第三話 帆船暮らし
「なあこの帆船はどこからサルベージしてきた? さっき探索してきたら骨とか見つかったんだけど!」
「……掃除が行き届いてないですね」
出所不明の帆船内を探検して船内食堂に戻って来たゼニス様からの報告を聞いて私は眉を顰める。
船内での暮らしは閉所だからこそ衛生管理は大事だ。クラーケさん達掃除をサボってるな。今度魔の海まで足を伸ばしてみようか?
「そういう問題ではないが? というか金銀財宝まであるのが怖いんだけど?」
ジャラリと煌びやかな宝石類が机に置かれる。クラーケさんはこういう物に興味はないが、だからといって無償で渡すような人でもない。遠回しにプレゼントしてくれたのかも。
「……すごいな、これほどの上物はなかなかない」
机に置かれた宝石を手にしたラウさんが鑑定してくれる。
「いくら上物でも使う場所がないと正に宝の持ち腐れですねぇ」
他所の街で換金は出来るしそこでの仕入れには使えるけどこの最果てで貨幣取引が出来るようになるのはまだまだ先だろうし?
「そう言うなら今懐にしまった宝石を出せ」
「全く迷わずしまったなギルマス」
「お金のいらない原始的生活においてもこういう品を愛でる感性を失ってはいけませんから」
「原始的言うな……いや否定出来ないけども」
「今は不用でもいずれこの最果てでも経済を回すようになる。これらの扱いは平等にいこう」
「おっさん、八割くらいに分けて持っていくな」
ラウさんから宝石を取り返すゼニス様の姿を見ていると音を立ててモニカさんが入って来る。
元貴族のご令嬢らしくない乱暴な足取り……え、何か怒ってる?
「アレの臭いがします!」
「アレ?」
「あれ?」
「烏賊鮫ですよ烏賊鮫! アイツの臭いが船についてます! どっかに隠れてるかも!」
モニカさんが腰に佩いた剣をカチカチ鳴らす。威嚇か何かだろうか?
「落ち着けモニカ、ここは陸上だぞ?」
「陸上な上街のど真ん中に現れたモンスターですよ!? 油断は出来ません!」
め、目が据わってる。どれだけ烏賊鮫に恨みを。
そのまま船内の探索にモニカさんが戻って行くのを見送った私は残った二人と財宝を見比べながらこれの使い道を話し合う。今見た元令嬢の姿は見なかった事にしよう。
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「まるで意味がわからん」
「え?」
深夜持ち込まれた書類の中身を精査していたら何とも呆れたような顔でシュピールくんが言い放つ。
「ちょっと目を離した隙に家が帆船になってるからですか?」
「それはそう……いやそれだけじゃないけど」
私の執務室に模様替えした帆船内にある部屋の内の一つに居座るシュピールくんが長椅子に腰掛けて私を見る。
「ここまでして冒険者ギルドで働いてる事がだよ……」
「?」
「キョトンとするなよ」
私が作った夜食を頬張りながらシュピールくんが話を続ける。
「他の支部で聞いたぞ。本部襲撃の責任で減給に一部役職を外されたんだろ? お前が責任取る事か?」
まあ、私が襲撃を示唆した訳だからバレてたらその程度では済まなかったけども。
「そもそも冒険者ギルドなんかで働かなくてもお前には力も財もあるだろ。非難されてまで続ける意味あんの? こんなボロ船に住みながらさ」
「んー」
シュピールくんの問いに書類に伸ばした手を止める。
「私はですね、見ての通り誰かの助けになれたらを信条に受付嬢の仕事を選びました」
「……うん?」
「何故疑問系? ……ほら、この報告書にもモンスター討伐の感謝が綴られてます。こんなにやりがいのある仕事はそうありませんから」
「……その冒険者ギルドにも問題があってもか?」
「まあ人が作る組織ですから一枚岩とはいかないですし……」
確かに冒険者ギルドには問題も多い。現体制では取りこぼしている人々の命もあるだろう。
私が叙事詩の主人公ならこういった問題を解決する超パワーを発揮するのだろうがあいにく非力な人間である。
一から組織を作るセンスも器量も無いから既存の組織で最も効率よく沢山の人たちの役に立てるやりがいのある冒険者ギルドを選んだ。
腐敗は進んでいたが人間はそういうものだと割り切っているから大して気にもしなかったし。
「清廉潔白な人も組織もありませんよ。というかそんなの逆に怖くないですか?」
クラーケさんが笑顔で私に話しかけて来るようなものだ。超怖い。
「一応お前は清廉潔白品行方正な受付嬢で通ってるだろ」
「まあ、確かに私はほぼ完璧な受付嬢ですし?」
だがマリスさんという私に無い個性で更なる人気を博したのならまだまだ完璧にはほど遠かったという事だ。
「……隙を見せたほうが、いいんですかね?」
「……」
シュピールくんが黙ってしまった。変なこと言ったかな?
空気を変える意味でも私はちょっと話題を変える。
「そういえばシュピールくん、コッチに付き合ってもらって良かったんですか?」
シュピールくんの力は厄災会議の前と後では目も当てられない弱体ぶりだ。
呪物の影響で一度空っぽになった力を回復させるには自然回復か強引に回復するしかないらしく普通に回復するなら向こう百年はかかるらしい。気が遠くなるね。
ただ、より魔力が濃い場所で過ごせば十年に短縮出来るらしくその場所の一つを深淵メンバーが仮拠点にしている。
私はシュピールくんにソレを提案したがあっさり断られた。
やはり無償の善行というのは疑われるようだ。家賃でも請求したら気が変わるかな?
「べつに、百年くらいのんびりしながら面倒見てやるよ」
そう言ってそっぽを向いてしまった。
……あれ? 私が面倒見られる側?
「じゃあお言葉に甘えて今日の料理当番はシュピールくんよろしくお願いします」
「悪いけどゼニスとモニカから台所は出禁を食らってるから後はよろしく」
「ちょっ」
シュッ、と部屋から姿を消してしまう。出禁って何をしたらそうなるんだ?
「仕方ない、じゃあラウさんにお願いしてみよう」
高級店をいくつも経営していた人だ。きっと最果ての食材を活かした最強のフルコースを出してくれるに違いない。
そんな私のワクワク感はテーブルに並んだザ・男メシによって打ち砕かれ、シュピールくんに続いて出禁メンバーにラウさんの名が連なるのだった。
舌は肥えても作り出す技術はまた別物。
モニカ→フラン→→ゼニス→超えられない壁→出禁男




