第二十三話 星空の下、私たちは語り合う
セレナ→フランドール視点
準備もいよいよ大詰めとなり、セレナはついに自身も辺境に足を運ぶ事になる。
万が一にも辺境にいることがフランドールにバレたらきっと彼女は自分を探しに来てくれるという嬉しいけど非常に厄介な存在にどう対処するか?
辺境の街に潜り込む裏ルートはいくつもあるがその全てに彼女の目があると疑ったほうがいい。
なのでセレナは堂々と真正面から辺境に入った。
「あれ? セレナさん?」
「王都に行ったって聞いたけど?」
辺境の街に降り立ったセレナを見かけた顔見知りの冒険者や商人たちに次々と声をかけられる。
そんな彼らから聞かされるフランドールの現状に、原因の一端でありながらセレナは同情するしかなかった。仮に彼女の立場ならセレナは間違いなく死んでいる。
「セレナさんが帰って来たらきっと喜ぶよ」
「いつも一人だもんな」
心が、心が痛い。まだ痛む心があった事にセレナは驚きつつ、更に残酷な嘘をついて心を殺す。
「実は受付嬢に復帰しようと思って……先輩には内緒ですよ?」
そう言うと彼らは進んで協力してくれた。
フランドールを驚かすためのサプライズの品と称してゴーレムの部品を運び込むのも容易かった。
みんなフランドールを好いているからこそ、彼女の後輩であるセレナの言葉を鵜呑みにし、セレナの存在をひた隠ししてくれたおかげでフランドールからの介入の気配はなかった。
笑顔の裏でフランドールが積み上げてきた結果から来る彼らの善意を悪用したセレナはもう自分には生きる価値などないと計画途中に自害しかけた時はいよいよダメかと思ったものだ。
そんな病みながらも黙々と準備を進め、いよいよ王女が行動に移す日、セレナはまず辺境の犯罪グループに横流しした違法ゴーレムを暴走させ、フランドールの関心を街の中に誘導する。
更に暴走させたゴーレムの攻撃はローゼン商会の密輸品倉庫に集中させた。本来そのまま各商会の後ろ暗い品を隠した倉庫を順に破壊していくつもりだったのだが辺境支部でも古株の冒険者であるガルボーたちが付近にいたせいでそれなりに強固に造ったゴーレムが瞬く間に削られていき、更にセレナが受付嬢を辞める前に導入されていた冒険者への周知用の鐘が鳴り、みるみるうちに冒険者たちが集まって来てしまった。
おまけに依頼人を引き連れて現場に現れたフランドールの姿にセレナは目を疑ったが彼女が目立ってくれたおかげでゴーレムを失った犯罪グループは彼女を追った。きっともう助からないだろう。
セレナは念の為、ローゼン商会へと向かうロックに声をかけた。フランドールから受け取ったという記事の原文を細工すれば暗号を仕込めそうだったのでフランドールへのイタズラとサプライズという名目で記事に手を加えさせてもらった。
運がいい事に新人が入ったばかりらしく、ロックを通じて彼女に細工した記事書かせる事でフランドールの思考をいくらか制限出来るはず。
思惑もクソもない、偶然入って来ていた新人による記事の掲載は防げないだろう。フランドールだって化け物ではないのだから。
記事が出回った翌日、胸に矢が刺さったまま受付業務をしている姿を見た時は、化け物かな? と思ったけれど。
命を狙われているにも関わらず普段通りに仕事をする姿にはセレナがかなりの精神的ダメージを受けていると憲兵長のアルムが冒険者ギルドに訪れたのを見て、いよいよ王女来訪の情報がフランドールに伝わるのを覚悟する。
残りの日数では流石に王女たちの目的までには辿り着かないだろう。あとはフランドールよりも先にトニーを倒すだけだ。
セレナはフランドールが冒険者ギルドを離れた隙に支部内に侵入する。
防犯結界を誤魔化すための結界破りをいくつも用意していたが、結界は無条件でセレナを中に通した。
その結果にセレナはフランドールが自分が来る事を読んでいたのでは無いかと本気でビビったが、フランドールゴーレムに着せるための受付嬢の制服を更衣室に取りに行った時に自分の名前が入った収納棚とシワ一つない新品の制服を見た時、彼女が本気でセレナが帰って来た時のための準備をしている事にいよいよ精神が焼き切れるような痛みを感じた。
しかし更衣室の隅に置かれていた血まみれの制服を見つけ、それを手に取り抱きしめながらセレナの目から迷いは消える。
ここに来るまでにもう取り返しのつかない事をして来た。
今更後には引けない。
セレナは目的の品を手にして冒険者ギルド支部を出る。彼女自身の血に濡れた制服はトニーの直感も上手く誤魔化すはずだ。
後はトニーと王女が到着するまでにセレナのコントロール下に無い王女を狙っている勢力を間引き、不測の事態を無くすだけだ。
しかし、フランドールが晩餐会に参加するという不測の事態に加え、領主たちが街に蔓延る不穏分子を一斉検挙した事により一部の小悪党たちが暴走して会場にやって来るという予定にない混沌とした事態に陥るというセレナからしても怒涛の展開に頭を痛めながらもトニーを殺すという最大の目的は果たした。
「あとは先輩に殺してもらえたら、私の計画と人生の幕引きだったんです」
そう言ってセレナは静かに笑った。
◼︎
全て語り終えたのか、セレナちゃんが星空を見上げる。
うん、思っていたよりヤバい話で冷や汗が止まらないんですけど? これまで辞めていった受付嬢たちの中でもトップクラスのやらかしだ。
これが愛の成せる技なら私は愛を知りたく無い。
「最後は登記証を失った事を先輩が責められないようギルド支部を徹底的に破壊して先輩も冒険者ギルドを辞められるように、って思ってたんですけど……」
「待って? そこまでする?」
「……もうしませんよ。ここが廃墟になっても先輩ひ受付業務を辞めなさそうだし」
まあ実際そうなると思う。廃墟を背に受付やってる自分がありありと思い浮かぶのは自分でもちょっと怖いな。
「さ、次は先輩の番ですよ? なんでここまでクソみたいな冒険者ギルドなんかに命かけてるんですか?」
「ん〜〜」
まいった。セレナちゃんの話がヤバ過ぎて私なんかの話は霞んでしまう。大した話でもないし。
まるで朝礼にて完璧なスピーチをした後輩の後でアドリブでスピーチをするダメ先輩になった気分だ。
「私はさ、最初はいろんな人を助けられる冒険者になりたかったの」
「……先輩が冒険者?」
「え、何?」
「いや……パーティーをいくつも壊してそうだなって」
「どういう事!?」
「いえ、深い意味は……でも結局ならなかったんですね」
「一度は冒険者にもなったんだよ? えーと……あったあった」
私は鞄をまさぐって冒険者登録をした時にもらった認識票を取り出す。
「ま、一日だけだったけどね」
「……それ永久追放の刻印打たれてますが……?」
「一日で追放されたから……」
おかげで私はもう冒険者には絶対なれない。なる気もないけど。
「まあそれはどうでもいいの」
「そうですか? めちゃくちゃ気になるんですけど」
「話のコシを折らないの」
コホンとわざとらしく咳をして、話を続ける。
「要は冒険者をやってみてわかったのは冒険者になって助けられるのは目の前の人だけって事。でも受付嬢になったら全員とは言わないけど、いろんなところで困ってる人を助けられる手配ができるでしょう? だから受付嬢になったの。私だけじゃ助けられなくてもいろんな人に頼って、押し付けて、お願いして、一人じゃ出来ない事が出来るから」
「…………」
面接の時を思い出して少々恥ずかしい。絶対今顔が赤いよ……夜でよかった。
チラリとセレナちゃんの様子を伺うと膝に顔を埋めていた。
「え? どしたの?」
「いや……自分の志望動機が恥ずかしくて……」
そういえばセレナちゃんは元々マリーさんみたくイケメン冒険者とワンチャン狙った婚活勢だった。
でもそれだって立派な志望動機だ。
「まあそれはそれでいいじゃん。働く理由なんて人それぞれだよ」
「……それにしたって、冒険者ギルドからの扱いには怒るべきです」
「まあ、それはほら、お互い様だし」
「?」
キョトンとしたセレナちゃんの前で私は鞄から書類を引っ張り出し、扇子のように拡げるとセレナちゃんが息を飲む。
「そ、それ……登記証? 何でこんなに……まさか、偽造?」
「正解! ちなみにセレナちゃんが破いたのも偽物だよ」
ちなみに私は他にも複製禁止の書類をいくつも用意していたので前任のギルマスが持ち去った書類関係の大半が私が差し替えておいた偽物だ。それで悪さをしようとしたらきっと痛い目を見るだろう。
そんな偽物とはいえ登記証を破いたところを覗き見されたから仕方なくセレナちゃんを粛清するフリをしたが自然な形に誘導して上手く幽々海月を潰せたのはラッキーだ。
もしギルドからその後の事で問い詰められても、そもそもギルド内でも違法な諜報を行っていた向こうの非は大きい。
というか幽々海月を送り込んでくる時間は大体私がギルド支部のお風呂に入る時だからね。極秘裏の調査という言い訳を使えるなら使ってみて欲しい。
ここを突けば登記証の偽造くらい黙認してくれるだろう。
「とまあこれで私がセレナちゃんを粛清する理由はなくなった訳」
「……私が本気で先輩を殺す気がないって事も最初からお見通しだったって事ですか」
「……もちろん」
いや、ちょっと怖かったよ? 積年の恨みを持たれてもおかしくないくらいには残業してもらってたし。殺気なんて感じるセンスもないし。
もし今回の事件全てが私への復讐が理由だったらきっと泣いたに違いない。
「セレナちゃん、流石にもう何も企んでないよね?」
「そりゃ、ここで死ぬつもりでしたし……あ」
刻印が刻まれた手の甲を見たセレナちゃんが息を飲む。その表情に私はとても見覚えがあった。
これは仕事のミスを見つけて誤魔化そうとしている顔だ。
私はそんなセレナちゃんの両頬を両手で挟む。
「報告しよ?」
「……ハイ」
セレナちゃんの目が死んだ。懐かしい。この流れで一体何度残業をこなして来ただろうか……。
「……残ってたゴーレムの制御まで外れちゃってました」
「……制御が外れるとどうなるの?」
「……ああなります」
そう言ってセレナちゃんが夜空を指差す。
煌びやかな星空が広がる中、冒険者ギルド支部の真上に赤く光る星があった。
しっとりとした最終回っぽいタイトルから繰り出される不正とやらかしのオンパレード。
ついに十万字を突破。大体ラノベ一冊分を書き切れたのも日々読んでくださる皆様のおかげです!
一章も残すところ後少し。
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引き続きよろしくお願いします!




