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第二十二話 黒幕のワンオペレーション

途中からセレナ視点になります。

 

 あれだけ暴れていた尻尾は死ぬほど驚いた拍子にセレナちゃんの制御から離れたのか、その形状が崩れ辺りに飛散する中、ひび割れた床から足を引っこ抜く。

 まだジンジンしている足のつま先で軽く床を叩くと私は涙目で倒れているセレナちゃんに笑いかけた。


「びっくりした?」

「あ、ぇ?」


 私はセレナちゃんの腕を掴んで身体を引き起こす。

 

「ごめんね、コイツがいるのに気付いてセレナちゃんを本気で殺すフリをしなきゃいけなくなっちゃって」

「?」


 私が踏み抜いた床にあるソレを掴む。ぶよぶよと触感をしたソレは無色透明の物質だ。


「……まさか幽々海月(ゴースティング)ですか!?」

「正解!」


 セレナちゃんの回答に笑顔で答える。

 幽々海月は昔流行った諜報を目的とした使い魔で、見ての通り無色透明かつ空気中の魔力を利用して浮かぶ様に移動する。

 大抵の法治国家では単純所持でも投獄は免れず、使用しようものなら極刑も適応されるという禁忌指定された代物。当然この国でもアウトだ。

 だが国に所属しない冒険者ギルドの施設内では特定条件下で使用を許されているというプライバシー侵害待ったなしの最低最悪の覗き魔だ。

 そんな幽々海月の残骸を目にしたセレナちゃんの表情はみるみる内に青ざめ、ブチキレた。


「まだ先輩を疑ってるんですか本部は!? クソ! マジでクソ!! 死ね! そっちから殺せばよかった!」

「まあまあセレナちゃん落ち着いて」


 私から幽々海月の残骸をひったくると勢いよく地面に叩き付けた。イマジナリーセレナちゃんより迫力がある。流石本物だ。


「先輩こそ平然とし過ぎです! 頭大丈夫ですか!? 何でここまでされて! 疑われて! 受付嬢なんて続けてるんですか!?」


 怒ってくれるのは嬉しいがそこで私の頭を疑わないで欲しい。

 でもまあやっぱり普通はこういう反応になるだろう。

 前任ギルドマスターが冒険者ギルドの重要文書や機密情報、保管していた希少アイテム等や封印された呪物などを持ち去って蒸発という冒険者ギルドが独立して以来、最大級のやらかしをしたギルドマスターに次いで辺境支部の古株になっていた私は当然関与を疑われた。

 受付嬢は全員、特に私は徹底的に調べられ、一応シロとなったが蒸発したギルドマスターが再び現れる可能性を考慮して、ギルド本部は幽々海月を使って私と辺境支部の監視を実施する事を同意させ、約半年もの間四六時中監視されていた。

 私としては痛くもない腹を探られても何の問題もない。ギルドマスター蒸発前と後で逆に業績を伸ばし、冒険者ギルドに貢献し続けた事でなんとか疑いは晴れて幽々海月は回収されたのだが……実は今でもある時間帯を狙って幽々海月による監視を私にも秘匿して継続されていた。

 まあかなり早い段階で気付いていたけど無実を証明出来るからと泳がせていたのだが、今日はよりにもよってセレナちゃんが登記証を破り捨てるという言い訳不可のやらかしを見られていたので粛清するフリをしながら偶然を装って幽々海月を破壊してやったのである。

 ちなみにコレ一つを作るには青薔薇ランチを毎日のように楽しめるくらい桁外れな金と時間が必要なので送り込んだ人は今頃生きた心地はしてないだろう。

 というかそもそも回収を謳っておいて密かに残して監視を続けるというやり口はギルド内でも相当揉める。私の味方を増やすチャンスかもしれない。

 そんな今後の動きを考えたが一度頭の隅に追いやってセレナちゃんの隣に座って星を眺める。


「受付嬢をなんで続けるかかぁ……教えてあげる代わりに聞かせてくれる? ……セレナちゃんは本当にただトニーさんが憎くて今回の事件を引き起こしたの?」

「……」


 セレナちゃんが私の手を握る。私もその手を握り返すと彼女は今回の事件について、その経緯を語り出した。



◼︎



 セレナが王都でトニーに別れを告げられた日は彼女にとって、まさに人生のドン底であった。

 トニーが目立ちすぎないよう気を遣って抑えた強さですら瞬く間に王都ギルドのトップクラスに至り、その強さと容姿に群がる女たちにトニーを取られるのではというセレナの不安がまさに現実となってしまった。

 だがそれだけなら踏みとどまれた。セレナのタガが外れたのはトニーが第一王女ルイナスの計画に加担した事を知ったからだ。


 その計画とは辺境の領土を王国から完全に独立させ、ルイナスが支配する国を興すというとんでもない目論見だった。

 次期王として継承するのに十二分に芽があるルイナスが何故このような凶行に走ったかはわからない。

 しかしこんな独立戦争が起これば各国との均衡は崩れ、戦争になるだろう。

 そもそもいくら王女とはいえそれだけの事をするには力が足りないはずなのだがトニー・フォーマルハウトは一人で国を滅ぼせる存在だ。

 事実すでにルイナスを止めようとした他の王族や貴族の刺客は彼によって倒されていた。

 トニーの行動はすでに冒険者ギルドの定めた規定を逸脱している。その時点でギルドは嗅ぎ付けていないが時間の問題だろう。

 セレナはその瞬間、トニーの殺害を決意した。自分を捨ててこんな事に加担した事よりも、トニーへの粛清に動かされるのは間違いなく彼をよく知るフランドールだからである。


 そしてフランドールなら、トニーを殺せるということをセレナはわかっていた。


 だけどフランドールにトニーを殺させるなんて事をセレナが容認出来るはずがなかった。


 だったら私が殺して、私も死ぬ。


 フランドールを見捨てて幸せを夢見た自分への罰として愛した男を殺し、最愛の先輩を裏切った女として死んでやる。


 セレナの思考はもはやぐちゃぐちゃになってフランドールがそんな事を望むはずもないという事すら気付きもしなかった。



 ともあれやると決めたら行動が早いのがセレナである。トニーを殺すためにフランドールの外見だけは悪用する事に心は死んでいったがそれが確実なのだから仕方ない。


 問題はこれを決行するためには難題が多すぎた。


 まずトニーの警戒心からして王都にフランドールが現れたら絶対疑う。フランドールが現れてもおかしくない場所……辺境でやるのが望ましい。

 次にゴーレムの材料の調達だ。ゴーレムクラフトを学び始めて間もない拙い知識でも核の作成に必要な魔鉱石などを単なる一般人が仕入れたらまず足がつく事はわかったし、そもそも希少な品だ。

 これらの問題に頭を悩ますセレナだったが最初の問題は王女自ら辺境に行くという情報を得て解決した。勝手に死地に向かうならタイミングさえ合わせればいい。

 次に材料の調達だがこれは皮肉な事にフランドールの顔が役に立った。

 材料調達に裏に潜ったところ、王都の裏社会を取り仕切る三つの組織の内二つがフランドールの知り合いだったのである。

 彼女の後輩と知った彼らのサポートは手厚かった。手に入らないと思っていた材料や情報が湯水のように溢れ、その見返りも求められすらしなかった。


 ……あの人何をやったらこんなツテを手にできるんだろうか?

 ちなみに残りの一つは蛇蝎の如くフランドールを嫌っているらしい。名前を口にするのも組織で禁じられているとか……いやだから何やったのあの人。


 まあそれはさておき協力してくれた組織から切り捨てたい人材や金で雇える人材、小規模な犯罪グループの頭をセレナにすげ替える事で自由に使える手駒を手に入れ、セレナの計画はフランドールのおかげで着々と進んだ。


 たがここからが難航した。


 ルイナスが辺境に向かう半年前から秘密裏に辺境に資材や人員を送り込み準備を進めていたのだが、片っ端から辺境の冒険者たちに潰されていったのである。

 潜入させた連中にはそれぞれ横の繋がりは無く、目的を伝えてないからただの小悪党と思われてフランドールに計画はバレていないと思っていたが、その後人員わ七つの班に分けて送り出し……七つとも即壊滅した。

 何なら後一歩手を打つのが遅ければセレナの尻尾を掴みかけるところまでフランドールの手が回っていたのである。


 はっきり言ってめちゃくちゃ怖かった。


 ここに来てセレナはまずはフランドールのキャパシティを圧迫する方針に切り替えた。

 辺境からの街道にモンスターや野盗に擬装したゴーレムを多数送り込んで商会ギルドが冒険者の護衛を必ず付けるよう意識を誘導させる。

 同様に各地の農村をゴブリンに似せたゴーレムで姿を見せて討伐依頼を投げさせたり。受付嬢だった頃の知識と記憶をフル動員し、依頼人が冒険者ギルドに何があったら依頼しにくるかを再現させる。

 無論それで増えた依頼は元々の一割二割程度だが、そもそも辺境の領土は肥沃な大地で人の手が入っていない森や山などが多いためモンスターはすぐに湧くし、辺境の街道警備は手薄という犯罪者たちの共通認識から辺境を行き来する商人を襲う事例は多かった。

 フランドールの受付業務量を常時一割から二割引き上げるだけでそれに付随する書類仕事もねずみ算式に増えていく。


 普通の受付嬢ならとっくに音を上げて辞めるであろう仕事量。

 しかしそれでもなおギルドは円滑に回っていた……どう考えても回ってはいけないはずなのに。

 だが流石に余分な事に手を回す暇がなくなって来たのか追加で送り込んだ資材や人員の一割くらいが辺境に辿り着いた。残りの九割は相変わらず壊滅したが。


 こうして最初は二百名近くいた手駒は計画十日前には二十名弱まで減った。だが有象無象の中ではそれなりに統率が取れ、腕の立つ連中だった。

 彼らは晩餐会が開かれるであろう会場に潜り込ませる予定だった。彼らにフランドールゴーレムを人質にさせるという方法を取らせ、トニーの行動に制限をかけて不意を突く。

 

なお直前になって全員捕まるという事態にセレナは頭を抱えながら即興で襲撃用ゴーレムを拵えるハメになったセレナはここから更に何日も眠れない日々が続くのだった。


後輩の努力を片っ端から潰す先輩

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― 新着の感想 ―
 前任ギルドマスターのやらかし、ってのがちと気になりますな。金銭目当てなら希少アイテムと特級呪物だけ持ち逃げればいい。情報目的なら重要書類と機密文書だけ持ち去ればいい。単独逃亡なら持ち去るものは厳選す…
セレナさん、不安定な精神状態ですらこんなハードスケジュールなマルチタスクを易々とこなせる貴女にうってつけの仕事があるんですよ! もうね、二人だけでも国の運営も出来るくらいの逸材ですわここのフランとセ…
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