第二話 目的
お手製ログハウスに入るや否や、クラーケさんが口を開く。
「で、キサマの仮説は正しかったのかァ?」
「やだなクラーケさん。いきなり本題じゃなくてまずは世間話からでも……はい、話進めます」
まずは雑談でもしようと思ってたらクラーケさんが睨んで来たのでさっさと本題に入る。
「彼女たちの目的は魔王オブリビオンさんの復活です」
「……其奴らはアホなのか?」
魔王オブリビオン。かつてアルカディア大陸全土を支配しようとした変わり者の魔王。
厄災会議が発足される以前の時代において、まさしく最強最悪の魔人である。いや、会った事もないから一方的にそう評価するのは心苦しいんだけれども。周りから聞いた話をまとめるとそうなる。
少なくとも盟主様を筆頭に深淵の皆さんはかの魔王をクソだと言い、オブリビオンさんの復活を仄めかしたらクラーケさんが飛んで来るくらいには警戒されている人だ。
歴史上では魔王オブリビオンは冒険者ギルドを筆頭に各国の英雄豪傑たちに討たれた事になっているが、その裏では盟主様やクラーケさんをはじめとした魔人たちも相当動いていたらしい。
そんな厄介な魔王を復活させるというのは一体どういう思考回路なのか気になるところだ。破滅願望持ち?
「でもなんで魔王の復活が目的ってわかったの?」
ログハウスにある丸太を切って作った長椅子に座るオルカさんの問いかけに対して私は印をつけた地図を見せる。
「この印はオブリビオンさんの封印に使った呪物が保管された冒険者ギルド支部です。これもその一つですね」
私はテーブルの上に黒い球体を置く。それは以前シュピールくんを核として顕現した三首さんだ……勾配が水平でないせいかゴロゴロ転がって床に落ちる。
「あ、すみません」
落ちた球体を拾い上げる。そこからなんとも表現し難い怒りの感情が伝わってくる。
「この状態でも痛みってあるんです? え? そういう問題ではない?」
「……魔人殺しかァ」
クラーケさんが私が手にした三首さんを睨むと手のひらで三首さんが振動する。
恐怖か憤怒によるものか、それを私は肩に押し当てる……おお、肩こりが和らぐ。
「魔人殺しって封印魔法の礎にもなるらしいんですよ。知ってました?」
「それをマッサージに使うのはどうなの?」
オルカさんの問いかけに返答しようとしたらクラーケさんが割り込んでくる。
「で、その魔人殺しを使って今度は封印を解く気かァ?」
「使うというよりは呪物を破壊もしくは弱体化させて封印を弱めるつもりらしくて」
その一つである三首さんは私たちによってその力がほとんど無い。今やひたすら文句と振動を引き起こす球体である。
「私もまんまと呪物の弱体化に貢献させられましたよ」
手当てとかでないかな? 相場はいくらになるだろうか。
「なら全て済む前に彼奴らを消してやろう。居場所は掴んでいるんだろォ?」
クラーケさんの周りからひんやりとした空気が流れる。三首さんはさらに激しく揺れてクラーケさんを威嚇しているがドラゴンを威嚇する小型犬のようでなんとも微笑ましい。
そんな三首さんを懐にしまって私はクラーケさんにキッパリと言う。
「あ、そっちは私が担当しますからクラーケさんには手を出して欲しくなくて」
「……何?」
「だってクラーケさんだと殺しちゃいますし」
「何が問題だ」
「全部ですが?」
「なら、なんでタコ野郎、呼んだ?」
これそのまま返事したら私がクラーケさんに怒られるやつぅ。笑顔でスルーしよ。
「今回の件は私の元上司や同僚が引き起こした事ですし、彼女たちとは私が話をつけます。ただ厄介なのがアカシャさんでして」
「……何故彼奴の名が出る?」
「多分アカシャさん、アッチについてるんですよね」
「…………」
うねうねしていたクラーケさんの触手が止まる。
「何故そう思う?」
「だってアカシャさんってすごいじゃないですか。目とやらであらゆる情報を入手してるんですよ? だからどれだけ上手くやってもアカシャさんには魔王復活の準備は隠しきれないと思うんですよ」
「つまり知っていた上で黙っていると?」
「はい、静観してるって事は魔王復活に同意してるのかな、って」
人間同士のいざこざならスルーするのがアカシャさんだが魔王オブリビオンさん復活なんて魔人たちにも多大な影響が出る。
厄災会議には必ず出て魔人たちの活動を抑えてきた仕切り屋のアカシャさんが味方なら緊急で厄災会議を開き、私の業務を圧迫したに違いない。
いや、静観してるだけかもしれないけど。
「アカシャさんがズボラで面倒くさがりな魔人なら見落としかもしれませんがかなり几帳面ですからね」
あの蔵書の山を完璧に整理している辺り病的だ。私でももうちょっと手を抜く。
でもあの几帳面さは是非手元に置いておきたい人材だ。
「……受付嬢とかやってくんないかな?」
「魔人をなんだと思っているぅ?」
「あばばぼぼぼべぇ」
顔の周りがまるで水に浸かったかのような錯覚に陥る……いや錯覚じゃないわ。冷たいし。
「私の目の前で代行に手を出す……死にたい?」
「おぼぶ」
私は手を使ってテトラさんにアピールする。
コレは単なるスキンシップだと。
「わかった。今タコを始末する」
「ぶっ!?」
全く伝わってなかった!
◼︎
「ええぇ……」
「なんですかこれは」
「あ、おかえりなさいお二人とも」
夕方、仕事を終えたゼニス様とモニカさんが戻って来て私がいる甲板を見上げている。
「どうです? 新しい家は」
「家っていうか船ですよね?」
「これが船……初めて見た……いやそうじゃないわ! なんだコレは!?」
美味しそうな果実や山菜、どう見ても毒っぽいきのこまてかき集めて来たゼニス様が地団駄を踏む。
「何がどうなったら半日くらいでログハウスが帆船になるんだ!」
ぐうの音も出ない正論である。
端的に言えばテトラさんとクラーケさんが戯れ合った結果、私が丹精込めて作り上げたログハウスが木っ端微塵に消し飛んだ。
この帆船は家を失った私がクラーケさんに無理を言って魔の海を航行していた艦隊の一隻を仮住まいとして借りた物件である。
「陸にある帆船っていうのも乙なものでしょう?」
「今後の私たちの行く末を暗示しているようで不吉ですよ……要は座礁じゃないですか」
モニカさん中々上手いことをおっしゃる。
「で、あのおじさんはなーにをやってるんですか」
「なあ帆船が陸にある事はこのままスルーか? 割ととんでもない状況だぞ?」
そんな会話をしながら帆船の側面にかけた梯子を登って来たゼニス様とモニカさん。
モニカさんの指差す先には操舵輪を握りしめたラウさんが夕陽が沈む地平線を見つめている。
「海は男のロマン……らしいですよ」
あの人ログハウスが帆船になってるのに何のツッコミもしないままあそこを陣取ったんだよね。
「ラウさんもモニカさんに似て商会という場所に縛られていたわけですから……今は好きにさせてあげましょう。大海原はきっとラウさんに少年の心を取り戻してくれます」
「え、私同じ括りですか?」
「そもそも大海原じゃなくて陸だろ? お前ら全員幻覚きのこでも食べた?」
「幻覚きのこを食べたらここを大海原と認識する程度ではすみませんよ?」
「……食ったの? 食った事あんの? 第一級の超危険な毒物だぞ?」
「飢えたら人は何でも食べるものですよ。でもゼニス様が頑張って集めてくれてますからこの最果てでは飢えずに済みますね」
ゼニス様の抱えた籠を見て笑みを浮かべるとゼニス様は何とも表現し難い笑みを浮かべていた。
ついに暴かれる黒幕たちの目的……?
フランドールは果たして黒幕を止めることは出来るのか。




