接ですか?」
「ちげーよ!?」
違ったらしい。じゃあなんなんだ、冷やかしか? ギルティだが?
「もし、冒険者に戻るとしたら、の話だけどよ」
「……お、遂に戻る気になりました?」
「……いや、すぐには戻れねぇ。やり残してることもあるしな……」
「わかりました。私はいつでも待っていますよ」
そう言って笑顔を浮かべる。デキる冒険者なんて何人いたって嬉しいのだ。
バツが悪そうに顔を逸らした彼の後ろに馬車が停まると一瞬でその姿が消える。相変わらず一歩で移動できる距離が半端ないな。
そんなクライムさんの次に馬車を降りて現れたのはローゼン会長だった。
「話には聞いていたが……また派手にやったな」
「ローゼン会長! お待ちしてました!」
私は席を立ってローゼン会長に駆け寄る。
「へへ、今日は面接に同伴ですか? 会長も心配性ですね。私はちゃんと約束を守りますよ?」
でも選ぶのはローラさんだ。その時は仕方ない。本当に仕方ない。
「……いや、娘は来ない」
「えっ!?」
私が驚愕の表情を浮かべる。セレナちゃんには悪いが彼女が黒幕だった時よりも驚いている。
「な、な、な、なんで? なんでですか??」
「……逆に聞くがギルドマスターは一夜にしてゴーレムが突き刺さる職場に勤めたいと思うかね?」
「……まあ必ずしも安全な場所なんてこの世界のどこにも無いわけですし……?」
「そうだな、その通りだ。ならわざわざ目に見えて危険な場所は普通選ばないという事だ」
「そ、そんな……」
私はその場に崩れ落ちる。
「……ギルドの修繕工事については相談に乗ろう。では次は領主の屋敷にも顔を出しに行く必要があるから失礼する」
「……こっちは大丈夫なんで、ゼニス様の方はちょっと勉強してあげてください」
晩餐会の準備に使った費用に屋敷の修繕費はコッチの比にはならないくらいサーティン家にダメージを与えているはずだ。
私のそんな要望にローゼン会長は軽く手を上げて馬車に乗り込んでいった。
ローゼン会長が去ってからもちょくちょく冒険者たちが様子を見に来てくれるが受付嬢の面接希望者が一人も現れない。
おかしい。何か、何か陰謀が張り巡らされているのではないだろうか?
受付業務をこなしていないというのにあっという間に日が沈み始める時間になった。
ダメだ。まだ沈んじゃいけない。まだ一人も面接をしていないのだ。
「あの、ギルドマスター?」
「ッ! マリーさん!」
私は勢いよく立ち上がる。
目の前には侍女服姿を着たマリーさんがいた。
「ようこそ! お待ちしていました! 面接時間はまだまだありますからゆっくりお話ししましょう!」
「あー、実はですねぇ……受付嬢は、やめとこうかなって」
「……ぇ」
「領主様の屋敷があんな事になっちゃって、今ちょっと転職するのは流石にまずいかなぁって……け、決して受付嬢の仕事がヤバそうとか心臓潰したり首が吹っ飛んで動いたギルマスが怖かったとかじゃないですよ?」
そういえばマリーさんも会場にいたんだっけ。私のゴーレムってそんなにヤバかったの? セレナちゃん、なんてものを作ってくれたんだ。
「そ、それじゃ失礼します」
「き、気が変わったらいつでも来て構いませんからね〜!」
私は走り去っていくマリーさんに手を振る。
その後やって来たのは一夜にして倒壊したギルド支部に取材に来たメディアさんとセレナちゃんに利用されたロックさんたち記者コンビだった。
「す、すごい……これが動く三面記事……!」
「でしょ? フラン部署が設立される訳がわかるでしょ」
「あのー今日は取材拒否したいんでたむろしないでもらえますかぁ?」
パシャパシャとギルドの有様を撮影する二人に力なく呟く。
なんせまだ面接希望者が現れないのだ。元気だって無くなる。
「元気だしなよギルマス。実はギルマスも喜ぶとっておきの」
「セレナちゃんなら復職しませんよ」
「……え゛ッ!?」
ロックさんが手にした写真機を落とす。大丈夫? 高いよそれ。
「戻って……来ないの?」
「なんでロックさんがそんなにショックを……あ」
そういえばロックさんはセレナちゃん推しだっけ? セレナちゃんが辞めた時のショックでその辺すっかり忘れていた。
「セレナちゃんは新しい天職を見つけたので……受付嬢に戻って来ることはないでしょう」
「そん、な……受付嬢姿のセレナちゃんを……もう一度、みたかっ、た……」
「せ、先輩?」
「……しんだ?」
この様子じゃ利用されたなんて聞いたらショックで立ち直れないかもしれない……いや、逆に喜ぶかも?
魂が抜け落ちたようなロックさんの首根っこを掴んで引きずっていくメディアちゃんを見送る。
この後、日が沈み切ってなお待ち続けたが受付嬢の面接希望者は現れなかった。
「……結局、新しく増えたのは厄介な同居人だけかぁ」
「……おい、私を見てため息を吐くなため息を」
深夜、受付カウンターで今回の事件の事後処理のために冒険者に動いてもらう書類を作りながら愚痴る私に反応したのは受付嬢の制服を着て偉そうに、いや実際偉いツインドリルことルイナス様が足を組んで座ったま文句を言って来た。
煌びやかなドレスとは異なるが受付嬢の制服だって可愛らしい。それを着たルイナス様も意外とサマになっていた。
ルイナス様を匿うための場所として提供したのはこの冒険者ギルド支部だった。まさか王族がギルドに匿われているとは思うまい。
仮に疑ったとして国がギルド支部に強制的に捜査に入るのは相当勇気がいる。濡れ衣でギルドの心象を悪くして損をするのは向こうだからね。
最初は匿う駄賃として受付嬢の仕事を手伝ってもらえたらウィンウィンな関係だと思っていた。しかし冷静になって考えたらギルドの書類を王族に処理させるのは流石にまずいので結局仕事は全部私一人でやるハメになってしまった。
おかしい。今日から最低二人は受付嬢が増えるはずだったのに。
トニーさんの生存は彼女に伏せておくよう本人に強く念を押されている。強すぎる仲間を得たことで始まった今回の計画、トニーさんが復活する可能性を知れば変に行動を起こしかねないという事だ。
実際目を覚ました最初は散々泣き腫らしたが今では切り替えている。強い。
「ねぇルイナス様、何で新人の応募が来ないんだと思います? 王女としての忌憚なき意見が欲しいです」
「知らないわよそんなの……給金が安いんじゃない?」
ガン無視されるかと思ったが今のルイナス様は衣食住全て私頼りになっている。
別に見返りを求めてはいないが流石に施されるだけなのが嫌なのか渋々意見をくれた。
「えぇ、辺境でも結構な給金ですよ? ほら」
「……なんで求人紙にアンタがデカデカと載ってんのよ……え、嘘。辺境の給金って安すぎ……?」
ダメだ。王女だと金額のスケールが違いすぎて参考にならなさそうだ。
「というかこれちゃんと広報しておったのか? 街に着いた時無駄に街中を案内されたがこんな無駄に目立つ求人を見た覚えがないぞ?」
「ええ? だって街中に掲示してもらって新聞にも挟んだし、いつも以上に売れたって聞きましたし……」
「……それちゃんと受付嬢に興味がある層に行き渡っておったのか? それに街中に張られた写真なんて大抵イタズラされるか剥がされて持ち去られるかが関の山よ」
何という事だ。つまりあの広告費は全くの無駄だったというのだろうか?
無駄にプライベートな情報まで載せたのに。
私は何も書いていない羊皮紙にペンを走らせる。
【急募】アナタも私と一緒に冒険者ギルドで働きませんか?
笑顔が絶えないアットホームな職場です。
そんな求人内容を書いて見せてみた。
「これくらいシンプルな方がいいって事ですか!?」
「なんじゃこの怪しさしかない求人は……というかそもそもこれが原因だろ……」
ルイナス王女が指し示したのは先日の新聞だ。そこには私へのプライベートな質問に対する回答が載っていた。
Q.休日は何をされていますか?
A.休日は仕事をしています。
…………? 何が駄目なんだろうか?
私が頭を捻って考えていると、ルイナス様は呆れ果てたように天を仰ぐ。
「……なんで貴様がギルドマスターなんぞやっとるんだ?」
「さぁ?」
そんなの私が聞きたいくらいですよ。
これにて第一章完結です。
読者の皆様のおかげで無事書き切る事が出来ました!
ありがとうございます!
第二章プロローグは4月12日お昼頃投稿予定。
今後の更新ペースについてはあらすじに記載予定です。




