第二十四話 深夜のテンション
※二人ともロクに寝ていません。
セレナ・フィンテックの計画の締めは冒険者ギルド支部の破壊であった。
間違いなく世界に混乱をもたらす計画に加担した愛するトニーが悪名を残す前に抹殺し、親愛なるフランドールに罪悪感を抱かせないようギルドの禁忌をを犯し、殺される。
そして、彼女を縛る冒険者ギルド支部を、その影すら残さず破壊する。
そのために用意した最終兵器はセレナのこの一年培って来た技術の集大成……ドラゴンを模した究極のゴーレムである。
単独飛行をも可能としたこのゴーレムは稼働時間が短いという問題を抱えてはいるものの、現存する人の手によって造られたあらゆる兵器の頂点に位置する破壊力を秘めており、過去に何度か破壊された経緯からフランドールによって魔改造された冒険者ギルド支部を守る結界を力づくで破壊するためだけにセレナが残業に残業を重ねて貯めた結婚資金の全てを投じて生まれたまさにセレナの半生の結晶と言える怪物である。
そんなゴーレムの完成率はおよそ八割。ゴーレムとバレないように細かく分散して辺境の街に運び込まれた部品の一部は検問に引っかかったり、道中モンスターに襲われたりなどして届かなかった部位があるが稼働には支障はない。
核が露出してしまっていて防御性能に難があるが生みの親から制御が外れた事でゴーレムは創造主たるセレナの死を悟ると自らの脅威となる攻撃が届かないであろう天空にまで至り、その翼を広げ攻撃体制に入る。
本来核となる魔鉱石を二つ搭載すると魔鉱石ごとに異なる魔力が反発し合う事でゴーレムはその形状を維持できなくなり自壊する。
しかしセレナはその反発する事によって生じる強大なエネルギーを制御し、ドラゴンの炎に匹敵するかそれ以上の熱線を放つ機構、婚約破棄を生み出した。
その顎が大きく開き、収束した力が赤く輝く。
ゴーレムは創造主が久しぶりに見ただけで吐いた忌まわしき存在をこの地上から消し去るべく、眼下に狙いを定めた。
◼︎
「セレナちゃん、凄いの造ったねぇ」
「そ、そうですか?」
えへへ、とはにかむセレナちゃんから聞いたあの光の正体に私はあらゆる感情や思考を置き去りにしてそんな感想を口にした。
私の後輩凄すぎでは?
しかし冷静になってくると血の気が引いてくる。
結界をフル稼働させれば支部が完全に破壊されることはないと思うがそれでも被害は甚大だろう。まだ増改築して間もないというのに。
というか万が一にでも保管している報告書などの書類が燃えたりしたら書き直すのにどれだけ時間がかかるだろうか? そろそろ本部からの抜き打ち監査だってあり得る時期だ。 これまで各支部の中で最高点を維持して来たという私が他のギルマスに強気で行ける数少ない項目を落とすのは困る。
「ねぇセレナちゃん、あれって自爆装置とか付いてないの?」
「先輩ゴーレムには悪用されないように付けましたけどアレには付けてないです」
「そっかぁ」
私のゴーレムには自爆装置搭載済みなのかぁ。壮絶な最期を迎えていそうだ。
「というか仮に付けてたとしてもあそこで自爆させたら街の被害がえらい事になりますけど?」
「……うん、そうだね」
王女とその護衛を始末して国家に激震を走らせようとした割には常識的な意見を述べてきた。
でも確かに周囲に被害を出すくらいなら冒険者ギルド支部がぶっ壊された方がマシだ……けど、その後私が地獄を見るのは間違いない。
なら覚悟を決めて迎え撃つか。
「セレナちゃん、悪いけどアレを止めるのを手伝ってもらうからね?」
そう言ってセレナちゃんに優しく微笑みかけるとセレナちゃんが引き攣った笑みを見せてくれた。
「いま、今夜も残業しようね、ってニュアンスで言いましたよね?」
◼︎
私もそれなりに波瀾万丈な人生を歩んできたつもりだが、自分が弾丸となる日が来るとは思わなかった。
「先輩! スカート! スカート!」
「それどころじゃなーい!!」
今、私は時計塔の屋根の上でセレナちゃんが再起動させた尻尾ゴーレムによって両足を拘束され、風を切りながら超高速で回転しているのだ、スカートを抑える余裕なんてない。というか見えたとしても速すぎてわからないよ!
私たちが取った聡明かつ完璧な解決手段は超単純で、セレナちゃんに投擲してもらった私が上空にいるゴーレムの核を壊すという力技だ。
曰くあれの核は精密なバランスで成り立っており、強い衝撃を与えれば機能停止に落ちるという次作の課題点が残されているらしい。課題点をしっかりと認識して改善を考える姿勢に後輩の成長を感じて胸が熱くなる。
でも次なんてあって欲しくないな!
「もうちょっと速めますよ! 良いですね!?」
「え? なんて!? ひょわっ!?」
私の身体が更に速く振り回される。制服に付与された身体強化魔法が働いているのに骨が軋むような音を出していて身体がバラバラになりそう。
「セレナちゃん! タイミングしっかりね!? この勢いで壁や地面には突き刺さりたくないよ!?」
「任せてください! スリングは昔から得意ですから! いきますよ!」
「ああああぁぁぁ〜〜〜〜ッ!!」
風を切って私が空の彼方に向かって放たれる。魔法も無しに空を飛ぶ日が来るとは思いもしなったよ。
ぐんぐんと天高く昇る私の眼前に迫る異形の姿。ドラゴンを模したというそれはセレナちゃんのセンスを爆発させたおどろおどろしい見た目をした化け物だった。
伝説に謳われる邪竜を連想させるその赤黒いゴーレムドラゴンは真っ直ぐ私を見つめていた。
「 !!」
それの咆哮と共に耳がイカれた私は目の前に迫る顎に収束された膨大なエネルギーの熱を肌で感じ取る。
あれが放たれれば冒険者ギルドの防御結界をも打ち破るだろう。セレナちゃんのとんでもない才能に震える。
「 ッッ!!」
投擲によってゴーレムドラゴンとの距離を詰めた私は露出している胸部の核に目掛けて縮地を使う。
クライムさんのように一歩で千歩先に行くような長距離移動は出来ない分、精度は私の方が高い。蹴りに交えて縮地を使う足癖の悪さにはドン引きされたっけ。
練習過程で顔面に靴跡を付けられキレ散らかしたクライムさんを思い出しなら私は足元で輝く核に目掛けて渾身の力を込めて踏み砕く。
セレナちゃんの説明通り、繊細すぎて私の力でも十分ダメージが入ったらしく、ドラゴンゴーレムの機能が停止しその巨大が落下を始める。
それにしても……頑張って仕事を限界まで圧縮し、ゼニス様を助けるついでに煌びやかな晩餐会で美味しいご飯とタダ酒を楽しめる最高の夜になるはずだったのに何故私はこんなところでこんな事をしているのだろうか?
まあ第一王女という厄介ごとの塊のような存在がいるのにトニーさんがいるならどうにでもなると大船に乗った気でいたのがよくなかった。あそこで手を打っていればこんな事にはならなかった。私の怠慢が原因だ。
私は眼下に迫る冒険者ギルド支部の屋上にいるセレナちゃんのそばに縮地で飛ぶ。流石にあの高さから落ちたら死ぬからね。
「先輩、やりましたね!」
「……うん!」
聴力が戻ってきた私に抱きついて来たセレナちゃんに笑顔で頷く……あれ用意したのはセレナちゃんだけどね!
久しぶりに二人でバカしたから色々忘れてテンション上がってるなぁ。
本来天真爛漫なセレナちゃんの素の姿を久しぶりに見て和んでいるとセレナちゃんが私の後を追うように落ちてくるゴーレムを見上げる。
「でもアレはどうするんですか?」
私はフフンと腕を組んで説明する。
「ウチの結界は対物理には特に力入れてるからね。単純な質量なんて余裕で止められるよ」
「……今更ですけどこんな強力な結界どうやって用意して……あ」
「セレナちゃん?」
「……この結界魔法って確かギルド支部の人間なら素通りでしたよね? 私も登録されっぱなしだったから入りたい放題でしたし」
「そうだよ?」
「判定方法は固有魔力ですよね?」
「……そうだよ?」
「アレには私の魔力が混ざってる訳ですが……大丈夫ですか?」
…………?
ッ!?
「…………待って! 止まれ!!」
「ダメなんですね!? ちょっ、先輩! 逃げましょう!! そんな両腕上げたってキャッチ出来ませんよ! ほら早くコッチ!!」
「ヤダァー!! まだ改築して一年ぽっちしか立ってないのにィィィーー!!?」
セレナちゃんの尻尾ゴーレムに捕まった私は引き摺られるようにして彼女と一緒に階段に飛び込んで屋上から逃げる。
次の瞬間、結界を素通りして高高度から落下したドラゴンゴーレムは時計塔をへし折りながら轟音と共に屋上にぶっ刺さる。
吹き飛んだ瓦礫は結界に阻まれ周囲の建物に飛散することはなく、セレナちゃんの魔力を帯びたドラゴンゴーレムの破片が直撃して二つの鐘の音が鳴り響く。
深夜零時、みんなが寝静まったであろう辺境の街に響くそれは今回の一連の事件の終焉と同時にまた冒険者ギルド支部崩壊を知らせる音だった。
深夜のテンションによって二人の奇行がまた一つ増えたお話。




