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魔女と呼ばれる私、癒しの花を咲かせます  作者: しぃ太郎
第三章 小さな蕾と灰色

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第38話 キアンの瞳が私を離さない


 東の空が白み始め、キアンの後ろにひときわ輝く星があった。

 彼の輪郭が浮かび上がり、金褐色の髪は優しく照らされた。


 あぁ。やっぱり彼は――。


 私を『ルミア』だなんて――光だなんて言って、この名前をくれたけれど、キアンのほうがよく似合う。


「一緒に逃げよう」


 私は首を振った。


「そんなこと、もう言わないで」

「ルミア、俺は本気だよ」


 私の両手を包み込む彼の声は、いつもよりほんの少し低い。

 ――そんなこと、言われなくてもわかるよ。

 何年の付き合いだと思ってるの?

 声だけでも、その視線だけでもわかっちゃうんだよ。


 キアンはきっと私のために全てを捨てる覚悟をしている。

 でも。

 私は彼から、奪うだけの女になんてなりたくなかった。


「キアンはお日様なんだよ。……暗い所は似合わない」

「今は、信じられないかもしれないけど……。俺はずっと伝えていたよ。お前から絶対に離れない」


 また少しだけ彼の声が低くなった。

 怒らせてしまったかな。

 私は宥めるように、彼の名前を呼んだ。


「キアン」


 その瞬間。

 両肩を掴まれ、彼は私の顔を覗き込んだ。

 驚きで、動けなかった。


「信じられないなら……俺の瞳に映った自分を見てみろ。琥珀に混じって朝焼けの色だ」


 キアンの綺麗なお日様の色。

 その中の私?


 キアンの背後の東の空が、鮮やかな色に染まっていく。

 光が差し、美しい橙色に世界を染め上げている。

 この美しい朝焼けが、ゆっくりと空一面に広がっていく。


「ちょっと待ってろ。飲み物も持ってくる」


 彼は、私の為に汲んできてくれただろう水桶を地面に置いて、また引き返しに行った。


 彼が持ってきてくれた桶で自分の顔を見てみた。

 ゆらゆらと揺れる水に写る自分。

 思っていたよりも、赤く見えなかった。


 こんなに……簡単なものなのかもしれない。


 私の中の自分の瞳はもっと真っ赤で。

 血のような色だった。


 ――でも、朝焼けの色。


 それはなんて素敵な言葉だろう……。


「……ルミア?」


 話しかけられて、思わずバシャンと水飛沫をあげる。

 見られた。

 なぜか恥ずかしい。


 でも――。

 キアンから逃げたくなかった。

 この琥珀の瞳が、私の心を閉じ込めて離してくれない。


 私は、勇気を出してキアンの首元に手を回した。


「え……ルミ――」


 水桶に、映り込んだその姿は。

 朝焼けに溶け込むように……二人が重なって水面を揺らしていた。


 ◇◇◇


 裏口をノックすると、心配気なエミさんが迎え入れてくれた。

 朝食の準備をしていたらしい。

 食欲をそそるパンの香りが広がった。


 あぁ、本当にひさびさに空腹を感じた。


「心配したよ、二人とも。……おかえりなさい」

「……エミさん」


 彼女の顔を見ると、心が温まった。

 幼い頃からお世話になっている優しい人。

 私に文字を教えてくれたのもこの人だった。


 キアンから経緯を聞いていたけれど――実際に触れる優しさが胸に染みる。


「さぁさぁ、早く入って!朝は冷え込むでしょう」


 後ろには彼女の息子夫婦も見えた。

 リナちゃんも手を振ってくれている。


 お皿を並べながら、奥さんが声をかけてくれた。


「ルミアちゃん。先日はありがとう。お義母さんもすっかり良くなったわ。……それと、あまり気に病まないでね」

「いえ!……こちらこそありがとうございます」


 頭を下げた瞬間に、床に落ちる雫。


 ――ほら。こんなに優しい人がたくさんいる。

 だから、私はこの世界が好きだ。





 朝食後、リナちゃんとお話していると、ふと彼女の顔が赤く火照っているのが気になった。


「リナちゃん、ちょっといい?」

「うん?」


 私は床に寝そべって絵を描いている彼女の額を触った。

 ――熱い。


 嫌な予感が押し寄せる。


「リナちゃん、ちょっと腕見せて?」


 彼女は素直に袖をまくり上げてくれた。

 やはり。

 肘の内側、皮膚の弱い所に出る赤み。そして熱。


 霜風邪だ。

 私は、内心確信した。


 そしてその夜、リナちゃんは高熱を出してベッドに寝込んだ。

 危険性を考えて、エミさんには近づかないでもらう。

 看病は、私とキアンが請け負った。

 最後まで心配していた奥さんには本当に申し訳なかったが――。


「キアン……。霜風邪だわ」

「……ああ。くそ、このタイミングで」


 彼は、自分の前髪をかき上げる。そして目を閉じた。

 きっと薬のことを考えているのだろう。

 もう薬草は燃えてしまった。


 ――リナちゃん。

 12歳の時に、初めて私に話しかけてくれた彼女。

 暗い夜、大人に囲まれ、威圧されたあの日。

 最初に手を差し出してくれたのもこの子だった。


 そんな子を見捨てるなんてありえない。

 何が何でも、助けてみせる。


「キアン。扉を見てて」

「ルミア?」


 私は、訝しげな彼に小声で伝えた。

 これしかない。

 そして、譲る気もなかった。


「" 癒やしの力 ” を使ってみるわ。……絶対に治してあげたい」


 彼は、静かに頷いて扉の前に立った。

 それを確認して、私はリナちゃんの身体に触れた。

 熱で汗ばむ小さい額。


 そこに祈りを込めて力を注ぐ。

 部屋は淡い光に包まれた。

 何秒経っただろう。それとも、数分だろうか。

 周囲は、薄暗さを取り戻していた。


 ――効果は?キアンの怪我にはよく効いた。

 植物に対しても。

 でも、彼女を治せただろうか……。



「ルミアお姉ちゃん……やっぱり綺麗だね」

「リナちゃん、苦しい所は?」


 いつの間にか目が覚めていたらしい少女は、私の方に手を伸ばしていた。

 その手を取り、彼女に聞く。


「お姉ちゃんのおかげなの?すごく楽になったよ」

「……よかった。お水飲もうね」


 私は近くにある水差しを取り上げた。

 その時、か細い声で謝られた。


「昨日の夜にね、お母さんたちのお話、ちょっとだけ聞いちゃったの……。村の人たちが酷いことしちゃったんでしょ?……お兄ちゃんもね、ずっと気にしてたよ」


 思わず息を詰める。

 こんな幼い子にまで知られていたなんて――。

 いつの間にか、隣にキアンが立っていた。私を安心させるように、彼が肩に手を置く。


「……ごめんねお姉ちゃん。それから、私がみんなを怒っておいてあげる。だから仲直りできるといいね」


「リナちゃんに叱られたら、大人も反省しちゃうな」


 キアンの優しい声が聞こえる。

 彼女の言葉に、いつの間にか頬を温かいものが流れていった。

 そう。だから私は、みんなの役に立ちたいんだ。


 優しい人がこんなにもいるんだから――。



 

ここまで読んでくださってありがとうございました。

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