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旅路のなかのグレイコーデ  作者: 紅葉
第三章 ハロケリアの歌
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第三十話 『血塗れの精霊術師』

 むせかえるような鮮血の臭いがした。


 辺りには真っ赤に染まった防具が転がっている。その鉄は、無惨にも切り裂かれて、血塗れの肉の欠片がへばりついている。

 衛兵の詰め所。都市の平和を守るべき人たちが尊厳の欠片もなく、殺されていた。


 頭部を元の形も分からぬほどに潰され、四肢をバラバラに切断され、腹を割かれて腸を引きずりだされていた。

 地上での悲鳴を聞きつけ、降りてみたらこの有様だ。

 辺りには怒鳴り声と、むせ泣く人々の声が響き渡って混乱をさらに助長させている。あまりにも凄惨な光景に、崩れ落ちる人もいれば、吐瀉物を撒き散らす人もいた。


「…………おかしい、早すぎる……」


 グレイコーデは真っ赤に染まった殺戮の現場を見て、ただ握りしめた拳が、力なく解かれる。

 人死の未来──それは、数分後に確定して訪れるとイレーベは言外に伝えていた。それなのに、目の前の光景はなんだ。なぜ、彼らの息の音が止まっている。


 ──まさか、未来視が……外れた?


 石畳を踏みしめ、混乱の極みにある人々を強引に退ける。ある者は舌を打ち、ある者は驚き、ある者はこの混乱を収めてくれるかと期待を寄せた。

 やがて、人の輪から一歩出る。


「……頭が、痛い……」


 街に再入場したときから感じていた不快な頭の痛み。それがこの場にたどり着いてからさらに酷く、なっていく。


 ──ぼちゃり、と。


 血溜まりに足を踏み入れ、衛兵らの死体を調べる。

 剣は、抜かれたものもあるが抜かれていないものもある。そして、剣を抜いていない者に共通しているのは死傷の位置。背中から脊髄を抉り取るように、穿ち抜かれている。


「これは……」


 赤が埋め尽くす視界に、ひとひらの輝くものが見えた。血に濡れてもなお輝くそれは、グレイコーデの記憶を刺激する。

 それは。


『【銀海】のブローチ』。グレイコーデと【銀海】を繋いだ、盗まれたはずのものだった。


 グレイコーデの体内時計が秒針を刻む。

 丁度、十五分だ。


「────ッ!」


 矢じりのような鋭い刃が、頬を掠める。皮膚が薄く切れ、じわりと赤い血が滲み出した。

 悲鳴が聞こえた。

 我先にと混乱を帯びた群衆が、一斉にこの場から逃れようとする。


 ──【防御(タイン)


 指印を結んだ瞬間、刃の暴風雨がグレイコーデの【防御(タイン)】の盾を襲った。凄まじい回転を伴って、刃のきらめきがグレイコーデの肌に刃を食い込ませようと迫る。

 刃の乱舞を耐えて、【風舞(アリシア)】でも一発叩き込み、相手を落ち着いて観察しようと試みる。


『──腕を失った向き、気をつけてくださいね』


 ふと、そんな言葉が脳裏を走る。

 頭が痛い。わけが分からないと、冷静な判断もかなぐり捨てて、【防御(タイン)】の盾を腕を失った向き──つまり左向きに全力展開する。

 風切り音と共に、植物の根のような触手がグレイコーデに叩きつけられた。【防御(タイン)】は一瞬、持ち堪えたものの、あっという間に砕け散ってグレイコーデは鋭い殴打を脇腹に受ける。


「グ、ぐぅ……ッ!」


 くるくると冗談のように吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる瞬間。


 ──【風舞(アリシア)


 結んでおいた指印が発動し、風がグレイコーデを受け止める。空中で不自然極まりない制動を見せたグレイコーデに、曲刀を持った相手の動きがようやく止まった。

 周囲には、すでに人の影はない。


「流石だ、勇者。衛兵程度ならすでに数十回は死んでいるのに」

「……お前は、あの──統治貴族の屋敷にユーリといた道案内か?」


 軽やかに曲刀を収めた姿は、白い髪の少年の姿をしていた。初めて出会った頃とは違い、服は修繕も済まされておらず、髪は数日間洗っていないのかボロボロで埃に塗れていた。

 曲刀と鋭い瞳が、やけに印象に残る。


「ユーリは、無事か?」

「冒険者組合で手当てを受けている」

「……チッ、勇者のおかげだろ。勇者が一度口を出せば、冒険者組合だろうが教会だろうが自由気ままだろうな」

「何を知っている? この衛兵たちを殺したのはお前なのか」


防御(タイン)】の指印を構えつつ、グレイコーデは警戒に声を固くする。


「人の色々なところを知っている。キレイなところも、薄汚いところも。勝手な決まりで善悪を決めるような、大人の姿を」

「意味が分からないな。……否定しないということは、お前が彼らを殺したと見ていいんだな?」


 その答えは、事前通告も無しに付き込まれた刃先だった。首を僅かに傾げて躱してから、双刃を掴み取り、【指向(クメシュ)】で握力を一点に纏めて叩き潰す。

 グシャリ、と音が鳴って曲刀は刃を潰される。

 跳ぶように後退した襲撃者──セントは、ありえないものを見るかのようにまじまじとグレイコーデを見た。


「……化け物」

「子どもに言われるのは流石に辛いな。だが、そちらも衛兵を大勢殺したんだろう?」


 くるくると地面を突き破って現れた根は、セントの腕に巻きついて短剣に成形される。そうして手に入れた短剣を投げて遊びながら、グレイコーデを見て、にやりと嘲笑った。


「その力、精霊と契約を結んだのか。理外の植物を自在に操る力だ。……代償に何を捧げた」

「何も」

「なに……?」

「誰とも契約はしていないし、代償も捧げた覚えはない。──だけど、お前を殺すのには十分な力だ」


 セントは腕を振るう。投げつけられた短剣を、グレイコーデは手刀で叩き落とした。


「ふっ」


 笑みが深まる。

 瞬間、叩き落とした短剣から、蔦が伸びて爆発的に育ち始めた。小さな短剣からありえないほどに膨張した質量と体積が周囲の空間を喰らい尽くす。──精霊のやりそうなことだ。

 辺り一帯は蔦や葉に侵食され、街の只中に雑木林が出現したと勘違いしそうな様相になる。空さえも蔦と葉に覆い尽くされて、日が沈んだ街は真っ暗闇に閉ざされる。


「オレはオレの決まりに従う。大人に判断されるのはゴメンだ。……まずは勇者、アンタから消えてもらう」

「恨みを買った覚えはないんだが」

「勘違いするなよ。アンタは強い。冒険者組合も教会も、全部アンタの言うことを聞くんだ。……オレたちの世界には、そんな大人は必要ない」

「だから殺すのか? 衛兵はどうなる。彼らは責務でこの街を守ってきた人間だ。善意ある人々だ。そんな人たちをも、自分の都合で排除しようというのか。答えろ、精霊術師!」


 蔦が広がり、街が侵食されていくなかその中央に立ち尽くすセントはどこか夢見心地で、呆然としているように見えた。やがて忘我から我に返ると顔をしかめて叫び返す。


「……っ、関係ない! オレがこの街を全部掃除すれば、衛兵なんていらない! ……ッ、くそっ、頭が、いたい……」


 頭を抑えて、うずくまる。

 グレイコーデが一歩近づこうとした瞬間、一斉に建物に絡まっていた蔦がこちらを向いた。毒々しい極彩色の花が咲く。そこが裂けて、中から食虫植物であるムシクイバナのような凶暴な口が開く。

 それが数十とグレイコーデの周りに集まっていく。


「これは、」


 蔦が衛兵たちの死体を持ち上げて、植物の口に落とした。そのまま飲み込むさまは、まるで捕食しているかのようだった。

 精霊由来の生き物は、食事を必要としない。

 恐らくは、グレイコーデの精神を追い詰めるため。あるいは魔力の補給も兼ねている。

 しかし、目の前で捕食されている同種を見せるなど。


「趣味が悪いな。まるで魔族だ」

「……これは、オレの意思じゃない」


 セントは両手で頭を押さえて、肩を震わせている。その様子に違和感を覚えて、グレイコーデは指印を刻む。


 ──【発火(ケデイ)


 火花が散り、その光が暗がりに沈んだセントを照らし出した。ただの火花であり、燃え広がる心配も懸念もない。こんな火花、盗賊でさえ驚きはしない。

 だが。


 ──ピクリ、と。


 セントは異常な反応を見せてグレイコーデから跳び退いて歯を剥いていた。

 一番驚いているのは、跳び退いた本人だった。まるで身体が勝手に反応したかのようだった。


「……その力を貸し与えた精霊はよほど性格が腐っているらしい。そして、お前の支払った代償もある程度見えてきた。──『混ざっている』な?」

「な、に……?」

「お前は精霊に自分自身の肉体を捧げたんだ。本来、精霊というのは力を伝える媒体に宿る。有名どころでいえば──エルドラの石翼に宿る【土塊精霊(ノーム)】。星魔剣に宿る【光芒精霊(ルクス)】。魔槍カサンドラに宿る【清水精霊(ウインディーネ)】などだ」

「……黙れ」


 一斉に蔦が槍のように突き込まれる。【防御(タイン)】が呆気なく割られて、肩や腕などを決して浅い傷でもないように抉られる。


「精霊は力を伝える媒体を自らの使いやすいように『作り変える』。剣ならばさらに鋭くなり、槍ならば御しやすくなる。──では、人ならばどうなる? 人に宿った精霊は、どのように人を作り変える?」

「黙れ、黙れ、黙れッ!」


 何度も打ちつけ、壊し、グレイコーデは叩き潰される。そのまま潰されたグレイコーデを何度も、何度も形も残らないように練り潰す。


「精霊種は食事を必要としない。つまり、お前はもう食べ物を食べられない。そう身体が作り変えられている」


 だが、グレイコーデの声はなおも響く。


「精霊種は脳を思考に費やさない。お前の脳は全て魔法を行使するために作り変えられる。……まだ自意識は残っているようだが、いずれ消えてなくなるだろう」

「もう、アンタの言葉は聞きたくないっ! 死んだはずだろ! どこにいるんだ!」

「精霊種は魔力を糧にする。お前はいずれ、魔力の薄い場所では生活できなくなる。山の山頂、森の奥深くでしか生きられなくなる」

「止めろ止めろ、止めろ止めろ止めろやめろやメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロ────ッ!」


 壊れた蓄音機のごとく、口から同じ音が、言葉を垂れ流しながらセントは頭を抱えて絶叫した。そのままグレイコーデの死体から距離を取るように飛び退いて、やがて建物の影に消えて見えなくなる。

 グレイコーデの死体はそこにある。ゆっくりと残された蔦がその肉塊を引きずり、花に食べさせて、それで終わった。




「……俺も、趣味の悪さは同等か」


 瓦礫の影に隠れていた『もう一人のグレイコーデ』は、『自分』が花に食われたのを見て、崩れた路上から地下水路に飛び降りた。

 薄暗い地下水路。水の流れる音が朗々と響いている。


「途中で死ぬかと思ったが、何とかなったな」

「勇者様っ!」


 ユーリが涙を浮かべた顔で抱きついてくる。ゆっくりと頭を撫でてやり。


「……少しばかり離れろ。水路の臭いが染み付いてたまらん」


 ユーリの全身からは地下水路特有の饐えた臭いが漂ってくる。いくら弟子といえども、これでは。

 ユーリは、ぽかんとした後。


「……勇者様っ!」


 先ほどとは意味が違う響きを帯びて、ぽかぽかと胸を叩いてくる。そんな弟子を諌めながら、グレイコーデは水路の奥から現れた【薪】に状況を訊ねた。


「被害の範囲は?」

「古酒地区は全滅です。地下水路は侵食されていませんが、魔力導線などに蔦が取り付いています。恐らくは、そこから魔力を吸い上げているのでしょう」

「被害人数は?」

「詰め所にいた三十三名、巡回中の五名の行方不明が分かりません。市民の被害は軽傷が数名だけです」

「……そうか」


 衛兵は自分がいついかなる時でも、死ぬ覚悟を持つという。そうして、街に身を捧げるのが衛兵の職責なのだ。

 だが、彼らは今日死ぬ覚悟を持ち合わせていたのだろうか。

 あのような尊敬の欠片もない植物による捕食が彼らの望んだ最後であるはずがない。


「見ていたけれど、勇者様はあの花に食べられたはず。なんでここにいるの?」

「理由は聞かないほうがいい。あまり気分の良い方法ではない」

「……? 教えて。教えてくれるまで、離さないから」


 そのままユーリはグレイコーデの外套に包まって離れなかった。強引に離れさせようと腕を掴むがいやいやと首が左右に振られる。


「……仕方ない」


 ──【発火・凝結(ケデイ・カーラ)


 二重に結ばれた指印が氷と火花を散らす。


「この二つと治癒術を組み合わせれば、人間の顔などいくらでも膨れさせたり、肉を削げさせたりできる。死体を俺に見せかけたんだ。【指向(クメシュ)】で直立するように力を流し、声は【発音(ロイオット)】で届けた」

「……え」

「精霊術師のあの子どもは、精霊と混ざってきている。つまり、人間の身体の機能が精霊のそれと中途半端に混ざり合っているんだ。視力がその良い例だ。精霊種は、光を感じるが魔力を主に見る。あの子どもは、目が退化していたんだ。──急造した死体人形でも、見分けがつかないほどにな」


 これがグレイコーデが食われたにも関わらず生き残っている理由。そもそもあそこで話していたのは、グレイコーデではなかったというオチだ。

 死体を利用する、ということに抵抗を覚えなかったわけではない。ただそういう抵抗をグレイコーデは表に出さないすべを学んだに過ぎない。


「エグいことをしますね。あの伝説の勇者が死体を冒涜するような真似をするだなんて」

「失望したか?」

「はい」


【薪】はどこまでも直球だ。その直球さが今は好ましかった。グレイコーデは微かに笑う。

 ユーリは抱きついて、グレイコーデの視線を下から覗き込んでいた。気づかれると、ぎゅうと一瞬強く抱きしめた後、離れる。冷たい身体に体温の高い子どもの熱が心地良かった。


「して、あの精霊術師の子どもだが」

「名前はセント。ヴィンセント。アーシュトメリアの新聞社の重役、その子ども」

「驚いた。良く知っているな」

「……色々、あったから」


 ユーリは隠そうともせずに項垂れる。

 恐らく、グレイコーデと別行動を取っていた際に一番長くユーリのそばにいた人だ。そして、グレイコーデもセントがユーリを庇おうとした姿を見ている。友情と呼べるものが芽生えかけた時に起きた今回の事件。

 ユーリの心に爪痕を残すには十分過ぎる。


「問題は、なぜセントはこのタイミングで動いたか。明日の正午に条約が結ばれるんだ。関係がないとは思えない」

「では、かの条約を結ばせないために、仲介役であるグレイコーデさまを攻撃したと?」

「……ふむ」


 単純に考えればそうなるだろう。だが、気にかかる点がいくつもある。


 まず一つ目に、身体を精霊に捧げたというセントが気にかかる。精霊と契約した際には、薄っすらとだが、捧げた代償が分かるものだ。行使できる力が増せば、代償は深く大きく重くなる。身体を捧げるという行為はその最たる例だ。だが、身体を捧げたにしては行使できる力の総量がまるで足りないように思えるのだ。

 彼は、本当に自ら進んで契約し、代償を受け入れたのだろうか?


 二つ目に、精霊の力を得たセントがまず始めに攻撃したのが衛兵だという事実。本命を落とすには外堀を埋めよ、という格言にもある通り、セントの判断は正しい。──いや、正し過ぎる。冷静さを感じるのだ。身体を精霊に蝕まれているのだ。思考、ましてや自意識すらいつ消えてもおかしくない状態の彼がここまで綿密な計画を立てられるだろうか。


 総じて考えれば、答えは明白。セントに精霊の力を与え、影で条約を締結させないように動かしている存在がいる。


 盤上を動く駒。舞台を舞い踊る操り人形。

 セントは正しく、そのような存在だ。

 こちらには預かり知れぬ憎悪を糧に糸を繋がれて、精霊に身体すらも蝕まれている。


「──セントを止め、解放し、条約を締結させる。そして、影から操る人物をあぶり出す」

「それが私たちが行うべきことですか?」

「ああ」


【薪】は頬に人差し指を当てて考え込む。


「まったくもって、大変そうですね」

「協力してもらうぞ、レオット」

「まあ、強引。達成できたら何を頂けるんですか?」


 驚いたように固まるグレイコーデを、【薪】はにやにやと見つめている。

 やがて。


「…………手を」

「はい?」


 グレイコーデは少し顔を逸らして、呟いた。


「俺が……手を、握ってやると言っているんだ」


「……………………」


【薪】が黙り込み、腹を抱えて笑い始めた。


「……そんな反応はないだろう? これでも色々と考えた」

「人を塵を払うように殺す精霊術師、それを倒さずに、あまつさえ解放して、条約を締結するための護衛をもこなして──その報酬がグレイコーデさまの手つなぎ権ですか」

「……悪いか?」

「グレイコーデさまって、自分のことを過小評価するきらいがあると思っていましたけど、こういうことに関してはすごい自信ですね」

「……お前、意外にはっきりとものを言うんだな」


 くすくすと笑いながら、【薪】は隣で塞ぎ込むユーリの手を取ってグレイコーデに握らせる。


「え」


 びっくりした様子で【薪】を見るユーリに、小さな舌を出した。


「燃えてきました。良いですよ。今ユーリさんが繋いでいるところを、私が奪ってあげます」

「……やる気が出てきたようで何よりだ」

「何から始めますか? 魔力探知でもう一度セント君を探してみますか? それとも冒険者組合に協力を呼びかけますか?」

「そうだな……」


 そこで、グレイコーデは笑みを見せた。それは鋭い『勇者』の笑みだった。これからどんなに困難な事柄が続こうとも、乗り越えられるという決心に満ちた獰猛さだった。



「では、【銀海】を迎えに行こうか」



「え」


 それは、どちらの口から漏れたかも知れない音。


「まずは、療養中の【銀海】をこちらに引き入れる。【銀海】を探し、説得し、戦力とする。あいつは、もう一人の『勇者』なのだから」

「流石にそれは……」


「──助けて、ください……」


掠れかすれの今にも消えそうな声が聞こえた。

振り返る。

地下水路の奥からふらふらと現れたのは、黒髪の少年だった。


「サシャ、さん?」


ユーリの戸惑いが、水音の響く闇に溶けて消えた。


また化け物呼ばわりされてる……

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