第二十六話 一夜明けて
昨年はセレナちゃんを失う辛さに醜態を晒したが今回は新しい生活を迎える後輩を笑顔で見送れた。
今回は先輩として恥じない別れが出来たはずだ。
「さて、どうするかなぁ」
トラベルセットを取りに行った時に改めて支部の惨状を目の当たりにして来た私は頭を抱える。
冒険者ギルド支部は受付カウンターのある中央棟から左右に西館と東館に分かれているが東館に向かう通路は完全に埋まっており、中央棟もかなり危うい状況だ。
結界の基盤となる建物が大きく崩れた事で結界の強度も下がっているし、建て直しは必須だろう。
「代行、ワタシもそろそろ帰る」
魔導書をテトラさんがうんうんと悩む私など素知らぬ顔で帰ろうとしたのでその手を掴む。
「まあまあ、そんなに急がなくても」
「……代行が変に結界を弄ったから外にいる人たちがそろそろ入ってくる。引き時」
「うう、お疲れ様でした」
流石に不特定多数の人にテトラさんを見られたらいらぬ誤解を買ってしまう。ここは渋々引くとしよう。
というかテトラさんちょっと怒ってる? 結界を弄ったから? だってそのままにしてたら冒険者ギルドが人喰いの魔窟になってたから仕方がない。
「代行、盟主に何か言伝はある?」
私に背を向けていたテトラさんが振り返り尋ねてきた。
「え? そうですね……まあこの通り何事もなく元気にやってますって伝えて下さい」
「……職場にゴーレムが刺さってるのは何事もないとは言わない……元気である事は伝える。それじゃ」
「はーい、ありがとうございました」
テトラさんの目の前が水面のように揺らめき、そこに歩を進めると風景に溶け込むようにしてその姿が消えるのを確認してから結界が壊される前に通常営業設定に戻すと冒険者や憲兵の皆さんが支部内に雪崩れ込んできた。
「おはようございます! 冒険者ギルドへようこそ!」
そんな彼らを笑顔で出迎えるも、全員からやってる場合かと怒られ憲兵の皆さんに捕まった私はそのまま馬車へと連行されるのだった。
◼︎
「いやぁ派手にやりましたねぇ」
憲兵の皆さんに連行された先は昨晩の会場……のはずだ。
しかし昨晩まであった立派な屋敷は綺麗さっぱり無くなっている。
正確には、会場を中心に巨大な円球状に建物が抉り取られ、一部躯体が露出していた。
ギルド支部より悲惨な有様である。
「ハハハハハ! 来たかギルマス、無事だったようだな!」
地面が抉られて出来たクレーターの中心にいたゼニス様が高いテンションのままこちらに登って来る。
すごいハイになっている。こうなった彼女は強い。
「よかった、皆さん無事だったんですね」
「ああ、襲撃にはあったが来賓者の怪我人はゼロ! 代わりに屋敷の半分と調度品などの家財が山のように消え去ったけどな! ハハハハハ!」
「来賓者の皆さんは?」
「我先に逃げ帰ったよ。なんせ第一王女は行方不明だからな!」
「側から見れば第一王女を結託して消したとしか思われませんからね。今回の件は不問にする代わり晩餐会に参加していた事は墓まで持って行けと脅されました」
疲労感が見えるミランダさんが補足してくれる。アルムさんの姿は見えない。恐らく事態の収拾に奔走しているんだろう。その内私の元にもやってくるに違いない。
私はさっさとセレナちゃんがいた痕跡を隠す前に、周囲の人がいない事を確認してから二人に問いかける。
「で、第一王女はどちらに?」
「ギルマス、お疲れ様です」
私が案内された先にいたのは疲労の色が見えるモニカさんだった。視線を合わせてくれないのは私に似たゴーレムを斬り飛ばした負い目からだろうか?
そんな彼女がベッドで眠るルイナス様の護衛兼見張りといったところだろう。
ミランダさんから聞いたが私のゴーレムはルイナス様の目の前でトニーさんの心臓を握り潰したらしく、ルイナス様はその後気を失ってしまったらしい。
そしてセレナちゃんが言っていた自爆機能に対し、心臓を失ったままトニーさんが放った光で爆発ごと会場を飲み込んだ事で人的被害は無かったという。
おかげでゼニス様はかなりの損害を被っているがここで来賓者に死傷者が出ていたらより被害は広がっていた。金だけの問題で済むならまだマシだろう。
問題は王女の存在だ。トニーさんという最強の護衛を失った彼女は窮地に立たされている。
聞いた話では彼女を始末するという動きは彼女の派閥からも見られ、それを手土産に他の王族に取り入ろうとしているとか。
つまりもうルイナス様を守る存在は皆無と言っていい……そのあたりの政争から隔離されていた辺境周辺の貴族たちを除けば。
「サーティン様は王女を庇うとの事でした。身の上話を聞いて放っておけないようで」
「ゼニス様はいつもキツイ方を選びますね」
正面切って王女を庇うには王族を敵に回しかねない。だからしばらくは行方不明という事にして匿うつもりだろう。
聞けば王女が今回の強行に出た引き金は乳母と幼い頃から従者として仕えていた幼馴染のような侍女に毒を盛られ、王国で上に立つ事を見限ったからだという。
ゼニス様も似たような目に合ったから共感してしまったんだろう。
「で、私にも詳しく教えてくれませんか? トニーさん」
「……僕が死んだとは思わないんだな、貴女は」
ふわりと、手のひらサイズの光る球体が現れる。いや、流石にこんな姿になっているとは予想外だよ?
「心臓を潰されてすぐスキルを使ったはいいんだけど、どうやら心臓が力の要だったようでね。今ではこの姿を保つのがやっとだよ」
「心臓潰されて生きてるだけ流石ですよトニーさん」
そう言って光るトニーさんに指を突き刺す。
特に熱も何も感じない。本当にただ光っているだけのようだ……何で浮いてるんだ? トニーさんにはいつも驚かされる。
「治せるとしたら元の身体に変換した瞬間に心臓の治癒ですかね? 生身だと心臓無しでどれくらい生きられます?」
「……経験した事ないからなんとも言えないな」
となると心臓を一瞬で治せる程の治癒魔法かポーションが必要という訳だ。こういう臓器関係は単純な切り傷と違って治りにくい、潰れているなら尚更だ。セレナちゃん殺意高いよ。
トニーさんを治す方法も探しておかないと。
「ところでギルドマスター、ルイナスの事なんだが」
「はい、ゼニス様の意向は聞きました。私も匿う事には賛成です」
ルイナス王女の行方不明という知らせは王族にとっては動きにくい情報だ。
死んだ事を前提に動いて、後で生きていたとなっては致命的な場面もあるだろうからまずは生死の確認に時間を取られる。かといって大々的に軍を辺境には送れない。それは他国の目を引く愚策だ。
なら打てる手は少数精鋭で辺境に諜報員を送る事。それならいくらだって欺ける。
エルドラド周辺は今はそれなりに平和だがちょっと舵取りを誤れば戦乱の世再びである。
そんな世界はきっと誰も望まない、はず。いや、戦い大好きな人が一定数はいるとは思うけども。
「まずはルイナス様を絶対見つからないところに匿う事からですね。ゼニス様の元にはすぐにでも密偵が送られるでしょうし」
「そんな都合の良い場所があるんですか?」
モニカさんの質問に私はドヤ顔で答える。
「任せてください。ピッタリな場所がありますから」
ゼニスの極貧生活の始まり……
あと一話で一章完結となります!




