表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔女と呼ばれる私、癒しの花を咲かせます  作者: しぃ太郎
第三章 小さな蕾と灰色

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/43

第37話 薬草園の火事と逃げる二人


 ―― キアン視点 ――



 夜中に玄関の扉が閉まる音で目が覚めた。


「ルミア……?セラ……?」


 周囲は真っ暗だった。

 ベッドから身を起こし、手探りでランプを探す。

 確か、この辺りに。

 そう当たりをつけて手を伸ばしたその時――。


 一瞬、何か明るい物が視界の端に映った。


 数秒後。


 ――まさか。


 窓の外に炎が広がった。

 それは一気に立ち登り、巨大なものになった。


「まずい!」


 俺は考えるより先に身体が動いていた。

 そして、階段を転がるように駆け降りる。


 扉を開くと、外はものすごい熱気で、思わず腕で顔を守った。

 焦げた匂いが鼻をつく。

 家の前にある、薬草園が燃えていた。火の回りが速い。


 炎に照らされたその先に、ルミアの姿が見えた。


 彼女は必死にその炎を消そうとしている。

 その横から声をかけた。


「ルミア!」


 煙の先に、彼女がいる。

 必死に肩を押さえて下がらせる。

 危険な状況から逃せたい焦燥感から、つい声が荒くなった。


「ルミア!早く!この時期は延焼しやすい!早く人を呼んできて消火するぞ!このままだと大惨事だ!」


 炎が爆ぜる音と、薬草の焦げた匂い。

 まずい。

 早くしないと――。


 俺はそのまま、村の井戸まで走り、途中で大声を上げながら火事を知らせた。


 ◇◇◇


「……全部灰になってる」


 ルミアが地面に座り込んで、その灰を掴んでいた。

 ずっと彼女が世話をしていた薬草だ。

 そして時期が悪い。


 これから毎年流行る病の薬を、準備しなければならなかったのに――。


 桶を持った村の人達にも疲労が見える。

 誰の顔にも、諦めと安堵、そして不安が浮かんでいる。



「なんでこんなことばかり……」

「エレナに続いて薬草まで……?」

「……だから不吉だって言ったのに……」


 不安の声が広がっていく。

 びくりとルミアの肩が跳ね、彼女が後ずさるのがわかった。


「おい……」


 俺が声を上げた、その瞬間。


「エレナおばちゃんを返せ!不吉!魔女!」


 幼い少年の声が響き、石が飛んでくるのが見えた。


 咄嗟にルミアを背中で庇う。痛みと衝撃で喉からくぐもった声が漏れた。

 さらに勢いよく顔の横を通り過ぎていく石。


 ――逃げよう。


 本能的にそう思った。

 危険だ。


 村を走りながら考えた。


 どうすればいい?

 どこならルミアを守れる?

 彼女の細い手を引きながら必死に考えていると――。


「……こっちだよ!早く、急いで入って……!」

 視線を向けると、いつも世話になっているエミさんだった。


 それを見た瞬間に、思わず呼吸が緩んだ。今まで息をするのも忘れていたらしい。


 俺たちは、彼女に誘導されて裏口から入れてもらった。



 ふと、胸に重みがかかる。

 気づくと、俺にもたれるようにルミアは意識を失っていた。



 ◇◇◇



「大丈夫だったかい?……本当に酷いね」

「……いえ。俺より心配なのは……」


 エミさんが傷を消毒してくれている。

 あれから何箇所も当たっていたらしい。

 手当されるまで気づかなかった。


「ルミアちゃんも……。いい子なのになんでこんな目に……」


 エミさんは、その手を止めてルミアが寝かされているベッドに視線を向けた。

 俺たちは今、彼女の家に匿われている。

 その息子夫婦も庇ってくれた。


 前からルミアと交流があるのは知っていたが、それだけでも涙が出そうだった。


 ――また『不吉』。

 ルミアの事を一つも知らない人間が便利に使って彼女を痛めつける理由が、いつもそれだ。


 怒りで目の前が真っ白になる。


 彼女が何をした?


 実際に、彼らに何かをしたのか?本当にそれを信じているのか?

 ルミアはただ、薬草を育てる優しい女の子だ。

 それの何が問題なんだ。


「とりあえず、キアンくんも休みなさい。こういう時こそ休息が大事だよ」

「……本当にありがとうございます」


 深く頭を下げる。


 少しだけ微笑むと、エミさんは俺とルミアに部屋を譲って静かに出て行った。

 静寂の中、ルミアの寝息だけが部屋に残った。

 あまりにも疲れすぎて、上手く脳が働かない。


 ――もう何も考えたくない。


 ルミアの、美しい銀髪を一房すくい取り額に当てる。


「どうしてお前の世界はこんなに辛いんだろうな……」


 答えなんて返ってくるはずもない。

 それでも、声に出さずにはいられなかった。





 ――夜中。


 隣で横になっていたルミアが動く気配で目が覚めた。

 丸一日以上、ずっと眠っていた彼女が起き上がってくれて安心した。


 静かに部屋を出る音が続く。

 外を見ると、まだ薄暗い。明け方近くだろうか。


 上着も羽織らずに出て行った彼女が心配だ。朝は冷え込む。

 俺は、上着を持ち、エミさんが用意してくれた水桶を持ってルミアの後を追った。


 あんな事もあった直後だ。

 きっと顔や体も清めたいはずだ。俺は、そっと彼女の後を追って行った。


 裏口を出ると、ルミアはすぐに見つかった。

 膝を抱え込んで蹲っている。

 驚かさないように、最初にゆっくりと声をかけた。


「おはよう、ルミア」

「……キアン」


 その横に、静かに水桶を置く。そして彼女の肩に上着をかけた。


「……ごめんね。キアンも追い出されちゃったんでしょう?」

「いや。俺が勝手に逃げた。やっぱり喧嘩弱いしな」


 和ませようとしても、やはり難しい。ルミアは顔を上げてくれなかった。


「……やっぱり、私って不吉なのかな?全部、私が原因なのかな」

「……そんなわけない」


 俺がそう答えた瞬間に、彼女が勢いよくこちらを見た。

 ルミアの目元に溜まった雫が周囲に跳ねる。


「じゃあ、なんで……!?ずっと言われ続ける。頑張っても、ずっと……!」

 俺は、彼女の涙をすくう。


「……俺と一緒に逃げようか」


 

ここまで読んでくださってありがとうございました。

もし少しでも心に残るものがありましたら、★で応援していただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ