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魔女と呼ばれる私、癒しの花を咲かせます  作者: しぃ太郎
第三章 小さな蕾と灰色

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第35話 捜索隊


 ―― キアン視点 ――



 こちらは収穫なしだった。

 そろそろエレナ母さんに合流しようと、地図を開きながら山を登っていると、遠くからか細い悲鳴が聞こえた。


 ――ルミアだ!

 俺は瞬時に走り出した。


 草木をかき分け、泥濘みに嵌まりながら。

 視界が開けた。

 後十五メートル。


 その瞬間にセラの悲鳴が周囲に響いた。

「いやぁーーーー!!!お母さん!やだーー!!」

 

 ――数秒後に水音が続く。


 崖の間近で暴れるセラを、ルミアが必死に止めている。


「キアン!お願い!」


 走る。

 その声にさらに焦燥が募り、二人を抱え込んだ。

 落ちた?

 この崖から――エレナ母さんが。


 血の気が引いていく。

 腕の中で暴れるセラ。その隣で、震えているルミア。


 遠くで聞こえる川の音。

 ルミアの手に残った、母さんの服の切れ端が目に入った。

 ぐっと何かが込み上げる。


 そのまま俺たちは山を下りた。

 すぐに夜になってしまう。俺たちだけでは無理だとわかる。


 村までの帰り道、セラの重みが両腕にかかる。

 ルミアは……後ろで静かに涙を流していた。


 ◇◇◇


 ――パタン。

 セラの部屋を出たら、目の前にルミアが立っていた。

 不安気に固く指を組んでいた。

 その小さな手に爪が食い込んで、傷を作っている。


「……セラは?」

「まだ目を覚さないよ。ただ……」


 精神状態が気になる。

 普段、気が強くしっかりしている彼女だが――。

 頭を振って、これからやるべき事に集中する。


 二人を安心させて、これから一緒に山に入ってくれる人を探さなければ。


「ごめん。呼んでくれたのに、間に合わ――」

「……キアンのせいじゃないよ」


 途中で遮られた。

 そうだ。

 俺が謝ったら、二人は?

 実際に助けられなかった人にかける言葉じゃない。


 俺はその言葉を飲み込んだ。


「じゃあ、とりあえず行ってくるから。セラを頼むな」

「うん。気をつけてね」


 衝動的にルミアを抱き寄せてしまった。

 その温かさに縋りたくなる。

 でも駄目だ。

 今は早く動かないと。


 気を抜くとすぐに甘えが出る。

 彼女から無理やり体を離して、俺は外へ走り出した。




「トーマスさん!」


 事前に連絡が通っていたらしい。

 扉を叩くと、膝の悪い彼がすぐに部屋へ通してくれた。


「トーマスさん、エレナ母さんが転落した。ここの崖だ」


 俺は地図を開き、彼の机にあったペンでマークをつけた。


「よし、場所がわかればわかりやすい。夜の山は危険だ。慣れた人間だけで下流を中心に探そう」


「ありがとうございます。俺もすぐに準備を……!」


 頭を下げた瞬間に、肩に手を置かれた。

 普段のこの人からはあまり想像できない行動だ。


「無茶な行動をしないで、彼女たちを無事に連れ戻したんだ。――お前はよくやっている、坊主」

「……!」


 その言葉に、心に溜まったものが溢れ出した。

 滲む視界を止められない。

 だって、俺は何もできなかった。


「あと少しだったんだ。もう少しで間に合ったはずだったんだ。俺がもっと早く動けていれば」


 奥歯を噛み締めると血の味がした。

 ここで悔やんでも意味はない。

 そんな事はわかっているはずなのに、言葉は止まらなかった。


「俺があそこに居たら……!」

「そうだな……。なら、動くぞ。猟師や、よく山に登るメンバーだ。頼りになる」


「はい」


 ――そして、俺たちは山に向かっていった。

 体力には自信があったけれど、夜の山は別物だった。

 松明の火でも、足元を完全には照らせない。


 下流に回り、大きめの岩を中心に照らして探した。

 しかし、何も見つからずに当日の夜は終わった。


 ◇◇◇


 明け方になった。朝日が出て、これで捜索しやすくなった。

 今日だ。

 今日こそ絶対に見つける。


「キアン。これ……」


 ルミアが、そっと差し出したもの。

 それは、エレナ母さんが着ていた服の袖口だった。


「助かる。探す目印になるよ」


 それを受け取り、握りしめる。


「気をつけて。……食事は取らないで行くの?」

「いや、道すがら腹に入れられるものを用意したから大丈夫だ」


 今日は二人一組で動く予定だった。捜索した場所が被らないように、事前に細かく話し合っていた。


「セラは?」

「ちょっと興奮状態が続いてるから……。鎮静効果のある薬をね。だからまだ寝てる。私一人じゃ止められないんだ」


 ――それはそうだろう。


 頑固なセラが、自分も山に登ると言い出すのが目に見える。

 ただ、今はそれをされると困る。

 計画にない行動が仇になるのは避けたかった。


 少しでもエレナ母さんの痕跡を探し出したい。


「罪悪感を感じなくていい。正直、今は――」


 邪魔だとも言えず、俺は曖昧に言葉を濁した。

 とにかく、早く動きたい。この会話も時間の無駄に思えてしまう。

 そんな事を考える自分が嫌になる。

 余裕がなさすぎる。

 あまりにも情けなくて、ルミアの顔を見れなかった。


「じゃあ、行ってくる」

「……うん」


 ◇◇◇


 今日は、転落現場を確認に来た。

 一緒に居るのは、ベテラン猟師のおっさんだ。


 離れた所にある木にロープを括り付けて、俺たちは下を覗き込んでいた。川の流れが思っていた以上に速い。


「キアン坊、あの崖に生えてる木見えるか?」

「ああ。あれで何かわかるのか?」


 崖には所々に木が生えており、岩や土で起伏が激しい地形だった。


「途中で不自然に折れてる。あんな折れ方は普通はしない。そして、その下の木も同様だ」


「……何度もぶつかって……?」


 想像だけでも、その痛ましさに息が浅くなる。

 この崖だってそうだ。

 やはり高い。


「必死にしがみついて、手を伸ばした証拠だ。……それにあの川、実はだいぶ深い。先日の雨のせいで余計に水嵩が増している」


「……じゃあ」


 俺が思わず顔を上げて、そちらを見るが――。

 彼の表情は険しい。


「まだなんとも言えん。水温が低いからな……。よし、次の地点に行くぞ」


 ルミアから預かった布の切れ端を握りしめる。

 ぐっと目を閉じて、数秒後。


「……行こう。母さんならきっと大丈夫だ」


 ◇◇◇


 ――結局。


 その日から三日間、隅々まで探したがエレナ母さんが見つかることはなかった。

 そして、村の捜索隊は三日目の夜で打ち切られた。


 俺はその決定に文句は言えなかった。

 全員の顔に疲労が色濃く浮かんでいる。

 それほど、尽力してくれたのだ。


 そして、誰もひと言も発さずに村へ帰った。


 

ここまで読んでくださってありがとうございました。

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