第二十話 閃光の晩餐会⑤
会場視点のお話
トニー・フォーマルハウトには生まれながらある才能があった。
スキルと呼ばれる魔法のような大多数の人間が習得が可能な力とは異なり、その単一個体しか持ち得ないとされる異能力である。
トニーは自らの身体を輝かせるという夜道に便利な地味な力を持っていた。それが本人と周りの共通認識であった。
だがトニーは自らが発光している間、あらゆるものに対して自身を任意に透過出来る事に気がついた。相手の物理的攻撃や魔法を一切受け付けないその力はまさに無敵と言える力だった。
そんな無敵の力が最強となったキッカケはトニーが冒険者登録に訪れた時に対応してくれた受付嬢フランドールだった。
「自分が光になれるなら相手も光に変えれたら最強ですね! 一撃ですよ一撃!」
それがトニーが力を覚醒させる一言だった。
トニーは理屈も原理もわからないまま自らの光を浴びた対象に干渉し、その身体を光に変換する術を得た。
結果、光を通してしまうならあらゆる防御魔法も無意味となり、トニーのスキルはただ光り輝くだけであらゆるものを光の粒子に変え、消し去る力となった。
それは一歩間違えれば世界を滅ぼす。そんな力を一個人が得たとなれば周囲は恐怖に包まれるだろう。
そんな世界滅亡クラスの力を目覚めさせたキッカケとなったフランドールは呑気にトニーを褒め称えた。
「トニーさん最強! トニーさん最強! そんなトニーさんにまた依頼があるんですが!」
だがその呑気さがトニーという逸脱した力を得た怪物を人のままにしていた。
力に溺れかけたトニーがふと漏らした世界すら征服出来る……なんてセリフを一笑に伏し、トニーさん子供っぽい夢を語りますね、なんて言われたら確かに力任せに思い通りに事を進めようとするのは子供っぽい、と思い直させた。
そうしてトニーが道を踏み外さず一般的価値観のまま人の道を歩く最後の一押しとなったのが、フランドールが何故かギルドマスター代理になった年の事だ。
蒸発したギルドマスターのやらかしの責任と幇助していたという疑いを一方的に押し付けられた彼女はそんな連中を一掃出来るトニーには何も言わず、黙々と仕事の成果で疑いを晴らす道を選んだの見てトニーは心に決めた。
彼女の側で一生尽くし、守ると赤帝竜の首を贈ると共に告げて秒でフラれた時に彼女からしてみれば自分は他の冒険者と平等に扱われているただの人間だとわからされたのである。
そんな傷心状態の時にセレナに言い寄られて靡いたトニーを誰が責められるだろうか。
トニーはセレナと付き合いながら赤帝竜をも倒した冒険者が彼女の元にいる事をギルドから危険視されているという噂を耳にし、これ以上余計な疑いを持たれないようそれらしい理由を付けて辺境を離れる事にした。
ただセレナがフランドールを置いてついて来るとは想定外だった。
憎からず思っていたセレナが自分を選んでくれたのは嬉しかったのは間違いない。だが結果的にフランドール、そしてセレナが苦しむという最悪の流れになってしまった。
「ごめんなさい。ごめんなさい。置いて行ってごめんなさい」
セレナは夜眠ると決まって悪夢を見ていた……フランドールを置いて行った罪悪感に苛まれていたのだ。
おまけに昼間は昼間で働かなくても生活に支障がない暮らしに働いてない方が珍しい生活を何年もしてきたセレナは放っておけばいつまでも虚空を眺め、しかも本人には全く自覚がないと来た。
時折ここにはいないフランドールに話しかける様子を何度か見かけた時は正直めちゃくちゃ怖かった。
トニーはこの時、セレナを突き放して彼女がフランドールの元に帰れるキッカケを作るのではなく、フランドールへの罪悪感を消し飛ばすほどにセレナを愛するべきだった。
それが出来なかったのも、後にルイナスの目的を聞き、それに加担し彼女の婚約者になったのも全てはフランドールに未練が残っていたせいだろう。
「ふら、ん……?」
トニーの口から赤い血が零れ落ちる
怪我をしたように見えたフランドールに触れるためにスキルを解除していたトニーの僅かな隙を狙われ、彼の心臓はフランドールの腕に胸を貫かれた際に抜き取られ、その手の内で鼓動を続けていた。
「トニー!!!!」
二人の元に駆け寄ろうとしていたルイナスが叫ぶ。そんな彼女に向かってフランドールはトニーの身体を蹴り飛ばした。
「ぐっ、あっ!?」
それを受け止めようとしたルイナスが勢いを殺しきれず二人纏めて地面に転がる。そんな二人、正確にはもはや絶命は免れないトニーに襲いかかったフランドールの振り上げた脚を受け止めたのは間に割って入ったモニカだった。
ドレスのスカートを破り、露出した脚に巻いていた鞘から抜いた短剣で防いだモニカはその感触から目の前の存在が何なのか気づく。
「まさか、ゴーレム!?」
ゴーレムとは先のような岩石を組み合わせたような姿が主流である。ここまで人に似せた精巧な人型を人間のように動かそうと思ったらゴーレムの核となる魔鉱石の選定から全身に走らせる魔力路の精密さは常軌を逸したものになっていることだろう。
モニカに攻撃を止められたフランドールゴーレムは後方に下がる。
先の一撃を正面から止められたということはこのゴーレムの出力はさほど高くはないとモニカは自身の力量からゴーレムの強さを推察する。
先の一撃を止めた短剣とは異なり刀身が三日月の様に曲がった短剣をドレス内から抜き取り左手に構える。ドレスがはだけえらい事になってしまったがそんな事に構う暇もなく、ゴーレムがその長い髪を翻して突貫してくる。
見れば見るほどフランドールと瓜二つの顔にモニカが怯む。ここまで造形を似せようと思ったらどれだけ観察が必要になるのか。製作者の執念というか異常なこだわりがフランドールを知るからこそ伝わって来る。
ゴーレムの拳をモニカは曲刀で受け流し、右手の短剣でゴーレムの首を狙う。
見知った顔を斬りつけるというのは抵抗を覚えるものだ。以前モニカは五級に昇級する際の面接でフランドールから問われた事がある。
人の姿を真似るモンスターと戦える自信はあるかと、その時は正直にわからないと答えた。
ただ今なら言える。その人が絶対にしないであろう行動を取りその尊厳を踏みにじる偽物を斬ることに躊躇いはない。
「は、あぁぁ!」
モニカの一撃がフランドールゴーレムの首を飛ばす。
その一撃にはモニカがフランドールに対する敬意、そしてほんの僅かではあるが今回の晩餐会に家名を名乗っての参加という無茶振りに対しての不満がこもっていた。
「レバレッジ様!」
「ッ!」
領主ゼニスの秘書であり、魔法使いとしてサーティン家に仕えるミランダの呼び方に反応し、モニカは咄嗟に後ろに下がる。
そう、ゴーレムだからこそ首が落ちたくらいでは止まらない。首なしの受付嬢がぐるりとモニカに身体を向けて伸ばした腕をアルムが長剣を振り上げ宙に斬り飛ばす。
「ミランダ!」
「わかっています」
ミランダはフランドールに似たゴーレムを撃つことに躊躇いはあった。しかしサーティン家の従者としての責務を果たさんとその手から放たれた魔力のこもった光弾がゴーレムの左胸を穿つ。
ミランダがゴーレムを見て感じた違和感、フランドールの胸はもう少し慎ましいという観察眼から導き出したのが左胸にゴーレムの核が埋められているという答えだった。そしてそれは見事に的中していた。
「私にギルマスを撃たせるなんて……許さない、絶対犯人を突き止めてこのゴーレムの造り方を洗いざらい吐かせてやる……」
「お前目的変わってないか? しかし……」
邪魔にならないように会場に集まって来た憲兵の後ろに控えていたゼニスはその有り様に絶句する。
いや、会場が壊れたのはこの際どうでもいい。幸い来賓には怪我は無かった。
だが、胸を穿たれ倒れ伏したトニーに縋り付くルイナスの姿にゼニスは先代を失った時の自分を重ねる。
「トニー……頼む、死ぬな……私には、もうあなたしか……」
会場に姿を見せた時の高慢さは見る影もなく、ゼニスよりも小さく見えるその背中にどう話しかけたものかと悩むゼニスの視界の端に、ソレは入ってきた。
「なっ!?」
ミランダの光弾によって核が破壊されたはずのフランドールゴーレムの身体が起き上がり、その胸を晒す。
穿たれた穴とは反対の胸に輝く青白い光の玉。それがゴーレムの常識から外れた二つ目の核だという答えに辿り着く前に、会場が閃光に包まれた。
フランドールの肖像権は何処へ……




